3→2R 紅き牙獅子は転送事故に啼く   作:斬風

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・たまに思い出したかのようにシリアスに走る。
・既に見切られている……だとッ!


14話 アズサにて

 

 アズサの町は<大破壊>以前の交通機関である新幹線の路線があった高架橋の上下に分かれて作られた集落だ。大破壊後の世界で知っている者は少なくなっているだろうが、町の名前の大元は言わずと知れた新幹線“あずさ”がモチーフとなっている。

 また、この町の住人達はグラップラーが猛威を振るうこの地で人間狩りから逃れるため、若者や子供は高架の上にある新幹線自体を家屋とした上層街で生活し、目立つ下層街では見るからにヨボついたイメージを抱かせる年寄り達が闊歩する事で、若い人間の細胞を求めるというグラップラーの目を誤魔化している。

 結果として、連中には姥捨て山の如く爺婆が捨てられ、集団生活をしているかのように思われており、アズサ界隈は人間狩りから長きに渡って逃れ続けてきたという歴史がある。

 まあ、このようにグラップラーの目が届きにくい環境となったアズサに、様々な場所から訳アリの人間が集まってくるのは必然だったのだろうか……気がつけば、アズサという名の集落はレジスタンスの根拠地としての側面をも孕むようになっていったのである。

 

 

「ここに来たのは随分と久しぶりね……」

 

 

 文明の灯火(ともしび)が世界を照らしていた頃であれば、このような場所に立ち入る事も無かったであろう、朽ちかけた高架橋のフェンス際。

 眼下に広がる枯れた山肌と、このような汚れ渇いた大地であれども、したたかに生き続けている緑林を背景に、強く吹きつける高所特有の風で髪が乱されるのを鬱陶しそうに抑えながらレナが呟く。

 

 

「……マリアってさ、私を拾う前は本当に女なのか悩むぐらいに男らしい性格だったんだって。あはは、私が知ってるマリアは確かに強かったけど、女らしい所もいっぱいあったよ? フェイさんにアプローチされて満更でもなかったみたいだし」

 

 

 もし生きてたら、今頃フェイさんの事を「お義父さん」なんて呼んでたり、それに嫌な顔をしながらフェイさんが「お義兄さんで頼むよ」とか言ってたりしてさ。

 などと、笑いながら続けるレナの視線の先には、その「もしも」の世界でも映っているのだろうか? 長老やアズサの戦士達からマリアの話を聞いたことで感傷的になっているのであろう彼女の瞳は、何時ものような眩しいばかりの青ではなく、深く暗く重さすら感じさせる紺色にも見えた。

 

 ……正直に告白すると、俺には彼女の気持ちは完全には理解できない。当たり前のようだが、同じ復讐に焦がれた身である事を勘案に入れたとしても、やはり同じ感情を理解する事はできないだろう。

 過去、確かに俺は、あの男(グラトノス)に対して煉獄の炎も斯くやと言えるほどの恨みを抱いた。

 俺に地獄の苦しみを味あわせ、怪物へと変貌させ、何よりも薬物(メタモルフィン)と洗脳で自由意志を奪い、俺を自らの都合の良いように利用した。そりゃあ、許せない。赦せるものか。

 何よりも意識の自由こそを愛する俺がソレを受け入れられるはずもない。だが、それがどうした? 俺が受けて、俺が抱いた『怨念』は所詮、自分だけに帰結する個人レベルのものだ。

 

 しかし、彼女は違う。レナは多感であろう幼少期に両親をグラップラーに殺され、非情の荒野を流離う事になり、マリアと出会ってからも歳に見合わぬ苦難に遭い、最後には肉親同様となったマリアを目の前で(・・・・)無惨にも焼き殺されたのだ。

 ゲーム的に言うのであれば、主人公の主目的や動因を立てる上で必要だったかもしれないが、現実として考えれば在り得ないレベルのヘイトだ。

 少なくとも、俺がレナの立場なら発狂モノの感情を抱かされたであろう事は間違いない。

 

 

(それだけの『怨念』を抱いて、未だ普通の人間性も保っているなんて、本当に凄いやつだよ……)

 

 

 ある種の敬意すら抱きつつ、静かにレナの横に立ち、俺は彼女の独白に付き合い続ける。

 このように、少しずつ鬱積したものを消化し、或いは浄化でもしているからなのだろう……彼女が黄金色の太陽のように見えるのは。

 そして、何時の日かその太陽の如き灼熱の(正しき)怒りで悪鬼どもに審判の鉄槌を下すのだろう。

 いずれ全てが終わったとき、彼女が沈みゆく夕陽のように燃え尽きてしまわぬように、誰が知らずともせめて俺だけは結末を見届けてやりたい。

 彼女の雰囲気にでも当てられたか、柄にも無い感傷を新たな目的のひとつとするように心の片隅に刻み込んだ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よしッ! 鬱々しいのやめッ! サイゴン狩るわよ!」

「……シリアスの続かんやっちゃなぁ」

 

 

 おい、俺の感情の行き場を返しやがれ。などと言いたくなるほどに今までの鬱々しい雰囲気を荒野の果てまでブッ飛ばすレナ。差し当たって陰鬱な気分の発散も済んだのか、一転して何時ものテンションに戻る彼女の切り替えの早さに、今度は俺のほうが疲れた気分になる。

 まあ、こっちとしても欝い雰囲気などノーセンキューなので歓迎といえばそうなのではあるが……待て、今なにを狩ると言ったか? 聞き間違いでなければ確かに──

 

 

「──サイゴン。サイゴン? 貴殿、今の実力と装備でサイゴン狩るとか申したか?」

「何よ、その変な口調は? まあ、それはほっといて……話に聞いたサースティーとかグラップルタワーまで行こうと思ったら必ず遭遇するようなヤツらしいし、いっそ被害を受ける前に狩っておけば後々安く済むと思うんだけど?」

 

 

 まあ確かに。ターン制のRPGじゃあるまいし、サイゴンなどの生体兵器がめくら撃ちに放ってくる弾幕から逃げながら移動するのはキツイというか無理がある。基本的に賞金首となるようなバイオモンスター(ノア印の怪物)は人類を見かけると追いかけてくるのだ。それも親の仇(ティ○プ)を見つけた掟破りの復讐者(ジ○ン・アモス)のような猛烈な勢いで。

 それでもバギーやバイクの速力なら、サイゴンのような明らかに重い生体兵器からであれば逃げようと思えば逃げ切れるだろう。だが、流石に砲弾やミサイルの速度を越えて逃げられる訳でも無し、遭遇してしまえば多かれ少なかれ被害を受けるのは間違い無い。それを考えるのならば確かにレナの意見も一理あるのではあるが……

 

 

「うむむ……」

 

 

 腕を組んで悩みつつ、現状におけるバギーの装備を思い出す。

 

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 大砲→48mm砲

 機銃→ガトリングガン

 エンジン→チヨノフターボ

 Cユニット→スパシーボⅡ

 乗員→レナ 20LV

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「OK。判った! レナはマッド爺様(Dr.ミンチ)電撃棒(蘇生術)を体験したいんだなッ!」

「違うわよ! 何! 死ぬの? 私、死亡確定なの!?」

 

 

 謎は全て解けたとばかりにドヤ顔を決める俺に、レナが激しく反応する。

 ですが……うん。どう考えても死にますネ。

 まあ、俺なら肉弾戦で倒せる範疇だと思うが、現状のレナとバギーで正面から戦ったなら、まず確実に死ぬと俺のハンターとしての勘(と経験)が断言しています。

 

 正直なとこ、一度やらせてみて明らかに勝てない敵に対するプレッシャーというものを体験させて、賞金首に追われながら逃走するという貴重?な体験をさせるのもよし、罷り間違って撃破されたとしても、気が付けばストーキングしているイゴール(死体回収者)よろしく新鮮な死体を持って帰り、マジもんの死ぬ感触と蘇生術の有難さを体感させるという考えも無いではなかったが、ここまで情が移ってしまうとスパルタ特訓あたりまでならともかく、冷酷非道なメタルマックス的ブートキャンプを実行するのは躊躇われる。ちょっとした手違いで、もしも蘇生不能な死に方をされれば俺としても後悔どころの騒ぎじゃないトラウマを抱え込んでしまいそうだし。

 

 

「……という訳で、どーしても狩りたいなら待ち伏せ用のトラップゾーン(こしら)えるか、地道に経験値を稼ぐか、いっそデルタ・リオ辺りまで行ってマシな装備に更新するかせんと無理だな。うん。無理無理、ムリったらムリなのよ本当に」

「そ、そこまで言う? てゆーか、正直あんたと一緒なら狩れると思ったんだけど……」

 

 

 どこかのコメディアンを思わせるように、肩を竦めながら御愁傷様ですとばかりに首を横に振る。

 そんな俺を微妙な上目遣いで見てくるレナの精神攻撃に、「自重……ゴールして良いよね?」と感情が撃ち貫かれ、クリティカルでもしたか「いいや、自重は重要だね!」と主張を続ける理性にすら迫る……が、生憎と鉄壁の多重装甲で護られた無駄に硬い理性(ドS)様は感情及び男の本能連合軍の自重解除要請を「だが断る」と素気無く却下。むしろ「このレナはワシが育てた」という浪漫を果たせと悪魔の如き誘惑で一瞬のうちに感情を裏切らせると、あっさり男の本能も浪漫同盟の一員となった。

 

 

「……頼りにされるのは嬉しいが、期待感で現状把握を曇らせないでくれよ? まずは、自分が戦って勝てるというヴィジョンが見えてくるか考えてみろ」

「私が苦戦してるのを尻目にジンが高笑いしながら生身でサイゴンを蜂の巣にしている光景が見えるわ」

「ちょ、おま!」

 

 

 何と言う正確な予測!?

 だが、そのまま現実にされても困るので、何とか軌道変更を図る。

 

 

「レナの中で俺がどんな化物になっているのかは兎も角……もし、一人で戦うならどうだ? いけそうか?」

 

 

 心の汗を隠しつつ問いかけると、今度は難しそうに考え込む。

 

 

「……オフィスの戦闘詳報だけじゃ確実に判断できないけど、うーん、ちょっと無理かも?」

 

 

 眉根を寄せながらも真っ直ぐに俺に向けられた眼差しと共に、レナから返ってきた回答は現状に即したものだったのでホッと一息。そして内心の安堵を隠しながら「それじゃあ、改めてどうするね?」と聞けば、レナは少しばかりの不満と残念さを浮かべつつも「……素直に、一旦デルタ・リオにでも向かいましょ」と答えた。

 

 

「OK。ま、時には慎重さだってハンターには必要さ」

 

 

 無駄に臨死体験をせずに済むようで何よりと、俺はニカリと笑みを浮かべてから軽くレナの肩を叩いたのだった。

 さて、まずはハトバへと向かおう。

 

 

 




・鬱の持続しない女、レナ。
・ジンさん、レナのミンチ初体験を避けさせる。
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