・グロ島探索開始!
ふと、頬に落ちる冷たい感触に意識が浮上する。
グロウィンというより大きな脅威に生存本能でも刺激されるのか、砂浜近辺にはモンスターが近づいて来ないため、寝入ってしまったレナの枕代わりになりながら椰子っぽい樹に寄りかかって身体を休めていたのだが、それなりの時間が経過していたらしい。
天を見上げれば、何故か島だけを覆うように垂れ込める暗色の雨雲。異常気象と酸性雨により自然が激減している人類文化圏にしては異常なまでに緑に満ちた島だとは思っていたが、これも原因の一つか。
静かに降りしきる細かな雨を直に素肌に受けているにも関わらず、冷たさを感じても<大破壊>後の酸性雨が持つ、微妙かつ特徴的な刺激を全く感じられない。つまり、いま降っている雨は酸性雨ではなく、ごく普通……普通? の雨という事になるのだ。
「……んにゅぅ」
降りしきる雨で気温が下がってきたせいか、寒さを覚えたのであろう。レナが寝言にしては奇妙な音の羅列を洩らしながら、無意識に暖かさを求めて擦り寄ってくる。
伝わってくる体温と押し付けられる双子山の圧迫感に「寝入っているが故の無防備さで、そんなに密着されるとォォ!?」などと若さの根源が騒ぎ立てるも、表層の鉄面皮ハートは心拍数の割りに落ち着き払った態度で、ちゃっかりと柔らかさを堪能しながらこんな事を呟いていた。
(ノウマク・サマンダバザラダン・センダマカロシャダ・ソワタヤウン・タラタ・カン・マン)
……ダメである。全然落ち着いてなどいなかった。真っ当な信仰心など、この世界に生れ落ちた時から投げ捨てているくせに、お不動様に縋ろうとは実にフテェやつだ。
無駄に高性能となった頭脳の奥底で、どーでもいーことに
「あれ……ここ、どこ?」
「ふぅ。
あの混沌のひと時から更に寸刻ばかりが経過し、レナが目を覚ます。軽く目元を擦りながら、前後の記憶が
まあ、自分がどんな体勢で眠りこけていたのかを唐突に知らされたようなものだから、年頃の乙女としては致し方あるまい。
「どっ、どどどっ!?」
「クルマのエンジンか、お前は。それともドラムカンでも押したいのか?」
どちらかと言えば「どうしてこうなってんの!?」とでも言いたいのだろうが、俺としても手出し不能の微妙な役得(?)と禁欲という名の苦行を同時に味合わされたので、軽く
そんな俺のデビルスマイルに逆に落ち着かされでもしたか、レナは数度ほど深呼吸をしてから澄まし顔を向けてきたのだが、未だに俺の左腕を胸に抱えている辺り、混乱が持続しているんだろうなぁ。
「よし、ちょっと落ち着いたわ。それで、今はどんな状況なの? グロウィンは?」
相変わらず胸元に腕を挟みながら言っても愉快なだけなのだが、彼女が自分の行動に何時気がつくのかが楽しみでたまらないため、スルーしつつ答える。
「触手のほうは島に入ってからは見かけない。現在地は上陸地点の砂浜。お前が眠ってから2~3時間は経過してる。現在の天候は雨だが、酸性雨ではないため身体や毛髪への影響は無い……といった所か」
「……定期船は?」
「逃げ切ったと思うぞ。触手が島へ向かって引き上げ始めていた時には反転完了していたようだからな」
「参ったわね……グロウィンの住み着いている島に、置き去りになっちゃった訳か」
俺が見た限りでは、グロウィンが住み着いている島というより、島そのものがグロウィンという感じだったが、それは後で教えてやろうと思う。
幸い人喰い島といったホラーな
「……とりあえず、島を探索したほうがいいわね。今の所、島から出られそうにも無いし、寝床と食料を確保しないと」
真剣味を帯びた表情で俺に確認を取ってくるが、そろそろ俺の腕を解放してくれないだろうか。
自覚してないのか確信犯なのか、相変わらずに食料どころか左腕を確保し続けているレナに、こりゃあ重症だなと頭を悩ませながら天を仰いで溜息を吐いた。
「……き、気付いてたんなら言ってよね!?」
(……まさか本当に気付いてなかったとは)
探索の最中にまでこれでは色々と差し障ると、ついに突っ込みを入れた俺が人生二度目の犬神家事件を体験させられたのは理不尽だと思う。
サア……という静寂が引き立つかのような雨の中、
この地域本来のものであろう雑多な木々に加え、明らかに亜熱帯産の植生まで分布している辺り、やはりこの島は普通じゃないと実感させられるが、大破壊後の枯れて乾ききった大地と比べれば楽園のようなものだろう。
これだけ育った樹林に食用にもなりそうな植物。時折木々の藪に隠れるように生っている鮮やかな果実は木苺に属する亜種だろうか? 毒があるのかが問題だが、これらも食べられるのなら食生活という面に限れば、寧ろ荒野に隠れ住むよりも充実した食生活を送れそうなほどだ。
「凄い……こんな森、初めて見たかも」
「賞金首の頭上に住んでいるような場所でなけりゃあ、永住しても良い位の好環境だな……っと!」
──
緑の植生に紛れ込むようにして隠れている
「レナ!」
「任せて!」
名前を呼ぶだけの指示に、レナが探索前に渡された
光線に晒されたモンスターは、一瞬で熱量を奪われる事により周囲の水分が凍りつき、同時に体内を流れる液体すらも氷へと変わる事で次々と生体組織を崩壊させていく。
この島に生息するバイオモンスターは、一部を除き平均して25~30レベルほどの脅威度を持っている。
自らよりも格上の敵を相手に、得意どころか心傷持ちの装備で戦わせるとか、どう考えても死亡フラグでしかないし、店も何も無いであろうモンスター島を探索するにあたり、力不足の装備のままに歩かせるのも自殺行為でしかないために、俺はポリシーを曲げてレナに追加装備を与えたのだが、今の所それが上手く嵌っているようで何よりである。
「おおっと、お残しはダメですよ……っと!」
広域放射のために威力が低下していたか、凍結した外皮を崩壊させながらもフラワージョーズが動いているのを見るや、
狙いをつける必要すらなくトリガーを引き絞れば、ポンッという空気の抜けるような音と共に榴弾が射出され、生き残ったフラワージョーズを木っ端微塵に四散させる。
「ナイスキル! これで最後かしら?」
「今の所はそうだな。やれやれ……判ってはいたが、楽園のように見えても結局はモンスターハウスか」
降り続ける雨に硝煙の匂いが洗い流されていく中で、俺の言葉も雨音に溶け込むかのように流されていく。
どうやら島の探索も波乱尽くしのようであった……
・今後も俺得展開でテキトーに頑張りますw