・そして何故か宴会へ
ガサガサと茂みを掻き分けて出てきたのは、見るからに屈強そうな肉体を持った金髪モヒカンの男レスラーだった。元々の体色か、それとも長年に渡り陽に焼けてきた結果か、鉄錆色に染まった上半身を晒し、レスラーにしては珍しく森林迷彩仕様の迷彩ズボンと軍用の頑丈そうな編上靴を履いていた。
顔立ちは混血系とでも言えばいいのか……黒人のように見えながら、実際には白人の要素を色濃く継承しているというもので、何か重いモノでも飲み下したかのような質感の目が印象に残る。
何よりの特徴は、左腕に彫り込まれた蜘蛛の刺青だろう。金髪モヒカンの褐色レスラー、しかも蜘蛛の刺青とか個人を特定してくれと言わんばかりのトレードマーク。貴様は某少年誌の旅団メンバーか!
思わず胡乱さと生暖かさが入り混じった視線を向けてしまったが、その男はそれに気付いた様子も無く、何もする気はないといったゼスチャーをしながら話しかけてきた。
「森が騒がしいとは思っていたが……そういう訳か。あぁ、俺はジャックだ。あんたら新人だな。いつ流れ着いたんだ?」
「レナよ。ハンターをしてるわ」
「ジンだ。最近は自分でもハンターなのか疑わしいが、一応ハンターのはずだ。こっちに流れ着いたのは今日の朝方だな。運悪く定期船が狙われたのさ」
うん、本当に運が悪いとしか言いようが無い。水上で賞金首に襲われる可能性ぐらいは勿論考えていたが、そいつが馬鹿らしいぐらいに巨大な触手で、しかもピンポイントで人間を攫っていくような奴とか、狙っているとしか思えない。
「定期船が……ラトーヤと同じパターンか。運が悪かったな。それよりももうすぐ陽が落ちる。まあ、あんたらは心配無さそうだが、夜の森に踏み込むなんて無謀はしないようにな」
俺やレナが確りと武装しているのを見てジャックは言ったようだが、こっちとしても夜の森に踏み込むとかやりたくは無い。
「あと、森では一つ目のモンスターに手を出すなよ? あれはグロウィンの使いだ。あれを傷つければグロウィンを怒らせてしまう」
「……OK。気を付けておこう」
「……同じく(どう考えても手遅れだけど)」
今更言われても……といった雰囲気でレナと目線を交わしてしまったが、わざわざ事を荒立ててしまうのもどうかと思うので、何事も無かったかのように忠告を受け取っておくが、思わず額に汗してしまいそうになったのは言うまでもない。
一応、発掘作業の合間にも何度か
「それからもうひとつ。何故かは知らないが、グロウィンの触手は島に住む人間を襲ったりしないようでな……まあ、その割りに普通のモンスターどもはグロウィンを怖れて入り江には近づいてこないんだが……悪い事は言わない。宿営地を選ぶんなら森に入らず、浜辺に近い所にしておくといい」
もし当てが無いんだったら、俺らの集落に来るか? 数は少ないがバラックもある、というジャックは誘うが、さて……
「別に悩まないでも行ってみるぐらいは問題無いんじゃない? 私達としても手間が省けるし」
「むう。正論だな……」
レナの意見に唸らされながらも考えるのは罠の可能性。悪党こそが良い目を見る無法の世界であるがゆえに、上手いタイミングでの旨い話には疑心を感じるようになってしまっているからやも知れないが。
だが、ここはレナが正しいだろう。何もかも全て疑ってかかればキリがないし、罠なら罠で食い破ってから確りと思い知らせてやればいいし、本当に善意の行動であったのなら儲けモノだ。
「判った。では世話になろう。代わりといっては何だが、狩りで入手した肉を提供させてもらう」
「! おお、そいつは助かる。流石に一人で狩りを行うのは効率が悪くてなぁ。そういう話なら此方としても大歓迎だ」
では着いてきてくれ……というジャックに続き、俺とレナは再び森へと足を踏み入れたのだった。
ジャックの案内で彼の言う集落へと辿り着いた頃には、未だ青を残していた空もすっかりと夕暮れの赤へと変じており、集落では焚火や篝火が用意され始めると同時に夕餉の時間にもなっていた。
帰りがてらに遭遇した毛並みの良い
駆け寄ってきた黒髪の少年を逞しい腕で抱き上げるジャックの目には常の重苦しい色は無く、彼が本当に集落の住人を大切に思っている様子が窺える。それを見て、ようやく俺はしつこく残っていた警戒感を解く事ができた。
「ふーん。結構な人気者のようね……」
「そうだな。どうやら無駄な警戒だったようだ」
集落全てが家族といった暖かな雰囲気に、ここが本当に大破壊後の世界なのかと疑問に思えてくる。仮に、シエルタとの確執が無ければワラの町もこのような雰囲気になっていたかも知れないな。
「ジャック。ついでにコイツも受け取ってくれ。暫らく世話にならせてもらう礼だ」
俺は、ウサギっぽいモンスターの生肉や鳥の胸肉っぽい質感をした謎肉が詰められた麻袋と、
約定の分は食肉だけだったが、集落を見る限りは戦えそうに無い一般人も多いみたいだし、いざという時の医薬品は幾らあっても困らないだろう。
俺らのような鍛えられた賞金稼ぎにとっては、些か心許ない効果のものだとしても、集落の住人や子供には十分以上に頼りになるはずだ。
投げ渡された袋の中身を確認したジャックは、内容物に驚いたかのような表情を見せた後に、少しだけ相好を崩すと深々と頭を下げたのであった。
あの後、住人達に俺とレナが紹介され、提供した肉で焼肉祭りといった感じで盛り上がり、大人組は俺が蒐集してきた大破壊前の酒達による酒宴で存分に親交を深めた。
何人かは明らかに未成年だったが、こんな時に固いことを言うのもアレだと思ったので、準成年どもには度数の軽いワインなどの果実酒を振舞っておいた。
……のだが、この大破壊前基準で未成年どもがザルのように飲むわ飲むわ……こんな部分でもレベルの恩恵でもあるのかと思わされる一幕だった。
結局、あまり酒に慣れてなかったレナがチャンポン呑みになってきた段階でヤバいと思った俺は先に上がらせてもらう事になり、今はバラックの一角で泥酔してしまったレナの面倒を見ている所だったりする。
何か住人どもが妙に生暖かい目で見ていたのが非常に気になるが、また変な勘違いでもされるというフラグなのだろうか。
ん? お前も未成年じゃねーのか?
あー、今まで言及していなかったような気がするが、俺って20歳なんよね。
ブレード・トゥースとして2年ぐらい扱き使われた後、オズマの爺様の手で正気を取り戻し復讐者となって活動すること1年。怨敵を倒すための準備と賞金首狩り、レアメタル鉱床の発掘、相棒の超改造に手を出しつつ、絶滅させんばかりの
最期には人間としての部分すら放棄して真性の怪物へと転じたグラトノスを倒した頃には20歳になってたって訳ですよ。
気が付けば並のソルジャーよりも肉弾戦に慣れちまってたし、身長も190cmぐらいになってるんじゃないかな。まあ、計った訳じゃないから正確な所は判らないが……
「う゛~ん、ぅぅぅ」
それにしても俺は、誰に対して言い訳しているのか……自分の脳味噌の奇天烈っぷりに思わず
別に急性アル中や卒中で倒れた訳でもなく、限界(と思われる)手前ぐらいでレナの飲酒タイムは強制終了させたから単にアルコール分解に伴う不快感といったあたりだろう。
簡単に言えばリバース&二日酔いコンボの前駆症状ってやつだ。
ふはははは……いかに酒に強い人種だとしても飲み過ぎればこうなるのは自明の理。鎮痛薬と解毒薬はあるが、明日の朝は飲み過ぎの恐怖を存分に味合わせてやる。
未だに続く外の喧騒を他所に、俺の押し殺すかのような邪笑がバラックの中に響き渡った……
うん、だってさあ……そーいう経験させとかないと、
・ケダモノさん……いったい何時の間に贈り物(?)を分別したんだ……?
・酒は飲んでも呑まれるな。
まあ、作者も酒は好きだけどね。アル中と依存症対策だけは忘れないさ。
というより、休日前にしか飲まない(飲めない)からでもあるけどナw
ポン酒・焼酎・果実酒・ウォッカ・ジン・ラム・テキーラとか得意分野ですが、何故かビールやウィスキーが苦手なので飲み会の「まずはビールで!」が嫌でたまらなかったりする……ぎゃふん。
(2012/07/26)
・2話分移転(及び加筆修正)完了。多分今日はもー無理。また明日になると思われます。