3→2R 紅き牙獅子は転送事故に啼く   作:斬風

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・待たせたな!(脱出フラグ的な意味で)
・うぼあー!


23話 ぐだぐだ脱出ふらぐ

 

 歓迎と言う名の肉と酒の饗宴も過ぎ去り篝火の勢いも小さくなり始めた頃。久方ぶりのお祭り騒ぎに力尽きたか、砂の上で高鼾(たかいびき)をあげながら雑魚寝をしている者達が増え、時折パチリと弾ける火の音と水のせせらぎだけが夜を彩っていく……などと表現してみれば、実に風雅な妙味を感じさせるが、現実はやはり美しいものでは無い。

 (いびき)どころか、奈落に引きずり込むかのような呻き声を上げるものもいれば、ふらふらと千鳥足で寝床へと向かいつつも明らかに違う場所で限界を迎え「うぼおぉあぁぁぁ!」と若本・DE・リバース(意味不明)しちゃってる奴もいる。

 まあ、それすらもまた宴の後の光景としてはごく一般的なものだろうが、流石の俺もそんな酸っぱいだけの光景を見て楽しむという特殊な性癖は持っていないので極力視界内に入れないようにスルー&アウェイ。

 そんな祭りの後のカオスを尻目に、レナが休んでいるバラックから程近い所にある波打ち際の岩に陣取ると、()()えしく晴れ渡った夜空に煌々と輝く月を眺めながら独り酒を愉しむ。

 夜ですらグロウィンが彼方此方と移動しているせいか、ころころと月の位置が変わっていくのが薄気味悪くも面白い。いっそ超巨大な遊覧船にでも乗っていると思えばいいのだろうが、この遊覧船は些か物騒な側面も多いために素直に楽しめないのが残念だ。

 益体もない思考に苦笑を浮かべながら、取っておきを保存してあるチタン製の小瓶(スキットル)を呷る。薫り高い気品とスピリッツを秘めた液体が喉を灼きながら胃の腑へと滑り落ちていく様を存分に味わうと、メスカルの使徒よろしく塩と胡椒を舐め、今では貴重品となったライムの果汁を啜り、これまた貴重品となってしまったワラの天然水の清らかさを味わう。

 大破壊前では当たり前のように享受できたであろう事が、いまや一級の贅沢となってしまっているのに感慨深さすら覚えつつ、胃に広がる熱と酒精の刺激を存分に受け入れる。

 ……とは言え、上がり過ぎた身体能力の弊害か人体改造の副産物か、俺の人外極まる臓物様は、蛇の毒だろうが酒の毒(アルコール)だろうが身体に吸収されるや否や気が狂ったかのような勢いで分解・浄化してしまうため、それこそスピリッツを水のように飲まねばホロ酔い以上にはなれないのが問題だ。

 キングズレー・エイミス的に言えば、常時「君はまだまだ飲み足りない」状態で二日酔いや悪酔いが無縁なのは良いが、ある程度以上呑み続けなければ酩酊を愉しむ事すらできず、飲むのをやめたら10分と掛からず素面に戻ってしまうのが悲しすぎる。

 ひと時の酔いを楽しむために、最低でも40%程度の酒をボトル1本一気飲みしないと話にならないという有様では、酒が幾らあっても足りなかろう。そういう訳で、もはや俺にとっての飲酒は、ソムリエか何かの如く香りに酔い、舌と喉から広がる味の深さを感じ取り、酒精の熱さを愉しむというマニアックなものになってしまっていたりする。

 

 

 気が付けばスキットルは空になり、塩・胡椒・柑橘も姿を消し、ちょくちょくと口に運んでいた燻製肉(オツマミ)も無くなった。天の銀月も随分と傾き、黒の天蓋に撒き散らされていた星々も、水平線の果てから徐々に広がっていく紫に追い払われるかのように少しずつ姿を隠していく。あと半刻も過ぎれば紫は青へと変じ、曙光が世界を照らすのだろう。

 

 清冽な空気を感じながら、俺は軽く伸びをする。ひょっこりグロウィン島での二日目が始まるぜ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う゛あ゛あ゛ぁ゛ぁァ、あ、頭、痛い。気持ち、悪い……」

「自業地獄、もとい。自業自得だな……ほれ、水だ」

 

 

 うん、何と言うか……二日目だとか盛り上げておいて何だが、そうだったね。うちの相方は間違いなく朝は動けねーわな。悟ったかのように心の中で独りごちながら、顔色を蒼白にして芋虫のようになっているレナにワラの天然水を渡して飲ませる。

 何だかんだ言って、レナも<力>をつけてきている。肝臓様の働きも十分に水分を取らせておけば活発化して昼には動けるようになるだろう。

 できれば、薄めのスープや粥を食わせたい所だが、初の二日酔いに苦しむレナは「そんな余裕などねェェ」な雰囲気をダダ洩らしにしているので暫らくは水だけで様子を見る事にする。

 外でも酒に呑まれた二名の男女が、レナと同じような苦しみを味わっているようだが、それでもレナより元気そうなのは飲酒経験の差だろうか?

 どちらにしろ、自制無き限界突破者(リミットブレイカー)どもに救いの手(特効薬)を差し伸べてやるような心算は無いのだが。

 

 

「やあ! 昨日は久しぶりに旨い酒を飲ませてもらったよ。ところで、君の連れは……あははは、やっぱりそうなってるよね。一応、酔い覚ましの薬湯を淹れてきたんだけど必要かい?」

「おま、空気読めよ……まあ貰っておくが」

「……ぅぅ、頭にィ、響くぅ……脳が、脳がぁ゛ぁ゛」

「うーん、重症だねぇ。それじゃ薬湯は置いてくから、後は君に任せるよ。はぁ、あたしも早く旦那と息子の所に戻りたいもんだねぇ……」

 

 

 嵐のようにやってきて風のように去っていったのはラトーヤ。昨日の酒宴で知り合った、俺らと同じパターンで遭難したという女ソルジャーだ。

 一仕事終えて、我が家へ帰ろうという時にハトバ行きの定期船が襲われて数ヶ月も島で足止めされ続けているという。

 ある意味で、最後の楽園ともいえるグロウィン島に残る気が無いタイプの住人で、今でもどうにかできないかと足掻き続けていたのだが、既に手も無く弾も尽き、残った山刀だけで狩りを手伝いながら過ごしてきたらしい。

 話の流れからも判るとおりに既婚者で一人息子もいるそうだが、年齢は22歳と実に若い。聞けば16の時には旦那と結婚して子供まで産んでいたとの事だが、それからも子育てしながら、モンスターハントで一家の生計を支えていたというのだから頭が下がる。何と言う肝っ玉若妻(かあちゃん)か……あと、件の旦那。モゲロ……じゃなくて仕事しろ。それとも専業主夫なのか。なのか? ぶっちゃけアリなのか?

 

 

「じん~、かんがえこんでないで、それわたしてよぉ~」

「はいはい。ま、ゆっくり落ち着いて飲むんだな」

 

 

 ダルそうに手を伸ばしてくるレナに薬湯の入ったコップを渡す。清冽な香気と湯気を放つそれを「うぇ、苦い……」と顔を(しか)めながらも口に運ぶの横目に今日の予定を考える。

 酒席の合間に集落の長老っぽい御老人から、浜辺に様々な物が流れ着く事を聞いていたので、やはりまずは集落近辺の浜を徹底的に調べて回るべきか。

 それでも収穫が無ければ密林を切り開きながら何処かに存在するであろう研究施設でも探すか、グロウィンを倒して(いかだ)でも作ってから脱出するかぐらいしか思いつかない。

 しかし、グロウィンを倒すという事は今まで比較的に安全だった浜辺までモンスターの危険に晒すという事になりかねないし、筏で漕ぎ出すにしては湖は危険すぎる。

 頑丈な鉄の船なら兎も角、筏で陸へと向かっている最中にU-シャークやトータルタートルに狙われようものなら碌な抵抗も出来ぬままにデッドエンドを迎えてしまいそうだ。

 

 

(むう。外部からの救助は期待できないしなぁ……陸に近づくのを待って、単独で脱出。しかる後に船を入手して改めて再訪? 運任せの力任せかッ! それぐらいならいっそ接続コネクタでっち上げて……無理だわな。変圧器が無いし、過電圧かけてブッ飛ばすのが落ちか)

 

 

 うむむ……と考え込む俺と、うんうん唸るレナの呻きがバラックの空気を只管に重くしていたが、まさか意外な所に解決の鍵が転がっている事に今の俺は気付いちゃいなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで諸君は、メモリーセンターなるサービスを知っているだろうか? そう、ゲームでは所謂【冒険の記録】をセーブする所だ。

 勿論、セーブ&ロードもコンティニューも存在しない現実世界(リアルワールド)では【冒険の記録】などといった奇矯なモノを付けるような場所ではなく、ハンター達が打倒したモンスターの記録を付けたり、大破壊後も生き残った貴重極まるネットワークに存在するデータベースにアクセスしたり、BSコントローラーやiゴーグルを持っているのなら追加プログラムやアプリケーションをダウンロードしたりできる賞金稼ぎ(ハンター)御用達のサービスだ。

 例えば、原作となったゲームでは存在していなかった“オートマッピング”用のアプリなどが該当しているのだが、まあそれはいい。

 重要なのは、そこ(・・)ではない。勘の良い方々は既に気付いているかもしれないが、そう……メモリーセンターというからには、当然ながら端末が存在しているのだ。

 

 

「これだッ!」

「ひゃあぁっ! なな何ですかっ!?」

 

 

 二日酔いのレナが再び寝息を立て始めた頃、ジャックが森へと出かけるのを見送ってから集落を散策していた俺が見つけたのは、こんな場所に何故にあると全力で突っ込みを入れたくなるようなもの……そう、お隣のバラックに置かれていたメモリーセンターの情報端末だった。

 因みに、殆どの情報端末はヴラド製のものだろうと神話製のものだろうと共通規格であり、当然ながら設置型の端末で使用されているのは原子力電池であるはずだ。それを見つけた俺が、思わず叫んでしまったのも仕方が無いと思う。

 ……まあ、色っぽい水着姿のメモリー嬢を涙目にさせてしまったのは正直スマンカッタとしか言いようが無いのだが。

 

 

「いや、驚かせてすまない。少し頼みがあるのだが……」

「だ、ダメですよ!? 私、そんなに安くありませんからっ!」

「君が何を言ってるのか判らないよ!? いやだから、そーじゃなくて……俺が言いたいのは端末!」

「私って機械よりも魅力が無いんですか!? この機械フェチ!!」

「勝手に妙な属性を付けないでくれ! あああ、もういい。ちょっと、そこ退いて!」

 

 

 妄想を爆発させまくるメモリー嬢を端末前から撤去すると、手早くOSをシャットダウン。早業に目を白黒させる彼女を放置したままに、メンテナンスパネルを解放すると、案の定使用されているのは原子力電池……供給電圧も未だに適性値を保っているのは幸いッ!

 

 

「嬢ちゃん、この原子力電池……使わせてもらってもいいか? いいよな? 答えは<はい>か<イエス>でお願いする」

「それって選択肢が無いじゃないですかぁ~! それにわざわざ此処から取らないでも浜でいっぱい見つかりますよぉ。だ、だから取らないで下さいぃ」

「なん……だと?」

 

 

 メモリー嬢の言葉に愕然となる。え、なにそれ? どーいう展開? 機転を効かせて脱出成ると思いきや、そんなにいっぱい見つかるの?

 

 

「……そ、そうか。いっぱい見つかるのか」

「倉庫にも幾つか予備があったはずですし……何に使われるかは判りませんが、必要ならそちらから持っていくといいですよ?」

「わかった。騒がせて悪かったな……電池のほうは有難く使わせてもらうよ」

「いえいえ~」

 

 

 メンテナンスパネルを閉じて端末を再起動。冴えたやり方を見出した筈が一気にグダグダへと流れてしまった事に頭痛を感じつつ、俺はメモリーセンターを後にした。

 

 

 

 

 脱出可能となったのは嬉しいが……ぬう、釈然としないぜ。

 

 

 




・次回、ようやく本筋に戻れる……はず!
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