(おおう、何だか妙な悪寒が……)
あれからレナに話を聞いたところによると、現在このエルニニョはグラップラーが幅を利かせていて碌なものじゃないらしい。
宿泊施設ではまず確実に人攫いでも企んでいる勢いだし、町を歩いているだけで厄介事に巻き込まれたりする可能性が高いとか。
なんとまあ、一子相伝の暗殺拳を伝承している世紀末救世主が放浪している世界かと突っ込みたいレベルの混沌ぶりである。
ある意味で
「もう夜が近いし、よければ一緒にマドまで来ない? タダで……しかも安心して休める場所があるわよ」
「……マドか。どの辺りになるんだ?」
「エルニニョから南西に向かって川沿いに30kmほど行った所にあるわ。ま、私のiゴーグルに地図情報(マップアドレス)が記録されているから転送装置で直ぐ戻れるけどね」
それとも、転送装置を使うのが怖いならレンタルタンクでも借りて行こうか? と小悪魔的な表情で問いかけるレナに「転送で構わないさ」と答えて苦笑する。
事実として、今回の大陸間を越える誤転送はジャガンナートが原因で間違いは無い筈だ。エルニニョの転送装置が突然どこからか莫大な電力を受信して暴走する……というイベントの発生率など寸毫(すんごう)の確率ですらあるまい。
それに、転送事故といっても別にザ・フライよろしく二身合体とかが発生する訳でもなし、せいぜい同管理区内の別トランスポーターに出現する程度だ。むしろ通常では認証登録が必要な秘匿施設などに侵入できる機会すら頂けるため、ベテランハンターにとってはある意味でご褒美とも言える。
……まあ、中途半端に生き残っている装置に出現した挙句、端末の電力切れとか破損とかで荒野に放り出される可能性も無きにしもあらずではあるが、即座に悲惨な事態になってしまう確率は低い。
「ふーん。ま、いいけどね」
からかうという思惑を外したか、少しばかりガッカリとした様子のレナが装置端末を操作し始める。
俺は、その様子を眺めながら「なに、レナも転送を使ってたら何回も事故に出くわすだろうから自然と慣れるさ」とニンマリとしながら付け加えたのだった。
「……ついたわよ」
「事故が起こらなくて残念だったな?」
「くぅぅぅ……ムカつく!」
先程の冗談に加え、俺という転送事故の実例がいたせいか、レナは奇妙な緊張感を醸し出しながら転送ポッドの台座から降りる。
当たり前だが、転送事故はそう簡単に発生するものではない。仮にここで事故が発生していたら、俺は真剣に
転送事故をネタに軽くからかった心算(つもり)が、逆にからかわれる破目になったレナは地団駄を踏みはじめそうな勢いで憤慨していたが、「……これで勝ったと思わないことね!」と指を差して宣言していた。実にからかい甲斐のあるやつである。
転送装置が設置されている地下室から階段を上ると、そこはボロボロに朽ち果てた廃墟手前のビルの中だった。
レナの言った通りに日も暮れかけており、隙間から見える空は夕陽の赤を通り越して、宵の群青に差し掛かっている。
そろそろ店仕舞いにでもする気か、人間道具屋の店主であろう青いツナギを着込んだ男が売り物が納められた木箱に鍵を掛けてまわっていた。
「この建物はマドで一番古いんだってさ……まあ、イリットの受け売りなんだけどね」
ひらひらと手を振りながら触り程度に説明し、ツナギの男に会釈だけを済ませると、扉自体が失われたのかポッカリと開いたままの出入り口をくぐって外へとでる。
進入禁止用の
薄暗い町中において、文明の光に照らし出されたソレは近くに立ち寄った人間に、強い安心感を与えてくれる事だろう。
「はい。ここよ。私もお世話になってるナイル爺さんのガレージ。二階に大きめのロフトがあるから、今日はイリットに頼んで泊めてもらいましょ!」
俺のほうを振り返って、満面の笑みで両手を広げるレナ。
もはや疑問を抱く余地もない。
彼女(レナ)が、この地を巡る復讐劇の
……え? これってTS? マジで!?
・ジンさんはMM2Rの事など知らなかったのだ! たぶん(笑)
・次回、いきなり男を連れ込むレナにイリットが! ……嘘です。すンませン。