「あれは・・・無理だろ」
燐の呟きを聞いた一人の女子生徒が、持ち主であろうもう一人に言う。
「どうする?取れないっぽいって、のり子」
「え~っ、大事なハンカチなのにぃ・・・。どうしよ・・・」
燐は会話を聞いた後、二人の近くに行った。
「・・・一年?」
「はい。私は四組の藤沢エレナです。こっちは三浦のり子、・・・とその後ろにいるのが・・・」
てっきり二人だけだと思っていた燐はエレナの紹介を聞きながら、奥を見た。
そこにはぽや~~~~としている女子生徒が笑顔で立っていた。
「私の幼馴染の
エレナの言葉に綾乃は手を動かして必死に起きていることをアピールする。
「起きてるってばっ!!」
しかし声がものすごく小さい。
燐には普通に聞こえたが、一般的な人よりも結構小さな声量だ。
「声小さいんです、綾乃」
「・・・そう、だな」
燐の返事を聞いた後、エレナは笑顔で言った。
「せんぱ~い!、あれ取って下さ~い♪」
わざとらしい口調とポーズでエレナは燐に向かって言った。
(ムカつくなぁ・・・)
心の中でそう思いながらもそれを口には出さず燐はもう一度上を見上げた。
「無理だ。最悪先生呼ぶとか・・・」
「この時間どの先生も部活で忙しいですよ~」
「そっか・・・。なら業者とか・・・」
「お金ないです~っ!」
「・・・チッ」
燐はエレナのわざとらしい言動についつい舌打ちしてしまう。
「ちょッ!先輩、今舌打ちしましたね~!」
「・・・さあ、何のことか・・・」
エレナの指摘に燐がそっぽを向いていると、綾乃がエレナに耳打ちしていた。
「ん、何?綾乃」
エレナは耳を近づけて、綾乃の言っていることを聞く。
「え?綾乃、この木登るの?」
「・・・だいじょぶか?」
燐が言うと、綾乃は再びエレナに耳打ちする。
(独特の会話の仕方だな・・・)
「全然大丈夫、だって」
たまたま、エレナの肩に手を添えている綾乃と燐の目が合う。
「「・・・・・」」
(なんか、目を見てると登れそうに見えてくるな・・・)
じ~っと見てくる綾乃に燐は口パクで『がんばれ』と伝える。
するとちいさくVサインをした綾乃はダッシュして木に向かって走り始めた。
「ちょっ、綾乃・・・!」
エレナが言った時にはもう綾乃の体は木の根元にあった。
次の瞬間、綾乃は華麗な速さで、木を歩き登っていく。
そしてハンカチを見つけると、それを掴んでゆっくりと地面に着地した。
(すげえな・・・)
燐はいつの間にか拍手する時の手になっていた。
両足でしっかりと着地した綾乃はトコトコ歩きながら、ハンカチをのり子に渡した。