初投稿!!!初めまして今日和(こんにちわ)です!誤字や脱字あったらすみません!
中央トレセン学園。そこは全国から力ありし、自信ありしウマ娘達が集う場所。
ウマ娘の頂点に立つために切磋琢磨し、例え自身が他の石を…ウマ娘を磨き上げるための捨て石になる可能性があることを熟知しながらも、自身を磨き上げ宝石に輝きたいと胸に固く決意を打ち付けた者達が今日も今日とてその門を潜り抜けていた。
「はぁ…」
そんな彼女達が日々修練に励んでいる中央トレセン学園のとある一室。所狭しと並べられた実験器具、山のように積み重なった紙の束、薄暗く僅かに温かみのあるオレンジ色の照明が灯る一室のソファの上で一人のウマ娘が溜息を吐いた。
「おやおや?どうしたんだいカフェ?溜息なんて君らしくもない」
溜息に反応したのか、同室の窓際に座っていたウマ娘、アグネスタキオンは茶色の耳をピクリと動かしながらもデスクの上のパソコンの画面からは逸らさずに声をかける。
「…ん?いや、君らしくもないは言い過ぎだった。よくよく考えれば君は常日頃から結構な回数の溜息をしていた気がするよ」
「余計なお世話です」
ソファに座っていたウマ娘、マンハッタンカフェは面倒気に瞼を落としながらぶっきらぼうに返事を返した。
「どちらかと言えば君は不幸体質だからね。将来変な男に引っかからないか私は心配だよ」
「貴方には関係のない話です」
「なんだいつれないねぇ」
如何にも残念そうな言葉をかけるタキオン。最も声のトーンは普段と変わらずなため残念な雰囲気は微塵も醸し出していなかったが。
「それで?何かあったのかい?」
「…何かとは?」
カフェは返事に一定の間を置きながらタキオンに視線を向ける。
「いやはやどうしても私の目には君に何かしらの出来事があったんじゃないかと映ってしまってね」
カフェはタキオンに向けていた視線を前方にある膝丈程の大きさのテーブルに置かれていたコーヒーに移動させる。
「…そう見えますか?」
「ああ見えるとも。今日の…いや、ここ一ヶ月の君からは違和感を肌に感じるよ」
そう言いながらもタキオンは口とは正反対にパソコンの画面から目を離さない。
そんな彼女に心を僅かにざわつかせながらカフェは言葉を返した。
「その根拠は?」
「ふむ…根拠か。そうだねぇ…私が大凡根拠と言える物は二つある」
そう言うと彼女は右手のみをカフェの方へと突き出し、人差し指を立てる。
「一つ。君のコーヒーの入ったカップをよく見てみたまえ。普段なら出ているはずの白い湯気が既になくなってしまっている。それに加えてカップの底に小さな水溜りができている。私の記憶ではカフェはコーヒーはホット派だったはずだが…この一ヶ月間、コーヒーが冷めてしまう程飲みきるまでに時間がかかっていると感じるのは私だけかい?」
タキオンの言葉の通り、カフェの前に置かれたコーヒーは半分以上残っているが暖かさは失われていた。
「二つ。カフェ…君は最近大好きな登山に行っていないみたいじゃないか。デジタル君が言っていたよ?『山にご降臨なされるマンハッタンカフェさん成分が足りない!』とね。こうも立て続けに君の趣味に異変が起きているとなると疑いもするものさ」
立てていた人差し指の隣の中指も立て、全く似ていないアグネスデジタルの声真似を行うタキオン。
カフェはそれを認識しながらも弱々しげに言葉を投げつける。
「ですが…それを根拠と言い張るには些か不十分だと思いますが?」
「ああそうだとも。確かにたかがコーヒーを飲むタイミングや登山に行かなくなっただけでカフェに何かがあったことを証明するのは難しい」
タキオンはパソコンとの睨めっこで疲れ果てた自身の眼球を労うように指で押し込む。
「私の知らない君の好みがあることも考えられるからねぇ。人の…ウマ娘の可能性は千差万別さ」
そう言うとタキオンはパソコンの横に置かれているマウスを操作する。
「では…それよりもっと単純でわかりやすい根拠を説明しようじゃないか」
暫くの間マウスの無機質な音が室内に流れた直後、タキオンは座っていた椅子を回転させこの日初めてカフェの目を見つめた。
「お友達は元気にしているかい?」
それはカフェを瞠目させるのに十分過ぎるほどの言葉だった。
◆
「〜♫」
ウマ娘達が通っている中央トレセン学園から徒歩十分。商店街の大通りから少し離れた路地裏にひっそりと佇む喫茶店『へーベン』では腰に黒いエプロンを巻いた一人の男性がテーブル席の椅子に腰をかけ、ゆったりと本を読み耽っていた。
「今日は平和だ…」
店内にかけられている鳩時計の針は午後の三時過ぎを指している。ランチタイムのラッシュも終わり店内にいる客は一人もいない。朝から働き詰めだった男性にとってようやく訪れる束の間の休息時間。男性はその時間を思う存分に堪能していた。
「んー…」
男性は背もたれに身体を預けながらゆっくりと背筋を伸ばす。ほんの僅かに目尻の潤いを感じながらズボンのポケットに入れていたスマホを取り出しテーブルの上に置く。
テーブルの上に置かれたスマホから流れるのはザーザーと雨音を彷彿とさせるヒーリングミュージックだった。
「あー…これこれぇ…」
ヒーリングミュージックの透き通るような音を聞いた男性は顔に入った力みが解れたかのようにリラックスした表情を浮かべた。
『────』
男性が音楽を満喫していると何処からともなくノイズのような音が響き渡る。その音はその昔、電波が悪く画面が白と黒のみしか映さなくなってしまった古びたテレビから放たれるようなノイズだった。
「お、ありがとう。じゃあ持ってきてくれるか?」
『──』
しかし男性はそのノイズに不快な顔を一切示さずに言葉を返す。
暫くするとコーヒーのカップとコーヒーソーサー、そしてポットの三つがフワフワと浮かびながら男性の前のテーブルに置かれ、ゆっくりとポットの中身がトクトクと音と白い湯気を立てながらカップの中へと注がれていった。
『───』
「なるほど。マンデリンか」
男性はそう言うとカップの中に注がれた中身を口へと運びこんだ。
その瞬間、男性口の中にはマンデリンの深いコクとキレの良い滑らかな口当たり、そして鼻にはスパイシーな風味が通り抜けた。
「……うん。だいぶ上達したな。凄く美味しいよ」
『────』
男性がカップをコーヒーソーサーの上に戻しながら笑顔で感想を伝えると、ノイズを発していたナニカは心なしか喜んでいるような高いトーンのノイズを返した。
それからと言うものの男性とナニカの間に会話はなかった。男性はコーヒーを飲みながら読書に耽り、ナニカは男性の隣の椅子に座りノイズを発することなく大人しくしている。特別な何かを行うわけでもない何の変哲もない時間の中で過ごす男性とナニカ。だがそれは男性とナニカの1日の中での幸福な空間として存在していた。
(こういったまったりとした時間が一番気持ちいいんだよな…)
男性はページに書かれている羅列された文字の情報を目で取り組みながらふと、そう思う。
店内で鳴り響くのは雨音のヒーリングミュージックのみ。大きすぎず小さすぎずの音量調整がなされた雨音は聞いているだけで疲れが吹き飛んでしまうだろう。時折隣から聞こえてくる椅子の脚をカツカツと床にぶつける音もまた、男性の心を和ませた。
(願わくばこの静かな時間がいつまでも続きますように…)
男性が立てた店の中で好きなことを行う好きな時間。その大切な一時が永遠に継続し続けること。
男性は心の中で密かにそう願い─────────
「やあやあ!君がカフェの言っていたお兄さんかい?私はアグネスタキオン!!是非よろしく頼むよモルモッ──お兄さん君!!」
そしてその願いは秒で崩れ去った。
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