ウマ娘御用達(になる予定の)喫茶店   作:今日和

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コーヒー好きと研究好き その②

 

 ウマ娘。彼女達は走るために生まれてきた存在。美しい顔立ち、まるで動物のような大きな耳、そして最高時速六十キロ以上の速度を生み出す圧倒的身体能力を併せ持つ。

 

 彼女達の謎は非常に多い。今までの地球の歴史上、多種多様な生物が数え切れないほどの進化を繰り返してきた。だがその進化の前提にあるのは厳しい生存競争を勝ち抜き子孫を反映させるため。つまりは生きるという本能から進化を繰り返してきた。

 

 しかし彼女達ウマ娘は違った。彼女達の中には食欲、性欲、睡眠欲の三代欲求よりも大きな欲求が存在している。それは誰よりも早く走るという本能。つまりウマ娘は生存本能よりも誰よりも早く走りたい本能が優先される言わば生物としては欠陥を抱えていると言っても過言ではないだろう。あくまで生物学的な視点で考えればの話にはなるが…

 

「ふぅむ…中々に良い内装だねぇ…心が落ち着くよ」

 

 そんなウマ娘の中でも誰よりも早く走りたいという本能が研究という形で現れているのがたった今唐突に入店してきたアグネスタキオン。何度かテレビや各メディア媒体で見た顔だ。

 カフェが言うにはトレーニングは気が向いた時にしか行わず基本的には自身の研究室に篭ってはパソコンや研究器具と睨めっこをしてるらしい。

 

「あー……いらっしゃい。一名様でいいのか?」

 

 俺はそう言いながら本を閉じスマホを数回操作し、ヒーリングミュージックを止め席を立つ。

 そんな俺に対しアグネスタキオンは先ほどまで店内をしゃぶるように見つめていたが、ゆっくりと俺の方へと視線を向け直した。

 

「くくく…私は一応客という扱いになるはずなんだけどねぇ…まあ私も心が狭いわけじゃない。そういった対応を行う店主が経営する店があることは十分に承知しているとも」

 

 彼女の言う対応とは俺が敬語抜きで話しかけていることについてだろう。確かに昨今の店では敬語で客に接客するのが一般的だ。

 

「すまん。砕けた態度の接客がうちの店の売りでな。嫌ならやめようか?」

「いやいや構わないとも。先程も言ったが私は心が狭いわけじゃない。敬語だろうがタメ口だろうが一向に問題ないさ」

「そうか。まあ立ち話もなんだ、席に案内…と言っても今は誰もいないから適当に好きな場所に座ってくれ」

「そうさせてもらうよ」

 

 彼女はそう言うと先程まで俺が座っていたテーブルの席にゆっくりと腰をかけた。

 

 普通そこ座るか?好きにしろとは言ったけども。

 

「んじゃ注文を決めてくれ。これメニュー表な」

 

 テーブルに置いてあったコーヒーセットを片付けた後、キッチンに置いてあったメニュー表を取り出しアグネスタキオンの前に置く。

 彼女はメニュー表を受け取るとペラペラとページをめくり始めた。

 

「ふーむ…和、中、洋…とても喫茶店とは思えない程のメニュー量だ」

「うちは昼と夜は定食屋としても機能してるからな」

 

 実際に喫茶店として営業しているのは夕方くらいだろう。ちなみに朝は営業していない。仕込みが大変すぎて…

 

「ならインスタントコーヒーを頼むよ」

 

 アグネスタキオンは数分間メニューを見つめた後、ぶっきらぼうに言い放った。

 

「…ん?それだけか?」

 

 ウマ娘はその身体能力を維持するためか大量の食事を摂取する子が非常に多い。てっきり彼女もその部類だと思ってたんだが…

 

「私にとって食事とは必要な栄養分さえ摂取できれば問題ないのさ。経口から補給するだけの行為に余分な手間を取られたくないからね。今回も早作る手間が省け直ぐに飲み終わる物を選択したに過ぎない。時間は有限なのさ」

 

 こいつは一体なんでこの店に来たんだ?という思いが口からスキージャンプしそうになったがすんでの所で口のチャックを固く閉める。

 

「私としては喫茶店にインスタントコーヒーがある方が驚いたがね」

 

 まあ…彼女が言わんとすることは俺も理解できる。例えればラーメン屋でカップヌードルを販売しているようなもんだからな。

 

「自宅で飲んでいるコーヒーをこの店の雰囲気の中で味わいたいって客もいるんじゃないかと思ってな。ついでに言うが頼んだのはアグネスタキオンが初めてだ」

「そうかい…それは光栄だね」

 

 タキオンは両肘をテーブルにつけ手の甲に顎を乗せながら返事をしてくる。

 

「ああそれと…私のことはタキオンと呼んでくれて構わない。そっちの方が呼びやすいだろう?」

 

 俺は短く「そうか」と返すとキッチンの中へと入った。

 

 

 

 

 

 

「はいよ。味の調整は自分で頼む」

 

 それから数分後、俺はインスタントコーヒーが淹れられたカップが乗せられたコーヒーソーサー、ミルク入りのポット、スティックの砂糖をテーブルの上に置いた。

 

「ふむ…」

 

 タキオンは置かれたコーヒーをまじまじと見つめる。コーヒーカップからはホクホクと白い湯気が店の天井へと向けて立ち昇っている。

 

「んじゃごゆっくr─「まあ待ちたまえ。君もここに座るといい」

 

 俺が引き上げようとするとタキオンは間髪入れずにそれを制止する。

 

「特に俺がタキオンと同じテーブルに座る理由もないだろ?」

「君になくても私にはあるのさ」

 

 タキオンはそう言うと取手に指を引っ掛けカップを持つ。

 

 なるほど。コーヒーを飲みにきたんじゃなくて俺と話をしにきたわけか。

 

「今は時間に余裕もあるんだろう?カフェのお兄さん君?」

 

 タキオンはイタズラが成功した子供さながらの笑みを浮かべる。俺はそれに対して両手をあげて降参の意思表示を行った。

 

「…話って?」

 

 そう言いながらゆっくりと席に腰をおろす。

 

「まあそう急かさないでくれたまえ。コーヒーを飲むくらい許してくれてもいいだろう?」

「時間が有限だと言ったのはタキオンの方だが?」

「確かにその言葉は否定しないとも。だが私は生憎出されたものを口にしない不届者ではないのでね。それとも私をその不届者にしたいのかい?」

 

 ああうん良くわかった…こいつ超が着くほど面倒臭いやつだわ。屁理屈が大好きでああ言えばこう言うタイプだわ。

 

 俺は気だる気怠げにさっさと飲めと手を払った。

 

「ふふ…ではいただこう」

 

 タキオンはそう言うと手にしていたカップの縁に口を付けた。

 

「っ!」

 

 瞬間、タキオンの瞳が大きく開く。俺はそれを見て口角が僅かに上に上がるのを感じ取った。

 

「お味はどうだ?」

 

 質問をタキオンに投げかけるが返答はない。それから暫くするとタキオンは口に付けていたカップの縁をゆっくりと離した。

 

「……私はただのインスタントコーヒーを頼んだはずだが?」

「そうだな。タキオンが飲んでいるのはごく普通のインスタントコーヒーだ」

 

 俺の言葉に嘘はない。タキオンに出したのはそこいらのスーパーから仕入れたありふれた安物のインスタントコーヒーだ。

 

「…どういうカラクリだい?」

「カラクリって…大したことはしていない。少しだけ手法を変えただけだ」

「ほう……よければ聞かせてもらってもいいかい?」

 

 タキオンはコーヒーを口にしながら俺に問いただした。

 

「本当に簡単だぞ?インスタントコーヒーの粉と水をカップに入れて二分間レンチン。その後に少量の麦茶を入れただけだ」

「……それだけかい?」

「ああ」

 

 インスタントコーヒーはお湯を入れのではなくレンチンで温めることで味わいやコク、香りが断然に変化する。そして最後に麦茶を入れることで引き立った香りが更に深まる。

 

「料理は科学とはよく言った物だね」

「それ意味違くないか?」

「確かにそうだとも。だが私がこの言葉を口にしたのは別の観点からさ」

 

 料理は科学は有名な言葉だ。適切な温度、適切な分量、適切な時間が必要な料理と化学は酷似しているという意味だったはず。タキオンが今言うには違う気がするが…

 

「私が言った料理は科学とは僅かに方法を変えることで結果が大幅に変わると言う意味でさ」

「……なるほど」

 

 確かに一理ある。科学は専門分野ではないが元来の手段に一つの変化があるだけで大いに結果は変動すると聞く。そう言った意味でも料理と化学は似た者同士なのかもしれない。

 

「まあ…そうだね…味は悪くないと思うよ」

「……さいですか」

 

 俺はタキオンの感想にゆっくりと目を閉じながら返した。

 

 

 

 

 

 

「さて…では本題に入るとしようか」

 

 結局の所タキオンはコーヒーを全て飲み干した。飲み干すまでにさほど時間が掛からなかったことを見るにお気に召してもらえたのだろう。

 

─ガチャ!!チリンチリン!!

 

 心の中でそう決めつけ、タキオンと話そうとしたタイミングで店の鈴が客が入ったことを大きな音で知らせてくる。

 

「兄さん!!無事ですか!?」

 

 何事かと店の出入り口に目を向けると珍しく荒い息をあげたカフェがそこにはいた。余程のことがあったのだろう、大量に汗をかき髪も普段より荒れている印象だった。

 

「やあカフェ。どうしたんだい?随分と慌てているようだが」

 

 落ち着かないカフェとは対照的に涼しげな顔でタキオンは声をかける。その表上は先程のイタズラ気な笑みに非常に酷似しているのは気のせいだろうか?

 

「タキオンさん…!やはりここにいましたか!」

 

 そう言いながらカフェはタキオンを睨み付ける。

 

 ここまで感情を揺さぶられたカフェを見るのは久しぶりだな。小さい頃にお友達と俺にイタズラされて泣いた時以来かもしれない。

 

「約束しましたよね…絶対にこの店にはこないって…!」

「約束?した覚えがないね」

「惚けないでください…!」

 

 カフェはタキオンの胸ぐらを掴み振り子のように揺らすがタキオンには屁でもないのか余裕が垣間見えた。

 

「そんなに言うのなら証拠はあるんだろうね?その約束とやらをした時の映像や音声の録音が」

「ーっ!」

 

 んー…そろそろ止めるか。店でウマ娘二人に暴れられたら目も当てられない惨劇が繰り広げられるに違いない。俺も巻き込まれてR18展開になる可能性があるし。

 

「兄さん!タキオンさんに変なことされたり怪しげな薬を飲まされたりしませんでしたか!?」

 

 タキオンに言っても意味がないと感じたのかカフェはターゲットを俺に変更し身体を揺らしてくる。

 

 あの…脳みそがミキサーになってしまうのでやめていただきたいんだが…

 

「お、落ち着けカフェ。確かにタキオンは変なやつだなとは思ったが流石にそこまで非常識じゃないだろ」

「変なやつとは心外だね」

 

 まるで他人事のようにこちらを見てくるタキオンは小さく呟く。

 

「いいですか兄さん。タキオンさんを舐めては行けません。彼女はいつも怪しげな薬を作っては飲ませ作っては飲ませを繰り返す変質者です」

「…まじ?」

「事実ではあるね」

 

 そこは否定欲しかったとだけ言っておこうか。……まあとりあえず今すべきことはかかり状態になっているカフェを落ち着かせることだ。今すぐお気に入りのコーヒーでも入れてなんとかこの場を納め───

 

 

 

「まあ落ち着きたまえカフェ…私がここでしたことと言えばお兄さん君の大事な初めてになってしまったことくらいさ」

 

 

 

 はい?

 





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