新作ランキング28位!!!ふぉおおおおおおお!!!!ヴァモオオオオオオオオス!!!!!
最近蚊が多いですね。
タキオンがアルバイトを始めてから二ヶ月。この店には以前にも増して多くのウマ娘が来店するようになった。
最初の頃は本来よく来ていたネイチャを初め数える程しか来ていなかったのだが、タキオンが働き出したのをきっかけにこの店のことを耳にする子が増えたらしい。
やれエヴァのアスカ似のツンデレウマ娘やらスイーツ大好きお嬢様ウマ娘やらガチでトチ狂ってるドロップキックウマ娘やら……いい意味で個性的、悪い意味でマイペースすぎるウマ娘達がうちの店に来るようになった。
「今日はご機嫌ですね店長さん」
そんな中でも特徴的なウマ娘と言えば目の前に座るミホノブルボンを外すことはできないだろう。まるで機械のような無機質な話し方、レースに勝ったとしてもいつもの無表情を貫く表情筋、どんなに厳しいトレーニングであっても淡々とこなすポテンシャル。その姿と立ち振る舞いから世間では『サイボーグ』の異名で呼ばれるウマ娘だ。
ちなみにこれは余談なのだが『最も勝負服が際どいウマ娘ランキング』では彼女が堂々の一位を飾っているらしい。なんでも彼女はボンキュッボンの抜群のスタイルを持ちながら、脇出しヘソ出しのかなりやばい勝負服を着ているのだとか。
そういうのってトレセン学園からの規制入らないのか?一応こいつまだ十八歳未満の高等部だろ?そこはしっかりと大人として取り締まった方がいいと思うんだがな…
「何か良いことでもあったのですか?」
「まあな」
ブルボンは綺麗な姿勢を崩さぬままこちらに質問を投げかける。俺はそれに対し、僅かに声を弾ませながら返した。
「ふっ…これを見ろブルボン」
俺はポケットからとあるブツを取り出しブルボンに見せつけた。
「これは……ウマフォンでしょうか?」
ブルボンは首を傾けながら言葉を返す。
ウマフォンとはこれ一つで電話、メール、株価の確認、計算、写真撮影、銀行口座の確認、ゲーム等、様々な機能が搭載されている超便利アイテム。その便利さ故に誰もが手に持つ必需品として世界中にシェアされている。
だがなブルボン…これはただのウマフォンじゃないんだなぁ……
「聞いて驚け!!これはな……昨日発売されたばかりのウマフォンフィフィティーンだ!!!」
「ふぃふ…てぃーん?」
おいおいおい…ウマフォンフィフティーンを知らないのか?これだからレースしか頭にないウマ娘は……
「いいかブルボン。ウマフォンフィフティーンはな…従来のウマフォンの性能に加え自動熱量調整システムが付いたウマフォンの最新作だ。この機能さえあれば充電中もウマフォン本体が熱くならず、バッテリーの消耗が制限されるという超大作だぞ!!」
「そうなんですね」
わかったのかわかっていないのか、どちらともいえない反応をするブルボン。
「それに加えて画質の解像度もアップしている。見よ!!このウマフォンに流れる美しき映像を!!」
俺はウマフォンを操作しウマ娘のレース映像をブルボンの目の前で流した。
「これは……」
ブルボンは食い入るようにレース画面を見続ける。
「……凄いです。まるで目の前に本物のレースが行われている様でした」
「だろ?」
やっとわかったか……ウマフォンフィフティーンの素晴らしさを…これを手に入れるのは苦労したもんだ。朝の四時からの店頭に並んでやっとのことで手にすることができたからな…
「他のレースを見ても大丈夫でしょうか?」
「ああ…まあ別に構わんが…」
「ありがとうございます」
ブルボンは頭を下げ礼を言い終えた後、俺のウマフォンを操作するため人差し指を画面にくっつける。
───ボンッ!!!
what?
急に手元から謎の爆発音が鳴り響く。そしてそれと同時に黒い煙があたり一体に立ちこめた。
何事かと思いすぐさま音と煙の発生源を確認すると、そこには無惨にも周囲に破片が飛び散り黒焦げになったウマフォンフィフティーンだった物がそこにはあった。
◆
「申し訳ございませんマスター」
「あ、うん……気にしてないから……」
そう、俺は一切気にしてないから。俺が大雨の中ただひたすらに立ちぼうけで待ち尽くしてやっとの思いで手に入れたウマフォンフィフティーンがたった一日で壊されたこととか何にも思ってないから。むしろそれとは三百六十度違うから。思わなすぎて目から透明の血液が流れちゃってるレベルだから。
「………」
「……ブルボン?」
俺はティッシュで目を拭っていると、ブルボンが何やら違和感のある雰囲気を醸し出す。俺はそれが気になり声をかけるも彼女から返事は返ってこない。
「ウマフォンのことなら気にしなくて良いぞ?まだ前の機種が残ってるからな」
新しいウマフォンを購入したのはつい昨日だ。だからまだ前の使い古したウマフォンが残っている。店にウマフォンフィフティーンが壊れたことを連絡すれば、時間はかかるだろうが新しいのを用意してくれるだろうしデータも移行できるはずだ。
「………他の方でしたらもっとしっかりと謝ることができたでしょうか?」
「は?」
やっと口を開いたと思ったらブルボンは唐突に意味不明なことを話しだした。
「私は……感情が表に出ることがありません。そのせいで誤解を生み嫌われることも少なくありません。先程私が謝罪した時も申し訳ないという気持ちはあったのですがそれを表情にすることはできませんでした」
「……」
彼女は俺の目をジッと見つめながら話し続けた。
「店長さんがウマフォンを私に見せている時…私は羨ましいと思いました。嬉しいという感情を素直に顔に出すことができる……私ももっと感情を出してみたいと…」
ブルボンが語る声が徐々に震えを増す。ここからは見えないが恐らく太ももの上に置いている両手は拳を握りしめていることだろう。
「何度も鏡の前で練習しました。マスターの前で…ライスさんの前で…店長さんの前で感情を出せるように…ですが練習は全く実を結びませんでした。………私は……どうしたら先程の店長さんみたいになることができるのでしょうか」
ブルボンはレースからは想像もできないほど弱々しい声で最後まで話し終える。
「さあな」
俺はそんな彼女に対しそれ以上の言葉をかけないままキッチンへと入った。
◆
店長さんがキッチンへと戻ってから十分が経過しましたが彼が私の所に戻ってくることはありませんでした。
今思えばやはり私が最新のウマフォンを壊したことを謝罪した時かなり我慢していたように思えます。口では私を許すと言っていましたがやはり私が行ってしまった過ちを許していないのでしょう。
私は店長さんに嫌われてしまった───そう思うと心が抓られるように痛くなります。マスターと共にこの店に来始めてから既に一ヶ月とちょっと。その間に店長さんは無表情で面白味のない私に対し、いつも嫌な顔せずに接してくれました。時には優しく時にはタキオンさんと共に弄るように。
私はそんな店長さんに対して気付かないうちに心を許してしまっていたのでしょう。
「……」
店長さんに気づかれないように私はそっと席を立ちました。
これ以上店長さんを待っても私の元へは戻ってこないでしょう。私は彼に嫌われてしまったのですから。
「ん?おい…どこに行くんだブルボン」
私が店から出ようとした所で店長さんから声をかけられます。彼の手には一つの白いお皿が乗っていました。
「せっかく来たんだ。どうせなら食ってけ」
「ですが─」
「お前は俺を客に何も出さない料理人にしたいのか?」
……その言い方は卑怯だと思います。
彼は有無を言わさずに私を席に座らせました。
「ほいよ。今日の料理はブリ大根だ」
そう言うと彼は私の前にあるテーブルにお皿を置きます。置かれたお皿の上には茶色い出汁と、見るだけで柔らかさがわかるとろけきったブリに大根が添えられていました。
「かなり熱いからな。気をつけて食えよ」
店長さんは私にお箸を渡してくれます。私は受け取ったお箸を掴むとゆっくりとブリの真ん中に突き刺しました。
するとブリは溶けるように刺した部分からその身を崩しました。刺し口からは出汁の匂いがふんわりと香り私の鼻をくすぐります。
「……いただきます」
私は切り離した少量のブリの身を掴むとそのまま口の中へと放りました。
「ん!?」
その瞬間、私の舌にはまるで実家で食べた母の料理を思い出すかのような味が広がりました。一度食べたことがある…とても安心することができる味でした。
「美味いか?」
感想を聞いてくる店長さん。彼の手には何故か旧式のウマフォンが握られていましたが、今の私はそれを気にする余裕がないほど料理に夢中になっていました。
ブリの次に大根にお箸をつけます。大根もブリ同様に非常に柔らかく、口にすると煮込んだ際に出る大根特有の苦味と出汁が合わさりとても美味に感じました。
──パシャ!!!
「?」
ブリ大根の美味しさに浸っていると唐突にシャッター音のような音が耳に届きました。私は疑問に思い音の鳴った方を振り向くと、店長さんがウマフォンで何かを確認し、微笑んでいました。
「今何を?」
「気にするな」
彼はそう言いながらウマフォンを持っていた腕を降ろします。
「………店長さん」
「ん?」
私はブリ大根を食べ進めていた手を止め、気になっていたことを店長さんに聞きました。
「店長さんは……私を嫌いになったのではないのですか?」
「え?何で?」
店長さんは寝耳に水のような発言を受けたかのようにキョトンとした表情を浮かべます。
「だって…店長さんは先程何も言わずに…」
「あ、あー…」
店長さんはガリガリと頭を掻きながら冷や汗を流します。
「すまん。俺も不器用なタイプでな。勘違いさせちまった」
彼はそのまま言葉を続けました。
「俺はお前のこと嫌いになってないし感情が表に出ない子だとも思ってないぞ?」
「そうですか…良かっ──え?」
私は思わず変な反応をしてしまいました。
「今…なんて言いましたか?」
「いやだから俺はお前のこと嫌いじゃないって」
「その後です」
私の聞き間違いでなければ彼は確かに今、私のことを感情が表に出ないとは思っていないと言っていた筈です。
「あー…感情が表に出ない子だとは思ってない…だったか」
どうやら私の耳は正常に機能していたようです。そして尚更意味不明です。私は私のことをよく知っています。私は生まれてから一度も──
「確かにブルボン…お前には感情表現に難がある。けど俺はお前がこの店に来てから色々な表情を目にしたことがあるぞ?」
「っ!?」
嘘だと思いました。優しい彼のことです。私を気遣い嘘をついているのだと思いました。
ですが彼の目を見るとそれは違うと思い直してしまいました。特にこれと言った確証はありません。ですが…なんとなくではありますが……そう思わずにはいられませんでした。
「俺は偉人や教師のように人に何かを教える程できた人間じゃない。だからお前がどうすれば表情を出すことが増やせるかを教えることはできない。純粋にわからないからな」
彼はそう言うとウマフォンを操作し私の方に画面を向けました。
「だからまあ…一つの案なんだが…コレみたいに楽しいこといっぱいやれば自然とどうにかなるんじゃないか?」
画面に映っていたのは私がブリ大根を食べていた時の写真でした。
私はその写真を見て、新しいウマフォンが壊れてよかったと思ってしまいました。
何故なら私は生まれて初めて、表に出た感情を誰かに鮮明に見られることは少し恥ずかしいことだと知ったからでした。
読んでいただきありがとうございました!!!
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