茜達は洞窟と遺跡を冒険した後、ハリネース王国に戻ります。
彼らはスケルトンとの戦いで疲れ、腐敗教団の幹部にも遭遇した。
しかし、茜は仲間と共に挑めば敵を倒せると確信し、宿で休み、夕食を楽しんだ。
一方、元の世界では、茜が生きているという噂が広まっていたが、
その真偽はまだ確認されていなかった。
翌日、茜達は四人部屋で目を覚ました。
窓からは明るい日差しが差し込んでおり、雪がちらちらと降り積もっている。
「綺麗な雪ですね……」
茜は宿屋の窓から雪景色を見る。
故郷では結局、見る事ができなかった、とても美しい光景だ。
「アカネ、君は雪を見た事がないのか?」
「地下に連れていかれてからは、一度も見てません」
アエルスドロは雪景色を見る茜に声をかける。
茜は長く地下で暮らしていたため、地上の光景を懐かしく思っており、
雪を見るのは事実上初めてである。
なので、一秒一秒でも、この光景はずっと見ていたい気持ちになった。
「とはいっても、あまり長く宿に泊まってると延滞金がかかるぞ。
朝食を食べたら、冒険に出かけよう」
「そうでしたね。皆さん、ご飯を食べましょうか」
そう言って、茜はアエルスドロ達と共に、四人部屋を出て食堂に行った。
今日の朝食は、クリームシチューと海草サラダだ。
クリームシチューを食べると身体が芯まで温まり、カレーほどではないがとても美味しかった。
「何だか……これを食べていると、カレーを、思い出して……うっ、うっ……」
「どうしたんだい、アカネ、朝から泣いちゃって」
茜の目から涙が落ちる。
生前に叶わなかった願いがこの世界で叶うと同時に、元の世界で起きた悔しさで泣いていた。
今でも茜は、怯える自分を殺したフェリドの顔が、脳裏に張り付いたまま離れなかった。
「泣き虫のあんたも、悪くないね」
そんな茜をレイはからかっている。
彼女は小型種族なだけあり、朝食は茜のものより少なくなっていた。
「レイさん! からかわないでください! ……もう、朝食が冷めちゃいますよ」
「子供は元気が一番だよ」
家族とまた会いたい気持ちはあったが、今はこの仲間達と共に冒険しよう。
冒険者になった茜はそう思いながら朝食を食べた。
「それじゃあ、どこに行きますか?」
「ここから近い場所にファンダリアという村があるよ。
元は小さな村だったけど、移民を受け入れて衛星都市になったんだ。
ちょうど、今日は収穫祭が行われるんだ。行ってみるといいさ。賑やかだからね」
「へえ、収穫祭ですか! 楽しそうですね!」
茜はファンダリアでの収穫祭を心から楽しみにしていた。
彼女は家畜から一人の冒険者として自立し、こうして皆で冒険しているからだ。
それに、こんなに賑やかだと楽しさも増すだろう。
「今日は冒険を休んで、お祭りを楽しみましょう!」
「ああ、思いっきり、な!」
儲け話もいいが、たまにはこういうのも悪くないと、デリサルも収穫祭に参加するのだった。
茜達は、レリックからファンダリアに立ち寄った。
そこでは作物、畜産物、魚など、豊穣を祝う「収穫祭」が行われていた。
「わぁ……! 雪国とは思えないほど豊かですね!」
「お嬢ちゃん、何か食い物でも欲しいかい?」
大通りにはたくさんの露店が並んでおり、台の上には零れそうなほどの料理が載っている。
茜は露店の一つの店主に声をかけられ、駆け寄ってみると干した果物が置いてある。
その中で茜は香ばしい香りのアーモンドを指差す。
「これください」
「あいよ、五粒5ゼニーさ」
茜は5ゼニーを店主に渡し、アーモンドを買ってから一口食べる。
自然な甘みと軽い食感で、アーモンドを食べた茜は元気になった。
「このアーモンド、食べます?」
「ふむ、おやつ程度にならいいだろう」
茜がくれたアーモンドを、
アエルスドロ、レイ、デリサルは一粒ずつ食べ、茜は残りの一つを食べる。
あっという間にアーモンドを平らげ、三人の身体に活気が溢れ出た。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 美味しいよ!」
「やっぱり収穫祭というだけあって、皆さん、楽しそうですね」
多くの客寄せの声が耳に届き、ファンダリアは活気に溢れているのが分かった。
「うっ、えぐっ……えぐっ……」
「どうしたんですか?」
その中で、茜は一人の子供を見かける。
その子供は、泣きそうな顔で手元のチラシを配っていた。
「ぼうけんしゃさんをさがしてます、だれかいませんか?」
子供は周囲に冒険者がいないか呼び掛けており、心配になった茜はその子供に声をかけた。
「一体どうしたんだい? 坊や、名前は?」
「……ぼく、グリマ」
子供はグリマと名乗り、茜に事情を話した。
「おかあさんがびょうきになっちゃって、おいしいクリームシチューをつくってあげたいの」
「おやまあ、クリームシチューって、あたいらが食べたものじゃないか」
「おねがい、てつだって。ひとりじゃこわいの」
茜は「もちろんです」とグリマの依頼を受けた。
自分より年下の、特に困っている子供を放っておくわけにはいかないからだ。
「アカネ、お金にもならないのに勝手に依頼を受けるのか?」
「困ってる人は放っておけませんしね」
「やれやれ……で、お金は持ってるのか?」
「おかねはあんまりもってないけど、これあげる」
グリマは人数分のポーションを茜達に渡した。
「おや、回復剤じゃないか。助かるねぇ。じゃあみんな、この坊やの依頼を受けようかね」
「ありがとう……!! おにいちゃん、おねえちゃん、よろしくおねがいします!」
グリマは笑顔になり、茜達にお辞儀をした。
「それで、クリームシチューには何が必要ですか?」
「えっと、にく、やさい、かくしあじ」
「ルーはないんですか?」
「ルーってなに?」
「カレーやシチューの元です」
「よくわかんない」
ルーという言葉を知らないのは、子供なので当然と思っていたが……。
「じゃあ、こっちにきて」
「色々と知ってるんですね」
茜達はグリマの案内の元、森へと向かった。
雪が降り積もった、穏やかな森。
入り口から北に舗装されたような道が続き、冷たい川には簡素な橋がかかっている。
西には土の道が続き、東には底の深い川が流れ、傍には大きな木が立っている。
ここは普通に歩いても雪が足音を消すため、魔物に見つかる心配はなさそうだ。
「どこに行きます?」
「西と東は危険な臭いがするから、北に行こう」
「そうですね」
茜達が橋を渡ると、正面に古びた家屋と花壇、左手には放置された畑がある。
橋を渡ったすぐ手前右手には、背の低い茂みがあり、突っ切って進めそうだ。
畑には、人参やじゃがいも、赤蕪など、まだ作物が植わっていた。
「ここに野菜がありそうです。採りましょう」
「わあ、ありがとう、おねえちゃん!」
「どういたしまして」
グリマは「やさい」を欲しがっていたので、
茜は畑を調べて野菜を収穫し、グリマに材料の「やさい」を渡した。
「まだ使えそうなものがないか、探してみるか」
さらに、デリサルが家屋を調べると、スコップや籠などが置いてある。
ボロいがまだ使えそうだ。
「なんだ、竿か。まだ使えそうだな」
デリサルが手に入れたのは、魔法がかかった竿だった。
呪文を唱えると、釣り竿になって魚釣りができ、食料を調達するには向いているだろう。
「それじゃ、次はこっちだな」
茜達はデリサルの案内の元、東の茂みを突っ切る。
そこには小川と澄んだ泉があり、泉の手前には一頭の熊がうろついている。
「熊ですか。あまり刺激しない方がよさそうですね」
「グガアアアアアアアアアア!!」
そう言って茜達は立ち去ろうとするが、熊は茜達を見るや否や、襲いかかってきた。
「きゃっ、身構えて!」
「降りかかる火の粉は、払うしかないか」
茜達は慌てて武器を構え、熊を追い払おうとした。
「cadre sacre!」
茜は呪文を唱えて光の柱を呼び出し、襲い掛かってきた熊を攻撃する。
「はっ!」
「くっ! 防がれたか……」
アエルスドロの剣とデリサルの矢は、熊が太い腕で楽々と防ぎ、
逆に爪を振るってアエルスドロに反撃する。
「ド・ゲイト・ド・イス!」
「cadre sacre!」
レイが氷の矢を放って熊を凍らせ動きを鈍らせ、
その隙に茜が光の柱でブラウン・ベアを攻撃する。
「デリサルのために……光よ!」
アエルスドロは剣から妖しい光を放ったが熊には全く効果がなかったようだ。
それでもデリサルが放った矢は熊に命中し、熊に深い傷を負わせた。
「悪いね、あたいらにも思いがあるんだよ。cadre sacre!」
「せいっ!」
レイが放った氷の矢が熊の身体を凍らせ、茜が鞭を振るって進もうとする熊を止める。
そして、アエルスドロが剣を抜き、熊の身体を剣で貫き、血しぶきと共に熊は倒れた。
「……骨折り損のくたびれ儲けだったな」
「そうですね……次に行きましょう」
この場所には特に何もなさそうなので、西に行き、南に行き、東に行こうとした。
東の木は根本が腐りかけていて、倒せば橋の代わりになりそうだ。
「私が倒そう」
アエルスドロが木をゆっくりと押すと、木は大きな音を立てて倒れた。
「やりました! これで向こう岸に渡れますね」
川を超えた先は、キノコの群生地になっていた。
普通の大きさのキノコから、茜達の背丈を超すほどの高さのものまで様々に生えている。
「これは魔法の材料に相応しそうだねぇ。おや?」
レイがキノコを集めようとすると、右上に腐りかけの人骨が数体転がっていた。
落ち着いて調べてみると、
死体には噛み千切られたような歯型がいくつも残っているのに気が付く。
「まさかとは思うけど、魔物がいるとか?」
「んなわけないよなぁ」
茜達が立ち去ろうとした時、ガサガサと周囲から音がし、影が飛び出してくる。
キノコに足が生えたような魔物、レッサーファンガスだ。
「こ、この魔物って!?」
「レッサーファンガス。こいつの胞子を浴びると、こいつらみたいになっちまうよ!
だからアカネ、さっさと迎え撃つよ!」
「……了解!」
レッサーファンガスの胞子でキノコ人間にならないよう、茜達はすぐに戦いを挑んだ。
デリサルが真っ先に弓に矢を番え、レッサーファンガスを矢で撃ち抜く。
続けてアエルスドロは走ってレッサーファンガスに剣を振って倒す。
「cadre sacre!」
茜は光の柱でレッサーファンガスを攻撃し、レイが氷の矢でレッサーファンガスを倒した。
レッサーファンガスの胞子をかわしながら、デリサルとレイは遠くから攻撃していく。
体力はもうなかったので、数秒で決着がついた。
「大丈夫でしたか?」
「ああ、平気だ……」
そう言うアエルスドロだが、身体にはたくさんの傷がついていた。
顔色もどこか、悪そうに思える。
「あまり、無理はしないでくださいね」
「だぜ。ほら、これでも飲んで元気になれよ」
「ああ、助かる……」
デリサルはポーションを取り出し、中の魔法の液体をアエルスドロに飲ませた。
アエルスドロの身体の傷が消え、顔色も良くなる。
「無茶して突っ込んだら死にますよ?」
「君が言うと、何となく説得力がありそうだ」
アエルスドロは茜が違う国から来た事を知っているので、彼女の言う事は聞いた。
「それじゃ、次はここですね……」
茜達は警戒しながら西に行った。
小道を抜けると花畑が広がっていて、
奥にはたくさんの実が生った樹木があり、その奥には北に抜ける小道がある。
「ん? ここは何だか怪しいな……」
「「同じく」」
「異議なし」
アエルスドロが辺りを調べると、土に何かが埋まっているのに気が付く。
掘り出してみると、薄汚れたマントが入っていて、内ポケットの中には紙切れが入っている。
「なんだ、これは? 読めないぞ……」
「どうやら下位古代語で書かれたみたいだね。え~っと……」
紙切れには走り書きで何か書かれているが、アエルスドロには読み取れなかった。
レイが読んでみると、その紙には魔法の文字が書かれていた。
魔導師の彼女が解読してみると、紙にはこのような文章が書かれていた。
これを読んでくれた君達へ
この森には人喰いの化け物が潜んでいる。
これを見つけたら、今すぐこの森から出るんだ。
「化け物……? 熊ではなく、キノコの魔物でもない……?」
「だが、化け物が何なのかは分からない」
どうやら、この森には怪物が生息しているらしい。
一体何の怪物かは四人には分からなかったが、急いで森から出なければならないと感じる。
「脱出するしかないみたいだね!」
「了解」
レイの号令で、四人は急いで森から脱出する。
すると、両手いっぱいに食材を抱えたグリマが嬉しそうに笑っていた。
「ありがとう……! これで、ほとんど揃ったね」
「……」
茜はグリマの顔をじっと見つめている。
一見すると人畜無害で、彼が化け物とは思えないようだが、グリマがゆっくりと口を開いた。
「後、足りないのは、人間や妖精の肉だね」
「人間や妖精……ま、まさか!」
茜が警戒心を強めると、グリマの姿が変化する。
人間の子供から、狼のような姿へと。
人と狼を混ぜたようなそれは、涎を垂らしながら茜達を見据えた。
「ウオオオオオオオオォォォォォ」
「ああ! ああ!」
アエルスドロが声を振り絞る。
「ワーウルフだ! ワーウルフが来た!」
「ワ、ワーウルフ!?」
茜は、目を大きく見開いてワーウルフを見つめた。
ワーウルフとは、月を見ると狼に変身する魔物だ。
人間に化けたワーウルフが、茜達を騙して食べようとしていたのだ。
「あたいらは食材だったのかい!」
「俺は、餌になんかなりたくないね!」
レイとデリサルは杖とレイピアを抜き、ワーウルフを倒す準備をした。
「ガアァァァァッ!」
「おっと!」
デリサルは、グリマが変身したワーウルフの爪による引き裂きをかわした。
「vie force!」
茜は魔法でアエルスドロの体力を回復し、後ろに下がる。
アエルスドロは剣を振ってワーウルフを攻撃し、
怯んだワーウルフにデリサルのレイピアが突き刺さる。
「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」
レイが呪文を唱えて杖を振ると、三本の光り輝く魔法の力場の矢がワーウルフを打ち据える。
「ぐっ……!」
ワーウルフは勢いよくデリサルに噛みつく。
身体に不快なものが入り込んだような気がして、デリサルの表情が苦痛に歪む。
「まずい……! デリサルが獣の病にかかった!」
ワーウルフに噛まれると、放っておけばワーウルフに変異してしまう。
アエルスドロは早めにワーウルフを倒さなければと思い、
通常の限界を超えて活動するため気合を溜める。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ! グランドクロス!」
「せいっ」
「グアアアアアアア!」
アエルスドロの剣が十字を描き、ワーウルフの身体を切り裂く。
デリサルは震えながらもレイピアでワーウルフを突き刺し、体力を減らす。
「とどめだよ。ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
レイの攻撃魔法がワーウルフを打ち据え、大ダメージを受けたワーウルフは地に伏した。
「早く脱出するぞ」
デリサルを連れて森から出ようとしたところ、武装した村の男達が慌ててやってくる。
「先程、この森に向かっていく冒険者一行を見たという通報を受けました」
「この周辺は、人を騙して喰うワーウルフがいて、指名手配中です」
「襲われないうちに早くここから逃げてください」
「あ、そのワーウルフなら……倒しました」
茜がワーウルフを倒した事を報告すると、村人は目を見開いて驚いた。
「何!? なんて腕の立つ冒険者達だ……!」
「であれば、懸賞金を渡さねばですな。さあ、村に戻りましょう」
村人は茜達を称賛し、引き返していった。
こうして茜達は村人から懸賞金をもらい、ポーションもいくつか手に入れた。
しかし、デリサルが獣の病にかかってしまい、休む暇はなくなってしまった。
果たして、デリサルは病気を治し、復帰できるだろうか……。