デリサルは獣の病にかかり、ワーウルフになるのは時間の問題となった。
治療法はメディカルナッツという魔法の果実だが、その季節ではあまり採れない。
茜達は妖精の森に行って、妖精からメディカルナッツをもらおうとする。
森は罠が多く、進むのは困難だったが、それでも茜達はメディカルナッツを手に入れ、
無事に森を抜け出してデリサルの元へと急ぐのだった。
「はい、デリサルさん。メディカルナッツです」
ファンドリアの宿に戻った茜は、寝ているデリサルにメディカルナッツを渡した。
彼の顔には毛が何本か生えていて、だんだんと獣に近づきつつあった。
あと少し遅かったら、デリサルは完全なワーウルフになっていたかと思うと、
茜は恐怖で震えていた。
「う、うぅぅぅぅ……」
デリサルは震えながらメディカルナッツを食べる。
すると、赤くなっていたデリサルの顔が、みるみるうちに正常に戻っていった。
顔に生えていた毛も、どんどん抜け落ちていき、やがて元のデリサルに戻った。
「ふう……助かった」
「大丈夫でしたか、デリサルさん」
「うぅ……熱があって寒気がして、何とも言えない気分だった」
獣の病は思った以上に重病だったようだ。
こんな病気に必死で耐えていたかと思うと、茜はデリサルに感服する。
「ま、あんたなら耐えると思ったさ」
「そうだな……ふふふ、俺も、また、冒険……」
「無理はしないでくださいね。私達もあなたのために冒険しましたから。
さあ、今日はゆっくり休みましょう」
「お金は私が払うからな」
病み上がりで冒険に行かせるわけにはいかない。
茜達はデリサルと共に、今日は一日、ファンドリアの宿で休む事にした。
「あなた一人で何でも背負い込まないでくださいね」
ベッドで横になるデリサルに、茜は優しく声をかけた。
かつて優一郎がミカエラにそう言ったように、茜は仲間としてデリサルを労った。
いくら悪魔やエルフやモントゥがいるといっても、彼らは茜に優しくしてくれたからだ。
(優ちゃん……吸血鬼と上手くやれるかな。あのフェリドって人は凄く怖かったけど……)
―僕は君達の絶望した顔が見たいんだよ。
フェリドは子供達を殺す前にそう言った。
吸血鬼は残忍で冷酷で人間を家畜としか思わない、そんな怪物としか茜は思っていなかった。
そんな怪物と上手くやれるなんて、到底無理な話だと茜は思っていた。
(フェリドを殺すしか、私にできる事はないの?)
生前の茜に残っているのは、家族を殺したフェリドへの復讐心だった。
きっと、みんなはそう思っているのだろう。
彼さえいなかったら、きっと脱出できたのに……そんな事を思うと、悔しくてたまらない。
フェリドを殺したとしても、彼が殺した家族は生き返らないと分かっても、
彼女はフェリドに復讐したかった。
そんな思いが、彼女の心の中で渦を巻いていた。
「……どうした、アカネ。今日はもう遅いぞ」
「……そうですね」
レイとデリサルがぐっすりと眠りにつく中、茜はやはり、寝付けなかった。
「眠れないなら、私が傍にいる。エルフはあまり寝なくても大丈夫だしな。
夜遅いと、冒険も遅くなるぞ。君はベッドの上で何を言ったんだ?」
「……アエルスドロさん、ごめんなさい。悩んだら寝付けなくなりますよね……。
とりあえず、明日に備えて寝ましょう」
「ああ、それがいい。ほら、布団は私がかけてやるから、君はぐっすり眠れ」
アエルスドロは茜に布団をかけた後、自身は瞑想という形で休息についた。
布団にくるまれた茜は、ぐっすり眠っていた。
(アカネは、色々悩む事があるんだな……。
まあ私も、あそこにいた時は悩む事もあった。要するにお互い様、だな)
翌日、茜達はファンドリアの宿で朝食を食べた。
温かいスープと美味しいパンは、冷えた茜達の身体を温めてくれる。
「こんな美味しい料理が毎日食べられるなんて、やっぱりここって理想郷ですね」
生前の茜が食べた美味しい料理はカレーくらいで、
他は優一郎曰く「泥みたいな味」だったらしい。
子供達を家畜として扱っていたから、当然だろう。
「なんだ、当たり前だろ? まあ、一部は変な味のものもあるけどな」
そう言ってデリサルはパンを一口頬張る。
「私、カレーを作った事があるんですけど、美味しいのはこれくらいでしたからね」
「カレー、とは、なんだ?」
「あれ、カレーを知らないんですか? 今度、作って食べさせますね」
茜は皆にカレーを作ると約束し、アエルスドロはカレーがどんなものなのか楽しみにしていた。
「それと、カレーで思い出したんですが、ショートケーキも食べたいです。
家族が食べたがっていましたからね」
「ほう、ショートケーキかい。やっぱり苺だよね」
「はい! 苺は最初か最後、どっちですかね?」
「あたいはやっぱり最後からだねぇ」
茜とレイは女性同士、甘いものの話題で盛り上がったようだ。
アエルスドロとデリサルはついていけないが、仲間ならば仕方がないと割り切った。
「そういえば、他にどんな国があるんですか?
フェーン王国とハリネース王国と行きましたけど、腐敗教団はどこにいるんでしょうか」
「それなら心当たりがある。デザードラド王国だよ」
「デザードラド王国?」
「砂漠が広がる灼熱の国、っていったところ。
ハリネース王国から来たら風邪を引いちゃうかもねぇ」
次に茜達が赴く場所は、砂漠の国・デザードラド。
ここにも腐敗教団がいて、様々な策略を用いて腐らせようとしているかもしれない。
彼らの野望を止められるのは、茜達だけだ。
「風邪を引いちゃうのはちょっと困りますね」
「そうならないようにしっかり身体を休めるんだよ。
さ、これを食べたらデザードラド王国に行こう」
レイの言葉に茜は頷いて、しっかり朝食を食べた。
今日は王都レリックから船が出る。
その船に乗って、次の目的地であるデザードラド王国に行こうと、茜達は決意した。
何故なら、そこに新たな冒険が待ち受けているからである。
レリックの港から船が出港し、茜達を乗せた船は無事に海を渡っていった。
真っ白な雪がどんどん離れていき、代わりに熱い空気が、茜達の頬に当たっていく。
「いよいよ、デザードラド王国に行くんですね……」
デザードラド王国は砂漠の王国だけあって、船が進むだけでもそれが熱いほどに分かる。
「私達は……生き残れるんでしょうか」
「ああ、できるさ。君はそのために、冒険者になったんだろう?」
「……そうでしたね」
故郷で叶わなかった事を、このアルカディアでやり直す。
茜の決意は、アエルスドロには分かっていた。
「でも、あたいらがついてるのも忘れないでくれよ」
「俺も冒険者だ、アカネ」
「レイさん、デリサルさん」
レイとデリサルは、冒険者として茜を励ました。
最初、レイは茜を馬鹿にしていたが、だんだんと茜を放っておけなくなった。
デリサルもレイに従って茜を励ますようになった。
二人にとっても、茜は大切な存在なのだ。
「この冒険者パーティーは、誰が欠けても成り立たない。みんな、絶対に生き残るんだぞ」
「……はい!」
「ああ!」
「もちろんさ!」
アエルスドロは先頭に立って、茜達を応援した。
四人を乗せた船は、砂漠へと向かっていく。
果たして、四人を待ち受ける運命は、過酷なものなのか、それとも……。