百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

デリサルは獣の病にかかり、ワーウルフになるのは時間の問題となった。
治療法はメディカルナッツという魔法の果実だが、その季節ではあまり採れない。
茜達は妖精の森に行って、妖精からメディカルナッツをもらおうとする。
森は罠が多く、進むのは困難だったが、それでも茜達はメディカルナッツを手に入れ、
無事に森を抜け出してデリサルの元へと急ぐのだった。


第10話 砂漠へのタビダチ

「はい、デリサルさん。メディカルナッツです」

 ファンドリアの宿に戻った茜は、寝ているデリサルにメディカルナッツを渡した。

 彼の顔には毛が何本か生えていて、だんだんと獣に近づきつつあった。

 あと少し遅かったら、デリサルは完全なワーウルフになっていたかと思うと、

 茜は恐怖で震えていた。

 

う、うぅぅぅぅ……

 デリサルは震えながらメディカルナッツを食べる。

 すると、赤くなっていたデリサルの顔が、みるみるうちに正常に戻っていった。

 顔に生えていた毛も、どんどん抜け落ちていき、やがて元のデリサルに戻った。

「ふう……助かった」

「大丈夫でしたか、デリサルさん」

「うぅ……熱があって寒気がして、何とも言えない気分だった」

 獣の病は思った以上に重病だったようだ。

 こんな病気に必死で耐えていたかと思うと、茜はデリサルに感服する。

「ま、あんたなら耐えると思ったさ」

「そうだな……ふふふ、俺も、また、冒険……」

「無理はしないでくださいね。私達もあなたのために冒険しましたから。

 さあ、今日はゆっくり休みましょう」

「お金は私が払うからな」

 病み上がりで冒険に行かせるわけにはいかない。

 茜達はデリサルと共に、今日は一日、ファンドリアの宿で休む事にした。

 

「あなた一人で何でも背負い込まないでくださいね」

 ベッドで横になるデリサルに、茜は優しく声をかけた。

 かつて優一郎がミカエラにそう言ったように、茜は仲間としてデリサルを労った。

 いくら悪魔やエルフやモントゥがいるといっても、彼らは茜に優しくしてくれたからだ。

 

(優ちゃん……吸血鬼と上手くやれるかな。あのフェリドって人は凄く怖かったけど……)

 

―僕は君達の絶望した顔が見たいんだよ。

 

 フェリドは子供達を殺す前にそう言った。

 吸血鬼は残忍で冷酷で人間を家畜としか思わない、そんな怪物としか茜は思っていなかった。

 そんな怪物と上手くやれるなんて、到底無理な話だと茜は思っていた。

 

(フェリドを殺すしか、私にできる事はないの?)

 

 生前の茜に残っているのは、家族を殺したフェリドへの復讐心だった。

 きっと、みんなはそう思っているのだろう。

 彼さえいなかったら、きっと脱出できたのに……そんな事を思うと、悔しくてたまらない。

 フェリドを殺したとしても、彼が殺した家族は生き返らないと分かっても、

 彼女はフェリドに復讐したかった。

 そんな思いが、彼女の心の中で渦を巻いていた。

 

「……どうした、アカネ。今日はもう遅いぞ」

「……そうですね」

 レイとデリサルがぐっすりと眠りにつく中、茜はやはり、寝付けなかった。

「眠れないなら、私が傍にいる。エルフはあまり寝なくても大丈夫だしな。

 夜遅いと、冒険も遅くなるぞ。君はベッドの上で何を言ったんだ?」

「……アエルスドロさん、ごめんなさい。悩んだら寝付けなくなりますよね……。

 とりあえず、明日に備えて寝ましょう」

「ああ、それがいい。ほら、布団は私がかけてやるから、君はぐっすり眠れ」

 アエルスドロは茜に布団をかけた後、自身は瞑想という形で休息についた。

 布団にくるまれた茜は、ぐっすり眠っていた。

 

(アカネは、色々悩む事があるんだな……。

 まあ私も、あそこにいた時は悩む事もあった。要するにお互い様、だな)

 

 翌日、茜達はファンドリアの宿で朝食を食べた。

 温かいスープと美味しいパンは、冷えた茜達の身体を温めてくれる。

「こんな美味しい料理が毎日食べられるなんて、やっぱりここって理想郷ですね」

 生前の茜が食べた美味しい料理はカレーくらいで、

 他は優一郎曰く「泥みたいな味」だったらしい。

 子供達を家畜として扱っていたから、当然だろう。

「なんだ、当たり前だろ? まあ、一部は変な味のものもあるけどな」

 そう言ってデリサルはパンを一口頬張る。

「私、カレーを作った事があるんですけど、美味しいのはこれくらいでしたからね」

「カレー、とは、なんだ?」

「あれ、カレーを知らないんですか? 今度、作って食べさせますね」

 茜は皆にカレーを作ると約束し、アエルスドロはカレーがどんなものなのか楽しみにしていた。

 

「それと、カレーで思い出したんですが、ショートケーキも食べたいです。

 家族が食べたがっていましたからね」

「ほう、ショートケーキかい。やっぱり苺だよね」

「はい! 苺は最初か最後、どっちですかね?」

「あたいはやっぱり最後からだねぇ」

 茜とレイは女性同士、甘いものの話題で盛り上がったようだ。

 アエルスドロとデリサルはついていけないが、仲間ならば仕方がないと割り切った。

 

「そういえば、他にどんな国があるんですか?

 フェーン王国とハリネース王国と行きましたけど、腐敗教団はどこにいるんでしょうか」

「それなら心当たりがある。デザードラド王国だよ」

「デザードラド王国?」

「砂漠が広がる灼熱の国、っていったところ。

 ハリネース王国から来たら風邪を引いちゃうかもねぇ」

 次に茜達が赴く場所は、砂漠の国・デザードラド。

 ここにも腐敗教団がいて、様々な策略を用いて腐らせようとしているかもしれない。

 彼らの野望を止められるのは、茜達だけだ。

「風邪を引いちゃうのはちょっと困りますね」

「そうならないようにしっかり身体を休めるんだよ。

 さ、これを食べたらデザードラド王国に行こう」

 レイの言葉に茜は頷いて、しっかり朝食を食べた。

 

 今日は王都レリックから船が出る。

 その船に乗って、次の目的地であるデザードラド王国に行こうと、茜達は決意した。

 何故なら、そこに新たな冒険が待ち受けているからである。

 

 レリックの港から船が出港し、茜達を乗せた船は無事に海を渡っていった。

 真っ白な雪がどんどん離れていき、代わりに熱い空気が、茜達の頬に当たっていく。

「いよいよ、デザードラド王国に行くんですね……」

 デザードラド王国は砂漠の王国だけあって、船が進むだけでもそれが熱いほどに分かる。

「私達は……生き残れるんでしょうか」

「ああ、できるさ。君はそのために、冒険者になったんだろう?」

「……そうでしたね」

 故郷で叶わなかった事を、このアルカディアでやり直す。

 茜の決意は、アエルスドロには分かっていた。

「でも、あたいらがついてるのも忘れないでくれよ」

「俺も冒険者だ、アカネ」

「レイさん、デリサルさん」

 レイとデリサルは、冒険者として茜を励ました。

 最初、レイは茜を馬鹿にしていたが、だんだんと茜を放っておけなくなった。

 デリサルもレイに従って茜を励ますようになった。

 二人にとっても、茜は大切な存在なのだ。

「この冒険者パーティーは、誰が欠けても成り立たない。みんな、絶対に生き残るんだぞ」

「……はい!」

「ああ!」

「もちろんさ!」

 アエルスドロは先頭に立って、茜達を応援した。

 

 四人を乗せた船は、砂漠へと向かっていく。

 果たして、四人を待ち受ける運命は、過酷なものなのか、それとも……。

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