翌日、茜達を乗せた船は、無事にデザードラド王国に辿り着いた。
着いた場所は首都・ドゥーラである。
「うっ……!」
砂漠に足を踏み入れた茜が急に身震いする。
雪国から急に砂漠地帯に来た事によって、寒暖差の影響で体温が不安定になった。
「何だか、寒くて、熱くて、気分が……」
「私も、こんなに強い日差しは初めてだ……」
ふらつく茜を、デリサルは何とか支える。
アエルスドロも日差しを浴びたせいで、体調不良を起こしてしまったようだ。
数々の冒険で日光に耐性を得た彼だったが、流石に非常に強い日差しだったようだ。
「ちょっと、宿に、行きますね……」
「ああ、またここから始まるのか……」
茜達はふらつきながら、近くの宿に入った。
「お疲れ様、だな」
「そうですね……はぁ……」
再び宿から始まったため、茜は溜息をついた。
「冒険者って、ここから始まる事が多いんですね」
「そうかもしれないな」
ハリネース王国に来た時も、茜達は宿で休んだ。
これが二回も続いたので、茜は少々うんざりした。
そんな彼女を励ますために、アエルスドロは口を開いた。
「いつも冒険していては、身体が持たない。休む事も冒険者にとっては大事なんだ。
むしろ、今が一番大事かもしれない」
「……確かに、優ちゃんは私がここにいる間に、吸血鬼と戦っているかもしれないから……」
この先に待ち構える冒険では、休む暇などないかもしれない。
きっと、優一郎も吸血鬼との戦いに休みなく明け暮れているかもしれない。
そう考えれば、休息時間は希少だと分かり、茜は素直に納得した。
「ところで、さっき君が言った優ちゃんって誰だ?」
「あ、その、私の家族でした」
慌てて茜は優一郎について一言だけ説明する。
「でした、という事は……」
「……あまり、深く考えないでください」
これ以上自分の秘密を探られたくないため、茜は自分の口に人差し指を当てた。
茜達が休息する中、人々が噂話をしているのを耳が良いデリサルは聞き逃さない。
「ねえ、この辺りに凶悪な山賊がいるんだって」
「捕まったらぼこぼこにされるんでしょ?」
どうやらデザードラド王国には山賊がいるらしい。
その山賊を人々は怖がっているようだが、冒険者にとっては大した敵ではないだろう。
デリサルは彼らの話を、じっと聞いていた。
「……ふふふ、冒険の情報が手に入ったぞ」
デリサルは茜達に、人々から得た情報を話した。
「あら、またまた冒険が来たようですね」
山賊は弱い者から略奪する下劣な集団らしく、熟練の冒険者なら相手にならないという。
「相手は山賊ですが、油断大敵です。何が起こるか分かりませんから」
「ゴブリン退治の時と同じだな。それで、どこに行けばいいんだ?」
「デザードラド王国の冒険者ギルドに行けばいい。そこで依頼を受けられるからな」
「久しぶりのギルドですね。休んだら行きましょう」
しばらく宿で休んだ後、茜達は宿の隣にあるという冒険者ギルドに行った。
暑さで体力は少し奪われたが、休んだので苦も無く辿り着く事ができた。
「はい、冒険者の方ですね。……あら? 随分と冒険してきたようですね。
冒険者カードをお預かりいたします」
受付が茜達の冒険者カードを預かると、
魔法装置を使って更新した後、茜達に冒険者カードを返す。
階級は、ウッドからブロンズに変わっていた。
ブロンズとは、七番目に高い冒険者ランクである。
「ストーンじゃなくて……ブロンズですか?」
「ええ。たくさん冒険してきた事が、この冒険者カードに書かれていますからね」
そういえば更新を忘れていたな、と茜は思い出す。
とはいえ、駆け出しから一人前になった証である。
茜は受け取った冒険者カードを見て、微笑んだ。
「やりましたよ、アエルスドロさん。私達、一人前の冒険者になったんです」
腕前が着実に上がり、茜は喜んだ。
冒険をしてきた実感が、茜の中に沸いていて、茜は達成感でいっぱいだった。
「あんた、ただの薄汚い子だと思ったんだけどね。人間にしては、なかなかやるじゃないか」
「レイさん……私を認めてくれるんですか?」
「勘違いするなよ、まだあたいは完全に、あんたを認めたわけじゃない。
けれど、あんたは立派な冒険者になったんだ」
レイは最初、冒険者になったばかりの茜を見下すような素振りを見せていた。
だが、共に冒険をするにつれて、茜を冒険者として認めるようになった。
これはレイの変化と言えるだろう。
「それにしても、山賊か。簡単に倒せると思うがな」
「だが、油断は大敵だぞ。何をするか分からないからな」
「それもそう、ですね」
山賊はゴブリンと同じく、弱いが狡賢い。
罠に引っかかれば、熟練の冒険者であっても簡単に倒されてしまうだろう。
なので、茜達は気を引き締めてこの冒険に挑んだ。
「じゃあ、いつ頃行くんですか?」
「夕暮れ時がいいだろう。人間は夜になると活動が鈍るらしいからな」
アエルスドロ、レイ、デリサルは暗視能力を持ち、茜も夜にたくさん活動した事がある。
それに、人間は夜目が利かないらしいので、山賊に気づかれる事も少ないだろう。
皆、デリサルの意見に賛同し、夕暮れ時を待った。
そして、時刻は夕暮れ。
茜達は、山賊に見つからないように、こっそりと街道を歩いた。
周りに誰もおらず、人々に気づかれる事はない。
「よかった、誰もいませんね」
「この調子で、山賊のアジトに向かおう」
茜とアエルスドロが話し合っていると、
しばらくすると、街道の向こうから美しい少女がこちらへと駆けてきた。
彼女の服は泥で汚れており、顔は泥だけでなく、涙と殴打による痣で汚くなっている。
「ひ、酷い……」
「お助けください、戦士の皆様!」
茜が唖然としていると、少女が叫びながら駆けてくる。
彼女の背後からは、下劣な笑みを浮かべる、いかにも野卑な男達が現れた。
「ひっ……!」
男達は茜達を見ると、にたつきながらこちらににじり寄ってくる。
リーダーらしい、鉄鋲付きの棍棒を片手に打ち付けている男は茜達にこう言った。
「おう、おう、旅人か?
てめえら、手足を折られたくなけりゃ、大人しくその娘と、ついでに金目の物を全部出しな」
「い、嫌です!」
「女の子に手を出そうだなんていい度胸じゃないか」
そう言ってレイが男に杖を向けると、男はレイと茜をじろじろと見て言った。
「お、そこの小さい姉ちゃんと大きい姉ちゃんは別嬪じゃねえか。
上玉はいくらいてもカネになるぜ。俺達について来な、追加の女が欲しかったところなんだ!」
「お断りします!」
茜は鞭を振るって男を威嚇する。
アエルスドロとデリサルも、男達に向けて武器を抜き放った。
「ふんっ、女にしちゃあ気が強いじゃないか。
でも、たったそれだけかもな、ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!」
男達は笑い声を上げ、不快な態度で武器を抜く。
最早交渉の余地はないため、茜達は彼らと戦うしかないのだった。
「ド・ゲイト・ド・イス!」
レイは山賊に向かって氷の矢を放つが、山賊は楽々と攻撃をかわす。
「でぇいっ!」
アエルスドロは山賊のリーダーの男に突っ込んでいき、剣を振りかざす。
ギリギリで命中した攻撃は、男の胴体を傷つける。
「おらおらおらぁ!」
「くっ……!」
アエルスドロは近付いた山賊の攻撃を、一人は盾でいなし、もう一人はもろに受ける。
さらに、二人の山賊が放った矢を受けてしまう。
「だ、大丈夫ですか、アエルスドロさん!」
「これくらい平気だ……君達は山賊を倒してくれ」
「了解ですっ、cadre sacre!」
「そらよ!」
茜は光の柱で山賊のリーダーを攻撃し、デリサルがショートボウの矢で追撃する。
アエルスドロはギリギリで山賊のリーダーの攻撃をかわし距離を取ってポーションを飲み干す。
「ド・ゲイト・ド・イス!」
レイは氷の矢を山賊に撃ち込むが、大したダメージは与えられない。
「おりゃおりゃおりゃ!」
「ぐあぁぁぁぁっ!」
さらに、アエルスドロが二人の山賊から連続で攻撃を受け、倒れてしまう。
このままでは死んでしまうと思った茜は、アエルスドロに容態安定化の呪文をかける。
「「お金になるならとっとと消えな」」
「「ぐぼはぁっ!」」
デリサルは山賊のリーダーをレイピアで突き刺し、山賊のリーダーも棍棒でデリサルを殴る。
「終わりだよ、ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ! や、ら、れ、た……」
「ぎゃあああああああああ!!」
そして、レイの魔法の矢が山賊のリーダーの急所をことごとく貫き、
山賊のリーダーは血しぶきを上げて倒れる。
その様子に恐怖を覚えた山賊達は、一斉に茜達の前から逃げ出した。
「殺すつもりは、なかったんだけどねぇ」
「では、アンデッドにならないように祈ります」
茜が山賊のリーダーの死体を葬った後、泣きながら少女は茜に縋ってきた。
「わ、何をするんですか」
「おお、おお、助けてくれてありがとうございます。私はスマイタ、アルディンの
厚かましいとは分かっていますが、どうか、私達の村をお救いください」
「もちろんです」
「ありがとうございます!」
少女はスマイタと名乗り、茜達に村を救うように話した。
茜が了承すると、スマイタは涙を流し、茜達に現在の事情を話した。
「ここからほど近いサーフーラ山の麓に私が生まれ育ったアルディンという小さな村があります。
しかし一週間ほど前、サーフーラ山にある洞窟に不届き者が住み着いてしまったのです。
彼らは『サーフーラ辺境伯』を自称するアブダラという男に率いられて現れ、
重税を課税し、そうでなければ女子供をさらうらしいのです」
「そりゃ随分と酷い事をするんだな。権力を盾に税金を取ると、市民から見放されるからな」
デリサルが愚痴を呟く中、スマイタは話を続ける。
「彼らは2日以内に回答しなければ略奪を行う、と言い、そして実行しました。
逆らった者達は皆殺しにされ、村長の娘である私はさらわれ、
奴隷商人に売られる前に味見としていたぶられる予定でした」
「な、なんという事を!」
「どうかお願いします、あの薄汚い野郎の手から子供達を助けてください。
まだ奴らは一度しか略奪しておらず、辛うじて支払えるものは隠しております。
彼らを追い払ってくだされば、800ゼニーを支払うとお約束します」
「もちろんです! あなた達は絶対に、私達が助けます!」
ここまで山賊が好き放題するなら、絶対に放っておくわけにはいかない。
茜は頷いて、スマイタの依頼を引き受けた。
「ああ、本当に……本当にありがとうございます。
こちらに小屋がありますので、どうか自由にお使いください」
スマイタは茜達を小屋に案内する。
小屋の中にはこの辺りの地図と矢が10本ずつ、加えて小瓶が1つ置かれている。
レイが小瓶を確認すると、それはヒールポーションだった。
「ふむふむ……これがサーフーラ山の地図ですか」
茜がサーフーラ山の地図を細かく読み取ると、洞窟の詳細が判明した。
ここは非常に攻めにくく、一度籠城されれば到底この人数では攻めあぐねるだろう。
内部には地下水脈があり、渇き攻めなどの計略は無駄に終わるどころか、
人質が殺されるだけに終わる。
ただし、唯一の入り口は細い坂道であり、
逃げるのが難しい場所でもあるため、襲撃しても彼らが逃げ出す心配は少ない。
「それじゃあ、ここをこっそり抜ければ、山賊達に見つからずに済みますね」
「ああ、ついでに不意打ちを仕掛けよう」
「不意打ちですか……確かに、それなら見つからずに済みますしね。賛成です」
今は夕暮れなので、山賊は彼らに気づいていないだろう。
その隙に忍び込めば、人質を助けられるはずだ。
茜達はある程度の作戦会議を終えた後、ヒールポーションを飲んで体力を回復する。
四人はもうすぐ、山賊のアジトに忍び込もうとしていた。