百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜たちはデザードラド王国に到着し、砂漠の厳しい環境に苦しみながらも宿に辿り着く。
そこで彼らは地元の山賊の噂を耳にし、冒険者としての次なる行動を決める。
茜達は山賊に襲われた少女と出会い、彼女の故郷である村を山賊から救おうとする。
山賊のアジトへの不意打ちを計画し、夕暮れの時に行動するのだった。


第12話 蠱惑のマジョ

「スマイタには避難しておいた、山賊退治は私達がやろう」

 

 茜達はスマイタを安全な場所に置いて行き、こっそりと洞窟へ続く道を歩く。

 その道には一羽の鷹が飛んでおり、侵入者が来ると速やかに主に知らせるようだ。

 しかし、鷹は鳥目であり、夜にこっそり忍び込む相手には、

 文字通りの「鷹の目」も発揮できない。

 茜は鎧で少し音を立てていたが、何とか気づかれずに侵入できた。

 

 四人が辿り着いたのは、広い練兵場だった。

 そこでは、薄汚い山賊が二人がかりで棍棒を振り、男の子を一心不乱に殴りつけている。

 その男の子はボロボロの短剣を渡されたようだが、最早短剣を振るう力もなく息も絶え絶えだ。

「姉ちゃんを逃した根性はどこに行ったよ……?」

「何発殴ったら死ぬかなぁ?」

「……」

「ぐはっ!?」

 その時、山賊の背中をレイピアが貫き、山賊に重傷を負わせる。

 レイピアを持っていたのは、デリサルだった。

「てめぇ、何しやが……」

「覚悟しろ」

「ぐぼはぁっ!」

 アエルスドロ達は素早く山賊に近づき、軽い負傷だけで山賊達を倒した。

 

「ありがとうございます……ス、スマイタ姉さんは、無事、ですか……」

「はい、ボロボロですが生きています。ところで、山賊の特徴は何か知っていますか?」

 助けられた男の子は、苦しみながらも礼を言う。

 茜はスマイタの無事を男の子に報告し、山賊について男の子が知っている事を聞いた。

「奴らの参謀は恐ろしい魔女です……

 彼女は邪神の力で死体を操っています……どうか気をつけてください……」

「魔女? まさか……」

 あの人物と関係があるのか、と茜が思うと、男の子は気を失った。

 茜が近づいてみると、息はしているようで無事のようだ。

 その魔女をどうにかすれば、山賊達は逃げるだろうと思いながら。

「絶対に魔女は倒しましょう」

「そうだな、そして人質も助けよう」

 早めに魔女を倒して人々を山賊の魔の手から救ってやろう。

 茜達は改めて、そう決意するのだった。

 

「人質は多分、ここに捕まってるはずだ」

 茜達が牢獄の前に行くと、一人の山賊が武器を持って子供達を脅しつけていた。

 子供達は怯え、震え、抵抗する素振りを見せない。

「おらぁ! 従わねぇとぶっ殺すぜぇ?」

「そうはいきませんよ!」

 茜達はそう言って、武器を手に山賊を攻撃しようとする。

 彼らに気づいた山賊も、武器を構えて茜達に襲い掛かった。

 

「おりゃりゃりゃ!」

「ぐあぁっ!」

 山賊はアエルスドロを一心不乱に殴りつける。

 アエルスドロは傷つきながらも歯を食いしばり、剣を振って山賊を斬りつける。

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 レイが氷の矢を放って山賊を攻撃し、

 デリサルのレイピアと茜の光魔法で山賊は血だまりに飲まれた。

 

「本当は殺すつもりはなかったんですが……今はどうこう言ってはいられませんよね」

「……そんな甘い考えは良くないぞ。ほら」

 デリサルは山賊の死体から牢獄の鍵をぶんどり、牢獄にかかっていた鍵を開けた。

 すると、牢獄の中からボロボロになった傷だらけの男の子がやってきた。

「た、助けてくれたの……? ありがとう……」

「どういたしまして」

「スマイタ姉ちゃんが呼んでくれたんだね……。クアアイドは大丈夫?

 彼は姉ちゃんを逃したからって理由で、ごろつきが連れて行ったんだけど……」

「クアアイドって……さっきの男の子ですか?」

 茜の質問に男の子は頷いた。

「そして、その山賊の親分はどこに行ったんだ?」

「一番広い部屋でふんぞり返ってるよ。ただ、蠱惑のエクレアって人が、同じくらい恐ろしいよ」

「蠱惑のエクレア……? それって、あの魔女?」

「多分……」

 恐らく、蠱惑のエクレアこそが、山賊の参謀である魔女だろう。

 魔女というからには強力な魔法を使うに違いない。

「分かりました」

「どうか、無事でいてください……」

 茜は頷いて、仲間と共にエクレアを追った。

 ふと、デリサルは貯蔵庫の方に目を向ける。

 盗賊らしく、財宝があるとすぐにそっちに目を向けてしまうようだ。

「ちょっと待て、お宝探してからでいいか?」

「ん、まぁ、別にいいけど……罠にかかるなよ?」

「分かってまーす」

 デリサルはそう言って、貯蔵庫に向かった。

 貯蔵庫には鍵がかかっていたが、盗賊のデリサルにとって、

 この程度の鍵は朝飯前らしく、あっさりと解錠され扉は開いた。

 中には3000ゼニー分の銀貨と、兎をあしらった靴が入っていた。

「うおぉー、やっぱりお宝だぁ! おい、こっちに来いよ。お宝があるぜ」

 デリサルが小声で三人に伝えると、三人は音を立てずに貯蔵庫に入った。

 一人750ゼニーを受け取り、デリサルは自分の靴を脱いでラビットブーツを履き靴をしまった。

「あれ、私にくれるんですか? デリサルさんだから、独り占めするかと……」

「ばっか、仲間を見捨てられるわけないだろ」

 茜とデリサルはお互いに疑いの目を向けたが、裏切らないと分かって一安心した。

 

 一方、レイはデリサルが見つけた靴を調べていた。

「これは……マジックアイテムみたいだね」

「マジックアイテムって、何ですか?」

「魔力がこもったアイテムだよ。普通のアイテムにはない、特別な効果を持ってるよ。

 ちょっと見せてくれないかい?」

 レイはデリサルが履いているラビットブーツを調べる。

 魔導師のレイは、マジックアイテムに目がない。

 一通り調べた後、レイはゆっくりと口を開いた。

「このラビットブーツは、どんな状況でも一定の速度を保て、高く飛ぶ事ができるよ」

 このマジックアイテムは名前の通り、兎のような力を得られるらしい。

 盗賊のデリサルにはうってつけのアイテムだ。

「俺に相応しいよなぁ、やっぱり。

 兎っていうのがちょっと可愛いけど、幸運を司るからぴったりだと思うぜ」

「結構、収穫しましたね。泥棒しちゃうのが、ちょっと後ろめたいと思いますが」

「いやいや、山賊から取り返しただけだぜ」

「……それも、そうですね」

 

 貯蔵庫からお宝を回収した後、四人は祭壇に行く。

 祭壇はいくつもの骨で飾り立てられており、間違いなく邪悪なものである事が分かる。

「えぇっと、これは……ノルドマンの祭壇だね」

「ノルドマンって、何ですか?」

「死を司る神様だよ。本来は中立だけど、こいつは歪んだ信じ方をしてるからね。

 誰かを苦しめる事が救いと思ってるみたいだよ」

 現実の宗教でも、信仰の歪みから戦いが起こる事が多い。

 クレリックの力を持つ茜は、少しだけ理解した。

「神様をそんな風に利用するなんて、許しません。

 そしてこれ以上、誰かが死んでほしくないです。皆さん、絶対に山賊達は倒しましょう!」

「分かってるじゃないか、アカネ」

「さあ、頭目の間に行こうじゃないか!」

「おうっ!」

 

 四人はいよいよ、山賊の長とエクレアが待っている頭目の間に足を風味れた。

 そこには、アブダラという武装したものの歪んだ顔立ちをしている大男と、

 妖艶だが邪悪な雰囲気を持った蠱惑のエクレアと、彼らに付き従う四人の山賊がいた。

 エクレアの服はセイスやゴードンと似ており、

 六人は僅かな焦りが混ざった残忍な笑みを浮かべている。

 子供達を傷つけたという余裕と、冒険者に追い詰められたという危機感が混ざっているだろう。

 アブダラは立ち上がると、茜達に向かってこう言った。

 

「よくもここまで攻め込んできたものだ。よほど自分に自信があるのか?

 私はアブダラ・イサ・サーフーラ、サーフーラ辺境伯であり、正規の騎士だ。

 私に逆らうというのは国賊に等しいぞ。まさか、お前達は国に逆らう気かね?」

「え、あ……本当か? サーフーラ辺境伯を自称するって言っていたが」

「なんかおかしいですね。本当にあなたは、騎士なんですか?」

 アエルスドロと茜はアブダラを疑った。

 スマイタという少女は、アブダラは嘘をついていると言ったが、

 どうにも嘘をついているように思えない。

 どちらを信じればいいか、アエルスドロは迷っていた。

「ど、どうします、エクレア様?」

「迷ってんじゃないわよ。腐敗教団の四神官たるこの蠱惑のエクレアに不可能はなくてよ。

 とっとと殺しちゃいなさいな」

「腐敗……教団? やはりそうでしたか!」

 茜はエクレアが腐敗教団の一員である事を知り、即座にアブダラが嘘をついている事を知った。

「あなたはサーフーラ辺境伯を騙る詐欺師……! 皆さん、油断しないでください!」

「何だか怪しいと思ったな」

 茜がアブダラの嘘に気づいたため、アエルスドロ、レイ、デリサルは身構えた。

 アブダラは舌打ちし、長剣を抜き、山賊達やエクレアもそれぞれ武器を構える。

 最早、戦いは避けられない宿命のようだ。

 

「せやっ!」

 アエルスドロは剣を振って山賊を切りつけ、デリサルはレイピアで山賊の急所を突いて倒した。

「よし、山賊を一人倒したぞ」

 幸先の良いスタートだ。

 レイは杖を構えて呪文を唱え、アブダラ・イサを攻撃しようとした。

「あらあら、だらしないわねぇ。その身体を使ってもよろしいかしら?

 と言っても、下っ端に拒否権はないけどね。ラ・ホル・ド・ステラ・ド・オヴァ!」

 エクレアは倒れている山賊に呪文を唱える。

 すると、山賊の身体が黒い光に包まれ、むくりと起き上がった。

 その目は虚ろで何も映さないが、茜達を殺さんとする狂気が宿っていた。

「ゾンビ……!」

 そう、下級アンデッドモンスター、ゾンビである。

 山賊の死すらも利用しているエクレアに、茜は怒りを覚えた。

「そう、これはアタシのしもべのゾンビよ。さあ、殺してやりなさい!」

「ウオオォォォォォォォ」

 山賊のゾンビは何も考えず、叫びながら茜達に襲いかかってきた。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

「vie force!」

 レイは呪文を唱えて魔法の矢を放ち、アブダラ・イサを打ち据える。

 茜は傷ついたアエルスドロに近づいて傷を癒す。

「癒えない傷を受けなさい、ラ・ホル・ラ・オヴァ・ド・ハンズ!」

「う、ぐっ……!」

 エクレアが呪文を唱えると、不気味な骸骨の手が現れて茜の身体に触れる。

 体力を奪われそうになったが、茜は何とか耐えた。

「ふぅ……」

「おっと、油断は大敵だぞ」

「あぁぁぁぁっ!」

 茜がエクレアの耐えている間に、レイがアブダラの攻撃を食らってしまう。

 さらに、アエルスドロとデリサルも、山賊の攻撃でダメージを受けた。

 

「人間だから殺したくはないが……そうもいってはいられないよな」

「なんて下劣な……!」

 アエルスドロ達は必死に山賊を攻撃しているが、相手の勢力は予想以上に強かった。

 なかなか山賊達は倒れず、攻撃もそのほとんどがギリギリの回避だ。

「ラ・ホル・ラ・オヴァ・ド・ハンズ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 さらに、茜はエクレアの魔法で傷を負い、茜の身体に骸骨の手がしがみつく。

 苦しむ四人を見て、アブダラとエクレアは下劣な笑みを浮かべる。

「ガハハハハ、所詮はこの程度か」

「つまらないわねぇ。このまま殺したいけど、いたぶってからにしたいわ」

 そう言って、エクレアはゆっくりと茜に近づき、

 嗜虐的な笑みを浮かべると茜の首に鞭を巻きつける。

 アブダラも、傷ついたアエルスドロとデリサル、そしてレイにとどめを刺そうとしていた。

 

「さあ、とどめよ!」

「……!」

 エクレアの鞭が茜の首を絞めようとした次の瞬間――茜の目に突然地下都市での悲劇が映った。

 

 フェリドは、逃げようとした子供の血を吸った。

 脱出しようとした子供達を笑いながら殺し、怯える自分の首を、容赦なく落とした。

 

「……家族は、フェリドにこんな風に殺されたんだ。そんな事……させないっ!」

 また、二度も首を切られて死ぬわけにはいかない。

 茜は手を素早く動かし、首に絡みついているエクレアの鞭を素早く振り払った。

「アカネ!?」

 アエルスドロは這いつくばりながら何とか起き上がる。

 最早疲労困憊状態だったが、それでも茜の様子を見ずにはいられなかった。

 

「みんなは私が守る!!」

 次の瞬間、茜の身体から眩い光が放たれ、その光を浴びたアエルスドロ達の傷が癒える。

 おかげで、アエルスドロ達は難なく立ち上がり、山賊達に一斉に反撃する。

 

「あの光……まさか、転生者の光!?」

 エクレアが茜が放った光を見て驚いた。

 転生した茜が得た癒しの力により、四人の傷が回復したのだ。

「たぁっ!」

 アエルスドロはアブダラの目の前に立ちはだかり、剣を振ってアブダラの身体を切りつける。

「くそぉっ……ズラかるぞ!」

「そうはいかないよ、ド・ゲイト・ド・イス!」

 レイは攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに、呪文を唱えて氷の矢を放つ。

 逃げようとしたアブダラの足が凍り付き、残った山賊もアエルスドロとデリサルが攻撃する。

「ちっ、仕方ないわね! アタシだけでも、ズラかるわ!」

 エクレアは呪文を唱え、煙となって姿を消した。

 コロン、と消えたところに短い杖を残して。

 

「しまった、逃げられたか!」

「だが、こいつらだけでも倒して、捕らえよう!」

 アエルスドロ達は残った山賊を剣や杖で攻撃し、殺さないように戦闘不能にした。

 

「ちゃーんと牢屋に閉じ込めておくからね」

「ぐぉっ……お、の、れ……」

 山賊達は最早、戦う気力を残していなかった。

 デリサルは山賊から魔法のロングソードと、エクレアが残したと思われる魔法の杖を剥ぎ取り、

 冒険者セットから縄を取り出して縛りつけた。

 そして、茜達は山賊のアジトを出た後、捕らえた山賊達を連れ、子供達を解放した。

 

 その後、茜は今回の冒険の内容を受付に報告した。

 手に入れた財宝はそのまま手に入れていいらしく、元凶の山賊達はしばらく牢獄行きだという。

 連れて帰った子供達は冒険者ギルドが保護し、回復するまで休むという。

 

「それにしても、アカネ……あれは何だったんだ?

 いきなり光ったと思うと、私達は回復した……」

 ふと、アエルスドロは殺されようとした時に、光って傷を癒した茜が気になっていた。

「分かりません……。

 けれど、みんなが傷ついた時、あの時を思い出して……身体が熱くなって……」

 茜は異世界に転生して、クレリックの力を得た。

 そして、皆が山賊に痛めつけられるのを見て、茜の癒しの力が覚醒し、結果、全快したという。

(私は、一体何者なんだろう……)

 茜は終わりのセラフの実験体である。

 ラッパ吹きにはなれなかったものの影響は大きく、通常よりも癒しの力が高まったらしい。

 だが、そんな事は、ただの百夜孤児院の子供である茜はまだ、知らなかった。

 

「一体、君は何者なんだ……」

 そう呟くアエルスドロは、まだ茜の正体を知らなかった。

 しかし、ここで茜が明かすのもタイミングが悪い。

 茜はしばらくの間、自身の正体を伏せながら、冒険者として活動を続けるのだった。

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