百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達は山賊のアジトに忍び込み、山賊を退治しようとする。
しかし、腐敗教団の四神官の一人・蠱惑のエクレアの加勢もあって茜達は苦戦する。
そんな中、茜は突如として癒しの力を発揮し、仲間達の傷を癒す。
茜達は山賊を倒し、人質を解放して依頼を達成するのだった。


第13話 砂漠とキンジトウ

 ――ここで、地下都市サングィネムで惨劇が起こった後に遡る。

 

「お前が、第七位始祖フェリド・バートリーか」

 黄色いフードを被った人物が、地下都市サングィネムでのあの惨劇の現場に現れる。

 体格は分からなかったが、声色からすると男性だろう。

 

「こんなところに人間が自分から来るなんてね」

 フェリドは声がした方に振り返る。

 優一郎に銃で撃たれたものの、鬼呪装備の攻撃ではないため復活したようだ。

「よく私が人間だと分かったな」

「だって、君の魂はしっかり人間だったからね」

 フードの男は、血まみれの現場を見やる。

 血まみれの子供達の身体とちぎれたミカエラの腕、切られた子供達の首が落ちていた。

 子供達を確認すると、やはり息はなく、死んでいるのが分かる。

 男は溜息をつくと、フェリドにこう言った。

「何故殺した? 罪はなかったはずだろう?」

「そうかな?」

 男はフェリドが吸血鬼だと知った上で質問した。

 罪のない子供を殺すのは、普通の人間はまずできないからだ。

「百夜孤児院の子供達は、

 吸血鬼(ぼくたち)の間では禁忌とされる終わりのセラフの実験を受けていたようだからね。

 だから、僕が殺したのさ」

 フェリドは相変わらず余裕の笑みを浮かべながら言う。

 吸血鬼にとって終わりのセラフは禁忌であり、

 それを防ぐためにフェリドは実験体の子供達を殺したという。

「だが、二人も逃がしたじゃないか。一人は百夜優一郎、そしてもう一人は……」

「あの子も殺したのに、君は何を言ってるんだい?」

「いや、何でもない。それで、お前はこれからどうするんだ」

「どうすると言っても……この子達は……。君に教えるわけにはいかないな」

「そうか」

 フェリドが一瞬だけ笑みを消したのを、男は見逃さなかった。

 

「……では、私はここを後にする。だが、お前にはこう言っておく」

 フードの男は地下都市を立ち去る間際、フェリドに向けて鋭い声でこう言った。

 

「いずれ、その子供から命を狙われるぞ」

 

 場面は茜達が住むアルカディアに戻る。

 山賊との戦いが終わったのも束の間、茜達は腐敗教団の四神官の一人・エクレアと遭遇。

 エクレア達に痛めつけられる茜達だったが、突如、茜が覚醒して皆の傷を癒す。

 終わりのセラフの実験体だったためにクレリックの力が強まったのだが、

 それは茜達四人は知らなかった。

 何はともあれ、冒険は成功したので、茜達は無事にドゥーラに戻ってきた。

 

「蠱惑のエクレア……また、厄介な敵に出会いましたね」

 フェーン王国で猛毒のセイス、ハリネース王国で剛力のゴードンと、

 茜達は国に行く度に腐敗教団の四神官と遭遇した。

 これからも腐敗教団に狙われるらしいが、ここまでしつこいとは思わなかったようだ。

「あの人達って、人間ですよね?」

「分からん。だが、人間にしては動きが良い。訓練を受けたのは間違いないな」

 四神官の正体が何であれ、茜達は彼らと戦い、倒さなければならない。

 今は、それだけを目的に冒険していた。

「でも、エクレアがさっきのアカネを転生者と呼んでいたようだが」

「……」

 異世界から転生した者だと、既にエクレアにはバレてしまっていた。

 一体転生者とは何の事を指すのか、アエルスドロは頭を捻っていた。

「確かにアカネって、ここら辺では聞いた事がない名前だけど、

 それだけで転生者って言うのはどうかと思うよ」

「相手を調べもせずに決めつけるのは良くないしな」

 四神官は茜達とは見ず知らずのはずなのに、茜を転生者と呼んだ。

 ますます四神官に対する疑惑が深まる。

 なんにせよ、世界を腐らせようとするならば、茜達が止めなければならない。

 

「私を狙う四神官が何者かは分かりません。でも、絶対に、私達が止めます……!」

 茜は胸に手を置いて、そう言った。

 

「さて、そろそろエクレアを追いかけないとな」

「でも、一体どこに逃げたんでしょうか?」

 逃げたエクレアを追わなければならない茜達だが、彼女の行方は全く分からなかった。

 なので、このまま追いかけても、

 エクレアが見つからないどころかこちら側が不利になってしまう。

 まずは、情報を集める必要があった。

「この町で腐敗教団を知ってる人はいるんでしょうか……」

「分からないが、聞いてみるしかあるまい」

 

 茜達は日差しを避けながら、町の人達に腐敗教団の情報を聞き出した。

「腐敗教団? ここ最近、町の様子がおかしいのはそのせいじゃないのかなぁ?」

「ふはいきょうだんって、わるいひとなの?」

「最近は山賊とかが出て物騒だよねぇ。腐敗教団ってのも手を組んでるかもね」

 得られた情報は、普遍的なものばかりで、エクレアに繋がる情報はほとんどなかった。

 茜達が落胆しながらもお礼を言って去ろうとすると一人の女性が何かを呟いているのを聞いた。

「そういえば、デザードラド王国のスフィンクスが、急にテレパシーでこう伝えて来たのよ。

 我の謎は解けないか、って」

 スフィンクスとは、主に砂漠地帯に棲み、古代の知識を守っている番人である。

 謎かけを好み、遺跡に入ろうとするものに謎かけをする事が多いが、

 滅多な事では呼びかけないはずだ。

 そのスフィンクスが自分からテレパシーを使うのは明らかにあり得ない行為だった。

「ありがとうございます。それで、スフィンクスはどこにいるんですか?」

「ここから南にある遺跡だよ」

「ありがとうございました。では、早速……」

「ちょっと待て」

 そう言って、茜が遺跡に行こうとすると、デリサルが呼び止める。

「冒険の前に、準備は怠らない方がいいぞ」

「はーい」

 茜達は一旦、道具屋に行って、必要なものを買いに行くのだった。

 

「これで準備万端ですね」

 茜達は町人の悩みを解決するべく、デザードラド王国の店で冒険の準備をした。

 アエルスドロとデリサルのために矢を買い、全員にヒールポーションを買った。

 水と食糧も、念のためにいくつか買っていた。

 

「スフィンクスはどんな謎を出すのか、楽しみだね」

 魔導師であるレイは、知識欲が旺盛だ。

 スフィンクスは謎かけを仕掛けるため、レイにとってはこれほど楽しみな冒険はない。

 わくわくするレイだが、アエルスドロは顎に手を当てていた。

「スフィンクスがテレパシーを仕掛けるのは、普通だとあり得ないはずだぞ」

「それを調査するために今、準備してるんです。行ってみなければ分かりませんから」

「何にしろ、行ってみないと分からないな」

 スフィンクスはきっと何か悩んでいるだろう。

 そう思った茜達は、店を出て、スフィンクスが住むピラミッドに向かうのだった。

 

 町から出て数時間後、茜達は魔物の襲撃に遭ったが持ち前の実力を使って楽に退けられた。

 茜は鞭を振り、レイは遠距離から魔法で攻撃し、アエルスドロとレイが前に出て攻撃した。

「ふっ、このくらいの敵、私達の敵ではない」

 剣を回転させながらアエルスドロが言う。

「とはいっても、みんなで協力したからなんだよ」

「そうそう、一人だけじゃパーティーって言うのは成り立たないからね」

 どんなに高い能力を持っていても、一人だけで冒険をする事はできない。

 複数人で協力してこそ困難を乗り越えられるのだ。

「ピラミッドは遠い、休む事も必要だぞ」

「でも、魔物に襲われたら大変ですよ。

 ええと、その時になったら、私が魔物避けの結界を張りますね。

 じゃあ、今はピラミッドを目指しましょう」

「そうだな」

 

 茜達が町を旅立ち、さらに時間が経過して太陽が落ちようとしていた。

 夜は魔物に狙われやすいので、今日は砂漠の中でも比較的涼しい場所で野営をする事にした。

 アエルスドロはテントを取り出して張り、茜は魔物が来ないように結界を張る呪文を唱える。

 

「さて、キャンプと言えば飯だよな」

 薪に火をつけたのはデリサルだ。

 火打ち石と打ち金を使い、息を吹きかけて火をつけるというやり方が主流である。

 外は暗くなってしまったので、明かりがあって頼もしい。

「私、カレーを作った事ならありますよ。人参とジャガイモと、ルーはありますか?」

「以前に君はカレーを作りたいと言ったな。それなら、ちゃんと用意してあるよ」

 そう言って、アエルスドロはカレーの材料と調理器具を鞄の中から取り出した。

「わぁ、ありがとうございます! それじゃ、早速カレーを作りますね」

 茜はアエルスドロからもらった調理器具と材料を使い、カレーを作った。

 アエルスドロ達はカレーができるのを待っていた。

 鍋の中から良い匂いが漂い、アエルスドロ達の鼻をツンと刺す。

 

 30分後、カレーが完成し、茜は皿に人数分のカレーを置いた。

 良く煮えた茶色いルーに真っ白なご飯、ゴロゴロと転がる野菜が皿に載っている。

「いただきます」

 アエルスドロが手を合わせて挨拶をし、カレーを一口食べると、顔が少し赤面した。

「……美味い! 人間が作ったとは思えないぞ」

「生きてた頃は、こんな風に子供達にカレーを作った事があるんです。

 みんな、美味しそうに食べてましたよ」

「いや、今も生きてるだろ」

「……そうですね」

 茜は生前の思い出を残したまま異世界に転生した。

 カレーを作っている時は、生前の記憶を思い出していたという。

「みんなに喜んでもらえると、私は嬉しいです。やっぱり、ここに来てよかったなって思います」

「楽しそうだねえ、アカネ! あんたもやればできるじゃないか!」

 レイが絶賛しているという事は、このカレーは本当に美味しかったのだろう。

 茜は今回の出来事をきっかけに、冒険での自信をつけるのだった。

 

 レイが火を消して道具を片づけた後、茜達は今日、砂漠の中で休む事にした。

 水がない場所で野宿をするのは危険だったが、購入した水のおかげで何とか体調は保った。

 見張りを担当するアエルスドロは目を光らせ、その間に、茜達はぐっすり眠りについた。

 

(優ちゃん、ミカ、私が生きてるって知ったら、どんな顔をするんだろう。楽しみ……)

 

 翌日。

 野営道具を片づけた茜達は、ピラミッドへの旅を続けていた。

「あれを見ろ!」

 魔物を避けながら四人はピラミッドを探しているとデリサルが鋭く尖ったものを発見する。

 恐らく、これはピラミッドの頂上だろう。

 茜達が大急ぎで走り出すと、そこは予想通りピラミッドの入り口だった。

 入り口は何故か開いており、人の足跡もあって誰かが侵入したと思われる。

「もしかして、このピラミッドに誰かが……?」

 辺りを見渡してみるが、人影は全く見当たらない。

 恐らく、既にピラミッドを出ていったのだろう。

 ともあれ、侵入者の人間に見つかる事はないため、茜達は警戒しながらもピラミッドに入った。

 

「ここに、スフィンクスがいるんですね」

 茜達は両側に高い壁がある、短い上がり階段がある部屋に入る。

 部屋の中にはそれ以外は何もなさそうだ。

 茜達が階段を上っていくと、青い炎が燃える光で照らされた、砂が敷かれた闘技場に辿り着く。

「ひっ!」

 扉は茜達の背後で閉じ、鉄棒が滑り込む。

 茜達の前には、長く無造作な鬣を、金の装飾で飾った荘厳なスフィンクスが立っていた。

 割れんばかりの歓声と野次の波が茜達の周囲で沸き起こる。

「君達は……」

「ようこそ、墓荒らし達よ。……いや、既に墓荒らしは来た後であるが」

 10匹程度のマンティコアが、周囲の円形劇場型の座席に座っていた。

 アエルスドロが驚いて固まっていると、スフィンクスは唸りを上げる。

「墓荒らしが来た?」

「そやつは自身を悪魔と名乗り、我と謎かけをした。

 すると、そやつは本のページを一枚ちぎり、一体の悪魔を呼び出した。

 その悪魔は無数の顔を持っていた。その悪魔と共に我の謎を解き、宝物を手に入れた」

 スフィンクスは大きくあくびをした後、退屈そうに前足を交差させた。

「それからというものの、墓荒らしは来なかった。我はここで長く見張っており、退屈になった。

 汝らは我の謎かけに答え、我をこの責務から解放してくれる者であるか?」

「あたいの知識を試そうってのかい? よし、答えようじゃないか」

 スフィンクスを解放するためには、謎かけに正解する必要がある。

 やる気満々なレイはスフィンクスの挑戦を受けた。

「よかろう。では、これより一つ目の謎を出す」

 スフィンクスが足を踏み鳴らすと、

 部屋を照らす青い炎が明るくなり、部屋の壁全体に無数のレリーフが現れた。

 それらのレリーフには、神々や神話の舞台、怪物など、神秘的なものが描かれている。

 茜は、あまりの壮大さに言葉を出せず、アエルスドロもレリーフを見て口を開けている。

 

「第一の謎。我は定命の者を超えた魔導であり、

 古に忘却されし神話や物語を明らかにする神聖な知識である。我の名はいかに?」

 スフィンクスが茜達に謎かけをする。

 レイは顎に手を当てて、それがどのような魔導かを考えようとした。

「な、なんだい、これって……?」

「レイさん、分からないんですか?」

「そんな魔法、聞いた事ないよ」

 なんと、レイでもこの魔法は分からなかった。

「じゃ、じゃあ……私が考えます」

 茜が謎を解こうとするが、彼女にも分からず、結局、この謎かけは諦める事にした。

 

「……というわけで、二つ目の謎をお願いします」

「仕方あるまい。第二の謎。我が翼は空を横切り。太陽の戦車を牽く。

 我は太陽のしもべであり英雄の友である。我は無数の伝説の中を飛び回る。我の名はいかに?」

「今度こそ、答えて見せる!」

 レイは頭脳を振り絞り、スフィンクスの謎を解こうと考える。

 数分後、この謎は恐らく本物の翼を持つ魔物を説明しているようだ。

「翼が生えた魔物って、いるんでしょうか?」

「グリフォンとかロックとか、鳥が思い浮かぶんだがねぇ」

「うぅぅぅぅ、分かりません……」

 翼が生えた魔物はたくさんいるにはいるが、茜にはさっぱり思い浮かばなかった。

「……伝説に飛び回る鳥なんているのかよ。

 まあいい、太陽のしもべで英雄の友と言ったら……鷲、か?」

 デリサルはあてずっぽうで謎の答えを言った。

 正直、当てにならなかったが、誰も分からなかったので、そう答えるしかなかった。

 

「答えは……鷲だ!」

「ああ、それはかなり的外れだ」

 デリサルがスフィンクスに答えを言うと、スフィンクスは残念そうな顔でそう言った。

「まったく、高尚なゴミくずめが! 血をよこせ!」

「うおっ!?」

 すると、マンティコアがデリサルに襲い掛かった。

 いきなり攻撃されて驚いたが、デリサルは何とか攻撃をかわした。

「あーあ、だらしないねぇ。間違えたら攻撃を受けるんだよ」

「くっそぉ……」

「第三の謎。銀の女狩人とは我であり、我は欺瞞を象ったものを貫き、音もなく殺す光である。

 我の名はいかに?」

「う~ん……」

 レイはスフィンクスの謎を解こうと考えていた。

 この謎が説明している現象は、殺す力を持つ魔法のように聞こえる。

 また、銀の女狩人は、恐らく月と狩猟の女神アルテミスを指すだろう。

「月に関係する攻撃魔法といえば……ああ、分かるさ。それはムーンビームだろう?

 アルテミスらしい攻撃魔法だからね」

「……然り!」

 レイはやっと、スフィンクスの謎かけに勝った。

 スフィンクスはあくびをした後、前足を振って扉の鍵を解除する。

 

「ところで、どうしてスフィンクスは、私達をテレパシーで呼んだんですか?」

「あまりにも暇だったからだ……」

「……そう、でしたか。では、私達はこれで……」

「待て」

 スフィンクスから事情を聴いた後、茜達がその場を立ち去ろうとすると、

 スフィンクスが茜達を止めた。

「ここから町まで遠い。我がテレポートで送ろう。そして、汝らはしばしの休息を取るがよい」

「ありがとうございます」

 茜達が目を閉じると、四人の姿はピラミッドから消えた。

 残っているのは、10体のマンティコアと、退屈を紛らわせたスフィンクスだけだった。

 

(しかし、あの墓荒らしは何かを憂う瞳をしていた。墓荒らしを不本意で行っているような。

 我には、あやつの心は読めなかった。悪魔故、邪悪だと思っていたが……)

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