百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

地下都市サングィネムで、謎の男がフェリドと対峙する。
フェリドが百夜孤児院の子供達を殺した理由を男に語ると、男はフェリドに警告を残し去った。
一方、茜達は腐敗教団の四神官の一人エクレアと遭遇して退けた後、
町の人々から情報を得てピラミッドに向かった。
茜達はピラミッドにいるスフィンクスの謎解きに挑戦し、見事突破するのだった。


第14話 冒険者のタビダチ

 茜達が宿で休息を取ってから、一日後。

 

「それじゃあ、あの墓荒らしの正体を探るために、別の国に行くのはどうですか?」

「賛成だね、お金も手に入ると思うしさ」

 ピラミッドに侵入した墓荒らしは、既にデザードラド王国にはいなかった。

 つまり、別の国に行ってしまった可能性が高い。

「フェーン王国、ハリネース王国、デザードラド王国……残る国は……」

「……ガルバ帝国だな。しかし……」

 アエルスドロはマリアンヌが領主をしているガルバ帝国のナガル地方で働いた事がある。

 この国は人間以外の種族を認めない国であり、レイ達が見つかれば捕まってしまう。

 だが、行かなければ追いかける事はできず、どうしようかと四人は考えていた。

 

「……とりあえず、変装でもするしかないね」

 レイが呟いたのは、5分後の事だった。

 

「ちょっと値が張っちまったけどこれで大丈夫だね」

 アエルスドロら亜人は、亜人の特徴を隠すために変装道具を購入して変装した。

 フードにサングラスとありがちなものばかりで、逆に目立ってしまいそうだった。

 しかし、ガルバ帝国に入るには、種族を人間と偽るしかなかった。

「ないよりはマシといったところだな」

「でも、意外にバレないかもしれないぞ。とにかく、やってみるしかない」

「そうですね! では、船に乗りましょう!」

「その前に、準備をしてからな」

 

 ガルバ帝国に行く船に乗る前に、茜達は最後の準備をしていた。

 保存食や水、矢など、冒険に必要なものはしっかり購入する。

 茜は防御力を高める外套、ナイトマントを購入し、

 アエルスドロは言葉が分かるヘッドギアを購入する。

 魔導師のレイは自分の杖をオークスタッフに変え、デリサルはショートボウを魔法で強化した。

「これで遠隔攻撃は強くなったな」

「私も、攻撃を受けても大丈夫になりましたよ」

「このヘッドギアがあれば、誰とでも話せるな」

 皆、冒険に向かう準備は万端だ。

 決して油断せず、かつ焦りもしない姿勢は、理想的な冒険者と言えるだろう。

 

「それにしてもあの墓荒らし、一体何をしたいんでしょうか。

 自分を悪魔だと言って、スフィンクスを困らせるなんて。……悪魔、か」

 スフィンクスの情報によれば、墓荒らしは悪魔を自称していたらしい。

 茜はそれを思い出し、優一郎は母親に悪魔の子と罵られていた事を思い出す。

「何を言っている、悪魔は退ければいいだろう?」

「……それが、退けなくてもいいかもしれません」

「何を言っているんだ! やめろ!」

 墓荒らしと戦う事を拒んだ茜を、アエルスドロは慌てて止めようとする。

「そうじゃないんです。私達はまだ墓荒らしに会った事がないんですよ。

 そんな人をいきなり悪者だと決めつけるなんて……」

「あんたは甘いねぇ。良い顔をして漬け込む奴もいるんだよ」

 茜の意見をレイはバッサリと切り捨てる。

 確かにそのせいでフェリドの罠にかかってしまい、茜達は殺されてしまったからだ。

「じゃあ、どうすればいいんですか」

「実際に会って、確かめるしかないよ。

 悪い奴だったら倒せばいいし、良い奴だったらとりあえず事情くらいは聞こう。

 まあ、そいつが美形だったらいいんだけどね」

「よかった……」

 レイとて薄情な人物ではない。

 茜と同じく、実際に墓荒らしに会って、事情を聞こうとしている事に安心した。

 

「それじゃあ、改めて船に乗りましょう」

「砂漠とはお別れだな。そして、ガルバ帝国にまた行く時が来たか……」

「また……?」

「私の冒険は、ここから始まったからな」

 アエルスドロの表情は、どこか懐かしそうだった。

 これから茜達が行くガルバ帝国は、どういう場所なのか、茜は考えていた。

 亜人が虐げられる国らしいが、変装しているのでばれる事はなさそうだ。

 

 そして、四人はガルバ帝国行きの船に乗った。

 デザードラド王国の船は小さく、四人がギリギリで乗るくらいだった。

 レイとデリサルは船酔いしないように寝ており、アエルスドロは真っ直ぐに前を見ていた。

 

「……」

 茜はというと、緊張して上手く話せなかった。

「どうしたんだ? 随分、緊張しているようだが」

「だって、皆さんがちょっと心配で……。いえ、ここに墓荒らしがいると思うと……」

 ガルバ帝国という国は、人間以外の種族を嫌うが、アエルスドロにとっては思い出深い国だ。

 スフィンクスを困らせた墓荒らしも、ガルバ帝国に逃げているかもしれない。

 茜はその三つの事実から、緊張しているのだ。

「ガルバ帝国って、どんな……」

 茜がアエルスドロに話を聞こうとした瞬間、ドン、という大きな音が鳴り、船が止まった。

 その衝撃で、船がガクンと揺れ、寝ていたレイとデリサルは起き上がる。

「なんだい、いきなり起こすなんて……」

「気持ちよく寝ていたところだったんだが」

「どうやら、船が事故に遭ってしまったらしい。見ろ、あの岩にぶつかってしまった」

「あ~……」

 茜が船の先を確認すると、大きな岩があり、船はそれにぶつかって故障してしまったようだ。

 このままでは船が目的地まで動きそうにないので、急いで茜達は船から下りた。

 

「よかった、陸はあるみたいですね」

 幸い、船の傍に人がいそうな島があったため、茜達はその島にこっそり足を踏み入れた。

 島は霧に包まれており、朝10時なのに夜のように薄暗かった。

 また、そこに住む人達は、白い肌と赤い瞳をしていて、まるで……。

 

吸血鬼!!

 茜がいた世界の吸血鬼そっくりな容姿をしていた。

 また、血を奪いに襲ってくるのではないかと、茜は驚いて怯える。

「まあ待て、彼らが吸血鬼だからといって、襲い掛かるとは限らないだろう」

「でも、あれは明らかに……」

 茜とアエルスドロは、島の人に聞こえないように小声でひそひそと話している。

 いくら見た目が似ているとはいえ、勝手に決めつけるのは失礼だからだ。

 

「ところで、ここには一体誰が住んでるんですか?」

「……あら、この島に人間が来るなんて久しぶりね」

 すると真珠色の肌を持つ、金髪をセミロングにした赤い瞳の女性が茜の前に姿を現した。

 耳はアエルスドロやレイのように長く尖っており、口には小さな牙が生えていた。

「ここはメイガス島、吸血鬼が暮らしている島よ」

「やっぱり、そうなんですね」

 ここの住民は吸血鬼だと知り、茜は落胆する。

「あら、そんなに落ち込んでどうしたの? ここの吸血鬼は別に人間は襲わないわよ」

「え、どうして……」

「この島の仕組みから教えてあげるわ。私の家に来なさい」

「あ、はい……」

 女性は親切な態度を取っていたが、吸血鬼なので漬け込む可能性もある。

 茜は警戒しながら、仲間と共に女性の家に入った。

 

「私は第九位始祖、アビゲイル・エヴァーグレード。

 といっても、今はここで暮らしてるんだけどね」

 島の女性はアビゲイル・エヴァーグレードという吸血鬼の貴族らしい。

 食事は出してくれなかったが、吸血鬼なので仕方がない。

「失礼ですが、吸血鬼は血しか飲まないんですよね。この島の吸血鬼は大丈夫なんですか?」

「平気よ。だってこの島には、パイモンの特別な魔法がかかっているから」

「パイモンって何ですか?」

「あの子と私が取引して、契約した悪魔よ。おいでなさい、パイモン」

 アビゲイルがそう言うと、彼女の隣に煙が現れ、

 ヒトコブラクダに乗った女性と見紛う美少年が姿を現した。

「これが、パイモンというのか」

「おかげで島の吸血鬼達に定期的に血が供給されて、人間を襲わなくてもいいようになったの」

「なるほど、だから私を襲わなかったんですね」

 刺激しなければ敵対しないため茜達は一安心した。

 

「ところで、あなた達はどうしてここに来たの?」

「実は、ガルバ帝国に行く船が壊れてしまって、ここに着いてしまったんです」

 茜がアビゲイルに事情を話すと、アビゲイルは納得したように頷いた。

「それなら、私達が何とかするわ。

 吸血鬼は力が強くて、あと、手先も器用だから、船はすぐに直ると思うわ。

 ……流れる水は、好きじゃないけどね」

「ありがとうございます」

 吸血鬼に助けてもらうなんて、茜としては屈辱だと思った。

 しかし、お礼を言わなければアビゲイルが二度と協力してくれないと思い、お礼を言った。

「あ、ところで、パイモンを渡してくれた『あの子』って、一体誰なんですか?」

「無口な子供だったわ」

「ありがとうございます」

 

 そして、茜達はしばらく、この島で休息を取った。

 住民の吸血鬼は友好的ではなかったものの、

 敵対的というわけではなく、それなりに平和な島だった。

 吸血鬼とは思えない温厚さに最初は戸惑ったが、

 徐々に慣れてきて、茜は吸血鬼に対する考えを改めようとしていた。

 

(私は、吸血鬼を悪としか思っていなかった。けれど、家族を殺したのはフェリドだ。

 吸血鬼は憎むべき存在ではないかもしれない。フェリドこそが本当の敵かもしれない……)

 

 三日後、茜達は船がある場所に戻ってきた。

 吸血鬼達はその身体能力を生かして船を持ち上げ、アビゲイルが壊れた船の部分を直す。

 人間の七倍以上の身体能力を持つ吸血鬼に、茜以外の三人が驚いた。

「こ、これがアカネの世界の吸血鬼か……」

「身体能力が高いらしいけど、ここまでとはね」

「だから強いのか!」

 

 こうして船の修理が終わり、吸血鬼達はその場を立ち去っていった。

 船に乗ろうとする四人を見たアビゲイルは、歩いて茜に呼びかけた。

「お待ちください」

「え?」

「あなた達は遠い国に赴くのよね。そこは恐らく、危険だと思うわ。

 だから、私は何かを授けようと思っているの」

 アビゲイルは懐から四つのアイテムを取り出した。

 それぞれ、銀の鎖の青い宝石のような護符、金製の装身具、

 見事な細工をした指輪、特徴のない灰色のマントだった。

「茶色の髪の乙女には、健康のアミュレット。銀色の髪の剣士には、魔力耐性のブローチ。

 緑色の髪の魔導師には、精神遮断の指輪。赤色の髪の悪魔には、エルフのマント」

「おお、ありがとうございます」

「これさえあれば、隠密行動がはかどりますね」

「クレリックにはこれがぴったりですね」

 茜達は喜んでアビゲイルの贈り物を受け取った。

 健康のアミュレットは病気から身を守り、魔力耐性のブローチは魔法攻撃を防ぎ、

 精神遮断の指輪は相手の考えを読めなくし、エルフのマントは保護色のように姿を隠せる。

 吸血鬼でありながら人間を助けようとする姿勢に、茜は多少ながらも感動を受けていた。

「しかし、何故エルフを知っているのですか」

「それは、ここで話すべきではないわ。あなた達には目的があるのでしょう?

 私はその目的を果たすために導いただけよ」

 茜達は船で色々な国に行き、四神官を追いかけ、倒していくのが目的だ。

 確かにメイガス島にずっと留まるのは良いが、それでは目的を果たす事ができない。

 アビゲイルはそれを、しっかり理解していた。

 

「人間には辛い旅だろうが止めるわけにはいかない。

 さらば、旅人よ。私達はいつまでも見守り続ける」

 アビゲイルは別れを惜しみつつも、船に乗った茜達を見送っていった。

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