茜たちは墓荒らしの正体を探すために、人間以外の種族を認めないガルバ帝国に向かう。
しかし、その途中で船が故障し、吸血鬼が住むメイガス島に立ち寄った。
島の吸血鬼達は人間を襲わず、逆に船の修理を手伝ってくれた。
第九位始祖アビゲイルは茜達の旅の危険を憂い、各々に役立つアイテムを授ける。
その後、茜達は再び船に乗り、ガルバ帝国へと向かうのだった。
こうして、茜達が乗った船は、無事にガルバ帝国に辿り着いた。
ここは交易都市ベルファストであり、陸上交易と海上交易の中継地に位置する。
店もいくつかあり、冒険の準備はできそうだ。
「ここがガルバ帝国ですか」
「皆、変装道具はまだ外すなよ。この国は亜人に敵対的だからな」
ガルバ帝国は亜人を極端に嫌っている。
もし見つかれば、国を追い出されるか、最悪兵士達に処刑されてしまう。
バレないように、三人は変装したまま町を歩いた。
「それにしても、何が懐かしいんですか?」
「行ってみてのお楽しみだ。私についてこい」
茜達は軽い足音のアエルスドロについていった。
茂みの中を、アエルスドロは音を立てずに歩く。
レイとデリサルも、音を立てずにアエルスドロの後ろを追いかけた。
茜は金属鎧を身に着けていたので音を立てたが、人間なので誰にも見つかる事なく進んだ。
こうして数分歩いた先にあったのは、たくさんの亜人が隠れ住む地方だった。
ガルバ帝国の兵士達から逃れた亜人が、面白おかしく、そして楽しく暮らしているのが分かる。
「わ、耳が尖ってる人がいっぱい……!」
茜がナガル地方を見渡して驚く。
メイガス島には吸血鬼がたくさんいたが、この地方にはそれ以上に亜人がいるからだ。
「ここがナガル地方、ガルバ帝国の亜人の隠れ里。そして地下から逃げた私が辿り着いた場所だ」
「えぇっ!?」
「おーい、マリアンヌー!」
アエルスドロが女性の名前を大声で呼ぶ。
「はぁーい!」
すると、女性の甲高い声が帰ってきて、ハイヒールの足音が聞こえてきた。
白いコートを着たプラチナブロンドの髪の女性だ。
「この人が、ナガル地方の領主、マリアンヌ・フロイデンシュタインだ」
「久しぶりですわね、アエルスドロ」
「ここに来るのは4年ぶりだな」
4年の歳月で成長したマリアンヌは、
顔つきこそ大人っぽくなっているが、目つきはマリアンヌらしい鋭さだった。
「みんな、ここがマリアンヌが領主のナガル地方だ。
ガルバ帝国は人間しか認めないが、亜人をここに匿っているんだ。私もかつて匿われた……」
「ちょっと、一人で説明するのはおやめなさい。ここはわたくしの領土ですのよ。
アエルスドロがいない間に、わたくし、ここを発展させましたのよ。
鉱山の開発、漁場の開拓……全てナガル地方の領民のためですわ」
マリアンヌはそう言って、髪をかき上げる。
「あら、そこにいる方達は誰ですの?」
「あ、え~っと……私は百夜茜っていいます」
「茜! 確か、天狗の中にそのような名前がおりましたわよ。あなた、倭国の民ですわね」
「え、あ、はい……」
マリアンヌに倭国の民だと思われたらしい。
そういえば、アエルスドロも茜を倭国の民だと思っていた事を思い出す。
とりあえず、茜はマリアンヌに頷き、倭国の民として振る舞う事にした。
「それで、あなた達は一体何の用ですの?」
「実は私達、腐敗教団を追っているんです。
彼らは邪悪な力を使って、世界を腐らせようとしているそうです」
「腐敗教団なんて聞いた事がありませんわね。でも、それが悪い奴らなのは明らかですわ」
マリアンヌはアエルスドロ達と共に、邪神を信仰するダークエルフと戦った事がある。
恐らく腐敗教団も同じようなものだろう、とマリアンヌは推測した。
「わたくしも同行したいところですけど、
ナガル地方を守る使命がありますので、同行する事はできませんわ」
「そんな……」
「せいぜいあなた達だけでやれって事ですのよ」
くすくすと、マリアンヌは口に手を当てて笑った。
丸くなったとはいえ彼女は悪役令嬢、そう簡単に協力するわけがなかった。
というより、腐敗教団を知らないだけでもあるが。
「あいつ、あんたの仲間なんだろ? なんであんな態度を取るんだ?」
「……マリアンヌにも譲れないプライドがある。それを傷つけるのは、良くない事だ」
「ああ、そうかい、分かったよ」
「何をこそこそ話してるんですの?」
「「何でもない」」
小声で話すアエルスドロとレイを、マリアンヌは鋭い目で睨みつけた。
「それで、あなた達は何のために腐敗教団を追いかけてるんですの?」
「端的に言えば、世界を救うためですね」
「ふふふ……懐かしいですわね」
茜はマリアンヌに簡単に事情を話す。
異世界から転生した事は言わないが、自分達は世界を救おうとしている意志を伝える。
すると、マリアンヌは再び口に手を当てて笑った。
「ここに来て、私は何をすればいいのか分かりませんでしたが、
アエルスドロさんのおかげで冒険者になりました」
「今は世界を救う英雄を目指しているところだな」
もちろん、最初はそれが目的ではない。
最初から高望みしていては、いずれ限界に来てしまう事は確実だからだ。
世界を救う前にまずは身の回りの事からやるのが、賢く、そして正しい道なのだ。
マリアンヌもナガル地方に左遷されてからは、発展を優先し、世界を救うのは後からだった。
やはり、正しい道を選んでいるな、と笑った。
「マリアンヌさん、腐敗教団について何か知ってる事はありますか?」
「腐敗教団については知りませんけど、石像庭園の噂は聞いた事がありますわ」
「……石像庭園とは?」
「その名の通りヒトや動物の石像がある庭園ですわ。
その石像はとても精巧な造りをしておりますの」
「ああ、それってゴルゴーンが作ったらしいな」
アエルスドロがその噂と関係ある魔物を思い出す。
ゴルゴーンとは、トロイヤの神話に登場する、姿や目を見ると石になるという怪物だ。
これほど精巧な石像を作れるのは、恐らくゴルゴーンぐらいだろう。
コカトリスならすぐに食べてしまうし、カトブレパスも別の能力があるからだ。
「あなた達はこれからどうしますの?」
「その石像庭園に行こうと思ってるんだ。マリアンヌ、場所は知ってるか?」
「地図なら用意してますわよ」
そう言って、マリアンヌは石像庭園のありかが描かれてある地図を開く。
ナガル地方から東に、石像庭園は存在するようだ。
「なるほど、分かった。ありがとう、マリアンヌ。それじゃあ、石像庭園に行ってくる」
「わたくしはここをまた発展させますわ。人間どもに見つからないようにしなさいね!」
「……マリアンヌさんは、人間ですよね?」
「名残惜しいが、私達には私達の道がある。マリアンヌ、冒険の情報をありがとう。
それじゃあ……さらばだ」
「いってらっしゃ~い!」
マリアンヌに見送られながら、アエルスドロ達は石像庭園に向かっていった。
逃げていった腐敗教団の神官を追いかけるために。