百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜たちは墓荒らしの正体を探すために、人間以外の種族を認めないガルバ帝国に向かう。
しかし、その途中で船が故障し、吸血鬼が住むメイガス島に立ち寄った。
島の吸血鬼達は人間を襲わず、逆に船の修理を手伝ってくれた。
第九位始祖アビゲイルは茜達の旅の危険を憂い、各々に役立つアイテムを授ける。
その後、茜達は再び船に乗り、ガルバ帝国へと向かうのだった。


第15話 仲間とのサイカイ

 こうして、茜達が乗った船は、無事にガルバ帝国に辿り着いた。

 ここは交易都市ベルファストであり、陸上交易と海上交易の中継地に位置する。

 店もいくつかあり、冒険の準備はできそうだ。

 

「ここがガルバ帝国ですか」

「皆、変装道具はまだ外すなよ。この国は亜人に敵対的だからな」

 ガルバ帝国は亜人を極端に嫌っている。

 もし見つかれば、国を追い出されるか、最悪兵士達に処刑されてしまう。

 バレないように、三人は変装したまま町を歩いた。

「それにしても、何が懐かしいんですか?」

「行ってみてのお楽しみだ。私についてこい」

 茜達は軽い足音のアエルスドロについていった。

 

 茂みの中を、アエルスドロは音を立てずに歩く。

 レイとデリサルも、音を立てずにアエルスドロの後ろを追いかけた。

 茜は金属鎧を身に着けていたので音を立てたが、人間なので誰にも見つかる事なく進んだ。

 

 こうして数分歩いた先にあったのは、たくさんの亜人が隠れ住む地方だった。

 ガルバ帝国の兵士達から逃れた亜人が、面白おかしく、そして楽しく暮らしているのが分かる。

「わ、耳が尖ってる人がいっぱい……!」

 茜がナガル地方を見渡して驚く。

 メイガス島には吸血鬼がたくさんいたが、この地方にはそれ以上に亜人がいるからだ。

「ここがナガル地方、ガルバ帝国の亜人の隠れ里。そして地下から逃げた私が辿り着いた場所だ」

「えぇっ!?」

「おーい、マリアンヌー!」

 アエルスドロが女性の名前を大声で呼ぶ。

 

「はぁーい!」

 すると、女性の甲高い声が帰ってきて、ハイヒールの足音が聞こえてきた。

 白いコートを着たプラチナブロンドの髪の女性だ。

「この人が、ナガル地方の領主、マリアンヌ・フロイデンシュタインだ」

「久しぶりですわね、アエルスドロ」

「ここに来るのは4年ぶりだな」

 4年の歳月で成長したマリアンヌは、

 顔つきこそ大人っぽくなっているが、目つきはマリアンヌらしい鋭さだった。

「みんな、ここがマリアンヌが領主のナガル地方だ。

 ガルバ帝国は人間しか認めないが、亜人をここに匿っているんだ。私もかつて匿われた……」

「ちょっと、一人で説明するのはおやめなさい。ここはわたくしの領土ですのよ。

 アエルスドロがいない間に、わたくし、ここを発展させましたのよ。

 鉱山の開発、漁場の開拓……全てナガル地方の領民のためですわ」

 マリアンヌはそう言って、髪をかき上げる。

「あら、そこにいる方達は誰ですの?」

「あ、え~っと……私は百夜茜っていいます」

「茜! 確か、天狗の中にそのような名前がおりましたわよ。あなた、倭国の民ですわね」

「え、あ、はい……」

 マリアンヌに倭国の民だと思われたらしい。

 そういえば、アエルスドロも茜を倭国の民だと思っていた事を思い出す。

 とりあえず、茜はマリアンヌに頷き、倭国の民として振る舞う事にした。

 

「それで、あなた達は一体何の用ですの?」

「実は私達、腐敗教団を追っているんです。

 彼らは邪悪な力を使って、世界を腐らせようとしているそうです」

「腐敗教団なんて聞いた事がありませんわね。でも、それが悪い奴らなのは明らかですわ」

 マリアンヌはアエルスドロ達と共に、邪神を信仰するダークエルフと戦った事がある。

 恐らく腐敗教団も同じようなものだろう、とマリアンヌは推測した。

「わたくしも同行したいところですけど、

 ナガル地方を守る使命がありますので、同行する事はできませんわ」

「そんな……」

「せいぜいあなた達だけでやれって事ですのよ」

 くすくすと、マリアンヌは口に手を当てて笑った。

 丸くなったとはいえ彼女は悪役令嬢、そう簡単に協力するわけがなかった。

 というより、腐敗教団を知らないだけでもあるが。

 

「あいつ、あんたの仲間なんだろ? なんであんな態度を取るんだ?」

「……マリアンヌにも譲れないプライドがある。それを傷つけるのは、良くない事だ」

「ああ、そうかい、分かったよ」

「何をこそこそ話してるんですの?」

「「何でもない」」

 小声で話すアエルスドロとレイを、マリアンヌは鋭い目で睨みつけた。

 

「それで、あなた達は何のために腐敗教団を追いかけてるんですの?」

「端的に言えば、世界を救うためですね」

「ふふふ……懐かしいですわね」

 茜はマリアンヌに簡単に事情を話す。

 異世界から転生した事は言わないが、自分達は世界を救おうとしている意志を伝える。

 すると、マリアンヌは再び口に手を当てて笑った。

「ここに来て、私は何をすればいいのか分かりませんでしたが、

 アエルスドロさんのおかげで冒険者になりました」

「今は世界を救う英雄を目指しているところだな」

 もちろん、最初はそれが目的ではない。

 最初から高望みしていては、いずれ限界に来てしまう事は確実だからだ。

 世界を救う前にまずは身の回りの事からやるのが、賢く、そして正しい道なのだ。

 マリアンヌもナガル地方に左遷されてからは、発展を優先し、世界を救うのは後からだった。

 やはり、正しい道を選んでいるな、と笑った。

 

「マリアンヌさん、腐敗教団について何か知ってる事はありますか?」

「腐敗教団については知りませんけど、石像庭園の噂は聞いた事がありますわ」

「……石像庭園とは?」

「その名の通りヒトや動物の石像がある庭園ですわ。

 その石像はとても精巧な造りをしておりますの」

「ああ、それってゴルゴーンが作ったらしいな」

 アエルスドロがその噂と関係ある魔物を思い出す。

 ゴルゴーンとは、トロイヤの神話に登場する、姿や目を見ると石になるという怪物だ。

 これほど精巧な石像を作れるのは、恐らくゴルゴーンぐらいだろう。

 コカトリスならすぐに食べてしまうし、カトブレパスも別の能力があるからだ。

「あなた達はこれからどうしますの?」

「その石像庭園に行こうと思ってるんだ。マリアンヌ、場所は知ってるか?」

「地図なら用意してますわよ」

 そう言って、マリアンヌは石像庭園のありかが描かれてある地図を開く。

 ナガル地方から東に、石像庭園は存在するようだ。

「なるほど、分かった。ありがとう、マリアンヌ。それじゃあ、石像庭園に行ってくる」

「わたくしはここをまた発展させますわ。人間どもに見つからないようにしなさいね!」

「……マリアンヌさんは、人間ですよね?」

「名残惜しいが、私達には私達の道がある。マリアンヌ、冒険の情報をありがとう。

 それじゃあ……さらばだ」

「いってらっしゃ~い!」

 マリアンヌに見送られながら、アエルスドロ達は石像庭園に向かっていった。

 逃げていった腐敗教団の神官を追いかけるために。

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