百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

トラブルもあったが茜達はガルバ帝国に到着し、亜人が隠れ住む地方、ナガル地方を訪れる。
地方の領主であるマリアンヌと出会い、彼女から石像庭園の地図を受け取る。
マリアンヌの助けを借りて、茜達は腐敗教団の神官を追い詰めるために石像庭園に向かった。


第16話 微笑むアクマ

「この先に石像庭園が……?」

 地図の道を通った茜達の目の前には、節くれ立った木々と棘だらけの茂みが広がっている。

 目の前の数mのところには、大きな薔薇の茂みから石のベンチの足が突き出している。

 石像庭園という名前の通り、何十年もの間、手入れされていない庭のように見える。

 生い茂った庭の先にある丘の上には、老朽化した邸宅が建っている。

 

「君達がここに来るなんて、命知らずだね」

 茜が辺りを見渡していると、一人の少年がやってくる。

 少年はセイス達と同じローブを着ていたが、彼らと違って皺一つなかった。

 爪も、きちんと切られていてすっきりしている。

「あなたは、腐敗教団の一員ですか?」

「そう。僕は四神官の一人、静寂のスカーレット」

 少年は淡々と、スカーレットと名乗る。

 スカーレットに敵意はなさそうだったが、それでも腐敗教団の一員なので警戒する。

「君達はここに何をしに来たんだ?」

「ある方から調査して来いと言われたので、調査しに来たのです」

 茜は率直にスカーレットに用件を伝える。

 いきなり攻撃するのは悪いため、まずは対話をして彼の様子を伺う。

「調査か、まさか僕と同じだとはね」

「同じって……それって墓荒らしと同じで」

「待て、アカネ。相手を怒らせるな」

 激昂しようとする茜を、アエルスドロは止める。

「その石像庭園にゴルゴーンがいるか、私達は調べたいんだ。墓荒らしではない。

 魔物が襲ってきても、防衛以外では戦わない」

「……それは本当だね?」

 スカーレットの目は闇のように深かったが、アエルスドロは決して怯まずに見続けた。

 彼に本当に敵意がないるどうかを確かめるために。

 

 しばらくお互いの顔を見続けた後、スカーレットは呆れたような表情をする。

「君達が墓荒らしじゃないなら、僕は何もしない。

 けれど、腐敗教団に逆らうのはやめた方がいいよ」

「……」

 スカーレットは転移魔法で茜達の前から姿を消す。

 茜は、スカーレットがどこか憂いを秘めたような態度を取っている気がした。

 敵意はなかったが、彼はやはり腐敗教団の一員だ。

「彼が何者かは分かりませんが、私達の敵である事には間違いありません。

 でも、今はそんな事より、石像庭園を調査しましょう」

「それが目的だからな」

 茜達は早速、目的地の屋敷に向かおうとした。

「待て」

 だが庭園に入って早々、一匹のカトブレパスが生い茂った生け垣の迷路を徘徊していた。

 頭上の木々は非常に茂っており自然光が届かない。

 茜達は音を立てず、カトブレパスが去っていくのをじっと待った。

 

「ゴルゴーンだけじゃなくて、カトブレパスもいたんですね……」

「流石、伊達に石像庭園と言われてないね。あんたらもこれと同じ運命にならない方がいいよ」

「……」

 レイが言った通り、屋敷にはたくさんの人や動物の石像が転がっていた。

 皆、恐怖に歪んだような表情をしており、石化能力の犠牲になったのだろう。

 茜はごくりと唾を呑み込んだ。

 

「……怖がる必要はない。私達がついているからな」

 そう言って、アエルスドロは茜を抱きしめる。

 不安になっては冒険が成功しない事は、アエルスドロには分かっているからだ。

「あいつが何を言ってようが、調査を途中でやめるなんておかしいぜ。

 心配ないさ、気にするなよ!」

「デリサルさん、心配してくれるんですね。ありがとうございます」

 元気を取り戻した茜にデリサルは笑みを浮かべた。

 

 四人は魔物の視線を掻い潜りながら、庭園を進む。

 大抵、石化能力は視線や姿を見たものに被害を与えるからだ。

 

「見ろ、バジリスクだ」

 デリサルが小声でバジリスクを指差す。

 この魔物も見たものを石にする能力を持っており、茜達は視線を合わせないように見守る。

 バジリスクは藻類で覆われている直径6mの池の近くに潜んでいる。

「あの池に映ったら、バジリスクも石になるんでしょうか」

「分からないが、試してみるといい」

 茜は小声で呪文を唱え、池の藻を取り払うように地面を無害な振動で震わせた。

 池の近くにいたバジリスクは、自分の姿が映っているのを見に行く。

 バジリスクはそれが反射だと気がつく前に、音を立てて石になってしまった。

 

「よかった、石になった……」

 茜がそっと確認すると、横たわるバジリスクの石像があった。

「もしかしたら、こいつは何かを持ってるかもしれないな」

 そう言ってデリサルが確認すると、幸運にも腹だけが石化していなかった。

 ナイフで腹を切り裂くと、中に宝石が入っていた。

「お宝ゲット~」

 デリサルは宝石を鞄の中にくすねると、前に出て慎重に進んでいった。

 

 茜達は音を立てずに、ゴルゴーンを捜して歩く。

 先程茜が藻類を散らした池の脇に、三匹のヒキガエルが飛び跳ねている。

 茜達がヒキガエルを無視して歩くと、一匹の蝙蝠がこっそりと後を付けようとする。

「だ、誰ですか!?」

 茜が気配を感じて振り返ると、蝙蝠はすぐにどこかに飛んでいった。

「い、一体何だったんですか?」

「分からんが、目的とは関係ないだろう。急ぐぞ」

 

 探索から50分後、茜達はようやく屋敷に到着した。

 鬱蒼と茂った庭は茜にとって少々不快であり、表情は少しだけやつれていた。

 目的地である屋敷の壁は、崩れかけている。

 大きな中庭は幅30m、長さ16mの長方形で、

 苔むした石畳の小道が中庭から屋敷の正門まで真っ直ぐに続いている。

 小道の両側には直径10mの反射池が二つあり、一方は藻類で完全に覆われている。

 屋敷の扉はとっくに蝶番が外れてしまっているが、扉のアーチは残っている。

「この鍵は誰が外したんだ? あいつみたいな不届き者じゃないだろうな?」

 デリサルが扉を開けた犯人を捜していると、アーチの影に髪が蛇になっている女性を見た。

 視線は逸らしていたため、デリサルは石にはならなかったが、

 気づかれた女性は慌てて陰に潜んだ。

「ここにはもう美しさはなく、痛みだけしか残っていない。愚かな結末を迎える前に引き返せ」

「いやいや、引き返すわけにはいかない。ここにはお宝があるかもしれないからな」

 突っぱねたような態度を取る女性だったが、

 敵意がない事が分かったため、茜達は平和的に女性に近づいた。

 とはいえ、ゴルゴーンなので、四人はなるべく視線を合わせないようにする。

「私をゴルゴーンだと知った上で話しているんだな」

「はい、あなたはこの屋敷の主ですか?」

「そうだが、何故かこうなってしまったんだ。私には、こうなった理由が分からない。

 まるで巨大な六本指の男と、金色の輝きを持つ美女に引き裂かれているようだった」

「意味が分かりませんが……とにかく、あなたは元からゴルゴーンではなかったんですね?」

 茜の言葉に女性は後ろを向きながら頷いた。

 どうやらこの女性は、何者かの呪いでゴルゴーンになってしまったらしい。

 その呪いを解けば、元に戻ると思った茜は、彼女の呪いを解くために屋敷の探索を選んだ。

「分かりました、あなたの呪いを解きます」

「ああ、ありがとう……」

 そう言う女性の顔は、僅かに微笑んでいた。

 

 茜達は屋敷をくまなく探索する。

 女性がゴルゴーンになった原因は分からなかったが呪いを解くものがなければ話にならない。

 巨大な六本指の男、金色の輝きを持つ美女、この特徴を彼女は求めていた。

 特徴に合致するアイテムはどこにあるのか……四人がくまなく探していると、

 茜は地面に一枚の輝く金貨を見つけた。

「なんでしょう、これは?」

 その金貨には鋳造年は刻まれておらず、片面に女神イーファの顔が描かれている。

 茜がその金貨を拾うと、風に乗って女性の声が聞こえた。

「あ、あなたは……!」

「私は豊穣神イーファ。あなたに我が祝福を授けましょう。

 この護符が石の呪いからあなたを守り、彼女の呪いから誰かを救う事ができますように。

 女神から命じます。腐敗を司る者がこの屋敷の女性を狙う事を、決して許してはなりません」

「ま、まさか……!」

 茜が呪いの真実を知った時、声は既に消えていた。

 腐敗を司る者とは、恐らく腐敗教団の事だろう。

 そしてあの女性は、腐敗教団に呪われてしまった、というのが石像庭園の呪いの真相なのだ。

 

「やっぱり犯人はあの子でしたか!」

 ようやく事件の犯人を知り、茜は僅かだがスカーレットへの怒りを抱く。

 たとえ訳ありであっても、悪事は許さないからだ。

「とにかく、これを使えばあの人の呪いは解けるかもしれません。皆さん、行きましょう!」

「ああ!」

 

 茜は目を閉じて視線を逸らしながら、ゴルゴーンの身体に金貨を押し付ける。

 すると、金貨は眩く光り輝き、思わず茜以外の三人も目を閉じる。

 やがて光と共に金貨が消えると、ゴルゴーンは長身の女性に変身した。

「ああ、ああ、ありがとう、冒険者よ」

 女性は衝撃で涙を流し、感謝の気持ちを述べた。

 彼女はスカーレットの呪いでゴルゴーンになっていたらしく、完全に混乱していた。

「あなたの呪いはやはり腐敗教団のせいでしたね」

「うむ……あの男子(おのこ)の暗い目は、大人の私も飲み込んでしまいそうだった。

 巨大な六本指の男を本から呼び出したと思うと、私の姿を変えてしまった。

 そして私は……ここに来た者達を石に変え、石像庭園の噂を作り出してしまったのだ」

「そういう事だったんですね。たとえ、彼が訳アリだろうが、許しませんよ」

「おお、毅然としているな。そう、理由は悪事の免罪符にはならないのだ。

 出来る事なら、あの男子(おのこ)を止めてほしい」

「できるならします」

 茜はスカーレットの悪事を止める事を女性に伝えると、彼女は大きく、深く頷いた。

「本当に感謝する。冒険者が悪から世界を守る事を、私は強く信じている。

 だから、これを授けよう」

 そう言い、女性は50000ゼニーを茜達に渡した。

「こんなにもらっちゃっていいんですか!?」

 大金に驚く茜だが、女性はそんな事は気にしていないようだった。

 腐敗教団から救ってくれた彼女なりの感謝だろう。

「ま、いいじゃないか、お金がもらえたんだし。さ、早く帰って準備でもしようぜ」

「絶対に腐敗教団は止めます。待っていてください」

「信じているぞ……冒険者よ……」

 

 そして、茜達は石像庭園を後にした。

 女性からもらったお金を分配し、茜達はガルバ帝国に戻っていく。

 もちろん、戻る前には変装道具を使い、人間に変装しながら歩いて行った。

 

「腐敗教団は、私達が止めます。たとえ、相手にどんな事情があろうとも」

 今回の出来事をきっかけに、茜の決意は、より一層固くなるのだった。

「後、ついでにあいつにも復讐したいですね」

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