茜達は依頼のため、地図に記された石像庭園に向かった。
四人は腐敗教団の一員であるスカーレットと出会った後、庭園の調査を開始する。
庭園で石化する魔物達と遭遇し、その中でも特に危険なゴルゴーンと対峙する。
ゴルゴーンは腐敗教団に呪われた女性で、茜達は彼女の呪いを解くために奮闘する。
そして四人は呪いを解き、女性を救ったのだった。
茜達は石像庭園の調査を終え、無事に交易都市ベルファストに帰ってきた。
たくさんのお金をもらい、人も救う事ができて、茜は晴れ晴れとした気持ちになった。
「人を助けるのってこんなに気持ちいいんですね」
ゴブリンを退治して喜んでくれた時、森に棲んでいた人狼を止めた時、
腐敗教団の悪事を阻止した時、仲間にカレーを作った時。
数々の思い出が、冒険をして茜の中に残った。
自分だけでなく、他のみんなを喜ばせた事が、茜にとって良い思い出だった。
「ここが私の故郷でいいですよね」
吸血鬼が支配する故郷より、誰もが温かく暮らすこの世界を故郷にしたい。
茜は異世界に転生してから、そう思っていた。
「君がそう思うならそれでいいと思う」
「でも、冒険は危険だぞ。そんな冒険に、これからもついていけるか?」
「もちろんです! そのために私、冒険者になったんですから!」
最初はレイに馬鹿にされるほど冒険者としての腕は未熟だった。
しかし、様々な冒険をするにつれて、腕前が徐々に上がっていった。
癒しの力にも目覚め、今では立派なサポート役になった。
超一流の冒険者になるのも、早いだろう。
「元気になったな、アカネ! これからも俺達と一緒に冒険しよう!」
「私も、この剣で君を守りたい」
「あたいだって、実はお宝が欲しいんだ。お金が全然増えないからねぇ、誰かさんのせいで」
「何の話かなぁ?」
レイはデリサルが金に困っているためか、お金を持っていながらも財政は足りないようだ。
その事は指輪のおかげで、デリサルにはバレなかったようだ。
「まあそんな事はどうでもいいさ、今日は疲れたから休もうかね」
「とは言っても、この国に亜人を泊めてくれる宿は……あったな」
茜達は変装しながらナガル地方に戻り、マリアンヌの休息を受ける事にした。
四人は、彼女が案内した小屋の中にいる。
「お疲れ様ですわ。その表情だと、相当に冒険してきたようですわね」
「スフィンクスと出会ったがな」
ピラミッドにいたスフィンクスは、謎かけ以外では特に戦意を持たなかった。
難しい問題だったが、皆が協力して何とか正解し、スフィンクスを解放する事に成功した。
犯人は悪魔を自称する少年らしいが、彼に敵意はなかったので警戒だけした。
「という事は、なぞなぞ遊びに挑戦しましたのね。一度、行きたかったですわ」
「あそこは遠かったがな」
「まあ、遠いところなら仕方ないですわね」
スフィンクスがいるピラミッドまでの道は遠く、野営をして、一日かけて到着した。
いかにもな貴族のマリアンヌは、絶対に野宿を望まないためこれ以上何も言わなかった。
「ああ、それでだな、冒険はというと……」
アエルスドロは空気を読んで、マリアンヌに冒険の内容を詳しく報告した。
「そういう事がありましたのね。
あなた達もアエルスドロと一緒に冒険して、とっても楽しかったですわよね」
「はい、とっても。みんな、優しかったです。ダークエルフも悪魔も、親切でした」
アエルスドロとデリサルは、闇の種族でありながら茜に優しく接してくれた。
子供達を家畜として扱っていた吸血鬼とは、天と地の差と言える。
「このままずっとここにいた方が幸せです。もう、元の世界になんて……帰りたくありません」
茜は元の世界に帰るつもりはない。
世界は滅び、百夜孤児院の院長はおらず、子供達もフェリドに殺されてしまった。
一方、アルカディアにはたくさんの冒険があり、茜にとって安らげる場所だった。
さらに、茜に協力してくれる三人も、茜を見下しながらも優しく接してくれた。
まさにアルカディアは茜にとって天国だ。
「よっぽどここを気に入っていらっしゃいますのね。
それなら、ここにずっと住んではどうですの?」
「いえ、住みたいのは山々ですが、私達は腐敗教団を追いかけているので……」
「去る者追わず、お好きにどうぞ」
そう言ってマリアンヌは髪をかき上げる。
アエルスドロが去る時も、彼の意志を尊重して彼が出ていくのを認めた。
茜達の旅を認めるのも、当然である。
「(なんか嫌味ですけど……)ありがとうございます」
茜はマリアンヌにお礼を言った。
異世界から来た自分を認めてくれたのはこれが初めてではなかったが、
いかにも悪役令嬢なマリアンヌが優しく接するのは意外だった。
「よかったな。じゃあ、四神官を捜すぞ」
「お待ちなさい、行く当てはありますの?」
「あ、言われてみれば……今、奴らは何をしてるのか分かりませんね」
「だったら、ここで休むのはどうですの? 休んだら、きっと上手くいくと思いますわ」
いつまでもうじうじ悩んでいては、腐敗教団の四神官を捕まえる事はできない。
なので、一旦休んで気分をリフレッシュするのが今後の冒険に役立つとマリアンヌは言った。
「……はい、ではここで休みます」
優しいマリアンヌが嘘を言うはずがないので、茜はマリアンヌに素直に従い、
今日はナガル地方で休む事にした。
「夕食はファルナが用意しますから、あなた達はここで待っていなさい」
マリアンヌはそう言って、夕食係のファルナを呼び出しに行った。
しばらくすると、恰幅の良い中年女性が人数分の食事を持ってやってきた。
この女性がファルナという人物だろう。
「あいよ、ガルバ帝国料理だ!」
今日の夕食は、ポテトフライと、香草チキンと、エールだった。
未成年の茜には、マスカットジュースを用意した。
「美味しそうですね!」
「ファルナが作った料理は絶品でしてよ。残さず食べるのが礼儀ですわ」
「もちろんです!」
地下都市サングィネムでは食べ物は貴重なため、そのありがたみを茜は知っている。
茜は一つ一つ、丁寧に味わいながら食べていた。
その様子を見ていたファルナが、腰に手を当てながら言った。
「あの子、よく食べるねぇ。そんなにあたしの料理が美味しいのかい?」
「ファルナさんの料理、とっても美味しいですから。絶対に残さず、味わってから食べます」
そう言って食事を味わうファルナは、やや複雑ながらも喜んでいた。
「やれやれ、あんなに喜ばれるとはねぇ。でも、誰かが喜ぶ顔を見るのは好きだよ」
「……」
茜はファルナの顔を見て、百夜孤児院の院長を思い出す。
あの、世界破滅の日に血を吐いて倒れた、優しくて子供想のあの院長を。
「……生きていて、よかった」
「何言ってるんだい。あたしはピンピンしてるよ。
あんたがしょ気てたら、あたしもしょ気るからね」
「そうですね……ファルナさん」
ナガル地方での休息は貴重だ。
だからこそ、休息を大事にとって、次の冒険に備えなければならない。
「これを食べたら、ゆっくり休みますね」
「そうだな、身体を休めるのは大切だ」
こうして茜達はナガル地方で休む事になった。
小屋のベッドの中で、茜はまだ眠れずにいた。
マリアンヌは優雅に、レイとデリサルは豪快に寝てアエルスドロは瞑想を取っていた。
他の者達も、ぐっすりと小屋の中で眠っている。
(また、眠れなくなっちゃった。でも、休まなきゃ次が怖いし……。
以前はアエルスドロさんに寝かせてもらったけど、今度はちゃんと、一人で寝なくちゃ。
私だって、もう子供じゃない。みんなと同じ、立派な冒険者なんだ。
さあ、明日はどんな冒険が待ってるんだろう)
茜は明日に備えて、ベッドの中で目を閉じた。