百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達は石像庭園の調査を終えて交易都市ベルファストに帰還した。
彼らは様々な冒険を経験し、その中で人々を助け、喜びを感じた。
茜はアルカディアを自分の故郷と認識し始める。
彼らは腐敗教団を追い詰めるために、ナガル地方で休息を取る事にした。
料理上手なファルナのおかげで美味しい食事を楽しみ、明日への冒険に備えて休息を取った。


第18話 茜のヒミツ

 翌日、茜達は目を覚まし、ファルナが作った朝食を食べていた。

 今日のメニューは、白パンとヴィシソワーズ、ボイルソーセージとコールスローサラダだ。

 

「こ、これがヴィシソワーズですか……」

 茜はヴィシソワーズに興味津々だ。

 ポテトを使った冷製スープで、一部では芋汁やジャガイモスープと呼ばれていたりもする。

「ちょっと、気になるな……いただきます」

 茜が一口ヴィシソワーズを飲むと少し表情が綻ぶ。

「スープなのに、冷たい?」

「当たり前さ、ヴィシソワーズだからね。暑い時に飲むとすっきりするよ。

 ついでに、ソーセージとサラダもね」

「はい、味わって食べます」

 茜はファルナが作ったヴィシソワーズを一口ずつ飲み、白パンを一口かじる。

「……味わって食べるのはいいんだけど、ゆっくりしすぎないでよ」

「はぁい」

 

 朝食を食べ終わった後、住民は食器を片づける。

「一体、腐敗教団の四神官はどこに行ったんでしょうか」

「それの情報を探すために冒険するんじゃないか」

 現在、四神官の行方は掴めていない。

 無闇に探そうとも、もしかしたら見つからないかもしれない。

 なので、事実上、茜達は手詰まりになっていた。

 

 その時――

 

 突然、ガサガサと茂みの中から音が鳴る。

 茜達は急いで警戒し、侵入者の場合は素早く撃退しようと武器を構える。

 安全なナガル地方で、緊張感が走る。

 そして、茂みから鳴る音はさらに大きくなり、やがて最も大きな音と共に、影が姿を現す。

 

「見つけたぞ、百夜孤児院の者よ」

 影は黒い身体と赤い瞳を持つ蜘蛛だった。

 瞳は鋭く、身体も大きかったが、それ以上に蜘蛛が言葉を使っているのが不気味だった。

「ファルナ、下がってろ」

「ああ」

 ファルナは蜘蛛に見つからないよう、こっそりと後ろに下がった。

 茜と蜘蛛は、一触即発の雰囲気になる。

 

「あなた、ここに何の用ですか?」

「我は始祖に仕えし蜘蛛。百夜孤児院の者が生まれ変わっていたとはな……」

「……アカネって、この世界の人じゃないのかい?」

 レイは茜の正体に薄々感づくものの、茜と蜘蛛に手出しも口出しもできずにいた。

「百夜孤児院の者は皆殺しにしたはずだが、魂までは滅んでいなかったとは……」

「私だって、どうしてここに来たのか、全然分かりませんでしたよ」

「だがこうして貴様と相まみえるとは潮時よ。

 本来ならばここで仕留めたいところだが……それでは始祖に無礼だからな」

「……」

 蜘蛛は茜が百夜孤児院出身である事を知っている。

 それだけでもさらに不気味だが、攻撃しないのもさらに不気味だった。

 まるで、四神官の一人・スカーレットのように。

 

「良いか、始祖には逆らうな。破滅が待ち受けるぞ」

 そう言って、蜘蛛は煙のように姿を消した。

 

「……」

 蜘蛛が消えた後、茜達は唖然としていた。

 茜の正体を知っている蜘蛛が、ナガル地方に現れるとは思わなかったようだ。

「あいつ、私が何者かを知っていたようです。ただの蜘蛛なら、あり得ませんよね」

「ああ、何者かに操られている可能性が高い」

「う~ん、蜘蛛と言えば……」

 始祖に仕えているその蜘蛛を、放っておくわけにはいかない。

 その蜘蛛がいる場所を、マリアンヌは推測した。

 

「蒼枯の森ですわね。青い樹木がたくさんあるけど恐ろしい魔物も生息しているとか」

「もしかして、あそこから蜘蛛は出てきたのか?」

「かもしれませんわね。何にしろ、彼女を狙う輩にはお仕置きをしなければなりませんわね」

 マリアンヌのは顔はどこか闇を帯びていた。

 といっても、恐ろしい闇ではなく、誰かを守るための闇である。

「で、誰が行くんだ?」

「当然、アエルスドロ達ですわよ。わたくしはここを守りますので」

 マリアンヌは口に手を当てて、くすくすと笑う。

 こういうところは領主らしいな、とアエルスドロは心の中で思った。

 茜達は荷物を確認した後、ナガル地方を出る準備に入った。

「そもそも、あの蜘蛛は始祖に仕えてますよね。

 だったら、始祖を何とかすればいいんじゃないですか?」

「そうだな、始祖が住み始めた場所では蜘蛛が増えるらしいからな」

「……そもそも始祖って何だい?」

 レイは聞いた事がない言葉に首を傾げる。

 知識が豊富な彼女でも、知らない事はあるようだ。

「それは、行ってから分かります。では皆さん、行きましょう!」

「始祖とやらを一目で見たいしねぇ」

 

 ナガル地方を出た茜達は、マリアンヌが言っていた蒼枯の森に入る。

 暗い空のような森が、茜達の前に現れる。

 至るところに蜘蛛の巣があり、足を止めると引っかかってしまいそうだった。

「ここが蒼枯の森ですか……確かに暗いですね」

 茜は森の中を見渡し、少し混乱する。

 ここに蜘蛛が逃げたらしいが、足跡が見えにくく追跡は難しそうだった。

 アエルスドロは落ち着いて辺りを見渡し、足跡がありそうなところを探索した。

 

「ふむ……もしかして、ここにあるのか?」

 アエルスドロが指差した先に、大きく細い、人間のものではない足跡があった。

 恐らく、蜘蛛の足跡らしいが、それにしては非常に大きかった。

 茜が巨大な蜘蛛を頭の中でイメージすると、その恐ろしさに混乱して頭を抱えた。

「私、あいつに食べられちゃうんですか?」

「いや、大丈夫だ。私達なら追い払えるさ」

「……待て」

 アエルスドロは茜の前に立ち、ゆっくりと、見つからないように歩き出す。

 と、デリサルが何かに気づいて急に立ち止まる。

「どうしたんですか、デリサルさん」

「俺達を狙う奴がいる。上を見ろ」

「え……?」

 茜が上を見た瞬間、木の上から突然、魔物が飛びかかってきた。

「きゃあっ!」

 それは、全長3mほどの巨大な蜘蛛、ジャイアントスパイダーだった。

 毒々しい身体をしており、生えている八本の足は、移動する速度を速めるものだった。

 それだけでも不気味だが、口にある二本の牙は、獲物を捕食するのに向く鋭さだった。

 

「ひっ……!」

 吸血鬼とはまた違った恐ろしさに、茜は思わず縮みそうになるが、

 四人いるなら大丈夫だと身構える。

「わ、私達なら……大丈夫です!」

「その意気だ、私から離れるなよ!」

「おっしゃ、腕が鳴る!」

「一匹だけの蜘蛛は大した敵じゃないね!」

 四人はジャイアントスパイダーを倒すべく構える。

 

「せいっ!」

 アエルスドロは勢いよく片手で持った剣をジャイアントスパイダーに振り下ろす。

 攻撃はかわされ、続けて茜が鞭を振るうも、ジャイアントスパイダーは素早く避けた。

「こいつ、見かけによらずすばしっこいですね!」

「ふんっ、だったらこうするだけだ!」

 そう言ってデリサルは短弓に矢を番え、

 茜とアエルスドロが前に出ているところで素早く矢を射かけ、ダメージを与える。

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 レイは呪文を唱えて氷の矢を放ち、

 アエルスドロに噛みつこうとしたジャイアントスパイダーの足を凍らせる。

「危なかったね。さあ、とどめを刺しな!」

「いくぞ、覚悟しろ!!」

 そう言って、アエルスドロは勢いよく、剣をジャイアントスパイダーに向けて振りかざす。

 叩き切られたジャイアントスパイダーの足はバラバラになり、身体も真っ二つに引き裂かれる。

 こうしてジャイアントスパイダーは倒れた。

 

「……倒れたとはいえ、何だか不気味です。でも、何だか祈りたい気持ちになります」

 茜はジャイアントスパイダーの死骸を見て怖がるが、

 クレリックの本能から聖印を持ち祈りを捧げた。

 しばらく祈りを捧げ、ジャイアントスパイダーを土葬した後、茜達は歩き続ける。

 足跡を追跡した先には、小さな洞窟があり、近くにある蜘蛛の巣は雑に払われている。

 

「……あそこにいるのは、魔物か?」

 デリサルが洞窟を確認すると、梟のような頭を持つ熊の魔物、アウルベアがいた。

 アウルベアは辺りを見渡し、獲物がいないかを確認する。

 ふと、アウルベアは侵入者……すなわち、デリサルを察知して睨みつける。

「おっと、見つかったか?」

 アウルベアはゆっくりと体を上げて身構える。

 凶暴なアウルベアとの戦いは避けられない。

 茜、アエルスドロ、レイ、デリサルは、武器を構えてアウルベアに戦いを挑んだ。

 

 アウルベアはアエルスドロに突っ込み、爪を振ってアエルスドロを攻撃する。

「cadre sacre!」

「お前がそれをかわすのはお見通しだぜ!」

 茜は呪文を唱えてアウルベアに光の柱を放つが、アウルベアは素早く動いて攻撃をかわす。

 だが、デリサルはそれを読み、レイピアでアウルベアの急所を突き刺した。

 アエルスドロはアウルベアに剣を叩きつけ、レイは氷の魔法でアウルベアの腕を凍らせた。

「うぐぅっ!」

 アウルベアの爪と噛みつきでアエルスドロは大ダメージを受ける。

「よくもアエルスドロを、cadre sacre!」

 茜は呪文を唱えて光の柱をアウルベアに放つ。

 正確な狙いで、アウルベアに攻撃が届き、アウルベアを光の柱で包む。

たぁぁぁぁぁぁぁっ!

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 そして、アエルスドロの剣とレイの氷魔法が瀕死のアウルベアに命中し、

 アウルベアは氷の彫像となり砕け散った。

 

「アウルベアは倒しましたけど……一体、始祖はどこにいるんでしょうか」

 敵は倒したものの、蜘蛛を操る始祖は見当たらなかった。

 始祖に惹かれて各種の蜘蛛が集ってきており、倒さない限りは森の野生動物が襲撃するという。

「蜘蛛を操る始祖は、どこに……」

「知らない、手掛かりはなさそうだ……」

「待ってくれ」

 茜とアエルスドロが困っていると、デリサルがまた何かを発見する。

「足跡が見つかった。細くはない。多分、始祖が残した足跡だろうな」

「流石、盗賊ですね」

「ちょろいものよ」

 茜はデリサルの勘の鋭さを褒めつつ、彼が見つけた足跡を辿った。

 茂みはどんどん深くなり、蜘蛛の巣の数も増える。

 始祖の場所に辿り着くのは、もうすぐだ。

「あの蜘蛛、私に何の用があるんでしょうか。私の事を知って、私を呼び出して……」

「まだ分からない。だが、行かなければならない。ここで冒険を諦めるのは、冒険者ではない」

「……そう、ですね」

 ナガル地方に侵入した蜘蛛が何者であれ、必ず蜘蛛は倒さなければならない。

 そう決意しながら歩いて行くと、蜘蛛の巣がびっしりと張り巡らされた場所へ出た。

 その中心にはずんぐりした、茜の身長の数倍ほどはある蜘蛛の姿があり、

 その蜘蛛は二体のジャイアントスパイダーを従えている。

 

「あ、ああ、あ、く、蜘蛛……!」

 ジャイアントスパイダー以上に巨大な蜘蛛を見て、茜は恐れ戦き、武器を落としそうになる。

 レイとデリサルも、何も言わないが恐怖していた。

「貴様……アカネに何の用だ」

 同じ闇の者だけあって、アエルスドロは鋭い目で巨大な蜘蛛を睨みつける。

 すると、巨大な蜘蛛はゆっくりと口を開いた。

「俺は第十九位始祖メル・ステファノ。人間どもに討たれたが、この蜘蛛に宿った。

 まさか、百夜孤児院の生き残りがいたとはな」

「何の用だと言っている」

「決まっている、その娘をもう一度殺すためよ」

 やはりメルの狙いは、茜の命だった。

 百夜孤児院の者達は、フェリドにとっては生かしておけない人物だったのだ。

「……吸血鬼。私の事を知ってるならば……」

「まさか、アカネって百夜孤児院の……」

「おいおい、吸血鬼ってアンデッドだろ? なんで生まれ変われるんだ?」

 蜘蛛が自分と同じ転生者だと知るや否や、茜は即座に身構えるが、レイは珍しく困惑する。

 さらに、デリサルもレイの後ろで震えていた。

 アンデッドが異世界転生するはずがないのだから。

「話す前に、仕留めるぞ!」

「そうはさせません! cadre sacre!」

 茜は呪文を唱えて光の柱を放つが、メルが転生した蜘蛛はひらりとかわす。

「ド・ゲイト・ド・シー!」

 レイは呪文を唱え、三つの水を作り出して蜘蛛達目掛けて発射する。

 回転する水は蜘蛛達に全て命中し、吹き飛ばす。

 最も巨大な蜘蛛は黒く鋭い目でレイを睨みつけ、細くて力強い蜘蛛の糸を放った。

「なっ!?」

 蜘蛛の糸はレイの身体を捕らえると、ぐるぐると縛り付けてしまった。

「まずは一匹。ゆけ!」

「うぐっ……!」

 メルはジャイアントスパイダーに命じると、アエルスドロに毒を持つ牙で噛みつく。

 毒はアエルスドロの身体に入り込むと、体力を内部から削っていった。

「私は……負けない! ファストブレード!」

「ピアシングエッジ!」

 アエルスドロは素早く剣を振ってジャイアントスパイダーを叩き切り、

 デリサルはレイピアによる鋭い一撃でジャイアントスパイダーを倒した。

 

「くそ……俺だけになったか……。ただで済むと思うなよ!」

「たとえ転生していても、吸血鬼にはこれで! cadre sacre!」

「ぐぎゃぁぁぁぁっ!」

 太陽光を思わせる光がメルに大ダメージを与える。

 茜の世界の吸血鬼は紫外線を防ぐ装置のおかげで地上でも活動できるが、

 蜘蛛の身体なので効果を発揮しないのだ。

「くそ、離せっ!」

「蜘蛛の糸は頑丈だぞ? 貴様如きに破れはしまい。……そして、貴様も俺の餌となれ!」

「きゃぁぁぁぁぁっ!」

 メルが蜘蛛の糸を放つと、茜は雁字搦めにされ、身動きが取れなくなってしまった。

「茜!」

「とっとと餌になれ!」

「そうはいかない!」

 アエルスドロは一度剣を振るが、メルには当たらなかった。

 「どこを見ている」とメルは笑うが、二回目の攻撃が見事にクリーンヒットする。

「ぐぅっ、おのれぇ!」

 メルが怯んだ隙に、デリサルの矢が突き刺さる。

 茜は何とか蜘蛛の糸を引きちぎろうとするが、蜘蛛の糸は想像以上に頑丈でなかなか外れない。

「はぁ、はぁっ……」

 レイは何とか蜘蛛の糸を引きちぎって脱出し、ゆっくりと距離を取って呪文を唱える。

 一方、メルは動けない茜を殺そうと、じりじりと忍び寄ってくる。

 その恐怖から、アエルスドロとデリサルは武器を振れないでいた。

「さよならだ……地獄に落ちるがいい」

 そう言ってメルが茜に噛みつこうとすると、突然、メルの身体を無数の風の刃が切り刻んだ。

 その風の刃を放ったのは、レイだ。

 

「茜は……殺しやしないよ!」

「くそぉっ、何故死なない!」

 レイは瀕死になりながらも何とか呪文を使い、茜の命が奪われるのを阻止したのだ。

 メルは怒り狂い、レイを仕留めようとするが、レイは棍を使ってメルの攻撃をあしらう。

これでとどめだぁぁぁっ!

ぐあああああああああ!!

 二人が取っ組み合いをしている間にアエルスドロはメルに突っ込み彼を真っ二つに切り裂いた。

 そしてメルの魂が消滅しそうになった時、メルは恨みのこもった声で茜に言った。

 

「貴様も……俺と同じ……転生者だ……。俺は人間に……貴様は俺の同族に殺された……。

 共に……地獄に……落ちるがいい!!」

 その後、メルの魂は完全に消滅し、森から蜘蛛の気配は消えていった。

 

「「「アカネが、異世界から転生した……!?」」」

 蜘蛛に転生したメルとの戦いが終わった時、アエルスドロ達は愕然としていた。

 茜の正体を、知ってしまったのだから。

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