茜達はファルナが作った朝食を食べながら、腐敗教団の四神官の行方を探そうとする。
だが、不気味な蜘蛛の出現が彼らを襲う。
茜の正体を知る蜘蛛との対峙は、ナガル地方の安寧を脅かす事に。
茜達は危険な蒼枯の森へと向かい、巨大な蜘蛛との激闘を繰り広げる。
蜘蛛の正体は第十九位始祖、メル・ステファノが転生した姿であり、茜の正体を伝えるのだった。
蜘蛛に転生したメルを倒したはいいものの、
彼の口から茜の正体がバレ、アエルスドロ達は混乱していた。
蒼枯の森からナガル地方に帰ろうとした時、
茜は誰にもバレないように(無意味だが)、小声でアエルスドロ達に事情を話した。
「そうか……アカネは異世界から来たのか……」
「はい……ずっと黙っていて、申し訳ありません」
茜は皆に迷惑をかけないように、自身が異世界から転生した事は話さないでいた。
だが、仲間に正体がバレてしまい、これからどうすればいいか茜も迷っていた。
「確かに、君は異世界から転生したんだな。道理で変な名前だと思ったよ」
「……そうですね」
アエルスドロがそう言うと、茜は乾いた笑みを浮かべた。
「だが、どこから来たとしてもアカネはアカネだ」
「そうそう、冒険してる時点であんたじゃないか」
「異世界から来たとしても、俺達は仲間だぜ?」
「みんな……!」
やはり、アエルスドロ達は茜に優しかった。
たとえ茜がフェリドに殺されてこの世界に転生したとしても、
決して排除する事なく仲間として受け入れてくれたのだ。
「私は……」
そして、茜は胸に手を当てて目を閉じる。
茜の中で、生前の記憶がアルバムのように次々に蘇っていく。
家族として認めてくれなかった優一郎を、家族として認めた事。
百夜孤児院の院長が血を吐いて倒れ、吸血鬼に地下都市に連行された事。
色んな材料を使って、同じ境遇の子供達に美味しいカレーを作ってあげた事。
――そして、地下都市を脱出しようとして、フェリド・バートリーに殺された事。
「……フェリドに、復讐する」
自分は新たな身体を授かってこの世に蘇った。
クレリックの力も相まって、神はもう一度、茜にチャンスをくれたのだろう。
彼女は、自身を殺したフェリドに復讐する、という明確な目的を手に入れたのだ。
「そうか、君はそのフェリドという人を倒して敵を討ちたいんだな」
「はい。みんなを苦しめたフェリドを、私は絶対に許しません」
茜はぐっと拳を握り、歯を食いしばる。
よほど、脱出を阻まれた事を悔しがっていると、アエルスドロは茜の気持ちを察した。
「でも、元の世界に帰る手段はあるのかい? あるとしても、復讐する前にゆっくり考えな」
「で、でも、フェリドはみんなを苦しめたんですよ。逃げようとしたみんなを殺したんですよ。
そんな奴を放っておくなんてできません」
「そうじゃない。何も考えないで突っ込んで、もう一度殺されたらどうするんだい?」
「……そ、それは……」
「だからゆっくり考えろって言うんだよ」
レイの言葉も一理あった。
彼女は魔導師らしく知識が豊富で、レイの助言のおかげで助かった冒険もある。
フェリドに復讐した後、何が残るかは分からない。
なので、フェリドに復讐するのは無意味だろうと、レイは言っているらしい。
「分かりました。……少し、一人にさせてください」
そう言って、茜は一人、仲間達のもとを立ち去っていった。
一人になった茜は、物思いに耽る。
(そもそも、どうして私がこの世界に転生したのか、私にはまだ分かっていない。
けれど、何故か生前の記憶は残っている。
私を殺したのがフェリドなら、私を生まれ変わらせたのは一体誰?
そもそも……復讐して解決する事なの?)
これは茜個人が抱える問題で、誰かに相談したとしても解決できるはずがない。
そう思った茜は、こうして一人で物思いに耽っているのだ。
「ん……?」
その時、茂みの中に光るものを見つけた。
茜がそれを拾うと、それは虹色に輝く手鏡だった。
どんな鏡かは分からなかったが、何故だか茜は、それに惹かれていった。
鏡の中では何かが渦巻いている。
触れるとどうなってしまうのかは、茜には分からなかった。
だが、それでも茜は、その鏡に触れたくなりそうになった。
まるで、自分を呼んでいるかのようだった。
「……っ!」
そして、茜がその鏡に触れた瞬間、鏡は光り輝き、眩い光が辺りを包んだ。
茜はあまりの眩しさに、目を覆ってしまう。
すると、茜の身体が、小さな手鏡の中に吸い込まれようとしていた。
あんな小さな手鏡でも、人間一人を吸い込むほど力は大きかった。
「私に……何を、するのですか……!」
茜は抵抗しようとするが、鏡の力は強く、そのまま茜は、鏡の中に吸い込まれてしまった。
「……ここは……」
気が付くと、茜は見知らぬ場所に倒れていた。
辺りや建物はボロボロになっており、そこは町というよりは廃墟だった。
しかし、茜には見覚えのある場所だった。
「元の世界!? 私、帰ってきたの!?」
そう、茜はあの鏡を通して、元の世界に帰還したのだ。
茜は困惑しながらも立ち上がり、自分の武器と防具を確認し、聖印も確認する。
「本当に、私は戻って来たんだ……。なんでここに来たのかは、分からない……。
けれど、大丈夫……みんなはいないけど、私、絶対に復讐してみせる……」
元の世界に帰って来たからには、やる事は一つ――この手で、フェリドを討ち取る事だけだ。
「……く、蜘蛛……!?」
しかし突然、茜の目の前に、翼が生えた白い蜘蛛のような魔物が現れた。
茜は地上に出る前に殺されてしまったため、その魔物を全く知らなかった。
だがこちらに敵対的であるため、ここで死ぬわけにはいかない。
「来ないで! cadre sacre!」
茜は呪文を唱えて光の柱を放ち、蜘蛛のような魔物の動きを止める。
その隙に、茜は急いで蜘蛛のような魔物から逃げ、
フェリドがいると思われる場所に向かっていった。
かつて茜は京都の地下都市サングィネムに、百夜孤児院の家族と共に収容されていた。
そこから脱出しようとしたが、吸血鬼に全てを奪われてしまった。
しかし異世界に転生した茜は第二の人生を歩み、そしてこの世界に戻ってきた。
大切な家族と自分を殺したフェリド・バートリーに復讐を果たすため、
彼女は鞭を持ちながら、彼を追っていった。