百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達はファルナが作った朝食を食べながら、腐敗教団の四神官の行方を探そうとする。
だが、不気味な蜘蛛の出現が彼らを襲う。
茜の正体を知る蜘蛛との対峙は、ナガル地方の安寧を脅かす事に。
茜達は危険な蒼枯の森へと向かい、巨大な蜘蛛との激闘を繰り広げる。
蜘蛛の正体は第十九位始祖、メル・ステファノが転生した姿であり、茜の正体を伝えるのだった。


第19話 故郷へのキカン

 蜘蛛に転生したメルを倒したはいいものの、

 彼の口から茜の正体がバレ、アエルスドロ達は混乱していた。

 蒼枯の森からナガル地方に帰ろうとした時、

 茜は誰にもバレないように(無意味だが)、小声でアエルスドロ達に事情を話した。

 

「そうか……アカネは異世界から来たのか……」

「はい……ずっと黙っていて、申し訳ありません」

 茜は皆に迷惑をかけないように、自身が異世界から転生した事は話さないでいた。

 だが、仲間に正体がバレてしまい、これからどうすればいいか茜も迷っていた。

「確かに、君は異世界から転生したんだな。道理で変な名前だと思ったよ」

「……そうですね」

 アエルスドロがそう言うと、茜は乾いた笑みを浮かべた。

「だが、どこから来たとしてもアカネはアカネだ」

「そうそう、冒険してる時点であんたじゃないか」

「異世界から来たとしても、俺達は仲間だぜ?」

「みんな……!」

 やはり、アエルスドロ達は茜に優しかった。

 たとえ茜がフェリドに殺されてこの世界に転生したとしても、

 決して排除する事なく仲間として受け入れてくれたのだ。

 

「私は……」

 そして、茜は胸に手を当てて目を閉じる。

 茜の中で、生前の記憶がアルバムのように次々に蘇っていく。

 家族として認めてくれなかった優一郎を、家族として認めた事。

 百夜孤児院の院長が血を吐いて倒れ、吸血鬼に地下都市に連行された事。

 色んな材料を使って、同じ境遇の子供達に美味しいカレーを作ってあげた事。

 

 ――そして、地下都市を脱出しようとして、フェリド・バートリーに殺された事。

 

「……フェリドに、復讐する」

 自分は新たな身体を授かってこの世に蘇った。

 クレリックの力も相まって、神はもう一度、茜にチャンスをくれたのだろう。

 彼女は、自身を殺したフェリドに復讐する、という明確な目的を手に入れたのだ。

「そうか、君はそのフェリドという人を倒して敵を討ちたいんだな」

「はい。みんなを苦しめたフェリドを、私は絶対に許しません」

 茜はぐっと拳を握り、歯を食いしばる。

 よほど、脱出を阻まれた事を悔しがっていると、アエルスドロは茜の気持ちを察した。

「でも、元の世界に帰る手段はあるのかい? あるとしても、復讐する前にゆっくり考えな」

「で、でも、フェリドはみんなを苦しめたんですよ。逃げようとしたみんなを殺したんですよ。

 そんな奴を放っておくなんてできません」

「そうじゃない。何も考えないで突っ込んで、もう一度殺されたらどうするんだい?」

「……そ、それは……」

「だからゆっくり考えろって言うんだよ」

 レイの言葉も一理あった。

 彼女は魔導師らしく知識が豊富で、レイの助言のおかげで助かった冒険もある。

 フェリドに復讐した後、何が残るかは分からない。

 なので、フェリドに復讐するのは無意味だろうと、レイは言っているらしい。

 

「分かりました。……少し、一人にさせてください」

 そう言って、茜は一人、仲間達のもとを立ち去っていった。

 

 一人になった茜は、物思いに耽る。

(そもそも、どうして私がこの世界に転生したのか、私にはまだ分かっていない。

 けれど、何故か生前の記憶は残っている。

 私を殺したのがフェリドなら、私を生まれ変わらせたのは一体誰?

 そもそも……復讐して解決する事なの?)

 これは茜個人が抱える問題で、誰かに相談したとしても解決できるはずがない。

 そう思った茜は、こうして一人で物思いに耽っているのだ。

 

「ん……?」

 その時、茂みの中に光るものを見つけた。

 茜がそれを拾うと、それは虹色に輝く手鏡だった。

 どんな鏡かは分からなかったが、何故だか茜は、それに惹かれていった。

 

 鏡の中では何かが渦巻いている。

 触れるとどうなってしまうのかは、茜には分からなかった。

 だが、それでも茜は、その鏡に触れたくなりそうになった。

 まるで、自分を呼んでいるかのようだった。

 

「……っ!」

 そして、茜がその鏡に触れた瞬間、鏡は光り輝き、眩い光が辺りを包んだ。

 茜はあまりの眩しさに、目を覆ってしまう。

 すると、茜の身体が、小さな手鏡の中に吸い込まれようとしていた。

 あんな小さな手鏡でも、人間一人を吸い込むほど力は大きかった。

「私に……何を、するのですか……!」

 茜は抵抗しようとするが、鏡の力は強く、そのまま茜は、鏡の中に吸い込まれてしまった。

 

「……ここは……」

 気が付くと、茜は見知らぬ場所に倒れていた。

 辺りや建物はボロボロになっており、そこは町というよりは廃墟だった。

 しかし、茜には見覚えのある場所だった。

 

「元の世界!? 私、帰ってきたの!?」

 そう、茜はあの鏡を通して、元の世界に帰還したのだ。

 茜は困惑しながらも立ち上がり、自分の武器と防具を確認し、聖印も確認する。

「本当に、私は戻って来たんだ……。なんでここに来たのかは、分からない……。

 けれど、大丈夫……みんなはいないけど、私、絶対に復讐してみせる……」

 元の世界に帰って来たからには、やる事は一つ――この手で、フェリドを討ち取る事だけだ。

 

「……く、蜘蛛……!?」

 しかし突然、茜の目の前に、翼が生えた白い蜘蛛のような魔物が現れた。

 茜は地上に出る前に殺されてしまったため、その魔物を全く知らなかった。

 だがこちらに敵対的であるため、ここで死ぬわけにはいかない。

 

「来ないで! cadre sacre!」

 茜は呪文を唱えて光の柱を放ち、蜘蛛のような魔物の動きを止める。

 その隙に、茜は急いで蜘蛛のような魔物から逃げ、

 フェリドがいると思われる場所に向かっていった。

 

 かつて茜は京都の地下都市サングィネムに、百夜孤児院の家族と共に収容されていた。

 そこから脱出しようとしたが、吸血鬼に全てを奪われてしまった。

 しかし異世界に転生した茜は第二の人生を歩み、そしてこの世界に戻ってきた。

 大切な家族と自分を殺したフェリド・バートリーに復讐を果たすため、

 彼女は鞭を持ちながら、彼を追っていった。

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