百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

蜘蛛に転生したメル・ステファノの言葉から、茜が転生者なのをアエルスドロ達全員が知る。
しかし、アエルスドロ達は驚きつつも、共に冒険した茜を受け入れる。


第20話 復讐のケツマツ

 茜が元の世界に帰って来た時、京都では激しい戦闘が起こっていた。

 一人の少年が黒い翼を生やし、片目が赤くなって人間、吸血鬼関係なく攻撃していた。

 

「何だよ、これ。人間は気味の悪いバケモノを作るなぁ」

 フェリドはグレンの首を掴んでそう言った。

 気味の悪いバケモノとは、暴走した優一郎の事を差すだろう。

「でもちょっとやばいか。フェリド君、どうする?」

「ん~、あれ」

「cadre sacre!」

 フェリドがグレンに「バケモノ」について問いただそうとした瞬間、

 少女の呪文と共に光の柱が現れた。

 その呪文を唱えたのが百夜茜という少女だと気づいたのは、それから数秒後だった。

 しかし当然、暴走した優一郎は気づかない。

 

「つつ……ツツツツツ罪人は……罪人は……ミナミナミナ……皆殺しだ」

「え……ゆ……優さん……?」

 シノアは暴走した優一郎に刺されそうになった。

 彼女は優一郎を止めようとするが、優一郎には自分の声が届きそうになかった。

 

「lumiere de pierre humaine!」

「……止まった!?」

 その時、呪文と共に優一郎の動きが止まった。

 暴走してシノア達の攻撃が何一つ効かないはずなのに、優一郎の動きが呪文一つで止まった。

(呪符はなかった。あれは何? もしかして、私が知らない呪術……!?)

「見つけましたよ!」

 シノアは見た事がない効果を見て、混乱してへたり込もうとしていた。

 そんな彼女の前に現れたのは、鱗の鎧を着て鞭と盾を装備した茶色い三つ編みの少女だった。

 

「あ、茜ちゃん……!?」

 ミカエラは、フェリドに殺されたはずの茜が、

 暴走する優一郎を押さえる姿を見て、大きく目を見開いた。

 しかも、自身と同じ吸血鬼にならず、人間のまま、優一郎を止めている。

 その事実に、ミカエラは何もできず、固まった。

 

「ゆ、優ちゃん……!? それに、ミカまで……!」

 茜にとって大切な家族が、二人も生きている。

 四年の歳月で二人はすっかり大きくなっていたが、大切な家族である事に変わりはなかった。

 茜は嬉しさのあまり、思わず足を止めてしまった。

 しかし再会するのも束の間、動きを止めていた優一郎は再び襲おうとする。

 茜は呪文を唱えると、鞭を持っていない手を突き出して光の柱を放った。

「cadre sacre!」

 クレリックなら誰でも使える攻撃呪文、セイクリッド・フレイム。

 炎のような輝きを持つ光の柱は、優一郎を焼き払った。

 茜が見た事がない魔法を使っている姿を見て、ミカエラとシノアはさらに混乱した。

 

(こんな事をしてごめんね、優ちゃん……でも、私がやらなきゃ)

 茜としては優一郎を傷つけたくなかった。

 だが、暴走して理性がなくなっている以上、自分が何とかするしかなかった。

 

「cadre sacre!」

 ギリギリで先手を取った茜は、再び光の攻撃呪文を優一郎目掛けて唱える。

 優一郎は苦しみながらも、茜を切り裂こうとする。

 攻撃は軽傷に終わり、茜は鞭を構え、優一郎の武器に絡みつかせて落とす。

 すると、優一郎は素手で茜の頭部に殴り掛かろうとした。

 当たれば大量出血は避けられないが、茜は何とか優一郎の攻撃をかわし、

 再び勢いよく鞭を振るうも、優一郎には当たらなかった。

(優ちゃんがこんなに苦しんでるから、助けなきゃ。待っててね……優ちゃん)

 茜は鞭を振るい、時に呪文を唱えながら優一郎を傷つけず、無力化させようとする。

 だが優一郎は武器を失いながらも、信じられないスピードで茜を追い詰めた。

 激しい戦いの中で、優一郎と茜の身体にたくさんの傷がつく。

 二人が戦闘不能になるのは、このまま戦いが続けば避けられそうにない。

 

「なんて戦いだ……」

 ミカエラが茜と優一郎の戦いを見守る中、

 横から今もなおフェリドに首を掴まれたグレンの声がかかる。

優に抱きつけ、シノア!! 今の優ならきっと戻ってこられる!!

「え……え? 抱き……?」

 困惑していたシノアだったが、シノアは意を決して走り出し、

 茜の横をすり抜けて優一郎に抱き着いた。

ぐあぁあああああああああ!!

「お願いします、正気に戻ってください!!」

 優一郎は力に飲み込まれ、苦しそうに呻き声を上げている。

 思わず手を離しそうだったが、シノアは諦めず、必死に優一郎を押さえ込んだ。

 すると、優一郎は血を吐いてその場に倒れた。

 

「止まった……?」

 茜が、男の声がした方を振り返ると、彼女は見覚えのある男の姿を見る。

 その男こそ――

 

「フェリド・バートリー……!」

 茜から全てを奪い、子供達を絶望させ、皆殺しにした第七位始祖、フェリド・バートリー。

 今、彼を討ち取る時がついに来ようとした。

 

「フェリド、覚悟してください! cadre sacre!」

 茜は優一郎達にとって聞いた事がない、しかしアルカディアでは初級呪文を唱える。

 光属性の攻撃はアンデッドの吸血鬼には効果的だ。

「おっと、そこまでかい?」

 だが、フェリドは茜の攻撃を軽々とかわした。

 フェリドは素早く距離を詰め、一級武装を構えて茜を切り裂こうとする。

 しかし、茜が着けた鎧はフェリドの攻撃を弾く。

 すぐに茜は距離を取って、フェリドに鞭を叩きつけようとする。

「逃がしはしないよ」

「うぐぅっ!」

 フェリドは距離を取った茜を拳で一発殴り、

 再び距離を詰めて茜の鎧で覆われていない部分を一級武装で切り裂く。

 茜の体力はあっという間に削られていった。

 

「フェリド……やりますね」

 しかし、茜の表情は苦痛に歪むどころか、むしろ楽しいと言えるような表情だった。

 あの時と違って怯えない茜に、フェリドは首を傾げている。

「どうして君が生きてるんだろう。僕がこの手で殺したはずなのに」

「……分かりません」

 フェリドは確かに茜の首を切り、殺した。

 しかし、今の茜は首と胴体が繋がっていて、こうして生きている。

 その事実に逆にフェリドは困惑するが、すぐに表情を微笑みに戻す。

「まあいい。それなら、君をもう一度殺すだけだ」

(あいつと同じ事を……!)

 茜は蜘蛛に宿っていたメルの言葉を思い出す。

 フェリドは一級武装を構え、茜に突撃した。

 茜は盾でフェリドの攻撃を受け流した後、フェリドの一級武装を鞭で絡め取ろうとする。

 一瞬の隙を突いて、茜の鞭がフェリドの一級武装に絡みつく。

 そのまま一級武装と鞭を滑車のように滑らし、フェリドに接近して鞭の一撃を加える。

「ぐうっ!?」

「いきますよ!」

 茜はフェリドの腹部を攻撃しようとするが、フェリドは身をかわして拳で反撃する。

「やられっぱなしだと思ったかな?」

「思ってませんでしたよ」

 フェリドは伊達に第七位始祖を名乗っていない。

 それほどまでにフェリドの力は強く動きも素早く、油断すると肉塊にされてしまいそうだった。

 茜は気を抜かず、フェリドの攻撃をかわしながら、鞭や魔法でフェリドを攻撃する。

 そしてフェリドもまた、一級武装を拾おうとし、

 その間に茜の攻撃を受けながらも何とか一級武装を拾い上げた。

 

「なんという戦いだ……」

 ミカエラは茜とフェリドの戦いを見て呆然とする。

 吸血鬼になったというのに、

 その力は茜に及ばないのかもしれないと思うと、とても歯がゆくてたまらなかった。

 茜が吸血鬼と互角に渡り合っていると、思わず失われた人間性が蘇りそうな気がした。

 

(そもそも、フェリドに復讐して、その先には何が待っているの?)

 一方で、茜もフェリドと戦い疲労が蓄積していく。

 そのため、フェリドを倒すだけで解決するのか、と訳の分からない疑問を抱くようになった。

 戦っている中、茜はレイの言葉と、自身の考えを思い出す。

 

―復讐する前にゆっくり考えな。

―私を殺したのがフェリドなら、私を生まれ変わらせたのは一体誰?

 そもそも……復讐して解決する事なの?

 

「隙あり」

「きゃっ!」

 フェリドは隙を突いて一級武装で茜を転ばせた後、転んだ茜の足を狙い一級武装で切り捨てる。

 動きが鈍った茜の鎧で覆われていない部分を、フェリドが勢いよく斬りつける。

「戦場だと、気を抜くのが負けのもとだよ」

「うっ……フェリドの癖にいい事言いますね……!」

 普段はふざけた態度を取るフェリドだが、時々重い言葉を言う事がある。

 それは彼が、高い知能を持っている事の証明だ。

 茜はそれにめげず、フェリドの一級武装をもう一度鞭で絡め取ろうとしたが、

 フェリドはひらりと茜の攻撃をかわし、左の拳で茜の下半身ギリギリを殴った。

うぐぁぁぁっ!

 吸血鬼の腕力は凄まじく、茜は腹の中にあるものを全て吐き出しそうになるほどになった。

 それでも茜は立ち上がるが、フェリドは何故か、憐みの表情を茜に向けていた。

 

(吸血鬼が、私を憐れんでいる……?

 いえ、これはきっと隙を突く嘘のはず。絶対に油断はしません)

「僕はね、ずっとずっと存在しているから、何もかもが虚しくなってきたんだよ。

 美しい人の血が好きだし、あの子に色々あげたけど、それくらいしかする事はない。

 不老不死だと退屈なのは妖精も吸血鬼も同じ事さ。

 妖精なら選ばれた場所に立ち去る事ができるけど、吸血鬼にはそれができない。

 ホント、長所だけの生き物はないよね。ああ、でも僕はもう『生きていない』か。

 眠らなくてもいいし風呂に入らなくてもいいけど、それはもう生き物じゃないって証だよね」

 茜はフェリドの言葉に本能的な嫌悪感を抱く。

 吸血鬼は生命活動が止まっており代謝していない、アルカディアと同じアンデッドである。

 しかも、ゾンビと違って理性があるため、虚しくなるのは当然と言えるが、

 それを差し置いてもフェリドが家族を殺した事は許せなかった。

「だったらどうして、私達を殺したんですか?」

「あれ、忘れちゃったっけ? 君達の絶望した顔が見たいからだよ。

 誰かが嫌がる事をするのが好きなんだよね、僕」

「……」

 再びフェリドはふざけた声色で言った。

 やはり、茜とフェリドは“人間”と吸血鬼である以上、相いれない存在だ。

 だったら、この手でフェリドを殺さなければ、茜の気が済まなかった。

 

「覚悟……して、ください!」

 茜は全身全霊の力でもってフェリドに打ち掛かる。

 疲労で体力が落ちていたため、フェリドに勝てる可能性はほとんどない。

 しかし、それでも茜は、やるしかなかった。

「ふぅん……それが君の本気か」

「ええ、本気ですよ! あなたを殺して帰る! それが、私の今の目的ですから!」

 茜とフェリドは数十合の撃ち合いを続ける。

 フェリドはまだまだ元気で、対して茜の体力はそろそろ限界に近い。

 勝てる可能性はほぼなかったが、気合だけならば、茜はフェリドに引けを取らなかった。

 

 そして数十分後、ついに茜の鞭が、もう一度フェリドの一級武装を振り落とした。

 茜はそのまま、フェリドの鳩尾を思い切り突く。

「うぐぅっ……!」

 茜の一撃でフェリドは崩れ落ちる。

 人間が鳩尾を突かれれば即死は避けられないが、吸血鬼のフェリドなら平気だろう。

「これでとどめです! cadre sacre!!」

 そして茜は光の柱を放ち、フェリドを浄化した。

 

「……茜ちゃんが、フェリドを、倒した……!?」

「嘘……でしょう……」

 フェリドを倒した現場を見て、ミカエラ、シノア、グレンは呆然とする。

 ただの人間が、魔法を使ってフェリドを倒したとは到底、信じられなかったようだ。

 

「やった……ついに私は、フェリドを……!」

「残念だけど、君は僕を倒してなどいない」

 フェリドに復讐できて喜ぶ茜だったが、次の瞬間、フェリドの声が聞こえてくる。

「なっ、馬鹿な!?」

 茜が愕然とすると、

 ボロボロになりながらも一級武装を杖にして立ち上がるフェリドの姿があった。

「吸血鬼はそう簡単には死なないんだ。銃で頭を撃たれても、浄化されてもね。

 君は不思議な力を使えても、やっぱり人間だ。吸血鬼を殺すためには……特別な武器が必要だ」

「特別な、武器……!?」

「ここの人間達が持っている武器は、吸血鬼にとっては毒なんだ。

 それ以外の攻撃は、毒にならない……。

 君は復讐のために戦っていたそうだけど、それだけでは目的を達成できない。

 君が新しい身体で生まれ変わったのは、神様がくれた運命なのかもしれないね……」

 そう言って、フェリドは茜の前から撤退した。

 

「そんな……私はフェリドを倒したはずなのに……」

「茜ちゃん……」

 フェリドを滅ぼす事ができずに落胆する茜。

 ミカエラは彼女を励まそうとするが、その前に茜の身体が眩い光に包まれる。

「茜ちゃんの身体が、光ってる!?」

「どうやら私は、この世界での役割を終えたみたい。フェリドと戦って倒すっていう役目が。

 彼を完全に滅ぼす事はできなかったけど、戦えて私は……ちょっと、満足……」

 茜が二人に何かを伝えようとした瞬間、彼女の姿はこの世界から消えた。

 

「茜ちゃん……生きてたんだね……。死んだと思ったのに……」

 消えてしまった茜の姿を見て、ミカエラはもう流さないはずの涙を流した。

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