茜は鏡の世界を通って元の世界に戻った。
元の世界の京都では優一郎が暴走し、人間と吸血鬼を問わず攻撃していた。
茜は魔法を使って優一郎を止め、復讐を果たすためフェリドに一騎打ちを挑む。
激闘の末に茜はフェリドを倒すが、鬼呪装備でないため生きており、
フェリドは良からぬ言葉を言い残して茜の前から撤退する。
ミカエラは茜が生きていた事を知り、流さないはずの涙を流すのだった。
茜はついに元の世界でフェリドと再会した。
しかし、茜はフェリドを討ち取る事ができず、失意のままアルカディアに戻ってきた。
「……ただいま」
「どうしたんだ、いきなり消えてしまって!」
「心配したんだよ、あたいら!」
「一体何があったんだ……」
暗い表情の茜を、アエルスドロ達は心配した。
色々と複雑な事があって茜は混乱しているので茜は仲間に従って誰にもバレない場所に行った。
そして、茜は仲間達に謎の鏡を拾ってからの事情を話した。
「なるほど、家族の仇を討とうとして失敗したか」
「……人聞きの悪い事は言わないでください」
事情を聴いたアエルスドロが素直に言うと、茜はまた落ち込んでしまった。
アエルスドロは「すまない」と茜に謝り、彼女が元気を取り戻すまで傍にいてやった。
「それにしてもあの鏡のせいとは偶然だったな」
「ホント、世の中何が起こるか分かりませんよね」
何故、アルカディアにあの鏡が落ちていたのかは誰にも分からない。
それでも、元の世界に一時的とはいえ茜は帰る事ができた事には、茜は感謝していた。
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうだな、マリアンヌも待っているところだ」
何はともあれ、依頼を達成したのでそろそろナガル地方で休もうと思った。
茜達がナガル地方に帰ろうとした瞬間、アエルスドロの足に痛みが走った。
「ぐっ……!」
「大丈夫ですか、アエルスドロさん!?」
茜が急いで駆け寄ると、アエルスドロの足に裂傷があった。
「待ってください、今、助けますから」
アエルスドロの足からはどくどくと血が出ている。
茜は大急ぎで救急セットを取り出し、
怪我をした部分を応急手当し、何とかアエルスドロの出血を止めた。
「一体誰が、こんな事をしたんですか?」
茜はアエルスドロを攻撃した者を探し出す。
周りには誰もいなかったが、不意を打ったためどこかに隠れている可能性が高い。
意識を集中し、かつ気づかれないように、茜は辺りを見渡す。
「……そこですね!」
茜はライトクロスボウを構え、ボルトを発射する。
「うぐっ!」
呻き声と共に姿を現したのは、フードを被り、短剣を持った吸血鬼だった。
紫外線中和装置が腕についていて、日光が出ていながら外で活動できるのが分かる。
「あなたは……吸血鬼……!」
「そこの男の血を飲もうと思ったのだがな……仕方あるまい、貴様の血をいただこう!」
吸血鬼は刺さったボルトを手で抜いた後、茜の血を吸おうと襲い掛かった。
「させません!」
茜は吸血鬼の攻撃を盾で受け流し、足を狙って鞭を振るうが、
吸血鬼は飛び上がって攻撃をかわす。
その勢いで吸血鬼は茜に突っ込んでいき、短剣で茜を突き刺そうとする。
「ぐっ……!」
攻撃は見事に命中し、茜の横腹に短剣が刺さって彼女の横腹から血が出てくる。
怯んだ茜の隙を突き、吸血鬼は茜の血を舐めた。
「美味い、人間の血は美味い。もっと吸いたい」
「ふざけないで……! 私の血は、あなたにはもう渡さない!」
茜の鞭が吸血鬼を捕らえようとするが、吸血鬼は凄まじいスピードで攻撃をかわす。
「しまった、逃げなきゃ!」
「させん!」
吸血鬼は逃げようとする茜の足を掴んで転ばせる。
茜は身動きが一瞬取れなくなり、吸血鬼はそのまま、茜の血を吸おうとした。
(このままでは、私の命が……!)
百夜孤児院の子供達のように、血を吸い尽くされて命を落とすのか。
そんな事はさせないと茜はぐっと両腕を交差した。
「これ以上命は奪うな」
「……っ!?」
突然、男の声と共に、吸血鬼の身体に無数の文字が刻まれる。
茜を襲おうとした吸血鬼は、塵となって消えた。
「あなたは……!」
その人物を見た茜は、顔が強張る。
フードで顔が隠れて見えなかったものの、その人物は凄まじい威圧感を出していた。
そういえば、フードといえば吸血鬼を思い出す。
「まさか、吸血鬼……!?
いや、紫外線装置をつけないで日の光を浴びてる吸血鬼なんて、あり得ないはずなのに……」
「その通り」
慌てた茜の言葉に、男は静かに答える。
「私は、腐敗教団の長にして錬金術師・冬城吹雪だ」
冬城吹雪と名乗ったその男の目は、とても冷たく、近寄りがたいものだった。
しかし茜は何故か、彼の目に吸い寄せられていた。
もちろん、恋愛ではなく、恐怖からである。
「ふ、腐敗教団……!? じゃあ、あなたは……」
「実験は失敗だったか……ならば、抹殺する!」
「どういう意味ですか、実験失敗って!?」
「問答無用、覚悟しろ!」
そう言って吹雪は茜に襲い掛かり、彼女の首を絞めようとした、その時。
「させるものか! 茜は殺させない! 今のうちに逃げろ、茜!」
「は、はいっ!」
アエルスドロが吹雪に組みつき、その隙に茜は大急ぎでナガル地方に逃げ出す。
「離せっ、離せぇぇっ!」
「させない……茜は、必ず私が生かす……!」
「貴様もあの吸血鬼と同じなら……!」
アエルスドロと吹雪の取っ組み合いが続く。
ダークエルフの戦士と人間の錬金術師では、
筋力に関してはほぼ同等と言えるため、後は気力だけの勝負だった。
茜はそんな彼らの取っ組み合いをバックに、只管ナガル地方に向かって走る。
「待て、失敗作! 私は貴様を抹殺す……」
「大人しくしろ」
そう言ってアエルスドロは吹雪の後頭部を右の拳で殴りつけ、彼を気絶させた。
そしてアエルスドロも、ナガル地方に戻った。
「ぜえ、ぜえ、ぜえ……」
「はあ、はあ、はあ……」
茜とアエルスドロは、息を切らしながらナガル地方に戻ってきた。
「い、一体何が起こりましたの!?」
マリアンヌがただならぬ様子に戸惑う中、茜は必死でマリアンヌに情報を伝える。
「わ、私の事を知ってる、冬城吹雪という人が、私を、殺そうと、しに、来たんです」
「茜を殺しに!? そんなの、許せませんわ!」
マリアンヌは銃を抜こうとするが、アエルスドロは「待て」と制止する。
「あの男の威圧感は相当なものだった。私でさえ、組みつく程度で精いっぱいだった。
今、奴に挑むのは……やめた方がいい」
「……」
アエルスドロの表情は真剣で、マリアンヌも認めざるを得なかった。
あの吸血鬼を一瞬で倒した事からも、吹雪の強さにアエルスドロは威圧されたのだ。
「でも、今は落ち着いた方がいいよ。殺されないだけマシだと思えばいいさ。
これからどうすればいいか……ゆっくり決めな」
「……ああ」
レイの言葉を聞いたアエルスドロは、ひとまずナガル地方で休息を取る事にした。
「吹雪さんは私の事を知って、殺そうとした。
でも……だからこそ、倒さなきゃいけないって、心から思ったんです。
絶対に……吹雪さんは、倒します!」
自分の事を知っていて、なおかつ自分の命を狙う存在なら、必ず倒さなければならない。
茜は鞭をぐっと握り締めて、決意するのだった。