茜は元の世界でフェリドと再会したが、彼を討つ事ができずアルカディアに戻る。
仲間に謎の鏡の事情を話すが、「家族の仇を討とうとして失敗した」と落ち込む。
途方に暮れたところで吸血鬼に襲われ、仲間のアエルスドロが助けるも、
冬城吹雪と名乗る男が現れ、茜を殺そうとする。
アエルスドロは吹雪を気絶させ、茜はナガル地方に逃げ、吹雪を倒す決意をするのだった。
茜達がナガル地方に帰ろうとすると、謎の男・冬城吹雪に遭遇した。
吹雪は茜を襲った吸血鬼を一瞬で倒すと、茜の命をも狙おうとしていたが、
アエルスドロに助けられて茜達はひとまずナガル地方に帰った。
「メル・ステファノといい、冬城吹雪といい、
どうしてこの世界に私を知ってる人がいるんでしょうか」
「知らないな。だが、お前の命を狙う事は確かだ」
蜘蛛に転生した吸血鬼、フードを被った謎の男と、次々に自分を狙う者が襲ってきた。
理由は分からないが、異世界に来てからも命が狙われている事に茜は項垂れた。
「せっかく理想郷に来たのに……これじゃあ、また、地獄が訪れますよ……」
「……茜、落ち込む必要はない」
「アエルスドロさん?」
そんな茜の肩に手を置いたのは、最初に出会ったアエルスドロ。
「もし来たなら、倒せばいいじゃないか。君は何のために冒険者になったんだ?」
「フェリドに復讐するため……でも、叶いませんでした……」
最初は異世界に転生してから、フェリドに復讐するため冒険者として修行した。
その後、ようやく元の世界に戻ってフェリドに復讐しようとしたが、
叶わずに再びアルカディアに戻った。
そして冬城吹雪の襲撃を受け、ナガル地方に戻ってきたのである。
「フェリドを倒せなかったのは残念ですけど、だからといって冒険を諦めちゃダメですわ」
「マリアンヌさん、それは分かってます。今、倒すべきなのは冬城吹雪でしょう?
あいつにどうやって勝つんですか?」
「うぅむ、それは分からないですわね。とりあえず今日は、ご飯でも食べて落ち着きましょう」
「……はい。カレーをお願いしますね」
アルカディアで仲間のために作った、
元の世界でも思い出のあるカレーを食べて冬城吹雪に備えたい。
茜がマリアンヌにそう言うと、マリアンヌはファルナにカレー作りを頼んだ。
「あいよ、カレーだね。茜ちゃん、カレーが好きなんだね」
「はい、カレーはみんなが食べてたものですから」
地下都市サングィネムに連れてこられた時、一番よく食べていたのがカレーだった。
優一郎はカレーが好きで、当然茜もカレーが好き。
なので、大冒険の前にカレーを食べるのは、茜にやる気を付ける最高の方法なのだ。
「どんなカレーがいいんだい?」
「あ……そういうのは、特に何も考えてませんので、カレーでお願いします」
茜は生きるのに必死だったため、食べ物のこだわりはほとんどない。
ただ、カレーさえ食べられればいいという考えだ。
「あいよ、カレーだね! あんたのために、美味いのを作るからね!」
ファルナは満面の笑みを浮かべて、今日の食事はカレーにする事にした。
「これでいいのかい?」
数分後、ファルナはカレーを作り終える。
とん、と皿に出されたカレーからは、美味しそうな匂いが漂っていた。
たくさんのスパイスを混ぜて長い時間煮込んだそれは、流石料理の達人と言える。
だが、ファルナが出したカレーは、茜が食べた事があるカレーとは少し違っていた。
ご飯の代わりに、傍に大きなパンが置かれていて、カレーはどちらかというとスープに見える。
「これ……本当に、カレーなんですか?」
「何言ってるんだい、カレーを食べたかったんだろ?
しっかり食べてもらわなきゃ、元気にならないよ」
「でも、どうやって食べるんですか? そもそも、このパンはどんなパンなんですか?」
「それは『ナン』っていうパンで、カレーにつけて食べるんだよ。
アルカディアじゃ、カレーはこういう風に出される事が多いからね」
「なるほど……」
元の世界とアルカディアでは文化が異なるらしい。
それに困惑しつつも、茜はナンをちぎり、カレーにつけて口の中に放り込む。
「なかなか口に合う味ですね。こういうカレーも悪くありません」
「だろ? あたしは茜ちゃんだけじゃなくて、あんた達にも元気になってほしいんだ。
しっかり残さず、食べるんだよ!」
「ああ」
アエルスドロ、レイ、デリサルも、ファルナが作ったカレーを一口食べる。
モントゥのレイには、彼女の背丈に合ったサイズが出されているため問題はない。
「それにしても、パンにカレーをつけるなんて、私から見れば珍しいですね」
「カレーは本来はこんなものなんだけどねぇ」
「そうなんですか……でも、美味しいですね」
カレーを食べている茜の顔は、安心していた。
地下都市サングィネムでは、吸血鬼の機嫌を取らなければ殺されてしまうため、
茜達は常に心の中で怯えていた。
しかも、人間の七倍以上の身体能力を持つから子供だけでは始末に負えなかった。
だが、ここアルカディアでは、本当に安心してカレーを食べる事ができる。
たとえ自分が命を狙われていようとも、彼らが守ってくれると信じているからだ。
「確か、冬城吹雪さんは、腐敗教団の長って言ってましたよね。
つまり、あの四神官より強いんですよね……」
吹雪の素性を知り、茜は震え上がる。
茜達が苦戦したあの四神官を束ねているのだから、長が弱いはずがなかった。
まともにやり合えば、負ける事は避けられない。
「吹雪さんに勝つには、どうすればいいんでしょうか?」
そんな吹雪を猶更放っておくわけにはいかず、だからといって単純に挑める敵でもない。
どうすればいいのかを茜は考えていたが、彼女には考えが浮かばなかった。
「でも、あいつに勝てないわけじゃないさ。ちょっと、大気を調べてみるさね」
そう言って、レイは精神を集中し、この空間に漂うマナを分析した。
すると、レイの両目が眩い光を湛えた。
「フェーン王国、ハリネース王国、デザードラド王国、そしてガルバ帝国に、
エイシア大陸由来の四柱の神を発見したよ」
「神様……?」
「フェーン王国には春と風を司る神・青龍。デザードラド王国には夏と炎を司る神・朱雀。
ガルバ帝国には秋と雷を司る神・白虎。ハリネース王国には冬と水を司る神・玄武。
彼らの力を借りればいいんじゃないかな。あいつらは四人、こっちも四柱だしね」
「なるほど。それで、誰が行けばいいんですか?」
「バラバラに分かれた方がいいよ。そうだね……」
レイは、それぞれの大陸に行く者達を話した。
結果、フェーン王国には茜、デザードラド王国にはアエルスドロ、
ハリネース王国にはレイ、ガルバ帝国にはデリサルが行く事になった。
ガルバ帝国は人間以外の種族は肩身が狭いが、デリサルなら、角を隠せば何とかなると思った。
反対意見はなかったためスムーズに事が決まった。
「これで大丈夫だね。ったく、このパーティーは一応、あんたがリーダーなのに、
これじゃあまるであたいがリーダーだよ」
「……私は正直言って、魔法は苦手だからな」
魔法に関する事では、レイの方が上だ。
いくらリーダーであっても、得意な事なら彼女に任せた方がよいと判断したのは、
流石はリーダーだと言えた。
「それでは、行ってまいります!」
そして、四人はいよいよマリアンヌに別れを告げ、
四神の力を借りるべく、それぞれ船に乗ってそれぞれの国に赴いた。
決戦の時は近い、故に決して焦らず油断もせず、
ただ、四神官と冬城吹雪を倒すための力を得るだけだ。
そして、百夜茜はこの世界での冒険を達成し、『勝利』する事ができるのだろうか……。