百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達は腐敗教団の四神官の一人・ゴードンを倒し、城の奥へ進む。
アエルスドロは朱雀から聞いた話から、腐敗教団の目的は不死だと推測する。
四人は城の奥へと進み、そこにいた腐敗教団の四神官の一人・エクレアに苦戦する。
しかし、協力してエクレアを倒し、城の奥へと進むのだった。


第29話 毒々モウドク

「ふう……流石に城を歩いていると疲れますね。お腹も空いてきましたし……」

「それじゃあ、安全地帯で休憩しようか」

 デリサルはテントを張って、茜が魔物避けの結界を張って、四人はその中で休憩した。

 

「美味しいですね、このドライフルーツ」

 テントの中には乾パンやドライフルーツ、ビーフジャーキーがいくつか入っていて、

 戦いで減ったお腹が満たせそうだ。

「私なんかに、あいつが倒せるんでしょうか。初めて出会った時、相当な威圧感で……」

 茜は腐敗教団の長・冬城吹雪と出会った時、彼のあまりの威圧感に茜は何もできなかった。

 不幸中の幸いで殺されずに済んだものの、彼を倒せるかどうか不安になってしまった。

 そんな茜の肩に、アエルスドロが手を置く。

「何を言っているんだ。私達は仲間だろう? 一人では無理だが、みんなでやればできる」

「そうだよ、ここまで頑張ってこれたのは、あたいらもいたからなんだよ。

 ついてるんだから、元気になりなよ」

「アカネ、俺達は何のためにここまで来たのか分かるか? お前を助けるためなんだ。

 もしもお前の回復魔法がなかったら、俺達は今頃、死んでただろうな」

「……みんな、そこまで私の事を心配したんですね」

 茜はアルカディアに転生してから、右も左も分からない状態が続いていた。

 そんな彼女を手助けしてくれたのが、

 アエルスドロ、レイ、デリサルといったアルカディア現地の冒険者だった。

 彼らは茜の支えになり、ここまで来る事ができた。

「だから、ネガティブになるんじゃない。私達は絶対に、腐敗教団に勝つ」

「……ふふふ、やっぱり皆さんは前向きですね。私もまた、ミカに会いたいな……」

「ミカ……あんたが好きな子なんだね」

「あ、違います、ミカは私の家族なんです!」

 みんなと話していると、不思議と茜の不安が和らいできた。

 強大な敵を相手にしても物怖じしない彼らに、茜は何故不安になったのだろうと思った。

 

「じゃあ、みんなで一緒に、この城を攻略しましょう!」

「おう! お宝もあるしな!」

 

 こうして四人は、城の探索をした。

 腐敗教団が仕掛けた罠をデリサルが掻い潜りつつ、武器や魔法で魔物を退治していった。

「ここはレバーを倒すと水位が変わるみたいだな」

「満潮になったら、ポケットボートが必要だな。もしくは、泳ぐか……」

「パズルも結構あるしね。こういうのは、あたいに任せな」

「ありがとうございます、レイさん」

 

 四人がある程度進むと、たくさんのアンデッドが壁や床に描かれた場所に着いた。

 茜は不快感を抱いたものの、クレリックなので吐くわけにはいかない。

 また茜達が先に進むために通る床には、規則正しくアンデッドが描かれていた。

 レイが確認すると、アンデッドの絵のタイルに防御術がかかっている事が分かった。

「どうやらここを通り過ぎると、何かの魔法を受けるみたいだねぇ」

 レイによると、スケルトンかゾンビのタイルを通るとダメージを受け、

 グールのタイルを通ると麻痺し、ワイトのタイルを通ると筋力を吸収され、

 マミーのタイルを通ると病気になり、ヴァンパイアのタイルを通ると生命力を吸収され、

 リッチのタイルを通ると大ダメージを受けるという。

「という事は、スケルトンとゾンビだけを通っていけばいいんですね」

「あいつらは下級のアンデッドだから、ただぶん殴るだけだからね」

「とりあえず、こんな風に通過して行こう」

 

 四人の中で最も体力が高いアエルスドロがスケルトンとゾンビのタイルだけを通り、

 大した被害を受けずに出口に辿り着いた。

 アエルスドロが近くのスイッチを押すと、全ての魔法の罠が解除された。

 すると、それぞれのタイルから宝石が現れ、デリサルはそれらを回収した後に四人に分配した。

「あれ、珍しいねぇ、あたいらに分けるなんて」

「今はどうこうしてる暇なんてないんだよ」

 

 四人が先へ進むと、扉には鍵がかけられていて、デリサルが解錠を試みたが全く開かない。

 どうやら魔法で扉が閉まっているようだ。

 レイが呪文を唱えて扉を開けると、大きな玉座がある部屋に着いた。

 玉座には黒いローブを纏った男が座っていて、茜達を睨みつけるとゆっくりと玉座から降りる。

「おやおや……どうやら生き残ったみたいですね。あの時に腐っていればよかったものを」

 男――腐敗教団の四神官の一人、猛毒のセイスは慇懃無礼な様子で言う。

「セイス……あなた、いや、お前を倒してこれ以上世界を腐らせるわけにはいかない!」

 茜は杖をセイスに突きつけながら言う。

 腐敗教団は世界を腐らせる、彼らの野望は絶対に阻止しなければならないからだ。

「そう来ると思いましたよ……ですが、私もそう簡単にやられるわけにはいかないのでね。

 今まではしもべが弱かったのですが……今度は違いますよ」

 セイスの隣にいたのは、ミノタウロスの骨が死霊術で蘇った、ミノタウロス・スケルトンだ。

 ミノタウロス・スケルトンは虚ろな眼窩に宿る真っ赤な光をちらつかせている。

「はっ、ネクロマンサーのあんたなら、そんなのを従えると思ったよ!」

「バラバラにして倒す……」

 レイとアエルスドロも敵意をむき出しにする。

 

「とっとと腐った方が身のためですよ!」

「それはこっちのセリフです! お前は絶対に、私達が倒す!!」

 腐敗のセイスと、彼が従えるミノタウロス・スケルトンとの戦いが始まった。

 

「ラ・カリ・ド・シー!」

 レイは呪文を唱えながらバターを取り出すと、杖から滑りやすい脂を吹き出し、

 目の前にいるミノタウロス・スケルトンに向かって撒き散らした。

 だがミノタウロス・スケルトンは脂を全く気にせず、

 力強く足を踏みしめ、そのままアエルスドロに向かって突進してきた。

「おっと、危ない」

 ミノタウロス・スケルトンは角で突き刺そうとしたが、アエルスドロは素早く身をかわした。

「やはり骨だけではバランスが悪いようだな」

 アエルスドロは剣を振り下ろし、ミノタウロス・スケルトンに深い傷をつけた。

 血は流れなかったが、骨が割れる音がした。

「ほう……私のしもべに傷をつけるとは……。容赦はしませんよ、冒険者ども」

 セイスは黒いローブの中から骨の杖を取り出し、指を広げて空中に向けた。

「死の霧よ、我が敵を滅ぼせ! クラウドキル!」

 セイスが呪文を唱えると、杖の先から緑色の毒ガスが噴出し、茜達の方に流れていった。

「う、ぐぅっ……!」

 茜達は毒の霧に包まれて苦しみ始めた。

 デリサルは毒ガスに耐えながら、ミノタウロス・スケルトンに忍び寄った。

 銀のレイピアを持って背後から一突きしようとしたが、

 レイピアは空振りして、ミノタウロス・スケルトンに気づかれてしまった。

「しまった!」

 デリサルは素早く距離を取って、毒ガスの範囲から逃れようとする。

「うぅぅ、うぅぅぅ……」

 茜は毒ガスに耐え切れなかった。

 体中が痛みに襲われて、力が抜けていき、意識を失って倒れた。

 

「ごほ、ごほ、ごほっ……この霧、邪魔みたいだね。ほら、アカネ、しっかりしなよ」

 レイは咳き込みながら叫ぶ。

 毒の霧の中で苦しみながらも、茜にポーションを一滴落とし、少し元気を取り戻した。

 レイはすぐに雲の外に逃げ出したが、その間にも体力は減っていった。

 ミノタウロス・スケルトンが轟音を立てて迫ってくるが、

 その足元には脂があり、ミノタウロス・スケルトンは滑って転んでしまった。

「よし、チャ、チャンスだ」

 アエルスドロも毒の霧の中で息苦しくなっていたが、気合で何とか耐えた。

 雲から抜け出し、ミノタウロス・スケルトンに向かって走った。

「死になさい、チル・タッチ」

 セイスは近付いてきた茜にチル・タッチを放ったが茜は盾で攻撃を防ぎ、

 ヒーリングで傷を癒して毒の霧から逃れた。

「そらっ!」

 デリサルはセイスにショートボウを引き抜き、矢を放った。

 矢はセイスの肩に刺さったが、致命傷にはならなかった。

「流石ですね……しかし、勝つのは私ですよ」

「そうはいかないよ、ド・イグニ・マ・ギ・ド・ヴェン!」

 レイが呪文を唱えると、魔法の光線がセイスに向かって飛んだ。

 3本の光線のうち2本が敵の胸と腕に命中し、焦げ臭い匂いを漂わせた。

「うぐ……ほら、我がしもべよ、奴らを殺しなさい」

 セイスは痛みに呻きながら、自分の操るミノタウロス・スケルトンに指示を出した。

 しかし、その巨大な骸骨は脂で滑ってしまった。

「はぁぁっ!」

「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

 アエルスドロはその隙に素早く走り寄り、剣を振り下ろした。

 セイスは辛うじて魔法の盾で1回は防いだが、もう1回は肩に深く切り込まれた。

「私は……ここで、死ぬわけには……いきませんよ……! あなた達を、死なせるまでは……!」

「茜!」

 セイスは必死になって茜に手を伸ばし、彼女の生命力を吸収しようとした。

「させません……!」

 しかし、茜はセイスの魔法攻撃を防ぎ、セイスからゆっくりと距離を取った。

 デリサルはその間にも影から忍び寄り、銀のレイピアでセイスの背中の急所を突いた。

 セイスは悲鳴を上げながらなおも立っている。

「レイさん……今、助けますよ。vie force!」

 茜は呪文を唱えてレイの傷を癒した。

 

「もう少しであいつに勝てる。だから、油断せずに行こう!」

「……そうですね!」

 彼らは勝利を確信し、次の行動を考え始めた。

 

「ド・イグニ・マ・ギ・ド・ヴェン!」

 レイが呪文を唱えて杖を振ると、魔法の光線がセイスに向かって飛んだ。

 2本の光線がネクロマンサーのローブに穴を開け、痛みに悶える声が上がった。

「ぐぅ、よくもやりましたね……。覚悟してくださいよ、愚かな冒険者どもめ」

 だがセイスはまだ倒れず、彼は死者の力を使って、倒れていたミノタウロスの骨を動かした。

 ミノタウロス・スケルトンが立ち上がり、アエルスドロに襲いかかろうとした。

 しかし、その足元にはレイが撒いた魔法の脂が広がっていて、

 ミノタウロス・スケルトンは滑って転んでしまう。

「よし、チャンスだ。ファストブレード!」

 アエルスドロはチャンスと見て、剣を振り下ろしてセイスの肩に深い傷をつけた。

「ぐぅぅ……覚悟、して、ください……!」

 セイスはゆっくりと、デリサルに手を伸ばした。

「ヴァンピリック・タッチ!」

「ぐあぁぁぁぁっ!」

 セイスは相手の生命力を吸い取る魔法、ヴァンピリック・タッチの呪文を唱えた。

 彼の手がデリサルの胸に触れると、デリサルは激しい痛みに襲われ、倒れた。

 セイスは自分の傷から血が止まり顔色が回復した。

 

「やっと終わりましたか……。あと三人ですが、このままいけば全滅も夢ではありませんね」

「よくもデリサルさんを! 許しません! 朱雀よ、あいつを焼き払って!」

 仲間の危機に気づいた茜は杖を振りかざし、

 セイスに向かって炎の矢を放つが、ギリギリでかわされてしまう。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

 レイが呪文を唱えると、魔法の矢がセイスの胸に突き刺さった。

「ごほ、ごほっ……許しませんよ、こいつらを殺しなさい……」

 セイスは苦しそうに咳き込んだがまだ息があった。

 彼は手を振って、自分の作り出したミノタウロス・スケルトンに命令した。

 しかし、その巨大な骸骨はグリースの脂で滑って、床に倒れていたため動かなかった。

「な、なんと!?」

「とどめだ、セイス! サヴェッジブレード!!」

「ぎゃあああああああ!!」

 アエルスドロはその隙に突進し、

 下段から強烈な切り上げを繰り出してセイスの喉元に突き下ろした。

 彼の神速の連続攻撃の前に、ローブごとセイスの身体は切り刻まれていく。

 そしてセイスの胸に剣が突き刺さり、セイスは戦闘不能になるのだった。

 

「うぅぅ……」

 倒れているセイスを、アエルスドロは睨みつける。

「……お前のような奴に負けるわけにはいかない」

「そうですか……しかし、世界の改革は……もうすぐ完全に終わりますよ……」

「どういう事ですか……!?」

 世界の改革が終わるという事に驚きを隠せない茜。

 そんな彼女を見たセイスは、嘲笑を浮かべながら話を続けた。

「我が主は、全ての存在を、逃れられない運命から解放してくださります……。

 全ての存在は、運命を超えた存在になるのです……。

 それこそが、腐敗教団の真なる望み、ですから……ぐふっ!」

 セイスはそう言うと、身体が灰になって消えた。

 彼から話を聞いた茜は、真剣な表情で言った。

 

「……全て、全て分かりました。

 腐敗教団は、逃れられない運命――『死』から逃れようとしている。

 絶対に恐ろしい力を使うに違いない。そうしたら破滅するって、神様が言ってたから。

 私達は……絶対に、腐敗教団の改革を、阻止しなきゃいけない……!」

 茜はぐっと拳を握り締めると、立ち上がった。

 

「だから、私達はこの戦いに勝ちます! そして、この世界を破滅から守ります!!」

「おうっ!!」

「……ああ」

「流石だね、茜!」

 

 こうして四人は改めて決意し直し、残るスカーレットと吹雪との決戦を挑もうとした。

 腐敗教団を止め、世界を平和にするために。

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