茜達は腐敗教団の本拠地の城を攻略する。
四神官の一人・セイスとの戦いでデリサルが倒れるが、仲間の力を借りて勝利する。
セイスは死の間際、茜達に腐敗教団の真の目的を語る。
茜は決意を新たにし、仲間と共にスカーレットと吹雪との戦いに挑む。
腐敗教団を止め、世界を平和にするために。
剛力のゴードン、蠱惑のエクレア、猛毒のセイスと、
腐敗教団の四神官のうち三人を撃破した茜達。
残っているのは静寂のスカーレットのみ。
しかし、茜達はスカーレットが何者かは分からず、
また彼と戦っていいのかも疑問を抱いていた。
「スカーレットと初めて出会った時、『邪魔するなら容赦しない』と言っていました」
「そして私達は、腐敗教団の本拠地に潜入している」
「……つまり、スカーレットと戦わなきゃいけないかもしれません」
砂漠でスカーレットと出会った時は、茜達に敵意は見せなかった。
しかし、スカーレットは腐敗教団に逆らってはならないと茜達に言った。
そして、茜達は腐敗教団を止めるために、腐敗教団の本拠地に入っている。
「戦いは避けられないかもな」
「……そうですね」
こちらから潜入した以上、スカーレットと戦わなければならないかもしれない。
茜達は、覚悟を決めていた。
「うっ……」
アエルスドロが先頭に立って先に進むと、めまいと方向の失認を感じる。
迷路は3mほどの板で仕切られており、きちんと進まないと迷ってしまいそうだ。
「俺から離れるなよ」
「はい」
皆、探索が得意なデリサルから離れないように、彼にぴったりとくっつきながら動いた。
茜達がある程度進むと、迷路の中ほどにある立体交差に、一人の少年が立っていた。
腐敗教団の四神官の一人、静寂のスカーレットだ。
「来たか」
「あなたと戦わなきゃいけないのですか?」
「君達が僕の邪魔をするなら、そういう事になるね」
スカーレットは仕方なさそうな顔をしている。
彼は、あくまでも腐敗教団に仇名す者には容赦しないスタンスだ。
今、茜達は腐敗教団の野望を阻止するために城に乗り込んでいるのだから、
彼から見れば邪魔しているのと同じだ。
「どうしても通りたいのですが」
「ここを通すわけにはいかない。君達が邪魔をするなら、容赦しない」
「……やるしかないのですね」
「ああ」
スカーレットが魔導書を右手で持つと彼の左手の甲には表紙と同じ逆さ星の痣が浮かんでいた。
これは悪魔使いの証だと、レイはすぐさま見破る。
スカーレットはレイに反応せず、左の掌を魔導書の表紙にかざした。
「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、
神よ、悪しき世界に住む神々よ、我を守る悪魔を呼び出したまえ」
呪文を唱えると、スカーレットの左手の甲の痣と魔導書の表紙の逆さ星が同時に光る。
さらに、スカーレットの影が炎のように揺らめき、風も吹いていないのに魔導書がめくれる。
魔導書の中から闇が現れると二体の悪魔が現れる。
一体は狼の姿をした悪魔・マルコシアス、もう一体は牛の姿をした悪魔・ザガンだ。
「あれが、スカーレットが呼んだ、悪魔……」
茜は恐ろしさに身が竦むが、ここで逃げるわけにはいかない。
しっかりと鞭と盾を構えて、戦闘態勢に入る。
「邪魔はさせない……ここで、終わりだ!」
「結局、戦わなきゃいけないんですね……」
茜達は覚悟を決めて、スカーレットと彼が召喚した悪魔と戦った。
マルコシアスが茜達に向かって猛ダッシュすると、口から炎を噴き出した。
「おぉっと、危ない」
「ぐあぁぁぁぁっ!」
デリサルは素早く身をかわしたが、他の仲間は炎に巻き込まれた。
「くそっ、何しやがる!」
痛みに悶える茜、アエルスドロ、レイを見て、デリサルは怒りに燃えた。
素早く銀のレイピアで突き刺し、マルコシアスの背中に深い傷をつけた。
「ぐ……食らえ……っ」
アエルスドロも剣で反撃しようとしたが、マルコシアスは素早く動いてかわした。
レイは呪文を唱えて杖から冷気の光線を放ち、マルコシアスを凍らせる。
「cadre sacre!」
茜は呪文を唱えて神聖な炎を呼び出したが、マルコシアスはぎりぎりで避けた。
「ぐあぁぁぁぁぁっ!」
その時、ザガンがデリサルに襲いかかり、
大斧を振り下ろしてデリサルの肩に深刻なダメージを与えた。
ザガンの一撃に耐えられず、デリサルは血を吐きながら倒れた。
「デリサルさん、しっかり!」
「マルコシアス、あいつを食らえ」
スカーレットがマルコシアスに指示すると、
マルコシアスはアエルスドロに飛びかかって牙で噛みついた。
「うぐぅっ」
「アエルスドロ、大丈夫かっ。今、俺が助ける!」
デリサルは素早くマルコシアスの横に回り込み、マルコシアスをレイピアで刺した。
アエルスドロへの情のおかげで攻撃が見事に命中、
さらに急所攻撃も決まって大ダメージを与えた。
「よし、やるな!」
アエルスドロはデリサルに続こうと剣で切り裂こうとするが、マルコシアスは敏捷にかわす。
「ド・ゲイト・ド・イス!」
レイが呪文を唱えてマルコシアスに冷気の光線を放つと、
マルコシアスは凍りつくような痛みを感じた。
茜が皆の様子を確認すると、悪魔の攻撃で重傷になっている事に気づく。
「神よ、危機に陥りし我らに加護を……」
茜は杖を振りかざし神の加護を呼び寄せ、自分を含めた全員の傷を癒した。
「これで大丈夫なはずです」
「果たしてそうかな? ザガン、あいつを倒せ」
スカーレットがザガンに命じると、ザガンはデリサル目掛けて大斧を振り下ろした。
「しまっ……ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」
デリサルは避け切れずに攻撃をまともに食らい、回復したばかりなのに倒れてしまった。
「邪魔はさせないと言ったはずだ……。絶対に、君達を倒さなきゃ、吹雪は……。
マルコシアス、ザガン、あいつらを倒せ!」
スカーレットは歯を食いしばりながら、自身が使役する悪魔に命令する。
マルコシアスは獰猛な勢いで突進したが、アエルスドロは盾でマルコシアスの攻撃を防ぐ。
「ダークスラッシュ!」
「グギャアアアアアアアアア!!」
その隙にアエルスドロはマルコシアスに剣を振り下ろした。
鋭い刃がマルコシアスの首筋に深く刺さり、血が飛び散ると、
マルコシアスは悲鳴を上げて倒れ、消滅した。
「そんな、マルコシアス……!」
「次はお前だ、ザガン」
アエルスドロはすぐに次の敵に目を向け、ザガンの方へと駆け寄った。
戦闘不能になっているデリサルは何とか生き延びようと、
死の閾を越えないように必死に抵抗したが、運は味方しなかった。
彼の目の前が暗くなり、意識が遠のいていった。
「諦めないでください」
その時、デリサルの耳に少女の優しい声が届いた。
茜が彼にヒーリングをかけ、傷を癒して戦闘不能から復活させたのだ。
「あ、ありがとう、茜……」
デリサルは茜に感謝の言葉を述べ、レイピアを構えて再び戦闘に参加した。
「しっかり前を向くんだよ、ド・イグニ・マ・ギ・ド・ヴェン!」
レイは手にした杖から3本の炎の矢を放った。
炎の矢はザガンの胸、腹、腕に命中し、大きな火傷を負わせた。
ザガンは苦痛に呻きながらも、怒りと憎しみで目を赤く染めた。
そしてザガンは自分の命を顧みず、デリサルに向かって大斧を振り下ろした。
「ぐあぁぁっ!」
デリサルは先程よりも反応が遅くなっていた。
ザガンの攻撃を回避できず、大斧がデリサルの胸を抉り、デリサルは再び倒れた。
あと一歩でこの世を去るところだったが、デリサルは何とか気絶で留まった。
「デリサルが死ぬ前に、早くこいつを倒すぞ!」
アエルスドロは仲間の危機にもめげず、剣を振り下ろしたが、ザガンは素早く回避した。
「ラ・ロタ・ド・イグニ!」
レイは呪文を唱え、杖から炎の玉を放った。
呪文効果範囲を巧みに操作して、アエルスドロとデリサルを巻き込まないようにした。
ザガンは炎の渦に飲み込まれ、悲鳴を上げてぐったりとした。
「神よ、我が声を聞き傷を癒したまえ……」
茜は呪文を唱えて杖を掲げ、倒れているデリサルに回復魔法をかけた。
「危ない危ない、俺って何度も死にかけてるよな」
「アエルスドロさんを見習ってください」
茜とデリサルが話していると、ザガンは最後の抵抗を試み、
捨て身でアエルスドロに大斧を振り下ろした。
「俺を殺しかけた事、許さないからな!」
デリサルは素早く銀のレイピアを抜いて、ザガンの心臓を狙った。
しかし、レイピアはザガンの体に弾かれてしまい、
それどころか、デリサルはバランスを崩して転んでしまった。
「くそっ!」
「いけ、ザガン! とどめを刺せ!」
「させない……!」
スカーレットの命令でザガンはデリサルにとどめを刺そうとしたが、
その時、アエルスドロが割って入った。
アエルスドロは剣を振り回し、ザガンを二回斬りつけた。
一回目はザガンの肩に深い傷をつけ、二回目はザガンの首に掠めた。
アエルスドロはさらに怒涛のアクションを発動して、もう二回、剣を振り下ろした。
三回目はザガンの胸に突き刺さり、四回目はザガンの頭にめり込んだ。
「ギャアアアアアアアアアアアア!!」
そして、ついにザガンは倒れ、消滅した。
スカーレットは戦える悪魔を全て失い、戦意を完全に喪失してしまった。
「……僕の負けだ。さあ、僕を殺せ」
戦いに敗れたスカーレットは魔導書を地面に置き、両腕を大きく広げて降伏宣言をした。
彼の言い分を聞くならば殺すのが礼儀なのだが、
茜は自分と同じくらいの年の少年が、腐敗教団に従っている事に納得がいかなかった。
「殺しません」
「何っ、生き恥をかかせる気か?」
「違うんです。どうしてあなたが腐敗教団に従っているのか、私は知りたいんです」
「……いいだろう。冥土の土産に聞かせてやる」
スカーレットはどこまでも自らの死を望んでいた。
茜はスカーレットを哀れみながら、
スカーレットが腐敗教団の四神官の一員になった理由を聞いた。
スカーレットの両親は絵に描いたような善人で、誰からも好かれる人物だった。
しかし、心なき悪人にカモにされ、スカーレットの家は多額の借金を抱えていた。
ある日、木造の家が火事で焼け、家族は皆、重傷を負ってしまい、
スカーレットも大火傷を負ってしまった。
そんな時、腐敗教団の長・冬城吹雪が現れ、
スカーレットの火傷を治すため、彼の魂を自身が作ったホムンクルスに移す。
怪我の治癒と引き換えに吹雪はスカーレットを腐敗教団に引き入れ、
渋々ながら、スカーレットは神官となった。
その時、悪魔王サタンの力を宿した魔導書を得て、悪魔を操る術を身に着けた。
腐敗教団の目的を達成すればスカーレットの願いは叶うが、失敗すると破滅が訪れるという。
「……これで分かったか」
「はい……。ですが、彼を殺すわけにはいきません」
スカーレットはただの悪人ではなく、不本意で腐敗教団に加担していたのだ。
彼の過去を知った茜はスカーレットをさらに哀れみ、彼を生かそうとした。
しかし、アエルスドロは首を横に振り、剣を構えてスカーレットにとどめを刺そうとする。
「だが、こいつを生かしておくと、後々災いを残す事になるぞ」
「待って、アエルスドロさん、彼を殺してはいけません。生きて、罪を償ってほしいのです」
茜がスカーレットを殺そうとするアエルスドロを止めようとする。
スカーレットの過去が分かった以上、殺して終わらせるより、
罪を償わせるために彼を生かしたかったのだ。
「くそっ! 僕に同情する気か!? そんな事は許さないぞ……!」
「スカーレット……!」
茜の話も聞かず、スカーレットが自ら命を絶とうとした時。
―失敗したようだな。
スカーレットが持っていた魔導書の中から、不気味な声が聞こえてきた。
「な、何……? 失敗した……?」
「そんな……」
茜が慌てていると、突然、魔導書から影が現れ、呆然とするスカーレットを一瞬で包み込む。
そして、スカーレットを魔導書に封印すると、魔導書は炎に包まれて消えてしまった。
「……これが、敗れた悪魔使いの末路か」
「スカーレット……良い奴とも悪い奴とも言えなかったけど……こんな最期になるとはね」
「悪魔は契約者の魂を欲しがるから、当然だろうな」
アエルスドロ、レイ、デリサルは三者三様、スカーレットの最期について語った。
茜は罪を償ってほしかったスカーレットを失った事で、目に涙が浮かび上がっていた。
もし道を間違えなければ、同じ冒険者になれたのに、と茜は思っていた。
「……行きましょう、皆さん」
「ああ……決戦の時は、近い」