茜達は腐敗教団の四神官のうち三人を撃破し、最後の一人・静寂のスカーレットと対峙する。
悪魔使いのスカーレットはマルコシアスとザガンを召喚し、戦いを挑む。
激闘の末に茜達はスカーレットを倒すが、茜はスカーレットの過去を知り、哀れみを覚える。
しかし、スカーレットは悪魔使いの代償として、悪魔に魂を奪われてしまう。
茜達は悲しみを胸に、決戦に向けて旅立つのだった。
セイス、ゴードン、エクレア、スカーレットを倒し茜達はついに城の最上階に辿り着いた。
その玉座には、フードを被った威圧感のある男、腐敗教団の長――冬城吹雪が座っていた。
「あなたが……いえ、お前が腐敗教団の長、冬城吹雪なんですね」
茜は鋭い目で吹雪を見やる。
彼こそ、腐敗教団を裏から操り、世界を破滅させようとする黒幕なのだ。
決して情けをかけてはならないと茜は感じた。
茜に睨まれたと分かると、吹雪はゆっくりと玉座から降りる。
その身体からは、目に見えるほどの威圧感を漂わせており、
アエルスドロ、レイ、デリサルは一瞬身を竦めた。
「私を止めるようだな。
愚かな……お前がここに来た理由を知らないままに私を討ち取ろうとは……」
「……どういう事ですか」
茜はなおも、真剣な表情のまま吹雪を睨む。
アエルスドロ達も、決して吹雪から目を離さなかった。
ここまで彼らが敵意を持つと分かった吹雪は、ふぅ、と一息ついて、事情を話した。
「私もお前と同じ、異世界からの転生者なのだ」
「え……?」
全ての黒幕である吹雪が転生者だと知り、茜の口から、声にならない声が漏れる。
「私は元々、別の地球のA部隊……姉上が隊長を勤めていた部隊の隊員だった。
だが、そこにいた怪物から姉上を庇って死に、お前がいた世界に転生したんだ」
生前の吹雪は、何でも食う怪物が暴れていた地球で姉の冬城アスカと共に怪物を倒していた。
しかし、アスカが怪物の不意打ちを受け、殺されそうになった時、
吹雪がアスカを庇って代わりに命を落とした。
だが、何の因果か、吹雪はここ、アルカディアに転生したという。
「まさかお前が実在したとは思わなかったよ」
「……でも、どうして私がこの世界に……」
「あの世界でお前は一度、フェリドに首を切られた。お前の肉体と魂は真っ二つになったらしい。
お前の魂が虚空に着いた事を知った私は、
生前の知識を生かして何とかお前の魂を現世に呼び戻し、ホムンクルスの身体に宿した」
吹雪の言葉によって、茜がこの世界に来た真相が判明した。
フェリドに殺された茜の魂はアルカディアに流れ着き、
他でもない、黒幕の吹雪によってホムンクルスに転生した。
茜の身体は、吹雪が作った偽物の身体だったのだ。
「君がここに来たのは、あいつが原因だったんだな」
「何だか……辛そうだね……」
「きっと、打ちひしがれているだろうな……」
アエルスドロ、レイ、デリサルは、
事実を知らされた茜が衝撃を受け、戦いをやめてしまうのかと思った。
だが、茜から帰ってきた答えは意外なものだった。
「そっか。私、やっぱり死んじゃったんですね」
自分が元の世界で死んだという事実に、茜は大して驚かなかった。
フェリドの一撃を食らった事は、心が覚えているのだから。
「何? 驚かないのか?」
「あんな世界で生きてたっていう実感があまりありませんでしたから」
茜達は元の世界では家畜同然の扱いを受けていた。
そのため、生きていた実感が沸かず、殺されたと分かっても当然だと思った。
「あんた、強いんだね」
「いえ……中身は普通の人間ですから。
でも、私をここに呼んだあなたが、どうして腐敗教団を率いてるんですか?」
「決まっている……“革命”のためだよ」
「革命?」
「今、世界は少しずつ崩壊しようとしている。
そのために私は錬金術でいくつものホムンクルスを作った。
四神官は優秀なホムンクルスだった。全員倒されてしまったのが惜しかったがね。
そして、君も私に仕えていたら、五神官となれていたが……いやはや、誠に残念だよ」
「なっ……! じゃあ、私達が相手してきたのは、全部ホムンクルスだったんですか!?」
確かに、セイスやエクレアを武器で攻撃しても、彼らからは血が流れなかった。
それも、彼らがホムンクルスだったなら納得いく。
「そう。私は錬金術師だから、ホムンクルスを創造する事くらい、簡単な事だ。
そして、私が腐敗教団の長になった理由、それは……」
吹雪が鋭い目で茜達を睨みつけると、静かに、しかし威圧感のある声でこう言った。
「全人類の肉体を一度全て滅した後、魂をホムンクルスに移し、不老不死にするためだ。
無論、私の今の身体もホムンクルスだ。悪くはないと思うが?」
要するに、吹雪は人類抹殺を目的として、腐敗教団を率いていたらしい。
そんな事をすれば、世界は茜達にとって悪い意味で大きく変わってしまう。
四人は全員、首を横に振って身構えた。
「……みんなを皆殺しにしようとするのは、フェリドとやっている事が同じでしたね」
「ああ、こんな奴なんて生かしておく価値はない!」
「たとえ転生者だとしても、人類抹殺は阻止する」
「負けるわけにはいかないからね! みんなのためにも、世界のためにもね!」
戦闘態勢を取った四人を見た吹雪は溜息をつくと、同じく戦闘態勢を取った。
「いいだろう。どちらが勝つか……決着をつけようではないか!
お前達が勝てば、腐敗教団はなくなる。
だが、私が勝てば、全人類の魂は私が作ったホムンクルスに宿るだろう!」
「絶対に負けませんよ、皆さん!!」
全人類を滅ぼそうとしている冬城吹雪との最終決戦が、始まった。
「せいっ!」
「おっと、遅いねぇ」
デリサルは素早く吹雪に近づき、銀のレイピアで一突きを狙ったが、吹雪は巧みにかわした。
「邪魔しないでくれよ。私にも冒険があるのだから」
「わっ、ぬぐああぁっ!」
吹雪は呪文を唱えて両手に鋭い爪を生やすと、デリサルを二度切り裂こうとした。
デリサルは一撃は辛うじて避けたが、もう一撃は深い傷を負った。
「ホムンクルスなんて作り物の身体、俺は嫌だ」
「理解できない。どうしてお前は、身体にこだわりを見せるんだ?」
「母親が頑張って産んだ身体を捨てるなんて、普通の人間じゃできないぜ!」
「そうだ! 私も呪われた出生だが、今はそれに誇りを持っている! クロススラッシュ!」
アエルスドロは吹雪に向かって突っ込むと、剣で吹雪を十字に二回斬りつけた。
吹雪のホムンクルスの皮膚は厚く、一撃は跳ね返されたが、もう一撃は吹雪の肩に刺さった。
「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」
「ぐぅぅぅっ……あぁぁぁぁっ!」
レイは呪文を唱え、後方から吹雪に魔法の矢を放った。
三つの魔法の矢が吹雪の胸に命中し、吹雪は胸を押さえて悲鳴を上げた。
「我らに神の加護を……colere du pouvoir!」
茜は仲間達に神の加護を与えるため、命中率と耐久力を上げる呪文、ブレスを唱えた。
全員の身体が輝き、力がみなぎった。
「そこまでして……お前達は死を望むのか……」
「そうではありません。死を避けたいあまりに、破滅するのが私は嫌いなだけなんです!
私は一度死にました……ですが、こうして生きているのは奇跡だと思っています。
起こらないから奇跡って呼ぶんです。奇跡を無理矢理起こすのは、破滅するだけです!」
「そうだ。だから、俺達はお前を倒す!」
デリサルは素早く吹雪に近づき、銀のレイピアで一突きした。
しかし、吹雪は攻撃をかわし、ホムンクルスの再生能力によって体力を回復する。
「見ろ、ホムンクルスになれば怪我をしてもすぐに回復する」
吹雪は爪を二回振り下ろし、アエルスドロに襲いかかった。
アエルスドロは一回は盾で防ぐが、もう一回は命中し、肩に深い傷を負ってしまう。
「だから一度死ななきゃいけないのか? そんなもの、お断りだ! ダブルスラッシュ!」
アエルスドロは剣を振り、吹雪を二回斬りつける。
一回は吹雪のホムンクルスの身体に弾かれるが、もう一回は腕に切り傷をつけた。
「ド・イグニ・マ・ギ・ド・ヴェン!」
レイは呪文を唱えて吹雪に向かって魔法の杖をかざした。
三本の炎の矢が飛んでいき、そのうちの二本が吹雪に命中した。
炎の矢が吹雪の胸と腹に命中し、炎が燃え上がる。
「うぐぁぁぁっ、熱い、熱いな……。これが痛み、というものだろうか……」
「そうですね。紛い物の身体だと、味わえないでしょうね。cadre sacre!」
「ぎゃああああああああああ!!」
茜は祈りを捧げ、吹雪に光の柱を降らせる。
吹雪は素早く動いてかわそうとするが、
神聖な光に捕らえられてしまい、激しい痛みに叫びながらダメージを受けた。
「お前の口からそんな言葉が出るなんて初めてだ。ホムンクルスの分際で……」
「そうですね……私の身体は今はホムンクルス。
でも、みんなのおかげで、生きてるって実感が湧くんです。
皆殺しにしてホムンクルスにしても実感が湧くはずがありません!」
茜は吹雪によってホムンクルスに転生した……つまり、茜は紛い物の身体を持って生きている。
しかしアエルスドロ達冒険者仲間によって、彼女は「生きている」という実感が湧いていた。
もしもう一度殺されれば、二度とそんな湧く事はない。
だから、茜は冒険者として、全人類を殺そうとしている吹雪を止めようとしているのだ。
「やはり私とお前達は理解できないようだな」
「そうだな!」
デリサルが吹雪に向かって銀のレイピアで刺すと、見事に吹雪の隙を突いて急所攻撃を決めた。
吹雪はホムンクルスの再生の力で傷を癒し、デリサルに爪を二回繰り出した。
デリサルは一回はかわしたが、もう一回は深く引っ掻かれた。
「クロススラッシュ!」
アエルスドロは剣を構えて吹雪に突進し、防御を無視して二回も斬りつけた。
「ダブルスラッシュ!」
さらに怒涛のアクションで吹雪に追撃し、
吹雪はアエルスドロの剣技に圧倒されて合計で四回も切り裂かれた。
「ド・ゲイト・ド……」
「させないぞ!」
レイは吹雪に呪文を唱えて凍らせようとしたが、
吹雪に邪魔されて魔法が暴発してしまい、自分の足元に氷を作って滑って転んでしまった。
茜は大急ぎで傷ついているデリサルに駆け寄った。
「大丈夫ですか……今、治します。vie force!」
「ああ……助かる、茜」
茜はデリサルの深い傷を見て心配し、回復魔法を唱えた。
デリサルは茜の神聖な言葉によって、傷が癒されるのを感じた。
「……どうやらお前達は不死を否定したいようだな」
「当たり前です、限りある命を一生懸命に生きるのが私達、ヒトの宿命ですから……」
「だから、俺達はお前を止めるんだよな!」
そう言ってデリサルは再び、レイピアを持って吹雪にとどめを刺そうとしたが、
吹雪は素早く身をかわし、力を回復した。
そして茜とレイを睨みつけると、呪文を唱える。
「コーン・オヴ・コールド」
吹雪の両手から、強烈な勢いで冷気が放たれる。
「ぐっ……なんて寒さでしょう……!」
「こいつ、魔法も持っていたのか……!」
茜とレイは凍てつくような痛みに襲われた。
レイは何とか踏ん張って耐えたものの、茜は耐え切れずに倒れ、
彼女がかけていたブレスの呪文も解けた。
「……神よ……」
茜は死にゆく意識の中で神に祈ったが、神の声は聞こえなかった。
彼女は徐々に、二度目の死に近づいている事を感じた。
「死んだか。だから不死にしてやると言ったのに……いや、お前はもう不死になっているか……」
吹雪は倒れている茜を見限り、残りの三人にとどめを刺そうとする。
アエルスドロはぐっと吹雪を睨みつけると、剣を振りかざし、二回斬りつけた。
しかし、ホムンクルスの身体に阻まれ、一回しか切り裂けなかった。
「ラ・ロタ・ド・イグニ!」
レイは呪文を唱えて炎の球を放ち、呪文効果範囲操作で仲間に当たらないようにした。
吹雪は炎の球をかわしはしたものの、
かすり傷でも火傷を負い、吹雪の体力は残り僅かになっていた。
「ぐ……うぅぅっ、うっ……」
「そろそろだな……とどめだ!」
デリサルは吹雪に向かって銀のレイピアを突き刺した。
彼は自信に満ちた笑みを浮かべながら、有利な攻撃を行った。
吹雪の防具をすり抜けるようにレイピアが刺さり、彼の急所を突き刺し、瀕死にした。
「茜! とどめを刺すなら今だ! そこで寝ているんじゃない!」
「あ……デリサル、さん……?」
デリサルの声を聞いた茜は瀕死の状態で何とか立ち上がる。
そして、ゆっくり、ゆっくりながらも、確実に茜は吹雪に近づいていった。
「私は諦めません……あなたに、勝つまでは……」
「どうしても、不老不死を諦めたいのか……?」
「あなたが不老不死にしたいという気持ちは、確かに善意でしょうが、私達にとっては悪意。
だから私は、この清純な心をもって、あなたの悪しき心を打ち砕きます!
悪しき心は、良き心が浄化する……これで終わりです。トゥルーハート!!」
茜は瀕死の吹雪に向かって、自身が持つ光の力、トゥルーハートを発動した。
彼女の清純な心が吹雪の邪心を滅する光となり、吹雪に向かって飛んでいく。
光が吹雪に命中すると大爆発が起こり、吹雪は叫び声を上げていたが光の中に消える。
そして光が消えると、吹雪の姿も跡形もなく消えた。
「……これで、本当に終わり、ですね……」
戦いに勝利した茜は杖を足代わりにして、何とか、立ち上がった。
今、ここに茜達の戦いが終わりを告げたのだった。