百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達はついに腐敗教団の長・冬城吹雪と対峙する。
吹雪の正体はとある未来の地球でA部隊を率いていたアスカの弟で、
茜と同じく異世界から転生したホムンクルスだった。
彼は姉を庇って命を落とした事をきっかけに、全人類をホムンクルスにしようと企む。
茜は吹雪の目的である人類抹殺を阻止しようと、仲間と共に最終決戦を挑む。
激しい戦いの末、茜達は吹雪を倒し、世界を救うのだった。


第32話 戻ってきたフルサト

 世界を死から解放しようとした冬城吹雪は、自身が嫌っていた死という終わりを与えられた。

 茜の光の心によって、吹雪が持っていた闇ごと、吹雪を消し去ったのだ。

 

「これで、腐敗教団が侵攻する事は、もうなくなりましたね……」

 腐敗教団の長が倒された事で、もう悪さはしないだろうと茜は確信する。

 アエルスドロ、レイ、デリサルは、この城から魔物の気配が消えていくのを感じ、戦いが終わった事を実感した。

「ああ……私達の勝ちだな。本当に、世界は平和になったんだ……」

「そうさ……あたいらは、腐敗教団に勝ったんだよ。世界を、みんなを、守り切ったんだよ……」

「全部……終わったんだな。これで安心して、お宝を探せるぜ……」

 四人は戦いの疲れからか、へたりと座り込む。

 全ては終わり、平和が取り戻される……四人がそう思った、その時。

 

―ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「!? なんだ!?」

 突然、城が大きく揺れたかと思うと、あちこちの壁が崩壊していった。

 壁だけでなく、床や空間にも罅が現れ、その罅は徐々に大きくなっていく。

「まずいね……腐敗教団の長を倒したから、この城が崩壊しようとしてるんだよ」

「そ、そんな……!」

 吹雪は最後っ屁として、茜達を道連れにしようとしていたらしい。

 このまま城の崩壊に巻き込まれれば、茜達は命を落としてしまう。

 茜達は大急ぎで立ち上がり城からの脱出を図った。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……」

 茜達は脇目も振らず、城から脱出しようとする。

 魔物の気配が消えたとはいえ、城の中は広く、下手をすると迷ってしまいそうだった。

「残ってるお宝はあるかな~?」

「何やってんだい、ぼさっとしてると死ぬよ!」

「おっと、危ない危ない」

 こんな調子で本当に良いのかと、レイは呆れながらも急いでいた。

 そうしている間に、城の崩壊は徐々に進んでいく。

 茜達が走っていた階段の後ろは、既に崩壊して完全に消えてしまっていた。

 もしあれに巻き込まれたらと思うと、茜はぞっとしていた。

 これなら、吸血鬼に殺された方がマシかもしれないと思った。

 

「早く急いで逃げなきゃ!」

 茜達は迷いながらも、城の入り口に向かって走る。

 一番足が速いデリサルならともかく、レイは身体が小さいので走るのが遅い。

 案の定、後ろに遅れてしまっていた。

「レイ、しっかり走れよ!」

「これでも、全力で走ってるんだよ!」

「ああもう……俺が引っ張るから!」

 デリサルはレイの手を引っ張り、全力で走る。

 四人は全力で、城から脱出するために走り続けた。

 それ以外は何も考えず、城から脱出し、生きて帰ってくるために。

 

 やがて四人は入り口まであと少しのところに走り、真っ直ぐ走れば脱出できる……と思った時。

 

「きゃあっ!」

 茜がつまずいて転んでしまった。

 崩壊は後ろまで迫ってきており、茜を飲み込もうとしていた。

「助けなければ!」

 アエルスドロは大急ぎで茜に駆け寄り、転んでいる茜を引っ張り上げる。

 崩壊はさらに進み、柱は崩れ、床は消えていく。

 茜とアエルスドロは、城の崩壊に巻き込まれようとしていた。

「何やってんだい! 二人とも死ぬんだよ!? 早く逃げなきゃいけないよ!」

「そうだぞ、城と共に果てる気か!?」

「いえ……私達は、絶対に死にません。絶対に、死ぬわけにはいきません!」

 茜は気合で立ち上がり、アエルスドロと共に、崩壊する城を脱出するために足を動かす。

 城が崩壊するスピードは速まっていたが、茜とアエルスドロは、決して諦めなかった。

 絶対に生きて帰る……ただその気持ちだけが、茜とアエルスドロを動かしていた。

 怪我をしながらも必死で城の入り口に走っていく、

 その様子にレイとデリサルは何も言えなかった。

 

「間に合いました……!」

 城が完全に崩壊するまさにギリギリの瞬間、茜とアエルスドロはレイとデリサルに合流した。

「さあ、早く脱出するぞ!」

「はい!」

 そして茜とアエルスドロはレイとデリサルと共に、崩壊していく城を脱出する準備に入った。

 茜が杖を構えて呪文を唱えると、脱出用の魔法陣が現れる。

 そして四人が魔法陣に乗ると、四人の姿はあっという間に消えていった。

 

「何とか、脱出できましたね……」

「ああ……ギリギリだったが、な……」

 四人は何とか、腐敗教団の拠点の城から脱出した。

 上空にあった城は、まるで幻のように消えていき、数分後に完全に姿を消した。

「ああ……安心したら、疲れちゃいました……」

 ようやく脱出した事に茜は安堵し、杖を持ちながらぐったりとした。

 顔には疲労が見えており、腐敗教団との戦いが激しかった事を物語っていた。

「お疲れ様。じゃあ、帰って休もうか」

「……そう、ですね」

 

 こうして、腐敗教団との戦いを終えた茜達は、ガルバ帝国のナガル地方に戻っていった。

「本当にお疲れ様としか言いようがありませんわ」

 最初に四人を出迎えたのは、領主のマリアンヌ。

 彼女は、腐敗教団と戦った四人を、心から労うような笑みを浮かべて言った。

「はい……本当に、ありがとう、ございました……」

 茜はぜぇぜぇと息を切らしながら言う。

 戦いが激しかった事は、それだけでマリアンヌは分かっていたため、

 すぐに茜達を休ませる準備に入った。

「皆様、腐敗教団から世界を救った茜達を、今日は思いっきり休ませますわよ!!」

(……思いっきり、休ませる……?)

 

 翌日――

 

「おはようございます」

 休息を終えた茜が、ベッドから起き上がる。

 アエルスドロ、レイ、デリサルもベッドから起き、今、着替えの準備に入ろうとしていた。

 しばらくして四人が着替えを終えると、ファルナが朝食を作っていた。

「今日はサイコロステーキ定食だよ。パンかライス、どっちか選んでね」

「わあ、美味しそうですね!」

「世界を平和にしたんだから、その記念に豪華な食事じゃないとね!」

 朝食にサイコロステーキ定食とは何とも贅沢だが、世界を救ったのだから何も文句は言わない。

「ありがとうございます……それじゃ、私はパンでお願いします」

 

 こうして、皆はファルナが作ったサイコロステーキ定食を食べようとした。

「いただきます」

 食事の前には手を洗い、挨拶も忘れない。

 これは、地下都市サングィネムにおいても、茜は決して忘れなかった事である。

 茜はナイフとフォークを何とか使って、野菜を食べた後、サイコロステーキを食べた。

「本当に美味しいな……世界を救ったから、味は格別ですね」

「ああ、サイコロステーキはとても美味い」

「あたいは肉はちょっと苦手だけど、これくらいなら食べられるね」

「何だか、ますます冒険心が高まってきたぜ」

「はっはっは! そう言われるのは慣れたけど、やっぱりウチの料理は最高だよね!」

 ファルナのサイコロステーキ定食を高評する茜達を見たファルナは、大笑いしていた。

 

「それじゃあ、茜はこれからどうするんだ?」

 朝食を食べ終わった後、アエルスドロはこれからの事を茜に聞き出す。

 茜は異世界から魂だけがやってきて、黒幕が作ったホムンクルスの身体に宿っている。

 なので、本来なら立ち去るべきだとアエルスドロは思っていたが、

 茜から来た返答は異なっていた。

「私はもうしばらくこの世界にいます。

 本当なら元の世界に帰りたかったんですが、この状況だと帰っても何もいい事はありませんし」

 茜は故郷に帰った時、既に世界は変わってしまい、

 家族の仇であるフェリドも完全に滅ぼす事はできなかった。

 しかも、再会した優一郎とミカエラと話す暇もなく茜はこの世界に戻ってきてしまった。

 なので、今更故郷に帰ったとしても、何もいい事はないと思っていた。

「そうか……やっぱりここが気に入ったんだな」

「はい。皆さんは優しいですし、何より、たくさんの冒険をしました。

 また新しい冒険ができると思うと、故郷に帰りたくはありません」

「随分ここにも慣れてきたものだねぇ、アカネ」

「レイさんの知識、冒険に役立ちましたよ。デリサルさんも、罠をよく探してくれました」

「おっ、俺を褒めても何も出ねぇぞ?」

 茜に褒められたデリサルの顔が、少し赤くなった。

 それを見た茜は、「ふふふっ」と微笑んだ。

 

「それじゃあ、あたいは色んな知識を探すために、ここを出て、フェーン王国を冒険していくよ」

「俺も、レイと一緒に冒険する道を選ぶ。もちろん、お宝は探し続けるぞ」

 レイとデリサルの行く道が決まったようで、茜はにっこりと微笑んだ。

 ふと、文官らしき金髪のエルフが、何も言わずに茜に手紙を差し出して去っていく。

「手紙……?」

 茜がその手紙を開いてみると、差出人の名前に思わず目を見開いた。

 

 茜ちゃん、そっちの世界でも元気にしている?

 僕はあの時、フェリドに殺されかけたけど、吸血鬼として生かされる形で生き残った。

 もう人間じゃなくなった僕だけど、君を含めた家族は、ほんの僅かだけど覚えている。

 吸血鬼になったら強い思い以外は消えちゃうから、その前に僕は君にこの手紙を書いた。

 もう、百夜孤児院の家族達とは会えなくなっちゃうかもしれない。

 でも、優ちゃんだけでも逃げてくれたし、僕も違う形だけど生きている。

 もう駄目だ、何も思い出せなくなる、何も分からなくなってしまう、

 その前にきちんと残しておかなきゃ。

 最後になるけど、茜ちゃんが作ったカレー、とっても美味しかったよ。

 僕はもう血しか飲めなくなっちゃったけど、その分を優ちゃんにたくさん作ってあげてね。

 君が好きだった 百夜ミカエラ

 

「ミカ……私の事を覚えてくれてたんですね……!」

 手紙の差出人の名前を見た茜は、嬉しさのあまり手紙に涙を落とす。

 想いを寄せた相手は既に吸血鬼になっていたが、自分の事を覚えてくれていて、涙が出る。

 手紙は、涙でびしょびしょになろうとしていた。

「アカネ、一体どうしたんだ?」

「あ、いえ……その、何でもありませんよ」

 アエルスドロが心配して駆けつけると、茜は急いで手紙を隠し、涙を拭った。

 しかし、茜が涙声なのをアエルスドロは見破り、唇に人差し指を当ててこう言った。

「よほど君にとって嬉しい事でもあったんだろうな」

「……」

 茜は涙目のまま、何も言わなかった。

 ミカエラが吸血鬼になったとしても、自分を気にかけてくれた事が、

 茜にとってとても嬉しかったのだ。

 

 こうして、アルカディアに転生した茜の、世界を巡る大冒険はひとまず幕を閉じた。

 最初は何もできずに吸血鬼にその命を奪われた茜だったが、来世で神官の力を得て冒険をした。

 ダークエルフの剣士、モントゥの魔導師、半悪魔の盗賊との出会いや、

 様々な人物との出会いと別れは、茜にとって素晴らしい思い出となるだろう。

 茜が本当に故郷に戻ったとしても、この思い出は決して忘れる事はないだろう。

 たとえ、茜が本当の人間ではなくなったとしても。

 

 ひとまず世界が平和になっても、茜の冒険は終わる事はない。

 その命が、アルカディアで本当に尽きるまで――

 

 百夜茜が理想郷に転生した件

 ~完~




これにて「百夜茜が理想郷に転生した件」の第1部はおしまいです。
原作で茜の生首が出て「うっ……」となったので、茜はホムンクルスに転生させました。
ラスボスは別作品のキャラの血縁者という多重クロスにしました。
アルカディアをベースにしたお話はまだまだ続きますので、お楽しみに!
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