百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

レイは運が良くなるツアーを行い、冒険がスムーズに進むと思われたが、ヒルダが現れる。
ヒルダは禁断の秘術で魂を本体にし、擬似的な不老不死を実現したが、
魂のバランスを崩してしまい性格が歪んでしまう。
ヒルダはサイクロプスを召喚し、茜達は苦戦するが、何とか倒す。
レイはヒルダと自分が同じ師匠に学んだ姉妹弟子である事を明かした後、
茜達は次の目的地、風のエレメントがある風の砦に向かうのだった。


第9話 風のトリデ

 茜達は風の砦に行くため、そこに近い西の林を歩いた。

 サイクロプスと戦った傷をもう少し癒すため、四人は林の木陰で小休憩を取った。

 

 西の林は風の砦に向かう途中の一時的な避難所である。

 木々の間から差し込む日差しは、ソルクシスの加護を感じさせる。

 茜は仲間達に火を起こすのを手伝った後、祈りの時間に入る。

「神に感謝し、私達の旅路を守ってくださるようお願いしなくては……」

 茜は聖印が描かれた盾を胸に押し当てた。

 彼女の顔には最早不安や孤独の影はなく、ただ純粋な信仰心が溢れていた。

 アエルスドロは茜の祈りに興味を示さず、自分の荷物から記念の品を取り出した。

 彼がアンダーダークから逃げ出した時に持ってきた唯一のもので、

 黒い石でできた小さな蜘蛛の像だった。

 アエルスドロはその像を掌に乗せて眺める。

 彼の目には、故郷の惨状や迫害の記憶が浮かんでいた。

「……みんなが何を信じているのか、まだ分からない」

 アエルスドロは誰にも聞こえないように小さな声で、自分の考えを口に出した。

 

「なあ、アエルスドロ。何を見てるのかい?」

 レイは、アエルスドロの手にある像に興味津々だった。

 彼女は、それが高価なものかどうかを見極めようとしていた。

 アエルスドロはレイの質問に驚いて、像を隠そうとした。

「これは、私のものだ。君には関係ない」

 アエルスドロはレイが自分のものを盗もうとしているのではないかと疑っていた。

 レイは、アエルスドロの反応に不満そうにした。

「ちょっと、そんなに怒るなよ。ただ、気になっただけだよ」

 

 デリサルは、レイとアエルスドロのやりとりを見ていた。

「レイ、アエルスドロに気があるのか? それとも、ただの好奇心か?」

 デリサルはからかうような口調で言うと、レイはデリサルの言葉に赤面する。

「何だい、デリサル。あんたは、いつも人の事をからかってばかりじゃないか。

 自分の事は棚に上げてる癖に」

「レイ、俺はただ、からかってるだけで悪気はない。

 それに、自分の事は棚に上げてなんかいないぜ」

 デリサルは、レイと仲間同士とはいえ、彼女に自分の事を知られたくなかった。

 茜はレイとデリサルの口論に気づいて仲裁に入る。

「二人とも、こんな事で喧嘩しないでください。私達は仲間ですよ。

 仲間は助け合わなくてはなりません」

「ああ、素晴らしいな、アカネ」

 アエルスドロは茜の言葉に感心し、彼女に賛辞を送った。

 レイとデリサルは、互いに顔を見合わせて苦笑いした。

 彼らは、仲間である事を認めざるを得なかった。

「アカネ、アエルスドロ、すまないねぇ。あたいら、ちょっと気が短いんだ。

 でも、本当は仲間の事を大切に思ってるんだよ」

「そうだな、レイ。俺もすまない。

 俺達は同じ目的のために旅をしてるから、仲間として、協力しよう」

「よかったですね、二人とも。私達は仲間ですから」

「そうだな……こうして話すと、気分が良くなりそうだ」

 こうして、休憩を終えた四人は、再び風の砦に向かって出発した。

 

 西の林を潜り抜けた先にあったのは、

 長い年月が経過して風化したのだろう、ボロボロになった砦だった。

 各地には人が住んでいた痕跡があり、ここが遺跡でもあるのを物語る。

「ここが風の砦……。ここに、風のエレメントがあるんですね」

 風のエレメントはラファエルが姿を変えたものであり、

 恐らくここに、ラファエルが住んでいるだろう。

 城門へ向かう道以外は急勾配の崖になっており、堅牢さは未だ健在のようだ。

 その城門の前にはハーフオーガらしき人影が見えており、

 この砦がただの廃墟ではない事が分かる。

(ここか……)

 城門に近づくと、すぐ傍に半人半鬼が退屈そうにしながら見張りに立っている。

 四人は運良くハーフオーガの死角に潜り込み、彼らの気を逸らして進んだ。

 早速風の砦に入った茜は、まず、一人で食糧庫を調べようとする。

 この建物の脇には大きな壺がいくつも置かれ、全て水が溜まっている。

 入り口近くには、背負子や小さな荷車も置かれていた。

(美味しそうな食べ物……。全部持っていきましょう)

 茜は30日分の保存食を見つけ、懐にしまおうとしたが、重量オーバーに気づく。

 仕方なく茜は8日分だけ持っていき、残りの22日分は置いていった。

「皆さん、ここに保存食がありますよ」

 小声で茜が伝えると、三人はそっと、食糧庫に向かい、保存食を回収した。

 

 次に、四人は風の砦で一際目立つ宿舎を見つけた。

 ここは砦の他の建物よりも少し大きく作られていて、

 壁にはいくつか木製の窓が備え付けられており、中で騒いでいるような声が聞こえる。

 中にいたのはグリーンインプであり、悪魔の影響か強くなっていたが、

 賭け事に夢中で気づいていなかった。

 デリサルはこっそりグリーンインプに近づいてレイピアで刺そうとしたが、

 グリーンインプの外皮に阻まれる。

 アエルスドロはグリーンインプに向かって炎の剣を振りかざした。

 剣は鱗にかすり、火花を散らした。

 グリーンインプは痛みに吠えたが、すぐに反撃に出た。

 しかし、アエルスドロは運が良くなるツアーに参加したおかげで、敵の爪をかわした。

 そして、もう一振りの剣でグリーンインプを切り裂き、

 炎が傷口から噴き出してグリーンインプは倒れた。

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 レイは杖を構え、グリーンインプに狙いを定めて呪文を唱えた。

 氷の矢が飛んでいき、グリーンインプの胸に命中し、身体が凍り付いた。

「はっ、いい気分だね!」

 レイは満足げに笑った。

 デリサルは警戒を促す剣を握り締め、もう一度、グリーンインプに近づいた。

 剣はグリーンインプの動きを予測し、デリサルに合図を送った。

「そこかっ」

 デリサルは剣でグリーンインプを刺そうとしたが、グリーンインプに避けられる。

 怒りを感じたデリサルだが、剣は「落ち着け」と囁き、デリサルは再び、攻撃の機会を待った。

「cadresacre!」

 茜は呪文を唱え神聖な炎を呼び出し、グリーンインプに投げつけると燃え上がる。

「ド・ニイス・ラ・テネブ・デ・グラブ!」

 グリーンインプのリーダーは怒りに震え、茜に恐ろしい呪文をかけた。

 幻術が茜の心に侵入し、彼女にとって最も恐れるもの――フェリド・バートリーの姿を見せた。

 生前に子供達の命を奪った、あの忌まわしき吸血鬼だ。

「くっ……あれは、幻のフェリド……!」

 茜は恐怖に震えたが、自分を奮い立たせ、呪文に抵抗した。

「ド・トニト・ド・テネブ!」

 もう一匹のグリーンインプはアエルスドロにパラライズをかけ、筋肉を固めた。

 グリーンインプはアエルスドロに迫り、爪で引き裂こうとした。

 しかし、アエルスドロは運が良くなるツアーのおかげで、敵の攻撃をかわし、生き延びた。

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒ……」

 四匹目のグリーンインプはレイに悪意のこもった言葉を投げつけた。

 レイは運が良くなるツアーによって、グリーンインプの嘲笑に耐えた。

「moindrerestauration!」

 アエルスドロは茜の呪文で麻痺から解放され、再び戦闘に参加した。

「ラ・ロタ・ド・イグニ!」

 レイは強力な火炎弾を放ち、三体のグリーンインプを一網打尽にした。

 その衝撃で木製テーブルが燃えてしまったがレイの魔法制御で茜達はダメージを受けなかった。

「これで」

「とどめです!」

 デリサルは剣で、ようやくグリーンインプのリーダーを仕留めた。

 そして茜は神聖な炎で最後のグリーンインプを焼き尽くし、戦闘を終えた。

 

「やりましたね、これでエレメントに繋がる鍵が手に入ります!」

 四人は勝利を喜び、互いに労をねぎらった。

 彼らはグリーンインプの部屋を探索し、いくらか使えそうなアイテムを見つける。

 燃えた机の残骸の傍に、賭けに使われた金貨と銀貨が見つかり、

 デリサルはそれらを全て回収する。

 茜はグリーンインプが落としていった扉の鍵を手に入れた。

 

 次に四人が向かったのは倉庫だった。

 小さな石造りの建物の周囲にはゴミやガラクタが散乱している。

 建物に窓はなく、扉には鍵がかかっている。

「よっし、鍵を開け……おっと、罠だ」

 流石に盗賊というだけあってデリサルは扉に仕掛けられた罠に気づき、

 器用な手先を生かして罠を解除、ついでに鍵も開けた。

「勇者と戦士と僧侶と魔法使いだと、罠に対応しにくいですもんね」

 そう言いながら、茜は倉庫を探索する。

 中にある物のほとんどはガラクタばかりで価値の薄いものの、300ゼニーが入ったポーチ、

 ハンドアックス、90ゼニー相当の価値がある銀細工が見つかった。

 デリサルはお金を全て回収し、アエルスドロはハンドアックスを得た。

 

 倉庫の探索を終え、四人は風の砦で最も大きく、そして最も朽ち果てていない建物を見つける。

 かつては居館として砦の兵士に利用されていたのだろう。

 入り口の大きな両開きの扉はしっかりと閉ざされている。

「鍵は……かかってないみたいだな」

 どうせノックをしたって、ここは魔物が蔓延る砦だ。

 アエルスドロはノックをせずに扉を開けて、砦の守衛室に入った。

 部屋の隅に机と椅子が並んでおり、壁には松明が掛けられている他、

 粗末な武器が立てかけられている。

 

「シンニュウシャダ!」

「ヤッツケル!」

 片言喋りで斧を携えたハーフオニクスが、守衛室に四体いる。

 人間と悪鬼オニクスの混血であるハーフオニクスは、醜く恐ろしい容貌をしていた。

 こちらに敵意を見せている事は明らかであった。

 ハーフオニクスは茜達を見つけると、侵入者を排除しようと襲いかかってきた。

「はぁぁぁぁっ!」

 アエルスドロは炎の刃を振り回し、ハーフオニクスの一団に襲いかかった。

 彼は敵の隙を見逃さず、一撃でハーフオニクスの首を切り落とす。

 血と火が飛び散り、アエルスドロはさらに前に進んだ。

 デリサルは素早い動きでハーフオニクスの背後に回り、警告の響きを持つ武器で突き刺した。

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 レイは呪文を唱えて冷たい光を放ち、ハーフオニクスに向けて撃つ。

 彼女の魔法は運命の加護を受けて、敵の防御を貫き、ハーフオニクスの体は凍りつく。

「cadresacre!」

 茜は神聖な炎を呼び出し、ハーフオニクスに降り注がせ、ハーフオニクスは灰となって消えた。

 

「グオオオオオオ!」

「ヨクモヤッタナ!」

 二体のハーフオニクスは怒りに燃えて突進する。

 ハーフオニクスはレイを狙って、バトルアックスを振り下ろした。

「あぁぁっ!」

 レイはかわそうとしたが間に合わず、深い傷を負って地面に倒れた。

 二体目のハーフオニクスは茜に襲い掛かったが、

 不運にも自分の足にバトルアックスを当ててしまった。

 その隙にアエルスドロは二体目のハーフオニクスに近づき、容赦なく炎の刃を振るった。

 二度と敵に立ち上がらせないように両手両足を切り落とし、ハーフオニクスは血の海に沈んだ。

「大丈夫か、レイ!」

 デリサルはレイのもとに駆け寄る。

 彼は巧みに敵の攻撃をかわしながら、ハーフオニクスに一突きした。

 ハーフオニクスは傷口から血を流したが、まだ戦意を失っていなかった。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 瀕死のレイは必死に息を吸おうとしたが、血が喉に詰まった。

 レイが死を覚悟したその時、暖かい手が彼女の胸に触れた。

「大丈夫ですか、レイさん。今、私が治します」

 茜は神の力を借りて、レイの傷を癒した。

「……ありがとね」

 レイは目を開けて茜に感謝の言葉を呟き、再び立ち上がった。

 ハーフオニクスはレイを再び狙って、バトルアックスを振り上げた。

 その時、アエルスドロがハーフオニクスの背後に現れ、

 炎の刃でハーフオニクスの首を切り落とし、ハーフオニクスは全滅した。

 

「どうやらここが、風の砦の中みたいですね」

 辺りを見渡すと、そこはボロボロながらも中はしっかりしている。

 そこが風の砦である事は、茜だけでなくアエルスドロ達も分かった。

 この中にきっと、風のエレメントがあるはずだ。

 茜達は気を引き締めて、風の砦の探索に臨むのだった。




フラルグ、オニクスと聞いた事がない言葉がこの小説にありますが、
元の言葉を大人の事情で変更したからです。
フラルグは真なる銀、オニクスはゴブリンと似て非なる悪鬼の魔族です。
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