百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達は風のエレメントを探すためにフェーン王国に戻った。
そこでパーヴァルという貴族からザルバードを倒す依頼を受ける。
彼らは森でザルバードを見つけて倒し、パーヴァルから報酬を受け取る。
その後、水の神殿にある、水のエレメントを探しに行くのだった。


第12話 水のシンデン

 フェーン王国の宿屋で休んだ茜達は、

 水のエレメントを探すべく、水の神殿の情報を収集していた。

 

「うーん、水の神殿ってどこにあるんでしょうかね」

「とりあえず、酒場で情報収集しなよ。色んな冒険者がいるからさ」

「まあ、その方が手っ取り早いですしね」

 

 茜達は酒場に行き、水の神殿の情報を収集した。

「水の神殿は、フェーン城の湖の近くに浮いてるみたいだよ」

「でも、泳げる人がいないと行けないとか……」

 

 冒険者の情報によれば、水の神殿はフェーン城の湖にあるらしい。

 鎧を着ている茜は泳げるかどうかは微妙だが、行ってみる価値はありそうだ。

 茜達は水のエレメントを探すべく、フェーン王国のフェーン城の湖に赴いた。

 湖の奥には大きな神殿があり、いかにも何かがありそうな雰囲気だ。

「ここに、水のエレメントがあるのですね。私、泳げるかなぁ」

「やってみなければ、分からないだろう」

 静かな湖面が、茜達の泳ぐ波紋で揺れる。

 茜はじっと、フェーン城の湖を見つめていた。

「どうした、泳がないのか?」

「アエルスドロさんが、先にやってください」

「……仕方ないな。私に続けよ!」

「はい!」

 アエルスドロは力強いストロークで水を切り、茜も彼に続く。

 二人はまるで水の精霊のように、水の神殿へと向かって優雅に泳いだ。

 デリサルは慎重に泳ぎ始め、その素早さを活かして水面を滑るように進むが、

 やがて息が上がり始める。

 彼の動きは遅くなり、ギリギリのところで岸辺に辿り着いた。

「はっ、はっ、はっ……魔導師は運動が苦手なんでねぇ……!」

 一方、レイは水に馴染みがないようで、必死に手足を動かしながらも沈みかける。

 しかし、彼女の意志は強く、溺れる寸前で何とか自力で泳ぎ切り、仲間達の元に合流した。

「はあ、はあっ……な、何とか、間に合った、よ……」

 レイは湖を泳いだ疲労により、体力が減った。

 魔導師、しかもモントゥの彼女は、運動が得意でないようだ。

「お疲れ様。じゃあ、水の神殿に入ろうか」

「……そう、だねぇ」

 レイがふらふらと歩きながら、水の神殿に入ろうとし、

 茜、アエルスドロ、デリサルも彼女に続いた。

 しかし、神殿の入り口の扉は固く閉ざされていた。

 神殿の入り口には壁に埋め込まれた複数の石造りの水車と、

 それぞれ異なる方向に水を流す事ができる水路がある。

 水車を回転させて水の流れを変え、全ての水車が同時に動くようにしなければならない。

 

「どうやらあの水車を動かすと、水路が変わるみたいですね。

 水の流れは、こんな風になっているのか……」

 茜は水車と水路の現状を観察し、水の流れもよく見る。

 各水車には特定の記号が刻まれており、それぞれが特定の方向に水を流す事を示している。

 ふと、デリサルは水車を回転させるレバーを見つける。

「これを正しい順番で操作すれば、扉が開くみたいだな。よっと」

 デリサルがレバーを確認すると、

 取っ手の部分にそれぞれCold、Freeze、Defrostと書かれている。

 Defrost、Cold、Freezeの順番にレバーを動かすと、水車が同時に動き出し、扉が開いた。

「お、正解だ」

「やりましたね!」

 冷たい順にレバーを倒せば、扉の鍵は開いたらしい。

 茜達は扉を開けて、水の神殿に入った。

 

「ここが水の神殿ですか。不思議と息ができます」

 水の神殿の入り口に入った茜は、呼吸ができる事に驚いた。

「ここは精霊の加護を受けているからね。人間でも呼吸ができるんだよ」

「そうですか……。それで、どうやって進むんでしょうか」

 茜が暗視ゴーグルを身に着け、辺りを見渡すと偶然、目に制御装置が留まった。

「レイさん、あっちに水位の制御装置があります!」

「え、ホントかい?」

 レイが茜が差した方に行くと、確かに水位を調節するレバーが見つかった。

 だが、普通に調節していいのか、レイは疑問に思っていた。

 長く考えた末に、レイが右にレバーを倒すと、音と共に水位が下がった。

「水位が下がったぞ……!」

「どうやら、さっきみたいに倒しながら進めばいいみたいだね。

 あたいは体力はないけど、頭脳方面なら任せな」

 

 レイの案内で、水位を調節しながら水の神殿を進んだ。

 途中で魔物に襲われて傷を負いはしたが、大した傷ではないため危なげなく探索は進んだ。

 そして水の神殿の中ほどまで進むと、

 全身真っ白な毛むくじゃらの巨人が、茜達の前に立ち塞がった。

 魔族の一種で巨人族のイエティである。

「イエティか。厄介だね、こいつは冷気攻撃が効かないみたいだよ。

 あたいの魔法も通用しないだろうね」

「レイ……」

「だが、倒せない敵ではない。怯まずに行くぞ」

「ええ!」

 

 アエルスドロはイエティに向かって炎の剣を振るったが、巧みに避けられてしまった。

「ド・イグニ・ラ・ナチュ・デ・ポク!」

 レイは杖から炎の矢を放ち、イエティの厚い毛皮を焦がした。

「我らに神の加護を……colere du pouvoir!」

 茜は呪文を唱え、仲間達に祝福を与えた。

 イエティは棍棒でアエルスドロに反撃し、強烈な一撃を与えたが、次の攻撃は空を切った。

 デリサルはレイピアをイエティに突き刺し、致命的な一撃を加えた。

「そこだぁっ!」

 アエルスドロは再び炎の剣で攻撃し、今度はイエティの皮膚を焼き払った。

「ド・ヴェン・ラ・ナチュ・デ・テラ!」

「boulon de guidage!」

 レイはヘイストの呪文を唱え、アエルスドロの動きを加速させた。

 茜は光の矢を放ち、イエティをさらに弱らせた。

 イエティは再びアエルスドロを狙ったが、彼の鎧は堅固で攻撃は当たらなかった。

 デリサルはレイピアで再び、イエティに深い傷を負わせる。

「これで終わりだぁぁぁぁっ!」

 アエルスドロは炎の剣で容赦なくイエティを攻撃し、ついにその巨体を倒した。

 ヘイストの効果を受けたアエルスドロは、倒れたイエティに止めを刺した。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ……や、やっと終わったぞ……」

 イエティが燃えると同時にヘイストの効果が切れたアエルスドロが疲労感と虚脱感に襲われる。

 ヘイストは圧倒的な速度を与える代わりに、効果が切れると虚脱するという副作用があるのだ。

 アエルスドロはへたりと座り込み、茜は彼に「お疲れ様」と言った。

 

 茜達はアエルスドロを引っ張り、水の神殿の奥、生命の泉で休息を取る事にした。

 といっても、あまり長い間休んではいられないので、小休憩に留める。

 生命の泉は、神殿の最も聖なる場所に位置している。

 泉の水は輝く光を放ち、周囲には緑豊かな植物が生い茂っている。

 

「ふう、疲れちゃったな」

 四人は冒険の疲れを癒やすひと時を過ごしていた。

 神殿の涼やかな空気が、彼らの心身を優しく包み込む。

 アエルスドロは鎧を脱ぎ、武器を横に置いて石造りのベンチに腰掛けている。

 彼の鋭い目は閉じられ、深い呼吸と共に静寂を楽しんでいた。

 

「神よ、私達をお守りください」

 茜は神殿の壁に掛けられた聖なるシンボルに手を合わせ、静かに祈りを捧げている。

 彼女の祈りは、周囲に穏やかな光を放ち、安らぎをもたらしているようだ。

 

(ふーん、こういうタイプだったんだね)

 レイは呪文書を開き、ページをめくりながら知識の探求を続けている。

 彼女の好奇心は、休憩中でさえも止まる事を知らなかった。

 

「まあ、とりあえず休んでおくか」

 デリサルは神殿の隅でひっそりと影に紛れ、周囲を警戒しながらも一時の安息を楽しんでいる。

 彼の尖った耳は、どんな小さな物音にも反応しているようだ。

 

 茜達はそれぞれに、この神聖な場所での休息を満喫していた。

 しかし、この静けさも束の間、やがてエレメントを得るための試練が彼らを待っていた。

 

 休憩を終えた後、茜は生命の泉の奥にあった大扉を開けようとする。

 大扉には紋様が描かれてあり、いかにもエレメントが存在しそうな雰囲気だ。

「いよいよですね……!」

「ああ、絶対に気は抜くなよ! エレメントが待ってるからな!」

 アエルスドロがしんがりに立ち、緊張しながら大扉を押して開けた。

 

「我に何の用だ……」

 大扉の中は荘厳で、神官の茜も思わず緊張してしまうほどだった。

 その中で待っていたのは、全身に水を纏った悪魔・クロセルだ。

「あの、私達、ガブリエル様が守っている水のエレメントを取りに来たのです。

 あれがないとヒルダさんを倒す事ができなくて……」

「ヒルダ、だと? 我が主の事か?」

 我が主、というクロセルの言葉に茜はこの悪魔がヒルダに召喚されたと分かった。

 この神殿にもヒルダは来ていたのか……と茜はごくりと唾をのむ。

 恐らく、ヒルダは時間稼ぎのためにクロセルを召喚し、

 そして水の神殿から去っていったのだろう。

 主――ヒルダの気配はないが、倒さなければエレメントは手に入らないだろう。

「あなたに恨みはないですが、エレメントのため、あなたを倒します!」

「よかろう……かかってくるがよい!」

 

 茜達は水のエレメントを手に入れるべく、水の悪魔クロセルに戦いを挑んだ。

「水よ、我が敵を流せ」

「きゃぁぁぁっ!」

「ぬぁぁぁぁっ!」

 茜とレイはクロセルの水流による攻撃をかわすために素早く動いたが、

 茜はその力に流され、押し倒されてしまった。

「vie de retraite inversee!」

 しかし、彼女はすぐに立ち上がり、呪文を詠唱して守護霊をクロセルの目の前に召喚する。

 守護霊はクロセルを敵と認めると、光の剣で薙ぎ払った。

 デリサルもまた、地獄の炎をクロセルに向けて放ち、ダメージを与えた。

「はぁぁっ!」

「ラ・ロタ・ド・イグニ!」

 クロセルとの戦いは激しさを増していった。

 デリサルはクロセルにレイピアを突き刺し、レイは空中から火の玉を放った。

 アエルスドロは炎の剣でクロセルの急所を突き、大きなダメージを与えた。

 クロセルはトライデントで反撃し、デリサルに深い傷を負わせた。

 

「arme spirituelle!」

「ラ・ロタ・ド・イグニ!」

 茜は再び立ち上がり、呪文を唱えて聖なる鞭でクロセルを攻撃し、光の矢で追撃した。

 デリサルはクロセルの急所をレイピアで突いて大ダメージを与え、

 レイが放った火炎弾はクロセルをさらに追い詰めた。

「これで、とどめだ!」

 そして、アエルスドロの炎の剣がクロセルを焼き払い、見事勝利したのだった。

 

「すまない……我が主……!」

 クロセルは炎に包まれながらそう言って、たくさんの水に変化した。

 すると、クロセルが変化した水の中から青いローブを纏った六翼の天使が現れる。

 その天使は茜以外に姿は見えなかったが、

 ウリエルやミカエルの時もそうだったので既に慣れていた。

「やっと解放してくれましたか」

「あ、あなたは?」

「ワタクシはガブリエル。水を司る天使です。

 この世界の脅威を取り除くために地上に降りましたが、

 油断してしまい、悪魔に捕らえられてしまいました」

 ガブリエルは静かに茜に事情を伝える。

 油断したとはいえ四大天使を捕らえるほどの実力を持つヒルダに、茜は緊張する。

「ですが、アナタ達があの悪魔を倒したおかげで、ワタクシは解放されました。

 是非、人間にお礼を言わせてください」

「あの、お礼は水のエレメントでお願いします」

「水のエレメント……そうでしたね。では、差し上げましょう」

 ガブリエルが翼をはばたかせると、茜の掌に青く輝く結晶が現れた。

 これこそが水のエレメントだと、茜は実感した。

「水は渇きを潤し、癒す力。本来なら、癒しの効力を持った道具になります。

 しかし、アナタは十分な力を持っているようなので、こうなります」

 ガブリエルがそう言うと、水のエレメントは青い布の鞄に変化した。

「こ、これは何でしょうか?」

「鞄の中から1つ、何かを取り出してみなさい」

「は、はいっ!」

 茜が鞄の中に手を伸ばすと、小さなふわふわした感触が手に渡った。

 手を引っ張ってみると、中からふわふわしたものが出てきた。

「これを投げなさい。アナタの力になるでしょう」

「分かりましたっ!」

 茜がふわふわしたものを投げると、

 それは真っ黒な毛むくじゃらの妖精――ススワタリに変化した。

 ススワタリは飛び上がると、あっという間に天井に消えてしまった。

「一種でふわふわが妖精になるガブリエルバッグ……それがワタクシの贈り物です。

 では、人間よ、ありがとうございました……」

 ガブリエルは青い光に包まれると、ゆっくりと消えていった。

 

「これでやっと、エレメントが三つ集まりましたね。では、水の神殿を出ましょうか……」

 

 水の神殿を出た茜は、寒気が原因で縮こまっていた。

「ちょっと寒かったです……鎧を着ていたから、少しは和らぎましたが」

「しかし風のエレメントは、一体どこにあるんだ?

 風の砦のラファエルは、既に消えてしまった後だし……」

 残る風のエレメントの場所が分からない以上、アエルスドロはどうする事もできなかった。

 デリサルや、頭が良いレイですらも、この状況を打破できなかった。

 その時、茜の身体に強い寒気が襲い掛かる。

「うっ、寒い……! 外に出たはずなのに、これは……。まさか、敵がまだいるのでは……!?」

 茜が慌てて振り返ると、とんがり帽子を被り、黒衣を纏った女性の幻影が現れた。

 その不気味な雰囲気は、いかにも魔女と言った風貌だった。

「魔女の幽霊!?」

「心外な……。そなたはヒルダを止めたいのだろう?」

「なんで、あなたはヒルダの事を知ってるんですか?」

「ならば我がもとに来るがよい。我が名はアルキュミア。暗黒の墓で待っているぞ」

 アルキュミアと名乗った女性は、黒い煙となって姿を消した。

 

「……アルキュミアがヒルダを知っているなんて……。

 レイさん、暗黒の墓の場所、分かりますか?」

 茜は困惑するが、アルキュミアがいる暗黒の墓についてレイに問いただすが、

 レイは「分からない」と首を横に振った。

 しかし、デリサルは何故か、顎に手を当てていた。

「デリサルさん、知ってるんですか?」

「知ってるも何も、アルキュミアは……いや、何でもない」

 どうやらデリサルは、アルキュミアについて知っているようだが、

 それをあえて仲間には明かさなかった。

 

「とりあえず、暗黒の墓の場所なら知ってるぜ。ついてきな」

「その前に一度、フェーン王国の宿に戻って休みましょう」

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