百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達は水のエレメントを探すため、水の神殿の情報を収集していた。
冒険者からの情報で、神殿がフェーン城の湖にあると知る。
茜達は湖に向かい、神殿に入るための試練に挑む。
こうして神殿内で守護者のイエティと戦い、水のエレメントを手に入れるのだった。


第13話 墓に住むマジョ

 茜達は水のエレメントを手に入れ、フェーン王国で休息を取った。

 残るエレメントは風のエレメントだけだが、その場所が分からず困っていると、

 アルキュミアを名乗る女性の霊が現れ、暗黒の墓に来るように言われた。

 エレメントの場所が分からない以上、暗黒の墓に行くしかない。

 茜達はデリサルの案内のもと、暗黒の墓に向かうのだった。

 

「ここが、暗黒の墓……?」

「不気味だねぇ……」

 暗黒の墓は昼間だというのに闇に包まれており、

 その奥からは生暖かい空気が漂ってくるのが感じられた。

 内部は異質な気配の漂う不気味な空間だ。

 耳を澄ませば、周囲からは怪物達が這い回る音が聞こえるだろう。

「多分、ゾンビやスケルトン……ですよね?」

 ゾンビやスケルトンといったアンデッドを全員倒していく事は現実的ではない。

 可能な限り、彼らを刺激せず戦闘を避けて進む事が重要になるだろう。

 とはいえ時には力による強引な突破が有力な選択肢となる事もあるかもしれない。

 

(なるべく見つからないように……)

 茜がゆっくり歩くと、身に着けている鎧がカシャン、と僅かな音を出した。

(あ、やばい。見つかっちゃったかな?)

 慌てて茜は辺りを見渡すが、アンデッドは茜に気づいていなかった。

 他の三人がアンデッドに気づかずこっそり歩いていたおかげで、

 彼らに紛れていた茜も見つからなかったからだ。

 茜はほっと一安心し、暗黒の墓の奥へと進んでいく。

 

「……おかしい。悪魔はいないはずなのに、悪魔の気配がします」

「ああ、そうだな……。暗黒の墓が、ちょっとおかしかったしな」

 茜とデリサルは、この地の歪んだ植生と周囲に漂う不気味な気配が、

 悪魔のせいだと何となく理解した。

 ここにもヒルダが関わっているのか、と茜は落胆する。

 つまり、アンデッドでありながら、属性攻撃に耐性を持っているという。

 警戒しながら歩いていると、墓の奥に、

 グリフォンに乗った角の生えた子供を四体のグールが取り巻いているのを茜は発見した。

 幸い、子供とグールはまだ茜達には気づいていない。

「どうやらこの子供の正体は、死者を操る悪魔ムルムルみたいだね」

「ムルムル……! やはりヒルダのせいですか!」

「まったく、あいつの絶望好きに呆れちゃったね!」

 茜とレイが話していると、その声がムルムルに聞こえたのか、

 彼らは茜達の姿を認めると襲い掛かってきた。

「おい、あいつらが襲ってきたぞ」

「早く身構えろ!」

 

「たぁっ!」

 デリサルは敵を警告する神秘的なレイピアでグールに深刻な一撃を与える。

「ガブリエル様、私に力を貸してください!」

 茜はガブリエルバッグからふわふわした何かを投げ、冷気のミニオンを召喚する。

 冷気のミニオンはグールに攻撃しようとするが、攻撃を外してしまう。

 一方、グール達は爪を振るって冷気のミニオンに獰猛に反撃する。

「……!? 動かなくなった!?」

 グールの爪には麻痺毒が込められていて、かすっただけでも動けなくなる。

 冷気のミニオンはグールの攻撃を食らって、麻痺してしまったのだ。

「くそっ、早めに倒すぞ!」

 アエルスドロは炎の剣を使い、グールを一掃する壮絶な攻撃を見せる。

「ド・イス・ラ・ナチュ・デ・フラゴ!」

 レイは氷の嵐で敵を凍てつかせる。

 冷気に耐性を持つムルムルに大したダメージは与えられなかったが、

 グールは吹雪によって動きが鈍った。

 ムルムルは引き寄せの魔法で戦況を逆転させようとするが、

 アエルスドロは何とかムルムルの魔法に耐える。

 しかし茜とレイに放たれた光線は守れなかった。

 その後、デリサルがグールを圧倒し、茜が神聖な炎で敵を灰に変える。

 アエルスドロとレイは連携してムルムルに重傷を負わせ、

 最終的にムルムルは茜の強力な退魔魔法で魔界へと追放された。

 

「何だかあっさり決着がつきましたね」

「エレメントの守護者と比べればな」

 ヒルダが召喚したと思われる悪魔とはいえ、

 森の祠、炎の洞窟、水の神殿で戦った悪魔よりは強くなかった。

 というより、茜が退魔魔法でムルムルを魔界に追放したからである。

「でも、悪魔を追放しちゃったから、一体どうしちゃったんでしょう」

「分からん……だが、ここにはもう危険なアンデッドはいない。

 アルキュミアが現れるはずだが……」

 アエルスドロがそう呟くと、ムルムルが消えた場所から、黒衣の女性が現れた。

「お、お前がアルキュミアか?」

「アルキュミア様!」

 その女性――アルキュミアを見たデリサルは急に興奮し出す。

「し、知っているのかデリサル?」

「知ってるも何も、アルキュミア様は俺の師匠なんだ!」

「そして、ヒルダは私の娘だ」

えぇぇぇぇぇぇっ!? じゃ、じゃあ、アルキュミアさんって……」

 アルキュミアの正体、それはデリサルの師匠で、茜達が追っているヒルダの母親だったのだ。

 ならば何故デリサルが生きているのか、

 そして失礼ながらも茜はデリサルとアルキュミアの実年齢を探ろうとする。

「生きているなら、今年で150歳を超えるぞ」

「俺は悪魔とのハーフだから、人間の3倍は生きてるかもな」

えぇぇぇぇぇぇっ!?

 さらに事実を知った茜は気絶しそうになるが、何とか持ち直す。

「そ、それで私達はどうすればいいんですか? 風のエレメントはどこに?」

「まあ待て、そんなに慌てて話すな。少し、昔話でもしようではないか」

 アルキュミアは宙に浮きながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「私は150年前のテンプレム戦役の時代、

 とある村で流行した疫病を治療するために尽力していた医者だった。

 デリサルも見てはいたが、残念ながら医術は習得できなかった」

「うっ、すまない……」

「だが戦争と疫病で人々の心は疲弊し、私を魔女と罵るようになった。

 私は村人達に説得したが、彼らは聞く耳を持たず、私を倒せば疫病が治ると言ってもいた」

 どこの世界でも、危機的状況に陥った人間の心は簡単に壊れてしまう。

 純粋な善意で動いていたアルキュミアも、同調圧力に屈しかけていた。

「そして結局、私は村長に捕まり、処刑されてしまった。

 処刑前、私は人間の愚かさをこれでもかと恨んだ。

 人間は暴力的な手段でしか平等になれないのかと思ってもいた。

 戦争、革命、破綻、疫病……こうでもしなければ、平等になれない……。

 しかも、戦争と疫病であっても、村人達は私を罵った。

 そんな人間の愚かさを恨みながら、私は命を落とした。

 ……偶然それを見たヒルダは、私の敵を討ちたいと思っていたのだろう。

 だが、身体が弱くてできなかったらしい」

「それで不老不死の魔法を身に着けたらしいね」

 ヒルダは母親の敵を討つために魔法を習得したのだろう。

 だが、魔導師として未熟なヒルダの心は歪んでしまい、

 悪魔と繋がって人々を絶望させているという。

 アルキュミアの話を聞いた茜は、ふむと唸り、はっきりとこう言った。

「確かにヒルダの境遇には同情しますが、悪魔を召喚して人々を苦しめている以上、

 ヒルダを許すわけにはいきません。必ず倒します」

「その方がいい……私も、娘の心が歪んだままなのはいただけないしな。

 ……して、君達は風のエレメントを探しているようだな」

「はい、そうです」

「それならば、フェーン王国で最も高き塔に向かうがよい。

 そこに、君達の探すべきものはあるだろう」

 フェーン王国で最も高き塔――それは、青龍の風塔だ。

 以前、腐敗教団を止めるために向かった場所なのだが、

 ここに風のエレメントに繋がるものがあるという。

「分かった。ありがとう、アルキュミア。そこに行ってみるよ」

 デリサルは頷くと、真っ直ぐにアルキュミアの顔を向いた。

 これで師匠と永遠に別れるかもしれないからだ。

 すると、無表情だったアルキュミアの顔に、僅かに微笑みが浮かんだ。

「君達は素晴らしい冒険者だ。どうか、これを持って娘を止めてくれ……」

 アルキュミアの姿は煙のように消えていった。

 そして、彼女が消えた先には、一本の銀の鍵が落ちていた。

「これは、異世界の門を開く銀の鍵だ。つまり、あたいらの次の目的地は……」

「異世界!?」

 どうやら風のエレメントは異世界にあるらしい。

 異世界では何が起こるのか分からず、アエルスドロ、レイ、デリサルは唾をのむ。

 一方、地球から転生した茜は複雑な表情をしていた。

「……気を引き締めれば大丈夫、だと思います」

「まあ、茜がそう言うなら……」

 

 果たして、茜達が向かう異世界は、一体どこだろうか。

 そして、今度こそ風のエレメントは見つかるのだろうか。

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