茜達は風のエレメントを求めて青龍の風塔に向かった。
四人は風の精霊界に入り、風の精霊達と交流し、風のエレメントの在り処を尋ねた。
風のエレメントは風の宮殿にあり、その場所を知るためには長老に会う必要があった。
デリサルの洞察力で長老の住む建物を見つけ、茜達は長老・フォルセナに会う。
フォルセナは風の宮殿への道を教え、茜達は風の宮殿に向かうのだった。
「では、ここが風の宮殿です」
最後のエレメントである風のエレメントを求めるため、
茜達は長老フォルセナの案内で風の宮殿に辿り着いた。
フォルセナは茜達を案内すると風になって消えていった。
下を見ると雲が浮かんでおり、足を滑らせると真っ逆様になりそうだ。
「うぅ、高いですね……でも、ここに最後のエレメントがあるんですね」
「下を見ると恐怖する、ただ前だけを見ればいい」
「そ、そうですね!」
アエルスドロに言われた茜は真っ直ぐ前を見る。
四人が最初の入った部屋は、木の椅子と槍が並ぶ槍立を見るに番人の詰所だろう。
部屋の中央には90cm程のずんぐりした石碑のようなものが立っており、
明るい青い呪文が一つだけ彫り込んである。
石碑のてっぺんに銀のメダリオンがかかっていて、呪文の一部を隠している。
「ん……?」
「待ってください! 罠があります!」
アエルスドロが通り過ぎようとすると、茜が警告した。
警告にアエルスドロが立ち止まると、いきなり石碑から電撃がアエルスドロ目掛けて放たれた。
「ぐあぁぁっ!」
電撃をまともに食らったアエルスドロは、体力を半分失うほどの衝撃を受ける。
「くっ……どうやら、罠が仕掛けられてるみたいだな。今、俺が解除するぜ」
デリサルは電撃が放たれた石碑の方に向かった。
しかし、石碑に向かう途中で転倒してしまい、電撃がデリサルに直撃した。
「うぁっぷ……この罠、殺意が強いなぁ」
「本当だね……うぐぁっ!」
結局、この罠の石碑は茜以外が全員ダメージを受けてしまい、
その茜も罠を解除できずにスルーしかないのだった。
気を取り直して、四人が先に向かうとデリサルが二つの扉を発見し、
お宝だと思ったデリサルはすぐに扉を開けた。
デリサルが箱に罠がないのを確認して箱を開けると、
黄金製のランプが五つ、陶器がいくつか、銅のインゴットが三本入っていた。
このお宝にはかなりの価値があるため、デリサルは全て鞄にしまった。
そこからデリサルは警戒しながら、南の部屋でお宝を探していく。
丁寧に織り上げた赤い絨毯が、この部屋のでこぼこした床を覆っている。
絨毯を押さえているのは、革張りのゆったりした椅子と、折り畳み式テーブルだ。
一方の壁には金色の額縁に入った、風の精霊界の絵がかかっている。
部屋には背の低い食器棚もあり銀の盃やティーポットなどの重みで曲がっている。
「おっ、ここにもお宝はあるんじゃないか? 探してみる価値はありそうだ」
デリサルはこの部屋からもお宝をありったけ持っていった。
合計で15100ゼニーほどの価値のお宝を手に入れたが、
流石にデリサル一人で全て持ち運べそうにない。
デリサルは持っていったお宝を、四人分に分配した。
「まったく、デリサルさんったら、お宝に目がないんですね」
「だって風の宮殿には、お宝がまだたくさんあるんだろ?
だったら俺達のものにしちゃえばいいじゃないか!」
「……仕方ありませんね。あれ?」
「おや?」
お宝を探しまくるデリサルに茜達がついていくと、隠し扉を発見した。
レイがその扉を開けると、狭い縦穴の内側が崩れた場所に、
黒い泥に埋もれて、幅60cmしかない小さな石の祭壇がある。
祭壇の周りの泥の中で、何かがきらりと光る。
その光にレイが手を伸ばすと、それは安全通行のメダリオンだった。
「これがあれば、あの石碑に気づかれずに済むね。……神よ、我らを導いてくれ」
レイは聖印を取り出して神に祈りを捧げた後、
安全通行のメダリオンを身に着け、探索を再開した。
四人は西に進み、アエルスドロが前に立って扉を開ける。
三方向の壁には壁画があり、明るい緑や赤や青のローブを着た人々が列をなして歩いている。
周りの景色は写実的ではなく様式化されているが、恐らく明るい庭園とステンドグラスだろう。
人々の絵の大きさはいずれも人間大だがローブの下の服装や体形は人ごとに違う。
南の壁だけは仕上げをしていない石の板が剥き出しで、
塚の一番外側の壁は元はこんな風だったのかと思われる。
「綺麗……」
「一体どんな奴なんだろうねぇ」
茜は美しい壁画に魅了され、思わず立ち止まる。
レイもローブの人物がどんな種族なのか、気になって仕方がなかった。
一方、デリサルは部屋が気になっており、それを調べようと目を凝らした。
「ん、ちょっと待て。隠し扉があるぜ」
デリサルは漆喰を塗った壁にある、隠し扉を見つけた。
そこには緑のローブを着て、片手を目の上に隠している人物が描かれている。
デリサルは単独でその隠し扉に入った。
この部屋の中から見ると、北と東の壁は半透明に見える。
ちょうど雨の日のガラス窓のようにかすみ、ぼやけてはいるが。
「この辺にお宝はなかったな。さあ、先を急ごうぜ」
特にお宝がなかったので、デリサルは隠し扉を後にした。
そして、茜達は通路を通って、風の宮殿の奥を進んだ。
第二階層の通路は石のブロックを積んで作ってあり、とても丈夫だ。
しかし強風のため吹き飛ばされる可能性があり、茜はアエルスドロにしがみつく。
「もし落とされたら、どうなっちゃうんでしょう……」
「安心しろ、私が守ってやる」
アエルスドロは茜の頭に優しく手を置き、彼女を守ろうとした。
レイは呪文書を読みながら、どんな呪文を書こうか考えている。
一方、デリサルは西の扉が気になって開けようとしたが、
頑丈な木の扉が鉄の帯で補強してあり、鉄の蝶番がついていた。
「っち、鍵がかかってるのかよ。でも、俺に任せとけ」
そう言ってデリサルは盗賊道具を取り出し木の扉にかかった鍵を開けようとした。
デリサルは細身の針を使って鍵穴を調べ、
それに合う鍵開け道具を使い、難なく鍵がかかった扉を開けた。
だが、デリサルの前には例の石碑が置いてあり、デリサルに向かって電撃を放つ。
「……罠かっ!」
デリサルは罠を何とかかわして、部屋のお宝を全て手に入れる。
4400ゼニー相当のダイヤモンドの粉、
2900ゼニー相当の黄金の針金を手に入れ、大急ぎで部屋を後にした。
「ほら、ダイヤモンドの粉と黄金の針金だぜっ」
デリサルはお宝をレイに渡すと、風の宮殿の探索を再開する。
まず、アエルスドロが前に立って、東の扉を開ける。
部屋の中は頑丈な木製のテーブルと空っぽの木製の本棚がある。
よく見ると、部屋の隅には二つの石碑があった。
「今度こそ罠を解除してやるぜ」
デリサルは盗賊道具を取り出すと、石碑に気づかれる事なく罠を全て解除した。
「ここにはお宝がないし、風のエレメントだってない。一体どこにあるんだよ」
「分かりませんが……もう少し、調べる価値はあるでしょう」
その後も、北と南の部屋を調べたが手掛かりはなかった。
仕方なく四人は階段を登り、風の宮殿の三階に向かった。
デリサルをしんがりに四人が東に進むと、大きな扉があった。
調べてみると扉には罠も鍵もなく、扉はあっさりと開いた。
ここに広がる大きな部屋は、普通の宮殿の中にはなかなかないものである。
本棚から広いテーブルやバラバラに散らばっている椅子まで、
この部屋にある木製の品々は全てピカピカに磨かれている。
「へえ、結構広いじゃないか。調べてみようかね」
「待ってください、レイさん。中に誰かいますよ」
レイが調べようとした時、茜は部屋に誰かがいる事に気づく。
全身に風を纏った女性の姿をした聖霊、シルフィードだ。
デリサルは気づかれないように武器をレイピアから短弓に変え、
矢を番えてシルフィード目掛けて放った。
しかし、デリサルの矢はシルフィードの身体をかすめただけで致命傷には至らず、
シルフィードは何も言わずに下級精霊シルフを召喚した。
「ちっ……やるしかなさそうだな!」
デリサルは前に出てシルフィードを迎え撃った。
「そらっ!」
デリサルはシルフィードに向けて矢を放ったが、狙いが甘く、矢は空を切った。
「ド・ヴェン・デ・イス!」
茜は呪文を唱え、シルフィードがいる場所に静寂の領域を作り出した。
その結果、その範囲内では一切の音が消え去った。
シルフィードは素早く反応し、自分の姿を消す魔法を発動した。
「姿を消したって、そうはいかないよ! ラ・ロタ・ド・イグニ!」
「キャァァァァァァ!」
レイが放った炎の球はシルフィードの存在を見抜き、直撃させた。
シルフィードは炎に包まれ、悲鳴を上げた。
アエルスドロは剣を振るい、シルフィードに二度の攻撃を仕掛けた。
一撃目は見事な一撃で、シルフィードは深い傷を負った。
二撃目もギリギリで命中し、さらにダメージを与えた。
「うふふ……吹き飛ばしてあげるわよ」
「く……強い、が吹き飛びはしない!」
シルフは竜巻を発動し、アエルスドロを吹き飛ばそうとしたが、
アエルスドロはしっかりと足を地面につけ、竜巻を耐えた。
「流石に風の宮殿というだけはあるな」
「さあ、どうなるのかしらね」
シルフィードはけらけらと笑っている。
それがフェリドを彷彿とさせて茜は苛立つが集中力が切れるためすぐに頭を振る。
風の宮殿から落ちないように、四人は周りをしっかり見た。
「そらよっ!」
デリサルの矢がシルフィードに命中し、深い傷を負わせた。
「vie double largement! cadre sacre!」
茜は全員の傷を癒す魔法を使い、皆の体力を回復させた。
そして、シルフィードに向けて神聖な炎を放ったがシルフィードは素早く避けた。
「風よ、全てを吹き飛ばしなさい! ウィンドウォール!」
シルフィードは風の壁を発動し、アエルスドロを吹き飛ばして地面に叩きつけた。
アエルスドロは歯を食いしばりながらも、立ち上がる。
「大人しくしな! デ・ゲイト・ラ・ロタ・ド・イス!」
その時、レイの氷の嵐がシルフィードに直撃する。
アエルスドロは怯んだシルフィードに向けて剣を振るったが、
自分も目がくらみ、一撃目しか命中しなかった。
「結構やるじゃないか。だが、ここまでだ!」
「cadre sacre!」
デリサルの矢がシルフィードに深い傷を負わせ、
茜の神聖な炎もシルフィードにダメージを与えた。
シルフィードはアエルスドロに向けて攻撃を試みたが、全て外れた。
「早く眠りな、ラ・ポク・デ・イス!」
「Zzzzzzz……」
そして、レイの魔法がシルフィードを眠らせ、倒す事なく、戦闘は終わった。
「これで風のエレメントが手に入りますよね……」
茜が眠っているシルフィードの姿を見る。
フェリドのような嫌味が全くない美しさで、女性の茜でも惚れそうだった。
数分後、シルフィードが目を覚まして宙に浮かぶと、ラファエルの姿になった。
「ええぇぇぇっ!? 女の人が男の人になった!? しかも私達に見えている!?」
「どうだい? 驚いただろ?」
あんな美しいシルフィードが、まさか風の天使ラファエルだったなんて。
天使は性別すらも変えられるのか、と茜は驚いた。
それよりも、ラファエルの姿が全員に見えている事が茜の最大の驚きだった。
「ここは風の精霊界だからね。
普段は選ばれた人にしか見えない天使も、ここではみんなに見えるようになってるのさ。
まあボクは、天使の中でも一番特別な存在だからさ」
ラファエルが指を振りながら言う。
シルフィードに負けず劣らず容姿端麗だが、ナルシストなのがレイの頭にきた。
「ちょっと、ナルシー天使! 風のエレメントはあるのかい!?」
「ナルシー天使だなんて心外だね。ボクにはラファエルという名前が……」
「はいよ、今、キミの前に出すからね」
そう言って、ラファエルは自分の右手からつむじ風を起こし、
レイの掌に花のような緑の結晶を置いた。
「これが風のエレメントさ。風は花や草を運び、実りをもたらす力なんだ。
キミのような探求心が強い人にピッタリだと思うよ」
「それがどうかしたのかい?」
「キミは見た目からして魔導師みたいだね。
そうだな……風のエレメントは、こんな姿にしてあげようかな?」
ラファエルが指を鳴らすと、風のエレメントは鎖帷子に姿を変えレイの体を纏う。
それは鎧でありながらまるで全く身に着けていないほどに軽く、それでいて頑丈。
まさしく、魔導師が身に着ける鎧に相応しいものだった。
「へえ、鎧だなんて斬新だねぇ。あんたらしいねぇ」
「じゃあね、悪魔達を早く退けるんだよ」
ラファエルはつむじ風となると、再び姿を消した。
「ついにエレメントが四つ揃いましたね……」
ようやく茜達は大地・炎・水・風と全てのエレメントを揃えた。
エレメントはそれぞれに相応しい道具や武具になり、悪魔との戦いに備えられた。
空に浮かぶ太陽が近くなっており、もうすぐ沈みそうだった。
「もう遅いですし、風の精霊界で休みましょうか」
「そうだな、疲れちゃったし……」
そして茜達は風の宮殿を後にし、風の精霊界で一日の休息を取った。
長老フォルセナが住む神殿で、彼らは眠りにつこうとしていた。
風が神殿の古い石壁を通り抜け、優しい音楽のように響き渡る。
茜は柔らかな毛布にくるまりながら、自然の書物に目を通していた。
自然の書物は元の世界にはなかった、たくさんの草木や花が描かれている。
アエルスドロは神殿の中庭で剣の手入れをしており、その動きは瞑想に近い。
デリサルは小さな木彫りの像を作りながら、冒険の話で盛り上がっている。
レイは食事の準備をしながら、彼らの安全を確保するために周囲を警戒していた。
夜が深まるにつれ、四人は一つの輪になり、暖を取る。
風の精霊界の食事は物質界とは異なっていたが、栄養を摂る事はできた。
そして茜達はふんわりしたベッドの上で、眠りにつくのだった。
(……ヒルダ、首を洗って待ってろよ)