百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

茜達はヒルダを倒すため、闇に染まったフェーン城を探索する。
彼らは魔物に見つからないように進み、安全な場所に辿り着く。
茜達は礼拝堂に入り、石化したフェーン国王を元に戻した後、アンデッドの群れと戦う。
ヒルダの野望を阻止するために、冒険者達は前進するのだった。


第18話 魔女王ヒルダ

 邪魔するアンデッドを倒した茜達は、ついにフェーン城の最上階に辿り着く。

 ヒルダを倒し、フェーン王国を救うためである。

 

「この扉の奥に……ヒルダが、いるのですね……」

 茜は慎重に、フェーン城の大きな扉を開ける。

 扉は鈍い音を立てて開き、四人はフェーン国王がいた玉座の間に入る。

 玉座の間は真っ暗で、悪魔の声すら全く聞こえず、この部屋全体に不気味な気配を感じる。

 しばらくすると、部屋にあった燭台に次々と青い炎が灯り、部屋全体を照らす。

 

「よく来ましたね」

 玉座から降りてきたのは、黒いローブ姿の女性――ヒルダだった。

 ヒルダは茜達の姿を確認すると、あっという間にローブを脱ぎ捨てる。

 ローブの下は、武闘大会で見た白い十字が描かれた赤いコートだった。

「ヒルダ、今度こそ負けを認めてください!」

「それは困りますねぇ。私の身体も、そろそろガタがきましたし」

「ガタが……? ああ、そうでしたか」

 ヒルダは魂が本体であるため、他人の肉体に宿る事で不老不死になれる。

 だが、肉体は加齢するため、新たな肉体を得なければそこでヒルダは消える。

 その前にヒルダは別の身体を得ようとしているのだ。

「この中で最も魔力に優れている身体といえば、あなたしかいませんよ」

 ヒルダは鋭い目で、自らの器にしようとするレイを睨みつける。

 彼女は魂を本体にして不老不死を得たが精神が不安定になってしまい、

 最早自分の野望以外では動かなくなっていた。

 放っておけば悪魔を大量に呼び寄せるため、ここで決着をつけなければならない。

「冗談じゃないね! あんたの身体になるのはごめんさ! とっとと自分の罪を認めな!」

 そう言ってレイは杖をヒルダに突きつける。

「これ以上、悪魔にフェーン王国を蹂躙させるわけにはいかない!」

「お前のお宝をいただけば、戦いは終わるんでね」

「あなたのお母さんから、あなたを阻止しろと言われました。

 その約束を守るためにも、あなたをこの手で止めます!」

 彼女に合わせて、アエルスドロ、デリサル、そして茜もそれぞれの武器を構えた。

 ヒルダは溜息をつくと不快な表情になり、両の目を鋭く光らせた。

 

「ああ、本当に不快です、不快ですよ! 私の母までそんな事を言うなんて……。

 こうなれば、器以外を皆殺しにして、その死体を晒すしかありません!

 フェーン王国にとっての最高の絶望を、差し上げますからね!!」

 ヒルダに残っているのは、絶望を与えたいという気持ちのみ。

 最早説得は通じないため、四人は彼女を倒すしかなかった。

 

 デリサルは音を立てないようにヒルダにこっそり近づき、レイピアを抜く。

 誰かが攻撃したら、レイピアで追撃するためだ。

「ド・イグニ・ラ・ナチュ・ラ・ナチュ・デ・ポク!」

 レイは杖から5発の光線を放ってヒルダを打ち据える。

 光線は全て命中し、ヒルダの身体にたくさんの火傷を負わせた。

 その隙にデリサルはレイピアでヒルダを突こうとするが、攻撃は当たらなかった。

「vie double largement! bress!」

 茜は看護師を召喚して味方全員の体力を回復し、

 さらに続けて呪文を唱えて、自分を含めた味方全員を祝福する。

 アエルスドロは遠くのヒルダに素早く接近し、剣を構えて攻撃に備える。

「器以外はとっとと死んでください。ド・グラブ・ラ・ナチュ・デ・フラゴ!」

 ヒルダが本を開いて呪文を唱えると、本の中から負のエネルギーの波動が流れ出し茜達を襲う。

 茜とレイは必死にヒルダの呪文に耐えようとしたが、

 彼女の魔力は凄まじく、闇の力で体力が蝕まれていった。

 

「なんという執念……。そこまでして、絶望が欲しいのですか……?」

「その通りです。私は絶望を糧にしています。

 あなた達の絶望こそが、私にとっての最高の食事なのです!」

 ヒルダは魔法の影響で、絶望しか求めなくなっていた。

 彼女を止めるためには、彼女を倒す以外に方法はなくなっていた。

「まあ、その方が分かりやすいんだけ……うおっ!?」

 デリサルがヒルダをレイピアで攻撃しようとすると、手元が滑って転んでしまう。

「大丈夫かい!? ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

「うぐぅぅっ!」

 レイはデリサルに駆け寄って彼を起こし、杖から魔法の矢を3本放って攻撃する。

「お願いです……みんなを、守ってください!」

 茜は傷ついたレイを癒しの言葉で回復し、目の前に騎士の守護霊を召喚する。

 騎士の守護霊は高く剣を携え、

 ヒルダの脅威から茜達を守ろうとし、ヒルダは騎士の守護霊を見て僅かに怯んだ。

「よし、怯みましたね!」

「炎の刃よ、切り裂け!」

ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 そして、アエルスドロが炎を纏った刃で二回斬りつけると、ヒルダは倒れ伏した。

 

「やった……か?」

 レイがヒルダの生死を確認する。

 あれほどのダメージを受けて生きているわけがないはずだが、

 念のため、ヒルダがまた起き上がらないかを確認しようとした時。

 

「かかりましたね!」

 突然、ヒルダの中から彼女の魂が現れるとレイを強力な魔力で羽交い絞めにする。

 魂だけになりながらも、その魔力は強大なのだ。

「ぐっ……放せ!!」

 レイは必死に叫ぶが、ヒルダの魂は彼女の言葉を聞かず、レイの体内に入り込もうとする。

 身体の中に侵入するヒルダの魂は、レイの身体能力や自我を消そうとした。

「あなたを器にしてやります……! それこそが絶望です……!」

「器に……なる……ものかっ!!」

 レイは完全に支配される直前、懐から銀のダガーを取り出し、

 それを自らの身体に突き立てて痛みを与えた。

 肉体に伝わる痛みに耐えきれなかったヒルダは、思わずレイの身体から飛び出す。

 

「ぐぅぅっ! 私を受け入れたくないからこんな事を!? よくもよくもよくも!」

「悪いけど……あたいにはまだ、やる事がたくさんあるからね。

 あんたに乗っ取られるくらいなら、死んでレイズ・デッドをかけてもらう方がマシさ!」

「ぐぅぅぅぅぅっ、ぐぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 肉体を持たず、魂だけになったヒルダの魂は、強大な魔力に飲み込まれていった。

 暴走したヒルダの魂は、この世の全てを滅ぼそうとしており、彼女の意志はない。

 

「やるしかなさそうだな!」

「ド・イグニ・ラ・ナチュ・デ・ポク!」

 デリサルは魔法のショートボウでヒルダの魂を撃ちレイが続けて炎の光線を放つ。

「vie double largement! boulon de guidage!」

 茜は看護師を召喚して味方全員の傷を癒し、光の矢を放ってヒルダの魂を撃つ。

 光に弱いヒルダの魂は怯み、目が眩む。

「ギィヤァァァァァァァァァァァァ!」

 ヒルダの魂が絶叫を上げると、デリサルは恐怖で顔が青ざめ、蹲る。

 その隙にヒルダの魂はデリサルに不浄の呪いをかけ、弱体化させた。

「うぅっ、怖くて、動けねぇ……!」

「身体にできないなら、全てを破壊するのみ!」

「そうはさせない! ダブル・フレイムスラッシュ!」

 アエルスドロは炎を纏った剣でヒルダの魂を二回切り裂く。

 デリサルが恐怖で何もできないなら、自分がやるしかないと思ったのだ。

「ぐぅぅ……あなたの魂、奪いますよ!」

「ぐっ……うぉぉぉぉっ!」

 ヒルダの魂がアエルスドロとデリサルの生命力を奪おうとする。

 アエルスドロは精神力の強さで何とか耐えたが、

 恐怖しているデリサルは茜が増やした分の生命力を奪われてしまった。

「ド・イグニ・ラ・ナチュ・デ・ポク!」

 レイが放った炎の光線がヒルダの魂に一発命中し、ダメージを与える。

 さらに、茜が聖なる鞭を召喚してヒルダの魂を打ち据える。

「これで終わりだ、ヴォーパルブレード!!」

「そっ、そんなバカな! 悪魔の力が! 最強の力が!!

 こんなヒトどもに負けるわけが……!!!」

 そして、残り体力が僅かのヒルダの魂に、虚無の力がこもった斬撃が命中。

 目も眩むほどの大爆発が起こると、ヒルダの魂は霧散するのだった。

 

「今度こそ戦いは終わりましたね……」

 茜達はついにヒルダを倒し、闇フェーン城を彼女の脅威から解放した。

 あとは闇フェーン城を脱出するだけである。

「ヒルダはもう襲ってこないでしょう。フェーン王国もいずれ復興するはずです」

 やっと、アルカディアでの平和な暮らしが戻ってくる。

 茜がそう思った時、突然、闇フェーン城が地響きを立て、瓦礫が落下し始める。

 ヒルダの魔力が弱まった事で、闇フェーン城が崩壊しようとしているのだ。

「あの時と同じ事がまた起こってるみたい! ここは危険です、急いで城の外に逃げましょう!」

「まったく、腐敗教団といいヒルダといい、往生際が悪いぜ」

 デリサルは愚痴を吐きながらも、茜達と共に、闇フェーン城を脱出しようとした。

 しかし不運にも出口は瓦礫で塞がれてしまっているため、礼拝堂に行くしかない。

 茜達は瓦礫を避けながら、遠回りになるも礼拝堂に走っていく。

 敵はいないため安心しながらも油断せず、茜達は礼拝堂に向かう。

 

「逃がしませんよ……!」

 そして礼拝堂に茜達が着いた時、女性の声が聞こえてきた。

「悪魔使いヒルダの本当の力、見せてあげましょう!!」

 その女性――ヒルダの大声と共に、

 彼女の姿が不気味な触手のついた大目玉――イビルアイに変わっていく。

 ヒルダの暴走は終わらず、悪魔と融合して自身の姿をも変えてしまった。

 最早、ヒルダの中には茜達を倒す事以外の考えは全くなかった。

 

「みんな、これが本当に、最後の戦いです! 行きますよ!!」

「ああ……行くぞ、アカネ、レイ、デリサル!!」

 

「ラ・テラ・デ・イス・ド・ヴェン!」

 レイが杖を構えて呪文を唱えると、杖から寒風が噴出する。

 イビルアイ・ヒルダは攻撃に耐えたが、イビルアイ・ヒルダの身体に霜がつく。

「怯えなさい!」

「うっ……うぁぁぁっ!」

 イビルアイ・ヒルダの目から光線が放たれ、レイは恐怖で凍り付いた。

「レイさん、しっかりしてください!」

「うあぁっ……あぁぁっ!」

「もう、何やってるんですか! cadre sacre!」

 茜は手から聖なる炎を放ってイビルアイ・ヒルダに大ダメージを与える。

 レイはイビルアイ・ヒルダの睡眠光線に抵抗する。

「ダブルスラッシュ!」

 アエルスドロは炎の剣でイビルアイ・ヒルダを2回切り裂いて攻撃し、

 着実にイビルアイ・ヒルダにダメージを与えていった。

「あなた達の身体は重くなりますよ!」

「うぅっ!」

「うぁっ!」

 アエルスドロと茜はイビルアイ・ヒルダの鈍足光線を浴びて動きが遅くなる。

「死になさい……器になれない者よ!」

 イビルアイ・ヒルダは続けてデリサルに死の光線を放ってその命を奪おうとする。

 だが、デリサルは素早く飛び退いて死の光線を放ち、

 ショートボウに矢を番えてイビルアイ・ヒルダに放ったが攻撃は当たらなかった。

「さあ……大人しくしなさい」

「あっ! Zzzzzzz……」

 イビルアイ・ヒルダの睡眠光線を食らった茜は眠りに落ちてしまう。

 

「うぅっ……怖いけど、何とか倒してみせるよ。ラ・ロタ・ド・イグニ!」

 レイは巨大な火炎弾を放ち、イビルアイ・ヒルダに着弾すると大爆発が起きる。

「よくもやったな、食らえ!」

 アエルスドロは炎の剣を2回振るって攻撃する。

 イビルアイ・ヒルダはアエルスドロに魅了光線を放つが、

 アエルスドロは強い精神力によって魅了光線を耐える。

 追い詰められたイビルアイ・ヒルダは三つ目を光らせ、三本の光線を放つ。

 レイとデリサルには睡眠光線、茜には死の光線だ。

「「Zzzzzzzz……」」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 レイとデリサルは耐えられずに眠ってしまい、眠っている茜は攻撃をまともに食らってしまう。

 死の光線を受けて体力が尽きると死んでしまう凶悪な光線である。

 しかし茜は何とか、ギリギリで攻撃を耐え、ボロボロながらも立っていた。

 

「ぐっ……本気、ですね……ヒルダ……」

「当たり前でしょう。私は、そのために戦っているのですから。あなた達もそうですよね?

 私を止めるために戦って。ならば、あなた達が倒れるのは当然です」

 瀕死の状態の茜は、ふらつきながらもイビルアイ・ヒルダを見据える。

 やっとアルカディアで新たな生を得たのにここで死んでたまるものかといった表情をしていた。

 一方、イビルアイ・ヒルダも全てを絶望させたいという意思のみで行動している。

 どちらが勝つか……それは、神のみぞ知るという事になる。

 

「とはいえ、体力がやばいですね……回復しないと」

 茜は回復魔法を唱えて自身が負った傷を癒す。

 レイとデリサルは眠ったままであり、起こす手段が分からない中、

 イビルアイ・ヒルダは魅了光線をアエルスドロに放つ。

 しかし、ダークエルフのアエルスドロに魅了は効かず、

 逆にアエルスドロが炎の剣で2回斬って反撃した。

「石になりなさい!」

「Zzzzzz……」

 イビルアイ・ヒルダは眠っているデリサルに石化光線を放つ。

 攻撃をまともに食らったデリサルの身体が灰色に染まっていき、石化してしまう。

 さらに、イビルアイ・ヒルダは石化したデリサルに、光線で攻撃を食らわせる。

 本来なら受ければ身体が砕け散るほどの威力を、

 石化しているからかそんなにダメージは受けていなかった。

「cadre sacre!」

 茜は眠っているレイの代わりに魔法でイビルアイ・ヒルダを攻撃する。

「今度こそあの世に送ります!」

「……salle de la mort!」

「茜ーーーーーーっ!!」

 イビルアイ・ヒルダが死の光線を放って茜にとどめを刺そうとする。

 茜は死の光線を避け切れず、直撃して茜の身体を闇の力が蝕み、倒れてしまう。

 このまま死んだかと思い叫ぶアエルスドロだったが、

 茜は顔が青ざめながらも、ゆっくり、ゆっくりと立ち上がった。

「デス・ウォードをかけて、身を守ったんですよ。私を殺そうだなんて……できませんよ!」

「くぅっ! おのれ、おのれぇぇぇっ!」

 イビルアイ・ヒルダは無数の光線をやたらめったらに放つ。

 だが、焦りで照準が合っていないため、全ての光線は茜達には当たらなかった。

 その隙に茜は聖なる炎を放ち、アエルスドロは炎の剣を2回振る。

 聖なる力と炎によって、イビルアイ・ヒルダは徐々に弱まっていった。

 

「これで終わりです」

 茜は鞭を取り出し、地面に大きく叩きつける。

「絶望を求める哀れな心を、今ここで私が浄化します」

 凛々しい雰囲気の茜の周りを、淡い光が覆う。

 光を浴びたアエルスドロ、レイ、デリサルの状態異常があっという間に消え、

 さらにイビルアイ・ヒルダが弱体化していく。

 

「太陽浄化光線!!」

 光の柱がイビルアイ・ヒルダの真上から放射され、

 イビルアイ・ヒルダの身体が焼き尽くされていく。

 その光は吸血鬼が忌み嫌う太陽光であり、日光拷問を思わせる眩いものだった。

「バカな! この私が……。悪魔の力はこんなものでは……。

 まさか、あなたは……異なる世界から……!」

 イビルアイ・ヒルダが言い切るまでに、彼女の身体は光に包まれ焼き尽くされる。

 そして、光が消えた後、闇フェーン城には燃えカスだけが残っていた。

 

「……終わった……これで、全てが終わったんですね……」

 とうとう茜達は、ヒルダを完全に倒す事ができたのだった。




次回が第2部の最終回です。
最後まで見守ってください。
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