茜達は嫌というほど戦争というものを知るでしょう。
茜達は、どこまでも続く土の道を歩いていた。
道端には可憐な野花が咲き乱れ、遠くにはなだらかな丘が連なっている。
穏やかな旅路のはずだった。
だが、胸の奥には鉛のような重さが沈んでいる。
ガルバ帝国の侵攻という噂は、最早噂ではない。
帝国工作員達が国境を越え、幾つかの村や駐屯地が既に略奪されたという。
その知らせが茜達の心に暗い影を落としていた。
茜は不安げに空を見上げた。
青く澄んだ空は、何も変わらない。
だが、その下の世界は、確実に変わってしまっている。
モリスは、そんな茜の様子に気づいたのだろうと、静かに言った。
「心配ない。儂らが守ってやろう」
「ありがとうございます、モリスさん」
その言葉は、茜の胸に温かい光を灯した。
茜は、モリスの頼もしい背中を見つめた。
モリスは、茜にとって力強い存在で、モリスの言葉は、茜の心を励ました。
その時だった。
次のカーブの向こうから、悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴は震え、恐怖に満ちていた。
茜達は、互いに顔を見合わせた。
「な、何かあったみたいですね」
茜の声が震える。
次の瞬間、カーブを曲がって一人のエルフの若者が飛び出してきた。
彼は、全身泥まみれで、息を切らしている。
その若者は、茜達の姿を認めると、安堵の表情を浮かべた。
「頼む、助けてくれ!」
若者は、必死の形相で茜達に駆け寄ってきた。
「ど、どうしたんですか? そんなに慌てて」
茜は若者の様子に驚き、声をかけた。
「じ、実は……」
若者は、ようやく息を整え、震える声で語り始めた。
リースと名乗った若者は、この近くの農場で働いていたという。
彼は、兵士達に雇われ、キャラバンを護衛していた。
「私達は、この先にある村に向かっていたんです。そこに、ガルバ帝国の兵士達が現れて……」
リースの声が途切れ途切れになる。
「何が起きたんですか?」
「帝国軍に襲われたんです……」
茜は、静かに尋ねた。
リースは、目を閉じ、当時の光景を思い出した。
突然、茂みの中から現れた帝国軍の兵士達。
彼らは、まるで獣のように、容赦なく襲いかかってきた。
兵士達は、次々と倒れていく。
リースは、その光景に恐怖し、ただ只管に逃げ出した。
「私は……怖くて、何もできなくて……」
リースの目から、涙が零れ落ちる。
「大丈夫ですよ」
茜は、そっとリースの肩に手を置いた。
その温かさが、リースの心を少しだけ癒してくれた。
「よかった、あなた達に会えて……」
リースは、安心したように息をついた。
茜達は、リースと共に襲撃現場へと向かった。
道の先に進むと、見るも無惨な光景が広がっていた。
一台の荷馬車が、ひっくり返っている。
木製の車輪は壊れ、積まれていた荷物は散乱していた。
その周りには、鎧を身に着けた死体がいくつも転がっている。
茜は、その光景に言葉を失った。
そして、その残骸を漁る影があった。
ガルバ帝国の兵士達だ。
彼らは、死体のポケットを探り、荷物の中から貴重品を探し出している。
「同じ人間同士なのに、どうしてこんな事をしてるんですか?」
茜は、胸が締め付けられるような思いで、その光景を見ていた。
モリスは、そんな茜の様子を見て、静かに言った。
「戦争というのは、そういうものじゃ」
モリスの言葉は、茜の心を突き刺した。
戦争……それは、人間が人間を傷つけ、奪い合う行為。
茜は、その恐ろしさを、初めて目の当たりにした。
茜は、帝国軍兵士の鎧に目をやった。
そこには、見慣れない聖印が記されていた。
どうやらここ、アルカディアの光の神「ソルクシス」の聖印らしい。
茜は、ただ、見ている事しかできず、自分の無力さを痛感した。
「私……何かしないと」
茜の心に、強い決意が芽生えた。
このまま、ガルバ帝国の侵攻を黙って見ているわけにはいかない。
村を守り、そして、この世界を守る。
茜は、そのために、できる事をしようと誓った。
「皆さん。この先の村へ行きましょう」
「うむ」
「「ああ」」
茜の声は、決意に満ちていた。
モリス、トーマ、リリーベルは、茜の決意を認め、静かに頷いた。
三人は再び歩き出し、リリーベルは空を飛んだ。
その足取りは、先程とは違い、確固たるものだった。
茜は、胸に秘めた決意を燃やし、一歩ずつ前に進んでいく。
行く手には、困難が待ち受けているだろう。
だが、茜は一人ではない。
この世界の人々と共に、茜は戦う事を決意した。
戦争を描いた漫画やゲームはいくらでもあるのですが、
児童書作家がこれを見たら、恐怖で××するかもしれませんね。
次回は目的地の村へ向かいます。