百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

6 / 76
茜が異世界における最初の大きな敵と遭遇します。


第4話 毒のマドウシ

 翌日、茜達はテオ村にネズミをけしかけた犯人がいるというモロの丘に向かおうとしていた。

 案内してくれるのは、腕っ節が強いジョーだ。

 

「大丈夫だとは思うが、念のために俺も行くよ」

「ありがとうございます」

 四人はモロの丘の場所が分からなかったので、モロの丘を知っているジョーが先頭に立った。

 ジョーは戦闘能力はないが案内はしてくれるので、一行は彼を頼りに道を進んでいく。

 

 数分後、一行は薄暗い洞窟に辿り着く。

 村の近くを流れる河からの水が浅い小川となって流れ込んでいて、

 水音が洞窟の中で反響している。

 足跡は流されており、確認できない。

 幅は狭く、奥も暗く、明かりがなければ安定して進めない。

 

「困りましたね。皆さんなら見えますが、私にはどうしようもできません」

 茜はこのパーティーで唯一の人間なので、明かりがなければ前が見えない。

「仕方ないねぇ。あんた、松明は持ってるかい?」

「はい」

 茜がレイに松明を見せると、レイは呪文を唱えて松明に明かりをつけた。

 松明はちかちかと光り輝き、茜達の前を照らす。

 その後、茜とレイは後ろ、アエルスドロとデリサルは前に立ち、洞窟の中を歩いた。

 念のため、アエルスドロは耐毒剤を飲んだ。

 

「罠に気をつけよう」

 デリサルは洞窟の罠に気を付けながら前を歩く。

 後ろにいるレイは、集中しながら音を聞いていた。

 水の音が五月蠅いためなかなか聞こえなかったが、レイは何とか、洞窟の中の音を聞き取った。

「先の道から、小さな獣が走る音や鳴き声が聞こえるよ。多分、ネズミなんだろうね」

「……ネズミ。何だか危なそうなので右に行きます」

 ネズミに襲われないよう、茜達は右の道を歩いた。

 右には直径17mほどの開けた空間で、あちこちに齧られた跡のある動物の骨が散乱している。

 中央部分は深い擂鉢状になっていて、その中ではガラクタが無造作に山積みになっているが、

 詳しく調べるためには斜面を降りて近づかなければならない。

 

「山積みになったガラクタ、触ったら崩れちゃいそう……」

「迂闊に音は出したくないな……調べるのはやめておこう」

 茜達はガラクタ地帯を無視して奥に進む。

 足元を流れる水が床の隙間に流れ込んでおり、水音が一際大きくなっている。

 壁には大小様々な穴が開いており、

 時折、小さなネズミが顔を出しては、デリサルに気付いて逃げていく。

 

「ネズミ? 何をしたいんだろうね。それよりも、先に進……おや?」

 レイが天井を見ると、そこには二匹の巨大な蜘蛛がいた。

 茜は気づいていなかったので怯える事はなかった。

「蜘蛛だ! あたい達を待ち伏せしようたってそうはいかないからね」

「ありがとう、レイ。気が付かないうちに、不意打ちを受けたら危なかったな」

 アエルスドロとデリサルが武器を構え、茜も遅れて武器を構えると、

 さらに二匹のネズミがやってくる。

 ネズミの皮膚の色は黒く、毒々しかった。

「もしやこのネズミ……毒を持っているのでは? まずいな、早めに片づけよう!」

 毒を浴びれば命に関わるため、アエルスドロ達は真っ先に処理をする事にした。

 ネズミと蜘蛛の攻撃を受け止めながら、アエルスドロはネズミを剣で切り裂く。

 デリサルは天井の蜘蛛に矢を放ち、動きを止める。

 

「うぐっ……!」

「アエルスドロさん!」

 しかし、うっかりアエルスドロが毒ネズミに噛まれてしまう。

 アエルスドロは耐毒剤のおかげで何とか耐えたが、やはり毒が厄介である事に変わりはない。

「おい、こっちに来るんじゃない!」

 レイは蜘蛛の攻撃をかわし、氷の矢を放って蜘蛛を倒す。

「無理はしないでください……vie force」

 茜はアエルスドロに癒しの言葉をかけ、傷を癒す。

 アエルスドロは毒ネズミと蜘蛛の攻撃に耐えながら剣を振って蜘蛛を牽制する。

「cadre sacre!」

「ド・ゲイト・ド・イス!」

 デリサルは弓矢で蜘蛛を射貫き、茜は呪文を唱えて光の柱で攻撃して倒す。

 レイは精神を集中し、蜘蛛に氷の矢を放った。

 その後は剣術や魔法で、何とか邪魔な蜘蛛やネズミを追い払った。

 

「終わりましたね……。一体誰がこんな事を……」

 毒を持つ動物を使って村を苦しめている人物を、茜は想像して不快な気分になる。

 転生後の世界でも、変わらず悪人だっている。

 だから、仲間と共に、悪人を阻止しなければならないと茜は考えた。

「アカネ、怒っているのか?」

「力のない人を襲うなんて、許せません」

 アカネはかつての自分を思い出し、拳を握る。

 異世界に転生してから、茜は身に着けた力で誰かを守ろうとしている。

 正義感が強くなったのは、良い成長と言える。

「でも、一人で何でもやるんじゃないよ。冒険はみんなでやるものだからね」

「誰か一人でも欠けたら冒険は成功しないぞ」

「そうでしたね、皆さんを忘れました」

 茜は一人ではなく、アエルスドロら仲間がいる。

 その仲間を忘れないのも、冒険者の不文律だ。

「さあ、行きますよ、皆さん!」

「ああ! 必ずテオ村は私達が守る!」

 

 四人が奥に進むと、薄汚れた黒いローブを身に纏った男が、机に向かっている。

 机の上には解剖されたネズミや、様々な薬品が並んでいる。

 宿の中で聞いた情報と、完全に一致していた。

 

「まだ気づかれていない。不意を突くのはどうだ?」

「いいですね……やってみましょう」

 アエルスドロ達はそっと歩き、男に不意打ちを仕掛けようとした。

「……ん? 誰でしょうか?」

「しまった!」

 しかし、鱗の鎧を着た茜が音を立ててしまい、茜達は男に気づかれてしまった。

「おや……あなた達は、その身なりからすると冒険者のようですね」

「お前は誰だ」

 アエルスドロは警戒して剣を抜こうとする。

「名前を名乗るつもりはありませんが、冥土の土産に特別に教えましょう。

 私は腐敗教団の四神官、猛毒のセイスです」

 男は丁寧にセイスと名乗るが、相手を敬っていない事は茜にも分かる。

 周りにある薬品からは強い臭いが漂っており、レイは思わず鼻をつまむ。

「あんた、その薬で何をするつもりだい?」

「決まっているでしょう。この世界を腐らせるためです。

 そのためにまずは、テオ村を毒で腐らせます」

「そ、そんな事……許しません!」

 テオ村を苦しめようとするなら、阻止しなければならない。

 茜は鞭を抜き、セイスに突きつける。

「おや、私に挑むつもりですか? 四神官の力を思い知らせてあげましょう」

「いいえ、私には仲間がいます。だから、あなたに負けるわけにはいきません!」

「あんたの毒の知識、欲しいねぇ」

「お金が欲しいんだ。お前の言い分なんて聞かない」

 レイとデリサルもセイスには容赦しない。

 最早交渉の余地なしと判断したセイスは、仕方なさそうに立ち上がる。

「やれやれ……そんなに私が嫌いなら、私もあなた達が嫌いですよ。覚悟はいいですね?」

 セイスは杖を構え、戦闘態勢を取った。

 

「vie force!」

 茜はまず、自身の傷を癒してから後ろに下がり、レイは後ろで呪文を唱える。

 アエルスドロは弓を構え、セイスに矢を射る。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

「はっ!」

 セイスの近くにいた二匹のネズミが歩くと、レイが放った魔法の矢がネズミ達を撃ち抜いた。

 デリサルは近付いたネズミをレイピアで突き、ネズミはすぐに戦闘不能になった。

「おやおや、私のネズミに傷をつけては困りますね。ネズミはいくらでもいるのですよ」

 そう言うと、セイスの後ろからネズミが現れる。

「くそっ、ネズミめ」

「大人しく食われなさい、ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

「ぐあぁぁっ!」

「きゃぁぁっ!」

「うわぁぁっ!」

 セイスは呪文を唱え魔法の矢を茜達に一斉に放つ。

 光の矢は正確に茜達を撃ち抜いて体力を減らした。

 

「その顔、見ていて楽しいですよ」

「この……!」

 苦痛に歪む顔を見て、セイスは笑う。

 茜はますます、彼を許せない気持ちが高まった。

 

「消えてください! cadre sacre!」

 茜は光の柱をセイスに向けて放つが、ネズミに邪魔されて攻撃が届かない。

 アエルスドロは剣を振りながらセイスに突っ込む。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

 魔法の矢が再び、茜達を撃ち抜く。

 茜達の体力は、魔法によりどんどん減っていき、後一発攻撃を食らえば瀕死になりそうだ。

「負けるものですか……私は、絶対に負けません!」

 そう言って茜は攻撃が届くギリギリの距離から鞭を振り、セイスを打ち据える。

 負けたくないという思いが茜を奮い立たせており、今、目の前の敵を倒す事に集中している。

 ネズミはアエルスドロ達に任せ、自分は自分のやるべき事をやろう、と茜は思っていた。

 

「アカネが頑張っている……私達も期待に応えるぞ」

 そんな彼女に勇気づけられたのか、アエルスドロの剣がネズミを一閃する。

 デリサルはネズミの攻撃をかわして、レイピアでネズミを突き退散させる。

「ド・ゲイト・デ・テラ・マ・ギ!」

「うあぁぁぁぁぁっ!」

 レイが杖を振りかざし、セイスに魔法の矢を三本放ってローブをボロボロにする。

 最早、彼が戦闘不能になるのは時間の問題だった。

 

「……どうやら私の負けのようですね」

 すると、セイスはボロボロのローブで身を隠し、何やらぶつぶつと呪文を唱えている。

「何をしているのかは分かりませんが……覚悟してください」

 茜がセイスにとどめを刺そうとすると、突然、セイスの身体が黒い煙に包まれる。

「な、何を!?」

「今回はあなた達に勝利を譲りましょう。しかし、それだけで終わらないのが腐敗教団。

 腐るまでせいぜい足掻いてください……!」

 セイスが捨て台詞を吐くと、彼の姿は黒い煙となって消滅した。

 

「……逃げられてしまいましたか」

「だが、これで村の危機は去った」

 セイスに逃げられた事を知ると茜は落胆した。

 しかし、これ以上村に危害を加えないと分かれば、ひとまず、茜達は勝利したと言えるだろう。

 今はこの儚い勝利を、喜ぶしかなかった。

 

「……というのが事件の真相です」

 テオ村に戻ってきた茜達は、ネズミ被害の元凶が腐敗教団の一員である事を報告した。

 セイスには逃げられてしまったが、テオ村は平和になると報告した。

「おおお、ありがとうございます。なるほど……やはり良くない集団でしたか」

「村を救ってくださってありがとうございます。このお礼は、チーズ料理でします」

「どういたしまして! 私達は冒険者ですからね!」

 

 こうして茜達はテオ村に迫りつつあった邪悪な陰謀を阻止した。

 その途中で腐敗教団の幹部と出会い、新たな因縁が生まれようとしていた。

 冒険はまだ終わる事はないが、ひとまず、村を救う事はできた。

 

「これから私達、どうなるんでしょうか」

「何があろうと慌てるなよ、アカネ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。