フィロードの葬儀の翌朝、茜達ルファの招きで歴史あるエニニア城砦を訪れる。
一行はルファの弟子ラスクと交流し、
村の平和な活気と戦勝記念のオオルリ祭りの由来に触れる。
城砦の書庫で朝食を囲む中、ルファは謎めいた発掘調査や城砦の設備を一行に説明する。
そこで遺言として託されたのは、魔法の緑の盾であった。
受け取りの条件は、祭りの再現劇でフィロードに代わり「おかしな死に様」を演じる事。
聖騎士モリスが盾を継承し、一行は故人の遺志を胸に賑わう祭りの舞台へと向かうのだった。
エニニア城砦を後にし、街中に戻ると、オオルリ祭りは本格的に始まっていた。
楽しげな村人達が自宅を出て、笑い声と明るい音楽が響く村の広場に集まってくる。
茜達がラスクに案内されて村の中心へ辿り着いた時には、
ちょうどイコザ・クナセ・ルラーメ村長が群衆に挨拶を始めたところであった。
村の広場は、オオルリの形をした紙製の飾りやカラフルな旗で華やかに飾りつけられていた。
食べ物や色とりどりの工芸品を売る屋台が並び、広場の中央は古い大きな木のおかげで、
楽しい野外パーティーに適した日陰になっている。
地元の音楽隊が演奏する元気いっぱいの歌が終わりに近づく中、
イコザ村長が仮設ステージに上がった。
「こんにちは、皆さん!」
村長は両腕を高く上げて挨拶を始めた。
「オオルリ祭りへようこそ!」
歓声と拍手が広場を満たし、村長は満面の笑顔を浮かべていた。
「今日は飲んで歌って楽しむだけでなく、思い出に浸る日でもあります。
私達は先人達の勇気のおかげでここにいます。
私達の村の創設者、私達の先祖、
そして今日ここで祝祭に参加できない全ての人々に、敬意を表しましょう。
良い気分で、良い時間を、良い仲間達と共に、ルラーメ村のお祭りを楽しみましょう!
そしてオオルリに幸運を祈りましょう!」
村長の言葉に、大歓声が沸き起こり、この時をもって、正式にオオルリ祭りが始まった。
オオルリ祭りの各イベントは、ルラーメ村の広場を中心に展開した。
村人達が食べ物や飲み物を分かち合う中、茜は様々な魚の入ったパイやパン、
そして甘い飲み物を二つ買い、モリス、トーマ、リリーベル、そしてラスクに分け与えた。
「はい、皆さん! 美味しいですよ!」
茜は笑顔で、買った食べ物を手渡した。
「ああ、感謝するぞ、アカネ。これで士気も上がるというものだ」
モリスは力強く頷いた。
広場から波止場まで、常に人の流れが続いている。
波止場では釣り大会が開かれており、アマチュアの釣り人達や村の腕利きの釣り漁師達が、
一番大きな魚を釣ろうと競い合っていた。
この人気イベントへの参加をラスクが勧め、茜は目を輝かせた。
「釣りをやってみたいです!」
「どうぞ」
釣り道具とエサは貸してもらえた。
この大会は30分区切りで繰り返し行われ、
優勝者は金銭的価値のないトロフィーを授与されるが、
本当の優勝商品は、優勝を自慢する権利そのものであった。
「あれ!? イコザ村長!?」
他の十数人の村人達と共に、なんとイコザ村長も参加していた。
釣り竿を肩にかついだ村長は、他の参加者達を手招きして、自分と一緒に桟橋に並ばせた。
「釣りの王者を決めようじゃないの!」
フォチュン川に釣り針を投じながら、村長が陽気に叫んだ。
参加者達は次々と川に釣り針を投じる。
「トーマさん、モリスさん、リリーベルさん、見ててくださいね!」
茜は意気込んで釣り針を投げ込んだ。
リリーベルは静かに傍で様子を見ており、モリスとトーマは、
祭りの活気と、村長までもが参加するこのイベントの様子を興味深そうに観察していた。
しかし、最初の十分後、茜の釣り糸の針には何か手応えがあったものの、
すぐに引きちぎられてしまった。
「ああっ! 逃げられた!」
茜は悔しがった。
それは伝説の糸切りヌッシーだったのかもしれない。
そこからさらに十分後、魚は針にかからなかった。
茜は悔しさに唇を噛んだ。
そして、最後の十分後。
「来た! 今度こそ!」
茜の釣り竿が大きくしなった。
小さなウナギが茜の釣り糸の針にかかり、茜は見事に釣り上げた。
大きさは30cmだった。
結果、大きな獲物とはならなかったが、
茜は参加賞としてオオルリの小さな木彫り像を手に入れた。
「残念だったな、アカネ。だが、その根気は褒めてやる」
「可愛いお守りですね!」
茜は木彫り像を手に笑顔を取り戻した。
オオルリ祭りのクライマックスである「高き丘の戦い」の再現イベントが近づいてきた。
それは村から北へ三十分ほど歩いた丘で毎年開催される。
このショーはルラーメ村の民兵隊の訓練も兼ねており、午後に始まる予定であった。
開始の約一時間前、イコザ村長はルラーメ村の民兵たちを村の広場に集めた。
その後、村から高丘まで、まとまりのないパレードが行われた。
頭に立つのは民兵隊であり、その後に何十人もの観客と、
参加者用の飲み物を満載した荷車が続いた。
パレードが始まると、ラスクが茜達を見つけ、興奮した面持ちで駆け寄ってきた。
「皆さん! 一緒にパレードに行きましょう!」
「ええ!」
茜達は了承し、ラスクに導かれてパレードに加わった。
パレードは森と野原を通り抜けて高丘に到着した。
草が茂った斜面のところどころに、木や崩れかけた石壁が散らばっている。
丘の麓の近くには、お揃いの鎧に身を包んだ数十人の兵士が整列していた。
彼らが鉄の壁の軍の傭兵達である。
彼らと対照的に、ルラーメ村の民兵達の鎧はバラバラで、兜には凹みがある。
しかし、祭りのクライマックスに集まった人々の熱狂はそんなことで冷めたりしなかった。
パレードは丘のてっぺんへ登る道を進んでいく。
そこにはイコザ村長と女性ドワーフのラドがいて、
このイベントの最後の準備を打ち合わせている。
間もなく、パレードは再現イベントの参加者と観客の二手に分かれた。
前者は木製の武器を手に取り、後者は見物に適した場所に落ち着く。
「モリス、準備はいいか? フィロードの遺志を継ぐんだ」
トーマがモリスに声をかける。
モリスは左腕に「緑の盾」を装着し、木製の槍を手にしていた。
「ああ、問題ない。この盾の感触を確かめさせてもらうぞ」
モリスは落ち着いた様子であった。
イコザ村長は集まった人々に向かって大声で説明した。
「傭兵達は丘の西を攻め上がり、民兵および他の参加者は攻め下ります!
二つの集団は模擬戦闘の途中で衝突し、
傭兵隊が演じるガルバ軍は徐々に後退していく事になっています!」
村長は、怪我人を防ぐため、誰も本物の武器を使ってはならないと念を押した。
ラスクは茜達をルラーメ側の隊列に並ばせた。
「アカネ、トーマ、リリーベル。我々も、あくまで『再現』として楽しむぞ」
「ええ」
笑い騒ぐ声がひとしきり続いた後、村長とネシリワドと観客達は観戦のために、
近くの見晴らしの良い場所へ歩いて行った。
民兵隊は高丘の頂上に陣取り、
何百年も前にブルーメボーデン軍が陣取ったのと同じ丘に立った。
一方、丘の麓には、鉄の壁の軍の傭兵達が大昔のガルバ軍と同じ位置に整列し、
二つの部隊が向き合った。
「ガルバのネズミどもを追い散らせ!」
戦列のどこかで参加者の一人が叫んだ。
その直後、戦闘開始を告げるラッパが鳴り響く。
「ガルバ万歳!」
傭兵側の指揮官が叫ぶ。
彼は背が高いので、数騎の騎兵に囲まれてなお目立っていた。
偽のガルバ軍が丘を攻め上がり始め、ルラーメ村の民兵隊も敵を迎え撃つべく突進した。
「む……?」
両集団が突進を始めた時、リリーベルは目を凝らした。
リリーベルの鋭い視線が捉えたのは、
傭兵達の槍の穂先が日光を反射して鈍く輝いている事であった。
そして、指揮官が、鋼の斧で何かジェスチャーをしている事に気づく。
「待て! あれは本物だ!」
リリーベルは皆に警告したが、攻撃を止めるには遅すぎる。
騎乗した兵が先陣をきって丘を駆け上がる。
傭兵団が民兵隊と激突した瞬間、それは模擬戦闘でなく実戦へと変わった。
鎧に金属がぶつかる音が予期せずして戦場全体に響き渡り、
笑い声や芝居がかった自慢の声が一瞬にして沈黙に変わる。
草の茂る丘の上に赤い飛沫が飛び散り、ショックを受けた悲鳴が聞こえた。
これがただの再現イベントだと信じる人は、最早誰もいなかった。
高き丘は再び、本物の戦場になったのである。
茜達は、訓練されていない村人達が武装した傭兵からいきなり攻撃され、
必死に身を守ろうとしているのを目にした。
「卑怯なっ!」
モリスが怒声を上げた。
民兵の一人が負傷したのを見て、トーマは即座に行動した。
「そこの衛兵、動くな!」
トーマは衛兵に毒を放ったが、衛兵は毒に耐えた。
「くっ、効かないか!」
トーマが悔しがる間に、リリーベルが素早く動いた。
リリーベルは十ショートソードで衛兵を斬りつける。
彼女には迷いがなかった。
「退け!」
モリスが前に出てロングソードで衛兵を攻撃し、気絶させた。
立て続けに衛兵を攻撃したが、攻撃は当たらなかった。
「みんな、下がって!」
茜は、傷ついた村人を守るように叫び、衛兵に光を放って気絶させる。
その間も攻撃は続く。
衛兵がモリスを槍で攻撃したが、モリスはギリギリで攻撃を弾いた。
次の瞬間、トーマのところに矢が降ってきた。
トーマは鮮やかに回避したが、その矢は茜の鎧の隙間をすり抜けて、茜を傷つけた。
「アカネ!」
「大丈夫です!」
茜は痛みに顔を歪ませながらも、戦闘を続行した。
モリスが衛兵を引き付けている間に、リリーベルは衛兵をショートソードで攻撃し、
モリスが作った一瞬の隙を突き、急所を狙って衛兵を倒した。
「うわっ!?」
すると、恐ろしい斧を振り回す大柄な人影が、傭兵の一団を率いて混乱の中を進んできた。
それは腕利きの傭兵グラゴニスであった。
グラゴニスは四人の傭兵と共に、戦場の西端に出現した。
そして彼はモリスを指差し、自分の味方に向かって哄笑した。
「あれを見るよ! これがごっこ遊びだと思っている奴がまだいやがるぜ!」
そして、グラゴニスと傭兵達は一行に襲いかかった。
傭兵の群れは茜を攻撃し、続けてモリスを攻撃したが、モリスは鎧で攻撃を弾いた。
残った傭兵の群れはリリーベルを攻撃したが、リリーベルは軽やかに回避した。
リリーベルは素早く反応し、ショートソードで傭兵の群れを二回攻撃した。
「おらよ!」
「ぐあぁっ!」
グラゴニスはモリスに槍を投げつけた。
それはモリスの鎧の隙間を縫い、モリスは激しい痛みに呻いた。
「モリスさん!」
茜は負傷を押して、傭兵の群れに光の柱を放った。
トーマは動揺せず、近寄ってきた傭兵の群れに電撃の魔法を放った。
「くぅっ! やるしかないのう!」
モリスは、脇腹の痛みに耐えながら、怒りを込めてロングソードを振るい、傭兵を全て倒した。
残るは指揮官のグラゴニスのみ。
リリーベルは武器を持ち替えていた。
彼女はショートボウでグラゴニスを攻撃し
、さらにモリスが他の傭兵を倒した隙を突いて一撃で倒した。
「にっ、逃げろー!」
グラゴニスと四人の傭兵が倒されると、残りの傭兵達は散り散りになった。
しかし、戦場には、ルラーメ村の民兵がほぼ全滅した惨状が広がっていた。
「あ、ありがとうございます!」
そこに、イコザ村長が駆け寄ってきた。
彼女はショックを受けながらも、茜達が村人を守ってくれた事に感謝した。
「あなた達がいてくれなければ、もっと酷い事になっていたかもしれません。感謝します!」
「どういたしまして……」
「必ず報酬を与えますが、今は安全にルラーメ村に帰りましょう」
「……しかし……」
茜達が村長と話している間、ラドが疑問の答えを探して周囲を見渡していた。
先程の戦いの間、彼女の部下だった傭兵の一人が彼女を攻撃したが、
それはルファにあっさり殺されていた。
この傭兵隊長は普段は冷静沈着だが、今は怒り狂っている。
彼女はまもなく、自分の部下だった傭兵の一人が負傷しつつもまだ生きているのを見つけた。
「まあまあ、落ち着いてください」
イコザ村長がネシリワドを宥め、裏切り者を縛り上げて、
尋問のためにルラーメ村へ連行しようとする。
「あの傭兵団は、一体何を企んでいたんだ……」
トーマは呆然と呟いた。
「ガルバ帝国との関係があるに違いない。これは、我々が追っていた戦火そのものだ」
モリスは顔を青くした。
ルラーメ村の民兵のほとんどは戦闘中に死んだが、茜達が負傷者を探すと、
助けを必要としている者が何人か見つかった。
「大丈夫ですか?」
茜は、負傷が深い一人の村人に駆け寄り、応急処置を施し、死の瀬戸際から救い出した。
治療を受けた村人は命の恩人に感謝し、茜に200ゼニー相当の幸運のお守りを一つ差し出した。
「ありがとうございます、アカネさん……本当に、あなたは私の命の恩人だ」
負傷者の世話が終わった後、イコザ村長とルファは村人達に、
今後の適切な対応を取るべくルラーメ村へ戻ろうと呼びかけた。
イコザとルファはさらなる危険を心配して、村人を安全に家まで送るよう茜達に頼んだ。
「分かりました。最後まで、ご一緒させていただきます」
茜はきっぱりと答えた。
ルラーメ村への帰り道は、先ほどの賑わいとは打って変わって、憂鬱なものであった。
しかし、茜達は何事もなく無事に村へと戻った。
フィロードの葬儀の翌日、祭りの最中に起こったこの惨劇は、
茜達に新たな戦いの始まりを告げていた。
祭りの最中に起こった襲撃。
そこから、茜達の最後の冒険が始まるでしょう。