百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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~前回までのあらすじ~

高丘の惨劇後、茜達は捕虜の尋問で副官ヴェグルの裏切りと村襲撃計画を暴く。
村の近辺にガルバ帝国軍が襲来し、今夜中の無条件降伏と占領を要求した。
包囲されたルラーメ村で、一行は村を戦場にせず住民の命を救うため、決死の避難計画を立てる。
茜とトーマは協力し、ネシリワドは忠実な部下と共に帝国軍の脅威に立ち向かう。
平和な村に迫る邪悪な軍勢を前に、
茜達は絶望的な状況下で村人達を守り抜くための困難な選択を迫られる。
守るべき日常が崩れ去る中、一行は一筋の希望を求め、
暗雲立ち込める運命の夜へと足を踏み出すのだった。


第8話 三度目のタタカイ

 村の指導者達が避難の準備に同意した今、ルラーメ村の人々にはやるべきことが山ほどあった。

 ルファは、残った時間で帝国軍に関する情報収集と、村の防衛線の強化に重点を置いた。

 イコザ村長は、村人達を落ち着かせ、避難を組織するために、茜達とラスクに協力を要請した。

 

「アカネ殿、皆の力を借りたい。まずは、村の広場に住民を一人残らず呼び集めてほしいです」

「……はい、分かりました」

 茜達は同意し、戸別に訪問したり、村の広場の鐘を鳴らしたりする事で、

 ルラーメ村の住民のほとんどを容易く広場に呼び集めた。

 

 村人が集まると、イコザ村長がお祭り用のステージに上がった。

 ルラーメ村の広場には、オオルリ祭りのカラフルな飾り付けがまだ残っているが、

 昨日とは異なり、集まった人々の雰囲気は暗く、

 村長がステージに上がると不安げなざわめきが起きた。

 村長は言葉を飾らずに言い放った。

 

「危険な軍隊がこの村に向かっています。

 岩の傭兵部隊は村を守るために全力を尽くしてくれるでしょうが、

 私達は逃げる準備をしなければなりません」

 村長の話を聞いた村人達は、ショックを受けて黙り込んだ。

 やがて、叫びや怒りや恐れが混じった声で、次から次へと質問の声が上がる。

「どういう事だ!」

「何故戦わない!」

「我々の家はどうなる!」

 群衆がパニックに陥る中、モリスはすぐに行動した。

 モリスは村長の隣に立ち、避難計画を冷静に説明する事で、

 村長をサポートし、群衆を宥めようとした。

「落ち着いてほしい! 儂らは逃げるのではない、命を守るのじゃ!

 フォチュン川を下り、安全な都市ケイヌーキへと向かう!」

 モリスが状況を説明する傍で、ナルワ卿が余計な事を言い、村長と茜達の足を引っ張った。

「馬鹿げた! 私は高貴な身分だ、こんな卑しい避難などしない! 誰も私に指図はできぬぞ!」

 その傲慢な態度に、トーマが前に出て、厳しい口調でナルワを言い負かした。

「卿よ、この状況で身分を語るか。戦火は貴族を区別しない。

 残るなら、この場で村人の避難を手伝え!」

「うぐっ……」

 トーマの毅然とした態度に、ナルワは口を噤んだ。

 避難計画を受け入れた村人達は、時間が限られている事を理解し、

 イコザ村長やラスク、茜達が進めてきたケイヌーキへの避難準備に協力し始めた。

 

 茜は、村長から指示を受け、ラスクと共にルラーメ村の波止場へ向かった。

 一時間かけて船を調べた茜は、

 これらの船では村の住民四百名のうち二百名しか輸送できないとの見積りを立てた。

「これでは半分しか運べません……」

 茜は焦りを感じた。

 船がなければ、村人達が殺されてしまうからだ。

「あ、そうだ!」

 その時、茜は閃いた。

 水面に浮かべた大量の丸太をぐるりと囲むように小舟を並べてロープで繋ぎ合わせる事で、

 追加で二百人の村人を運べる即席の大きないかだを作れると。

「ラスクさん、丸太を集めて、船をロープで固定しましょう!

 これなら時間がなくても多くの人を運べます!」

 

 地元の漁師達の助けもあり、この簡単な計画は三時間で達成できた。

 茜とラスクの迅速な対応に、村人達は希望を見出した。

 

 午後の早いうちに、ネシリワドがルラーメ村へ戻ってきた。

 ネシリワドは岩の傭兵部隊に村の北に陣取るよう指示し、

 傭兵達は少しの間ならそこで大軍を食い止められると確信していると言った。

 彼女は彼らが戦わずに済む事を願いつつも、万が一に備えて、

 川門の近くに小さな後方司令テントを設置し、伝令を配置した。

 

「ルファ、頼みがある」

 ネシリワドは友人に頼んだ。

「私と一緒に前線で戦ってほしい。

 ブルーメボーデンの騎士が一人でも戦場に現れたなら、

 敵は騎士団全体を敵に回す事を躊躇うかもしれない」

 イコザ村長と女騎士ルファは傭兵隊長ネシリワドの選択を支持し、

 ルファはネシリワドの頼みを引き受けた。

 この計画では、村および避難民の防衛に回れる戦力が、

 残り僅かな民兵及び屈強な漁師数名しかいない。

 ルファとネシリワドは、茜達とラスクに、村長と一緒に村に残ってくれと頼んだ。

 敵軍の一部が岩の傭兵部隊の防衛線を突破した際に、村人を守るためであった。

「アカネ殿、君達の力が必要だ。後方で村長を頼む」

「えっ、でも……」

 ルファが言うが、茜は躊躇った。

 最前線で戦うルファやネシリワドを置いていく事に抵抗があったのだ。

「私も戦えます……! だから……!」

 すると、トーマが茜の前に立ち、彼女を説得した。

「アカネ、君の役割は最前線ではない。

 君の力、避難中の村人を守るために最も必要だ。君は後方の守りにつけ」

「……はい」

 トーマの言葉に、茜は了承した。

 

 戦闘計画の打ち合わせ中、茜は、ルファが何かを隠している事に気づいた。

 茜はネシリワドやイコザ村長やラスクがいる前では何も言わなかったが、

 茜が彼女に内密の話を持ちかけると、ルファは礼を述べ、一つ頼み事をした。

「……何か隠していませんか?」

「ありがとう、アカネ殿。ウェドリン城砦にある私のベッドの下に、大きな木箱が一つある。

 その箱の中身については今は言えないが、君達にそれを取ってきてほしい。

 そして、ラスクが安全に村を脱出した時点で、彼にその箱を渡してほしい」

「はい、分かりました」

 茜はルファの指示に従い、トーマ達と共に城砦へ向かい、箱を回収した。

 

 茜達がルファの箱を持って戻り、川門の近くに来た頃、

 地元の農夫が村の広場に馬で駆け込んできた。

「何百人もの兵士が街道を進んでルラーメ村へ向かって来るのを見た!」

 茜達が門の物音を聞ける距離に入った瞬間、川門の方から激しい蹄の音が聞こえたかと思うと、岩の傭兵部隊の傭兵が一人、村の広場に駆けこんできた。

 この女傭兵は、皆に近づきながら叫んだ。

「奴らが来る! 今すぐ逃げて! 帝国ぐ……」

 すると、彼女の言葉は急に途絶えた。

 近くの崖の上から、フードを被ってずんぐりした人影が飛び降りてきて、

 彼女の背中にぶつかり、馬ごと押し倒したのだ。

 その騎手はルファが派遣した斥候であり、

 今すぐ避難を始めるとの警告をルラーメ村へ伝えに来たのであった。

 

「い、一体どうしたんですか!」

 茜達が到着した時、馬は既に死んでおり、

 馬に乗っていた女性は襲ってきた帝国騎士と必死で戦っていた。

「助けなきゃ!」

 茜達は大急ぎでこの騎手を救出すると、騎手は攻撃が差し迫っていることを伝えた。

 帝国軍は二手に分かれて進軍してきたのだ。

 片方は傭兵団と交戦中であり、もう片方は村に向かっている。

 

「急いで村人を助けなきゃ!」

 茜達は大急ぎで村の中心へと向かった。

 

 イコザ村長とラスクは、ほとんどの村人と一緒に村の波止場にいた。

 斥候の知らせを聞いたイコザ村長は避難の開始を指示した。

 村人達は不気味なほど静かなまま、舟に乗り込み始めた。

 その時、ルラーメ村を見下ろす崖の端に、マントを纏った人影が次々と現れた。

 パニックが群衆を襲う。

 人影は一瞬だけ立ち止まった後、崖から飛び降りた。

 彼らはマントの下から翼を広げ、緩やかに村へ降下してきたのだ。

 

「さあ、避難中の村人を守って一緒に戦おう!」

「もちろんです!」

「この村は必ず、私達が守るからな」

 侵略部隊が崖からルラーメ村へ飛び降りると、ラスクは剣を抜き、茜達にそう言った。

 帝国軍の兵士達は速やかにルラーメ村を制圧し始めた。

 

「ほれ、儂が助けるぞ」

 四人の一家が他の遭遇者とはぐれたため、モリスは彼らを波止場まで輸送した。

 

「あれ……?」

 遠くできらりと光った閃光が茜の注意を引いた。

 村の北側の崖の上で、木々の陰に三頭の馬がしゃがんでおり、どの馬にも人影が乗っている。

 鎧が光を反射するのが見えたが、茜が仲間に知らせる前に、三つの人影は消えてしまった。

 茜は、人影が着用していた鎧はブルーメホーデン騎士団のものだが、

 今はもう使われていない古い型だと理解した。

 

 その後、北の方からガシャンガシャンという大きな音が聞こえた。

 金属製の大きな何かが近づいてくる音だ。

「あの音はなんだ?」

 リリーベルが音の正体を確かめようとするが、

 茜が見た不吉な乗り手に気を取られ、邪魔された。

 

きゃぁぁぁぁ!

うわぁぁぁぁ!

 燃える建物の煙の向こうから、舟に乗り込もうとしていた村人達の悲鳴が響いてくる。

 その悲鳴に混じって、信じられない言葉が聞こえた。

 

「ドラゴン!」

 そして、何かが姿を見せた。

 黒い獣が、巨体を左右に揺さぶりながら、波止場に近づいてくる。

 鱗がぶつかり合って、鋼鉄の板がこすれ合うような音がした。

 その両脇には侵略者どもが並んでいる。

 獣のぽっかりと開いた口から、炎がパチパチと音を立てて漏れ出していた。

 

 しかし、見た目に騙されてはいけない。

 ルラーメ村の波止場に近づいているのはドラゴンではなく、

 帝国軍のために発明された攻城兵器、アイゼンドラッヘンであった。

 このアイゼンドラッヘンは、四人の帝国騎士が操作している。

 

「やるしかありませんね!」

 茜達は波止場内で身構えた。

 避難は中断し、目の前の脅威と戦うしかない状況になったのだ。

 

「光よ!」

 茜が先陣を切った。

 聖なる祈りを捧げると、天から白い炎が降り注ぎ、帝国兵を焼く。

 帝国兵は身をよじって回避を試みたが、軽い火傷を負った。

 

「道を空けい!」

 モリスが重い足取りで駆け抜け、剣を叩きつける。

 一撃目が帝国兵の肩を裂き、二撃目が脇腹を深く貫いた。

 すると帝国兵の肌が不気味に硬質化し始める。

 モリスは全身を襲う強張りに抗い、間一髪で石化の呪縛を跳ね除けた。

 

「はっ!」

 リリーベルがその隙を逃さず、空を飛んでナイフを投擲した。

 刃は帝国兵の喉元に突き刺さって絶命し、その瞬間に全身が完全な石へと変貌した。

 石像となった死体から、不気味な灰色の石化ガスが噴き出す。

 モリスの足元が再び石に変わりかけるが、彼は必死に踏みとどまった。

 

「なんだ、これは……?」

「帝国軍が魔法を使ったんだよ」

 別の帝国兵が動くが、モリスの鋭い攻撃がその横腹を切り裂く。

 帝国兵は苦悶しながらもリリーベルに小剣を二度振るったが、

 彼女は蝶のように舞ってその刃を全て回避した。

「ぐっ!」

 さらに帝国兵が迫り、リリーベルを襲う。

 一撃目は避けたものの、二撃目が彼女の肩を深く切り裂き、リリーベルは顔をしかめる。

 

「足止めを頼む!」

「無論!」

 トーマが指先から冷気を放ち、それを帝国兵に叩き込んだ。

 帝国兵の足元を凍りつかせ、その動きを奪う。

 

「頑張ってください!」

「ああ! 必ず、こいつらを倒す!」

 波止場に残された村人達が、必死の面持ちで茜達へ声援を送った。

 その声がリリーベルに勇気を与え、彼女の集中力は極限まで高まった。

 

 茜が再び聖なる炎を呼び出すと、それが帝国兵に直撃し、凄まじい威力を発揮した。

 帝国兵は絶命し、瞬時に石像へと変わり、周囲に石化ガスを撒き散らす。

 リリーベルはそのガスを吸い込みかけたが、強靭な意志で耐え抜いた。

 モリスは残る帝国兵へ剣を二回叩き込んだ。

 

「トドメだ!」

 リリーベルの小剣が二度、帝国兵の急所を貫いた。

 絶命した帝国兵も石へと変わり、ガスを放出する。

 トーマとリリーベルは激しい咳き込みを抑え、その呪いから逃れた。

 

 帝国兵の体は、石の彫像となって地面に砕け散った。

 リリーベルは静かに地面から自分のダガーを拾い上げた。

 

「……何なんだ、こいつら。死んだ瞬間に石になるなんて」

「これぞ暗黒の神々の兵士だ。気を抜くな、まだ来るかもしれないぞ」

 トーマが警告を発した。

 すると、突如、波止場のすぐ傍にある毛深い鬼亭の外壁が内側から爆発するように弾け飛んだ。

 酒場の瓦礫の中から、黒い鎧を纏った大女が現れる。

 その名は、ガンダレーア・ガッタリーナ。

 彼女は魚の入った樽を小脇に抱え、

 ピチピチと動く生の魚をわしづかみにしては、汚らしい口に放り込んでいた。

 その背後から、さらに二人の帝国兵が這い出してくる。

 

「次、あいつら」

 ガンダレーアは魚を飲み込み、茜達を指差した。

 

「食らうがよい!」

 モリスが即座に移動し、帝国兵に剣を見舞ってその注意を引きつける。

「動きを鈍らせる!」

 トーマの氷魔法が帝国兵に直撃し、再びその足を凍らせる。

 リリーベルが追撃の矢を二本放つと、帝国兵は絶命して石に変わり、ガスを撒き散らした。

 モリスは再びガスの呪いに耐える。

 茜は残る帝国兵へ聖なる光を放つ。

 帝国兵は報復にモリスを斬りつけたが、モリスの堅固な鎧が全ての攻撃を弾き返した。

 

 だが、真の脅威はガンダレーアであった。

 彼女は疾走し、その巨体で茜達の戦列に食い込む。

 モリスが攻撃するが、ガンダレーアはそれを意に介さず巨大な斧をリリーベルへ振り下ろした。

ぐあぁぁぁぁぁっ!

 強烈な一撃で、リリーベルの体に衝撃が走る。

 リリーベルの体は波止場の木材を叩き、激しい苦痛に呻いた。

 

「大変です! リリーベルさんを助けてください!」

「その前にこやつを倒すのが先じゃ!」

 モリスが叫び、帝国兵にロングソードを二度叩き込んだ。

 帝国兵は絶命して石像へと変わり、再びガスを放出する。

 モリスの四肢に再び石化の兆候が表れ、彼の動きが僅かに重くなった。

 トーマ、リリーベル、茜の三人は、ガンダレーアの圧倒的な膂力から距離を取るため、

 一斉に離脱を試みた。

 しかし、ガンダレーアは獲物を逃さない。

 彼女は前進し、最も近くにいた茜に斧を叩きつけた。

「がはっ……!」

 凄まじい衝撃が茜を襲う。

 彼女の視界が火花を散らし、膝が崩れかけた。

 

「これ以上はさせぬ!」

「ぐぅっ!」

 石化の呪いに抗うモリスは、ガンダレーアの背中へ剣を二回叩きつける。

 ガンダレーアは怒りに吠えた。

「……奥の手を使わせてもらうぞ」

 トーマが貴重な魔力を解放した。

 彼はガンダレーアを指差し、世界の理を歪める呪文、ポリモーフを唱える。

 ガンダレーアは抵抗を試みたが、トーマの意志がそれを上回った。

うわぁぁぁぁぁっ!

 次の瞬間、巨体は急速に縮み、毛むくじゃらの小さな体に変わった。

 ガンダレーアは一匹の無力な猫に変身したのである。

 すぐにリリーベルが苦痛に堪えて猫になったガンダレーアに向けて動物を宥める呪文を唱えた。

 魔力に魅了された猫は、戦意を完全に喪失し、大人しく丸まった。

 指揮官を失った帝国兵の残党は略奪に夢中で、茜達を追う者はいなかった。

 

「もう、この村には行けないのですね」

「うむ、逃げなければならないからな」

 波止場の先端ではイコザ村長とラスク、そして数人の村人だけがまだ舟に乗らずに残っていた。

 茜達は急いで最後の一艘へと向かった。

 

「その舟、待ってくれ!」

 すると、煙に覆われた通りから、かすれた声が響いた。

 岩の傭兵部隊の鎧を纏い、角のついた兜を手にした男が一人、煙の中から走り込んでくる。

 それはネシリワドの副官、プオートウトであった。

 

「プオートウトさん! 無事だったんですか!」

 茜が叫ぶ。

 プオートウトは息を切らしながら、ルファが託した最後の伝言を告げた。

 

「帝国軍との戦いは……無惨な結果に終わった。だが岩の傭兵部隊の一部は逃走に成功した。

 ルファ殿は言った……

 『村の全員を避難させろ。私や残りの衛兵達を待つ必要はない。今すぐ逃げろ』と」

 

 プオートウトが抱える兜を見たモリスは、息を呑んだ。

 それは紛れもなく、古のブルーメホーデン騎士団の兜であった。

 

「……ルファ殿、そなたは」

 モリスが何かを言いかけたが、

 プオートウトは「帝国軍が迫っている」とだけ告げ、皆を舟へと促した。

 茜達は揺れる小さな舟に乗り込み、波止場を蹴った。

 

 ルラーメ村は、既に猛火に包まれていた。

 立ち上る黒煙の合間に、家々を根こそぎ略奪する侵略者達の影が見え隠れする。

 舟に乗り合わせた村人達は、自分達の家が、愛した村が、

 川岸にへばりついた赤と黒の残骸に変わっていく様を、目を逸らす事なく見つめ続けた。

 

 避難民の船団は、ルラーメ村の全てを載せて、フォチュン川を静かに下っていく。

 これから向かう都市、ケイヌーキさえ、本当に安全である保証はどこにもなかった。

 

 船旅は一晩かかった。

 昨日の喧騒が嘘のように、川面は静寂に包まれている。

 大きな恐怖を乗り越えた茜達の顔には、疲労の中に僅かな安堵が浮かんでいた。

 

 だが、夜明けの光の中に浮かび上がるケイヌーキの街並みを見つめる彼らの心には、

 失われた故郷への悲しみと、これから始まる果てしない戦いへの決意が重く刻み込まれていた。




次回は新たな場所で、また、新たな戦いに向かいます。
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