百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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茜達が新たな国に船出します。
どんな冒険が待っているのか、楽しみに待っていてください。


第5話 新たなるクニ

 腐敗教団の魔導師セイスを退けた事で、村に迫る危機を回避した茜一行。

 だが、腐敗教団はこれからも世界中を腐らせようとしているだろう。

 その前に、茜達は野望を阻止しなければならない。

 

「とはいったものの、ここから近い国はどこでしょうか……」

「フェーン王国の北に、ハリネース王国があるよ」

「それってどこなんですか?」

「知らないのかい? ハリネース王国は雪国。別名は芸術の国と呼ばれているのさ。

 ここから近いところを、あいつらは狙うと思うからねぇ」

 レイの推理によれば、腐敗教団はフェーン王国から最も近い国を狙っているらしい。

 確かに、フェーン王国の北は船で行けるので、相手は狙いやすいとは思っていた。

「レイさん、本当にあいつらはいるんですか?」

「あくまで、あたいの推測なんだけどね。

 でも、行ってみる価値はあると思うよ。みんなも行くよね?」

 腐敗教団がフェーン王国だけを狙うとは限らない。

 なので、違う国に行けば、腐敗教団を見つけられる可能性はある。

 レイの問いにアエルスドロとデリサルは頷いたが、茜はまだ行くか迷っていた。

「……私は……本当に行っていいんでしょうか。もし、見つけられなかったら……」

「あぁ、もう、うだうだ五月蠅いねぇ!

 そんなまどろっこしい事を言ったら、あんたを置いて行くよ!」

「ひっ!」

「最初からやらなかったらこれでおしまいだよ! 行ってみなきゃ分からない!」

 挑戦しなければ、結局は何もできない。

 その事をレイの言葉で気づかされた茜は怖がるが、同時に迷いを吹っ切れたような気がした。

 

「レイさん、ありがとうございます。私、みんなと一緒にハリネース王国に行きます!」

「よし、よく言った! さあ、船に乗るよ!」

「その前に、ちゃんと準備をしてからな」

 

 フェーン王国で買い物などをした後、茜達はハリネース王国行きの船に乗った。

 だんだんと町が自分達から遠ざかっていくのを、茜は寂しそうな目で見つめていた。

「これから私達、新しいところに行くんですよね」

「そうだ、腐敗教団はまたやらかすからな。私達が食い止めなければ、世界は腐る」

 アエルスドロは真剣な表情で空を見る。

 かつて邪神を封印した事があるアエルスドロは、たかが一つの組織に負けたくないと思った。

 そのためには、仲間と協力しなければならない。

「アカネ、君が必要だ。一緒に私と戦ってくれ」

「もちろんです!」

 アカネはアエルスドロに満面の笑みを浮かべた。

 彼女の表情を見たアエルスドロは、心の中がほんの少しだけ温かくなった。

 

 やがて船は音を立ててハリネース王国に到着した。

 茜、アエルスドロ、レイ、デリサルは、雪の大地を順番に踏みしめた。

 

「うぅ、寒いです……!」

 ハリネース王国に辿り着いた茜達を待っていたのは強い風と降り積もる雪だった。

 流石に雪国と呼ばれているだけあり、寒い場所だ。

 武装していたのはいいものの、薄着で入ったら自殺行為になる。

「大丈夫か? 流石に、ここは寒いな……。宿に入って身体を休めよう」

「そ、そうですね!」

「まずは冷えた身体を温めないとね」

 茜達は急いで近くの宿を探す。

 大きな建物を見つけた茜は、あれが宿だと思い、先頭に立って中に入った。

 

「ようこそ、冒険者の方。ここは虹の水晶亭です」

 茜達を出迎えたのは、美しい容姿の女性だった。

 建物の中にはたくさんの人がいて、ここが宿である事は誰でも分かっていた。

 その中でも厚着をしている人はいるため、ハリネース王国が雪国である事を茜は思い知った。

「はあはあ……ここ、寒いですね」

「おや、お嬢ちゃんはここでは見かけない人だね。もしかして、旅人かい?」

「はい、私は冒険者です」

 男性に声をかけられた茜はすぐに挨拶する。

「やっぱり。ところで、こんな噂は知ってるかい?」

「噂ですか?」

「ここの近くに、スケルトンが出る館があるんだ。

 その中から不気味な声が聞こえてね、住民は苦しんでるみたいだよ」

「ふむふむ。情報、ありがとうございます」

 ちょっとした情報だが、聞き逃さないように茜は男性の言葉を一字一句聞き取る。

 ハリネース王国の館から不気味な声が聞こえ、

 中にはスケルトンがたくさん生息している事、その声のせいで住民が苦しんでいる事。

 これは茜達で解決できる余地がありそうだ。

 

「美味い酒だな」

「雪国だから身体が温まるね」

 レイとデリサルは、席に座って酒を飲んでいた。

 雪に当たって身体が冷えていたので、彼らにはちょうどいいという。

「レイさん、デリサルさん。どうやらまた、冒険が始まるようですよ」

「おや、早速かい。冒険者ってのは冒険に恵まれるんだね」

「少し身体を休めたら、冒険に出かけよう」

 レイとデリサルは辺りを見渡しながら、グラスを口にして飲み干した。

 

 茜達が虹の水晶亭で身体を休ませた後、宿を後にして外に出た。

 吹雪は止んでおり、寒さもある程度和らいでいた。

「ここの館に不気味な噂があるようです。今回の冒険はこの館の調査がいいと思います」

「そうだな、アカネ。腐敗教団を追うのもいいが、まずは目の前の事から解決しよう」

 高い目標を立てるより、身の回りの事から始める。

 そうすれば、迅速かつ確実に成長する事ができる。

 茜が元いた世界の政治家はそれをせず、

 高望みをしてしまう事が多かったが、彼女の仲間は違っていた。

「皆さん、しっかりしてるんですね」

「む、それが普通だと思うが?」

 デリサルはそう言いながら袋の中身を確認する。

「何してるんですか?」

「次の冒険に備えて準備をしている。手を抜いたり油断したりしたら死ぬぞ」

「そうでしたね。アエルスドロさん、念のため、お店に行きましょう」

「油断大敵、だからな」

 

 茜達はハリネース王国の店に行き、準備をした。

 アエルスドロとデリサルは使った矢を買い直し、茜とレイはマジックアイテムを買おうとする。

 だが、現在の所持金で買えるものがなかったので、店の商品を見るだけに留めた。

 

「もう少し私にお金があったら、道具が買えたんですけどね」

「これから冒険でコツコツ稼いだ方がいい。デリサル、間違っても店の中で盗むんじゃないよ」

 レイは盗賊であるデリサルに目を光らせていた。

 デリサルが同じ盗賊やモンスター以外から盗むのは彼女としては耐えられないからである。

(商売仲間以外だったら、盗むんだけどなぁ)

「おっと、何を話してるんだい?」

「な、何でもありません。ありがとうございました」

 

 店を出た後、茜達は噂の真相を探るべく、ハリネース王国の奥に行こうとした。

 

「お待ちください!」

 すると、背後から女性の声が聞こえてきた。

 茜が振り返ると、ピンクのドレスを着た女性が目の前に立っていた。

「あなた達、その身なりからして冒険者ですの?」

 女性は茜達を警戒する。

 もし金品を盗もうとする輩だったら、早めに報告しなければならないから。

「はい、私達は冒険者です」

「これは……。お兄様、大丈夫でしたわ」

「おい、お兄様と言わなかったか?」

 アエルスドロが辺りを見渡すと、真っ白な城が遠くに建っていた。

「名前を名乗りませんでしたわね。私はハリネース王国の王妹・アイリスですわ」

「って、お姫様だったんですか!?」

 アイリスがハリネース王女である事を知り驚く茜。

 うっかり粗相をしてしまったのかと慌てるが、アエルスドロは落ち着いて対応しようとした。

 

「アイリス姫は、何故ここに?」

 いくら城が近くにあるとはいえ、王女が一人でいるのは奇妙だった。

「ハリネース王国の噂を知っておりまして?」

「あの、不気味な声が聞こえる屋敷か?」

「はい。あの屋敷から溢れ出る瘴気のせいで、病気にかかる人々も現れましたわ」

「嘘だろっ!? 止めなきゃね!」

 あのまま放っておいては、ハリネース王国の民が皆、病死してしまう。

 それは阻止しなければならないとレイは意気込む。

「で、あの屋敷はどこにあるんだ?」

「ここから西に行けばありますわ。瘴気が強いせいで、今まで誰も近付きませんでしたわ」

 そうなればなおさら放っておくわけにはいかない。

 この事件を解決できるのは冒険者しかいないのだ。

「では、この異変、必ず解決させていただきます」

「ええ。私からも頼みますわ。どうか、この国を救ってください!」

 王女に頼まれたからには、決して放っておけない。

 茜達はハリネース王国の異変を解決するべく、アイリスに頷いて、西に向かっていった。

 

 ハリネース王国首都・レリックから徒歩で二日、

 フック丘陵の南東、現在は廃鉱になっているカルシアグ鉱山。

 入り口は高さ5m、幅7mのアーチ状をしていて、

 入口から15mまでは外の光が射し込んでいるが、そこから先は真っ暗になっている。

 茜以外は全員、暗視があるので問題はないが、人間の茜にはやはり見えない場所だった。

 

「こういう場所には大抵、魔物がいるんだよな。明かりをつけたらバレるかもしれない……」

「でも、私は明かりがないと見えません。ちょっと、明かりをつけていいでしょうか?」

「それならいいんだけどね」

 茜は辺りを見渡した後、松明に明かりをつけた。

 レイと茜が後ろ、アエルスドロとデリサルが前で、洞窟の中を慎重に歩いて行く。

 左は最近起こった落盤で通路が塞がれており、右は小石だらけの急な下りになっている。

 足を踏み外したら、間違いなく落ちて怪我をする。

 

「おっと、おっとと……」

「危ないねぇ、転びそうだよ」

 茜とレイは転ばないように慎重に歩き、

 アエルスドロとデリサルは四つん這いになりながら下りる。

 敵が来ないように気配を察知しながらも、

 四つん這いになるしかできないアエルスドロに、茜は少しだけ同情した。

 四人が通路を通り切ると、東西に13m、南北に16mの広間に辿り着く。

 元々は坑夫達の溜まり場だったらしく、

 あちこちにランタン、椅子、テーブルなどの残骸が散らばっている。

 部屋からは僅かに黒い煙が漂っており、これが瘴気である事は茜に分かった。

 

「見てください、あれ……!」

 茜が指差した場所には、人の形をした小型スケルトンが20体整列している。

 この数のスケルトンを退治するには、相当な労力が必要だろう。

「一体どうすればいいんでしょうか」

「アカネ、君はここに来てから、クレリックの力を身に着けただろう?

 このクラスは癒しだけじゃなくて、アンデッドを退散する力も持ってるんだ」

「そっか!」

 クレリックは神の力を借りる事によって、アンデッドを追い払う力を持っている。

 特に弱くも数が多いアンデッドには、この力を使えば楽に攻略できる。

 茜は自身の力に気づくと目を閉じて聖印を掲げる。

「morts vivants abattre!」

 アンデッドを咎める祈りを口にすると、全ての小型スケルトンはどこかに逃げていった。

 

「案外呆気なかったですね」

 小型スケルトンが全て退散した後、茜はこの部屋を調べる。

 だが、棍棒になりそうな木材の破片や、

 お金になりそうもない鉱物の断片が見つかるだけで、他に何もなかった。

「お宝が見つかると思ったんだがな。次に進むぞ」

「はい。では次に……」

「ちょっと待て! 天井が危ない!」

 茜達が奥の通路に進もうとすると、デリサルが洞窟の天井を見上げる。

 天井を支えている木造の柱が折れそうになっていて早急に修理しないと落盤が発生するそうだ。

「俺が何とかするから、お前達は待っててくれ」

 デリサルは柱に登り、ロープを取り出して木造の柱を修理した。

 スカウトというだけあって、器用な手先であっという間に修理に成功した。

 これで落盤を防ぐ事ができ、一行は安心して先に進んだ。

 

 だが、次の部屋に入った四人を脅威が襲う。

 小動物のスケルトンが40体もいたのだ。

「ひっ! ま、またスケルトン!」

「怯むなアカネ、アンデッドを退散させるんだ」

「は、はい! morts vivants abattre!」

 茜は聖印を掲げてアンデッドを追い払う呪文を唱え40体の小動物のスケルトンを追い払った。

「クレリックになったはずの私がスケルトンを嫌うなんて、情けないですね」

「仕方ないだろ、君はこの世界に来たばかりだから」

「まあ、アンデッドに殺されたからですけどね」

 転生してクレリックになったとはいえ、茜はアンデッドに怯える自分を情けなく思っていた。

 だが、生前はそのアンデッド(吸血鬼)になすすべなく殺されたため仕方ないと割り切った。

「それより、これを見ろよ」

「あっ!」

 デリサルの視線の先には、何人かの犠牲者の屍が転がっていた。

 彼らはボロボロになった鎧と、錆びて使い物にならなくなった武器を所持していた。

「酷い……」

 屍を見て茜は声を上げる。

 スケルトンはこんな手慣れの戦士も、なすすべなく倒していったのだろうか。

 茜は屍に祈りを捧げ、デリサルは屍を調べる。

「ちょっと、死体漁りなんて……」

「いやいや、もう死んでるんだからいいだろ? おっ、何か見つけたぜ」

 茜が止めようとすると、デリサルは屍から三本の薬瓶を発見する。

 薬瓶の中には、真っ赤な液体が入っていた。

「……ちょっと入手方法がアレだけど、これはポーションだよ」

 ポーションは飲むと体力を回復できる薬だ。

 まだ使われていなかったため、使う前に彼らはアンデッドに襲われたのだろう。

 デリサルは頷くと、ポーションを鞄の中にしまう。

 

「よし、これからどんどん進もうぜ!」

「おーっ!」

 

 四人はどんどん洞窟の奥へと進んでいく。

 溢れ出る瘴気の原因は果たして見つかるだろうか。

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