そこにあったのは、かつての災害の跡地だったようですが……。
死の行軍の果て、茜達の目の前に現れたのは、空を圧するような絶壁だった。
巨大な台地が荒れ地からそびえ立ち、
その悠久なる威容を誇る崖は100mを超える高さにまで達している。
大地が悲鳴を上げて割れたかのような広い峡谷が台地を二つに切り裂くように口を開けていた。
しかし、その通路は冷徹な石の壁によって堅牢に塞がれている。
峡谷の入り口と門の外側には、まるで地面に咲いた毒花のように、
数え切れぬほどの赤いテントが密集していた。
「……あれが、ガルバ帝国軍の本陣か」
リリーベルが岩影から身を乗り出し、目を細める。
大地に群がる兵士の数は、数千、あるいは一万を超えるだろう。
上空では、翼竜の巡回部隊が不吉な影を落としながら旋回し、地上の獲物を監視している。
「まともに正面から挑めば、一分も持たずにすり潰されるな」
トーマが苦々しく吐き捨てた。
ガルバ帝国軍は圧倒的な戦力を有しており、これをすり抜けて進む事は不可能に近い。
「……そうですね、一旦、状況を知らせましょう」
茜達は一旦後退し、本隊を率いるラスクに「失われた名前の都市」の現状を伝えた。
ラスクは即座にケイヌーキの斥候を放ち、敵の動向を探らせる。
戻ってきた斥候が持ち帰った報告は、戦慄すべき内容だった。
「報告します! あの峡谷は確かに『失われた名前の都市』へと通じています。
現在、軍司令官の魔導師カーズ・パインヒルと、聖職者サウラーンが、
廃墟の地下に眠る古の兵器を探し求めているとの事です」
「古の兵器……。やっぱり、それが目的なんですね」
茜が不安げに眉をひそめると、斥候は言葉を継いだ。
「はい。奴らにはあのカーラン卿と、何百もの精鋭が帯同しています。
都市を塞ぐ要塞は、かつて消え去った古の民の遺物ですが、
今はガルバ帝国の牙城と化していますが――」
斥候は地図を広げた。
「都市を取り囲む崩れた壁には、侵入可能な通路がいくつかあります。
その一つは、ドラゴネルの着陸地である『風果て』へと続いているようです」
ラスクは、その情報を聞いた瞬間に腹を決めた。
彼は茜達と友軍を招集し、最終作戦を提案する。
「いいか、戦力では奴らが勝るが、我々には奇襲という唯一の利がある。
我らケイヌーキ軍が、正面の駐留地に全力で攻撃を仕掛ける」
「そんな事をすれば、ラスクさん達の被害が……!」
茜が詰め寄るが、ラスクは静かに首を振った。
「分かっている。だが、我々が暴れれば、都市からの増援は狭い峡谷を通らざるを得なくなる。
そして、風果てを守る連中も、戦場に引きずり出されるはずだ」
ラスクは茜の肩に手を置いた。
「その混乱に乗じて、君達が風果てに侵入し、都市への道を見つけるんだ。
指導者である魔導師と聖職者を討てるのは、君達しかいない。
……これが、決定的な一撃を与える唯一の選択肢だ」
モリスが重厚な鎧を鳴らして頷く。
「よかろう。ラスク殿、お主の覚悟、無駄にはせぬ。
儂らが敵の本陣を突き崩し、その首を挙げてこよう」
ラスクはすぐに作戦を実行に移した。
茜達が巨大な崖の壁沿いに立てられた厩舎――前線基地「風果て」へと接近したその時、
南西の方角から地鳴りのような叫び声が響き渡った。
「始まったな!」
リリーベルが指差す方向から、黒い煙が立ち昇り、警報の鐘が激しく打ち鳴らされる。
遠くの地平線では、銀色の鎧に身を包んだケイヌーキ軍の兵士達が、
油断し切っていたガルバ帝国の赤いテント群を次々と切り裂いていた。
「敵襲だ! ケイヌーキ軍だぞ!」
「防衛線を上げろ! 厩舎のドラゴネルを全て出せ!」
風果てに駐留していたガルバ帝国兵達は、パニックに陥りながら叫ぶ。
ガルバ帝国の兵士達が急いで乗騎の竜に跨り、戦場へと飛び立っていく。
一瞬にして、基地の守備は手薄になった。
茜達は岩壁に身を潜めながら、厩舎へと肉薄する。
目の前には、三体のガルバ帝国軍の上官が、遠くの戦火を呆然と眺めていた。
彼らの横には、一体のドラゴネルが繋がっている。
「グルルルァ!」
ドラゴネルがいち早く茜達の気配を察知し、警告の鳴き声を上げた。
しかし、士官達は未だに背後の襲撃に気を取られている。
「チャンスだ。あいつらが振り向く前に、一気に畳みかける!」
リリーベルが短剣を逆手に持ち直し、風のように駆け出した。
「聖なる導きを……。今度こそ、逃がしません!」
茜もまた、聖印を強く握りしめる。
混乱の極みにある「風果て」で、都市への道を切り拓くための不意打ちが、
今まさに始まろうとしていた。
「今さら振り向いても遅いぞ! 灰に帰れ! ラ・ロタ・ド・イグニ!」
トーマが杖を突き出し、魔力を注ぎ込んで呪文を唱える。
放たれた極小の火球は、帝国軍の上官たちとドラゴネルのちょうど中心で炸裂し、
巨大な火柱を形成した。
猛烈な熱波が、彼らの豪華な鎧を瞬時に焼き、ドラゴネルの翼を焦がす。
「怯むな、叩き伏せるぞ!」
モリスが燃え盛る爆煙を突き抜け、巨体を持つドラゴネルへと肉薄した。
魔法のロングソードが鋭い軌跡を描き、魔獣の強靭な皮膚を二度に渡って深く切り裂く。
そしてすぐに、リリーベルの指先が弦を弾いた。
「逃がさないと言っただろう!」
放たれた二本の矢は、
吸い込まれるように帝国軍上官の鎧の隙間――喉元と心臓部を完璧に貫いた。
急所を抉る痛恨の一撃を受けた上官は、言葉を発する事すらできずその場に崩れ落ちた。
「聖なる炎よ、浄化の時です! cadre sacre!」
茜が掲げた聖印から白銀の炎が降り注ぎ、傷ついたドラゴネルを包み込む。
ドラゴネルは苦悶の鳴き声を上げながら地面に伏し、そのまま動かなくなった。
「よし、敵を二体も倒したぞ!」
リリーベルが不敵な笑みを浮かべ、次の標的へと狙いを定めた。
「ド・ハンズ・ラ・カリ・デ・ポク・ド・カリ!」
戦場には、毒の霧が漂い始めた。
トーマが掌から放った毒が、生き残った上官の肺を侵す。
モリスが続けざまに剣を振るい、防戦一方となった上官の側面を斬りつけた。
「死なば諸共よ!」
最後の一体となった上官Cが、憤怒に顔を歪めてリリーベルへと突進する。
火炎を纏った槍、ヴィシャス・ランスが唸りを上げて繰り出されるが、
リリーベルは蝶のような身軽さでそれを紙一重で回避した。
「危ないところだったな……」
彼女は着地と同時に弓を引き絞り、近距離から矢を放つ。
矢は上官の胸当てを貫通し、急所を破壊した。
上官は口から血を吐き、崩れ落ちる。
「逃げ場はありませんよ! cadre sacre!」
茜の放った聖なる光が、最後の一人となった上官の身体を焼き、その戦意を削り取っていく。
「ド・ハンズ・ラ・カリ・デ・ポク・ド・カリ!」
トーマが再び毒霧を放つが、上官は死に物狂いで盾を掲げ、これを弾き返した。
モリスが間髪入れず剣を叩き込み、重厚な一撃が上官の鎧を歪ませる。
「ふむ、手ごたえがないようじゃ……」
「固定値が高くてよかったですね」
淡々と戦況を述べるモリスに、茜が頷く。
その専門的な言い回しに、リリーベルが不思議そうに首を傾げたが、戦場に油断は禁物だった。
「魔導師ィ! 貴様だけでも道連れだ!」
上官が絶叫し、全力を込めてトーマを突き刺した。
槍先が防護を破り、激痛と火炎がトーマの身体を焼く。
「がはっ……! あ、危なかった……死ぬかと思ったぞ」
血の気が引いた顔でトーマが後退する。
「いい加減にしろ、これで終わりだ!」
リリーベルが放った最後の二条の矢。
それは正確に上官の喉を射抜き、その絶叫を永遠に封じ込めた。
崩れ落ちる重装歩兵の音が、静かになり始めた厩舎に虚しく響いた。
風果ての喧騒を背に、一行は巨大な崖の割れ目に隠された古いトンネルへと足を踏み入れた。
そこは地上とは切り離された、冷たく湿った静寂の世界だった。
道は古い岩盤を力任せに穿ったように曲がりくねり奥へ進むほどに闇はその濃度を増していく。
トーマが杖の先に灯した魔法の光が、湿り気を帯びた岩肌を不気味に照らし出した。
「……何だ、この音は。さっきから足元でカサカサ言ってるのだが……」
リリーベルが嫌悪感を露わにしながら、短剣の柄で自分のブーツを軽く叩いた。
光の届かない闇の境界で、無数の多足類や甲虫達が這い回り、
一行の侵入を嘲笑うかのように触角を震わせている。
「虫の類だけならいいがな」
トーマが杖の光を壁に向ける。
そこには、長い年月をかけて風化した古い文字や、
かつての住人達の生活を思わせる壁画の残骸が、化石のようにこびり付いていた。
「記憶の道……。あの人達がそう呼んでいた理由が分かる気がします」
茜は、壁に残る微かな凹凸に手を触れた。
「ここはただの通り道じゃない。
この都市がまだ名前を持っていた頃の、人々の歩みが積み重なっている場所なんですね」
「左様。廃市の土台を突き抜け、東地区の地下を蛇のように這うこの道は、
かつての都市の血管だったのじゃろうて」
モリスが鎧の音を響かせながら、重い足取りで先行する。
「だが、血管が詰まれば体は腐る。今やここは日の光を嫌う者達の巣窟と化しておるようじゃな」
一行が100から200mほど進んだ頃、壁に巨大な岩の継ぎ目が現れた。
そこを境に、岩肌の質感が滑らかなものから、荒々しく禍々しい黒ずんだ岩へと急変した。
空気の重みが一層増し、奥からは腐敗した水と獣の臭いが混ざり合った風が吹き抜けてくる。
「待て。誰にも忘れられた道だと思ったけが、どうやら先客がいるようだ」
リリーベルが足を止め、闇の奥を睨みつけた。
彼女の鋭い聴覚が、虫の羽音とは異なる、重苦しい「呼吸」の音を捉えていた。
この「記憶の道」は、決して万人に見捨てられた死地ではなかった。
その暗がりに適応し、侵入者の肉を待ち望む魔物達が、
今まさに闇の中から茜達を値踏みしている。
トンネルが左右二手に分かれる分岐点に差し掛かったその時、異変が起きた。
突如として、古びた壁の隙間から、毒々しい緑色の炎が茜たちの目の前へ噴き出した。
「なっ、何!?」
茜が叫ぶ間もなく、揺らめく炎の中からそれは現れた。
実体を持たない幽霊のように半透明で、それでいて禍々しい威圧感を放つ、
いくつもの巨大な竜の首。
それらは壁を突き抜けて宙に浮き、鎌首をもたげながら一行を見下ろした。
竜達が一斉に顎を開くと、怒り狂った大蛇が牙を剥くような、
しゅうしゅうという鋭い摩擦音が狭い通路にこだまする。
「いやっ……!」
あまりに唐突で非現実的な光景に、茜は恐怖で膝が震え、その場に腰を抜かしてしまった。
トーマも反射的に杖を構え、リリーベルは短剣を抜いて飛び退く。
しかし、先頭にいたモリスだけは抜いた剣を構える事もなく、じっとその幻影を見つめていた。
「案ずるな。これはただの残滓じゃ」
モリスの落ち着いた声が、パニックに陥りかけた一行の空気を鎮める。
「残滓? モリスさん、これが……攻撃してこないって言うんですか?」
茜が震える声で問い返すと、モリスはゆっくりと頷いた。
「左様。かつてこの地に封じられた、あるいは守護を命じられた竜の思念が、
土地の魔力と混じり合って形を成しておるだけのこと。見ておれ」
モリスが竜の首に向かって一歩踏み出すと、竜は激しく威嚇の声を上げた。
しかし、その首はモリスの体を通り抜けるだけで、火傷一つ負わせる事はなかった。
緑の炎は肌を焼かず、冷たい風のように吹き抜けるだけだった。
「ただの古い記録が、この壁に染み付いておるに過ぎぬ。
お主を傷つける力は、もう今のあやつらにはないのじゃ」
モリスが差し出した手を、茜は恐る恐る掴んで立ち上がった。
「びっくりした……。本当に、本物の竜が襲ってきたのかと思いました」
「死者と忘却が支配する都市だ。
驚くのは無理もないが、いちいち腰を抜かしていては身が持たんぞ」
トーマが強がりのように言いながら、冷や汗を拭う。
幻影の竜達は、今も壁から半身を出し、音のない咆哮を上げ続けている。
それはかつてこの都市が持っていた強大な力の、悲しい生き証人のように見えた。
茜達はその不気味な緑の光に照らされながら、
竜の首を通り抜け、さらなる深淵へと歩みを進めた。
「モリスさん、右に進みましょう」
「ふむ……そうじゃな」
茜を先頭に、一行は右側の通路へと足を踏み入れた。
進んだ先で待ち構えていたのは、それまでよりも一段と広い、巨大な自然の洞窟だった。
しかし、足元を見た茜は一瞬、息を呑んで立ち止まる。
「……骨? これ、全部……」
地面には、おびただしい数の骨が散らばっていた。
それは一種類の動物のものではない。
野犬のような小型のものから、人間、あるいはそれより大きな異形の骨まで、
ありとあらゆる種族の骸が層を成して横たわっている。
「自然に死んで集まったわけではなさそうじゃな。
何かがここに獲物を持ち込んでおったのか、あるいは……」
モリスが天井を見上げ、言葉を切った。
洞窟の天井は激しく落盤を起こしており、岩肌が剥き出しになっている。
しかも、その崩落に巻き込まれる形で、
地上にあったはずの建物の一部がまるごと洞窟内へ墜落してきていた。
「見て、あっち。壊れた家の中に……何だ、あれは?」
リリーベルが指差した先には、奇怪な光景が広がっていた。
砕け散った木材や瓦礫の中に、木でできたマネキンの頭が、
まるで生首のようにいくつも転がっている。
その周囲には、泥と湿気にまみれ、見る影もなく腐りかけた帽子が大量に散らばっていた。
「……帽子屋だったのでしょうか。街の欠片が、今は骨と一緒に地下に埋もれているなんて」
茜が悲しげに呟くと、トーマが杖の光でマネキンを照らし出し、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「悪趣味な冗談だな。だが、これだけ地盤が弱っている証拠だ。長居は無用だぞ。
上がいつまた落ちてくるか分かったもんじゃない」
一行は、マネキン達の視線を背中に感じながら、慎重に骨の山を乗り越えて奥へと進んだ。
洞窟の突き当たりに再び現れた分かれ道。
今度は迷わず、本来の目的地方向である左側を選択する。
不気味な静寂を破り、トンネルの壁面からカタカタという乾いた音が鳴り渡る。
埋もれていた無数の骨が、見えない糸に操られるように蠢き始めた。
壁にこびり付いていた骨の欠片が突如として突き出し、茜の頬をかすめる。
「きゃっ!」
茜は悲鳴を上げ、慌ててモリスの頑強な背中の後ろへ回り込んだ。
壁から這い出してきたのは、不完全な形をした数体の骸骨だった。
それらは顎を不規則にカタカタと鳴らし、隙間風のような、しゅうしゅうという音を漏らす。
それは古代の呪わしい言葉であった。
「……『お前達は我々の背中に乗って空を飛ぶ』……と言っておるようじゃな」
モリスが眉をひそめて翻訳する。
骸骨たちは当初、虚空を見つめ、一行を認識していないかのように見えた。
「ドラゴンスケルトンみたいですね!」
茜が少しだけ緊張を解き、そう呟いた瞬間だった。
その言葉が合図となったかのように、骸骨達の眼窩に不気味な光が宿り、
一斉に牙を剥いて襲いかかってきた。
「来るぞ! 構えろ!」
リリーベルの警告と同時に、茜が聖印を掲げる。
「cadre sacre!」
茜の祈りと共に聖なる光が降り注ぎ、ドラゴンスケルトンの骨を焼く。
すかさずリリーベルが肉薄し、ショートソードで骨の継ぎ目を的確に貫いた。
ドラゴンスケルトンは執拗に茜を狙い、その巨躯で迫る。
「茜には指一本触れさせない!」
離脱しようとする敵の隙を突き、リリーベルの刃が再び一閃する。
激しく噛みつこうとしたドラゴンスケルトンだったが、
勢い余って岩壁に頭を打ち付け、攻撃を外した。
一方、リリーベルに襲いかかったドラゴンスケルトンの牙が、彼女の肩を深く抉る。
「毒まであるのか!?」
「させはせぬ!」
腐食性の毒がリリーベルの体力を奪う。
そこへモリスの魔法の剣が助太刀に入り、トーマが指先から青白い火花を散らした。
「喰らえ、最大出力だ!」
激しい電撃がドラゴンスケルトンの全身を駆け抜け、残っていた骨が粉々に砕け散った。
「cadre sacre!」
茜は攻勢を緩めない。
聖なる炎が二体目のドラゴンスケルトンを捉え、リリーベルの追撃が骨を削る。
二体目のドラゴンスケルトンと三体目のドラゴンスケルトンは、
それぞれ茜とモリスに噛みつくが、二人の鉄壁の防護に阻まれて火花を散らすだけだ。
モリスは足場を確保するために大きく移動し、二体目のドラゴンスケルトンに斬りかかる。
しかし、床に散らばった骨に足を取られ、無様に剣を空に振った。
「ぬうっ、修行が足りぬか!」
「しっかりしろ、モリス! ド・ゲイト・ド・イス!」
トーマが放った冷気の光線が二体目のドラゴンスケルトンの関節を氷結させ、
その動きを著しく鈍らせる。
「これで決める!」
リリーベルの目が鋭く光る。
動きの鈍った二体目のドラゴンスケルトンに対し、
リリーベルは全神経を集中させた一撃を叩き込んだ。
「はあああ!」
その一撃は、見事にドラゴンスケルトンの急所を貫く。
急所を抉り、強敵を狩るリリーベルの執念が、二体目のドラゴンスケルトンの核を粉砕した。
残るドラゴンスケルトンは一体。
だが、その猛攻が再びリリーベルを襲い、鋭い牙が彼女の肉を裂く。
「おのれ、これ以上はさせん!」
モリスの剣が敵を深々と斬り裂き、トーマが呪文を唱え上げる。
「ド・イグニ・ラ・ナチュ・ラ・ナチュ・デ・ポク!」
トーマの指先から炎の光線が放たれた。
最後の一条こそ外れたものの、二条の火炎光線がドラゴンスケルトンの肋骨を焼き焦がした。
「神様、力を貸してください! cadre sacre!」
茜の祈りが最高潮に達し、強烈な光輝がドラゴンスケルトンを包囲する。
「くっそ、まだ倒せないか!」
リリーベルの矢が敵を捉えるが、ドラゴンスケルトンは未だカタカタと不気味に動き続ける。
「もう十分じゃ。これでとどめじゃ!」
モリスが重厚な一歩を踏み出し、ロングソードを大上段に構える。
「はっ!」
鋭い掛け声と共に繰り出された二連続の斬撃。
魔法の刃がドラゴンスケルトンの頭蓋を真っ二つに割り、ついにはその活動を完全に止めた。
散らばった骨だけが残った暗いトンネルに、激しい息遣いだけが響く。
「……ふぅ。ドラゴンスケルトンなんて、もう二度と御免だ」
リリーベルが毒に焼かれた肩を押さえ、不敵に笑った。
一行は再び記憶の道の奥へと、慎重に歩みを進めるのだった。
次回も都市を探索していきます。