百夜茜が理想郷に転生した件   作:アヤ・ノア

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ボス戦となります。
Flexible Renamerがフリーズしたり勝手にdesktop.iniが生成されたり……。
どうにかしてこの両方を対策する事は可能でしょうか?


第19話 無名都市ホウカイ

 最上階の円形広間に、重厚な大気が渦巻く。

 ファネセンティアルの身体を覆う真紅のローブが弾け飛び、

 禍々しい鱗に覆われたドラゴンの本性が剥き出しになった。

 

「神よ、私達に不落の盾を!」

 茜が叫び、聖なる魔法を練り上げる。

 広間の中心に巨大な光の守護者が具現化し、一行とドラゴンの間に立ちはだかった。

 

「……私の獲物は逃がさない」

 リリーベルが冷静に告げ、目にも留まらぬ速さで飛んで抜ける。

 彼女が放った補助魔法が、敵の眉間を捉えた。

 鋭い刺突が二度、ドラゴンの硬い皮膚を貫き、鮮血が舞う。

 

「毒には毒だ。喰らえ!」

 トーマの放った猛毒の霧がドレイクを包み込み、その生命力を一気に削り取った。

 しかし、生き残ったドレイクが反撃に出る。

 その口から吐き出された悪臭の煙が広場を最悪の腐臭で満たした。

 

「……っ、う……」

 モリスが肺を焼くような煙を吸い込み、そのまま意識を失って崩れ落ちる。

 

「逃がさぬぞ、魔導師め!」

 ファネセンティアルがトーマを目がけて飛来した。

 光の守護者が即座に反応し、神聖な雷光を浴びせるが、ドラゴンは止まらない。

 巨大な顎がトーマの肩を砕き、電撃がトーマの神経を焼いた。

 さらに鋭い爪がトーマの胸元を深く切り裂く。

 

「まさか、人間至上主義の国家が魔族を、それもドラゴンを招き入れるとはな……反吐が出るぜ」

 血を吐きながらも、トーマが不敵に笑った。

 ガルバ帝国は、人間以外の種族を認めない。

 それが、邪神と手を組んで魔族を呼び出すとは、ガルバ帝国の風上にも置けないと思っていた。

 

「聖なる炎よ、敵を焼きなさい!」

 茜の放った光の柱がドレイクを直撃する。

 そこへリリーベルが肉薄し、一撃でその息の根を止めた。

 彼女はすぐさま別のドレイクへ転進したが、刃は硬い鱗に弾かれた。

「……鱗に弾かれたか。硬いな!」

 

「毒よ!」

 トーマが指先をひねり、呪文を二重化させる。

 毒の飛沫がファネセンティアルとドレイクを同時に襲う。

 ドラゴンは耐えたが、ドレイクは苦悶の声を上げた。

 

「食らいなさい!」

 再び守護者の光がドラゴンを焼く。

 しかし、ファネセンティアルの怒りの矛先は、自分を傷つけたリリーベルへと向いた。

 

「小癪な羽虫めが!」

 ドラゴンの顎がリリーベルを捉え、電撃が彼女の全身を駆け巡った。

 集中が乱れ、補助魔法の印が消える。

 続く無慈悲な爪の連撃を受け、リリーベルはその場に倒れ伏した。

 

「リリーベルさん、起きて!」

「……う……」

 茜の切実な祈りが言霊となり、リリーベルの傷を塞ぐ。

 息を吹き返したリリーベルは、跳ねるように立ち上がるとドレイクへ突っ込んだ。

 一度目の攻撃は弾かれたが、二度目の刺突が急所を捉えドレイクを沈める。

 漂っていた悪臭の煙が霧散し、視界が開けた。

 

「これで最後だ、焼き尽くせ!」

 トーマが全魔力を込めた強化ファイアーボールを放つ。

 轟音と共に紅蓮の爆炎がドラゴンを飲み込んだ。

 消えゆく直前、光の守護者が最後の一撃を叩き込み、役目を終えて消滅する。

 

 不意に、意識を取り戻したモリスが咆哮を上げた。

「待たせたな! 儂の番だ!」

 モリスは凄まじい勢いで距離を詰め、魔法のロングソードを二度、

 ドラゴンの腹部に深く叩き込んだ。

 

「……ルネブリエ様……の……栄光を……」

 ファネセンティアルはふらつきながらも、憎悪に満ちた目で茜達を睨みつける。

 

「これ以上、悲劇を広げさせません!」

 茜の放った聖なる光がドラゴンの視界を奪う。

 その隙を、影のような速度で動くリリーベルが見逃さなかった。

 

「これで、終わりだ。お前には地獄すら生ぬるい」

 再び刻まれた死の印。

 リリーベルのショートソードが、ドラゴンの喉笛を深々と貫いた。

 急所攻撃、強敵狩り、そして呪いの追加ダメージが一点に集中し、

 巨躯が断末魔を上げて崩れ落ちた。

 

「……終わった。都市の浮上は止まりましたね」

 茜が肩で息をしながら呟く。

 だが、モリスは剣を収めなかった。

 

「いや、油断するでないぞ。見てみよ!」

 足元の揺れは止まるどころか、激しさを増していた。

 窓の外では、都市の残骸が岩ほどの大きさで次々と宙に浮き上がっていく。

 メキメキと、塔の底深くで何かが砕ける音が響く。

 

「床が……傾いている!?」

 トーマの叫びの通り、塔はゆっくりと横倒しになり始めていた。

 

「脱出するぞ! 早く!」

 四人は崩れゆく塔を駆け下りる。

 外へ飛び出すと、そこは大災害のただ中だった。

 瓦礫の島々が重力を無視して浮かび、帝国軍の部隊は阿鼻叫喚の渦にある。

 ドラゴネルは浮遊する岩を避けようと必死に羽ばたき、

 兵士達はひび割れた通りを我先に逃げ惑う。

 

 その時、南の空が禍々しい紫の炎に染まった。

 炎の中心から、巨大な石の島が天へと昇っていく。

 島の土台からは巨大な骨が突き出し、その上には紫の炎を灯した不気味な神殿が鎮座していた。

 

「……あれは、カーラン卿か」

 リリーベルが指差す先、ドラゴンスケルトンに跨った死の騎士が、

 浮遊城塞の周りを不気味に旋回していた。

 

「なんて事を……。私達が止めたかった『兵器』は、これだったんですね」

 茜が呆然と見上げる。

 

「浮遊する城か。帝国はとんでもない化け物を手に入れやがった」

 トーマが苦々しく吐き捨てた。

 

「感心している暇はない。都が崩壊する前にここを離れるぞ!」

 モリスの合図で四人は走り出す。

 

 道中、乗り手を失い怯えていた四体のドラゴネルを見つけると、

 茜は優しくその首筋を撫でて宥めた。

「大丈夫、怖くないですよ。私達を連れて行って」

 茜の不思議な呼びかけに、ドラゴネル達は静かに従った。

 四人はそれぞれの背に乗り、崩落する都から大空へと脱出した。

 

「ラスクさん!」

 ケイヌーキ勢の陣営に辿り着くと、ラスクが一行を歓迎した。

「無事だったか! だが、喜び合っている時間はなさそうだ」

 ラスクの顔には深い疲労の色があった。

 帝国軍は再集結を開始しており、連戦で疲弊したケイヌーキ勢に猶予はない。

「南へ退く。このままでは全滅だ」

 

 遠ざかる崖の上には、今や紫色の霧に包まれた浮遊城塞が、王冠のように浮かんでいる。

 その禍々しい神殿の上には、ルネブリエの軍勢に加わった事を示す真紅の旗が、

 勝ち誇ったように翻っていた。

 ケイヌーキの兵達はその空飛ぶ悪夢を見て惑い、恐怖した。

 

「静かにしろ! 我々の任務は、この脅威を南の守備隊へ警告する事だ!」

 ラスクの力強い声が兵達を落ち着かせる。

 彼は浮遊城塞を冷静に観察しながらも、味方がその射程から逃れるまでは口を閉ざした。

 

「……世界が変わってしまう」

 茜は遠ざかる空の城を見つめ、決意を新たにした。

 自分達の戦いは、まだ始まったばかりだった。

 一行は新たな脅威の影を背に受け、仲間達と共に南へとドラゴネルを走らせた。




次回が最終章です。
茜達はこの冒険の先に、何を見るのでしょうか……?
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