加筆修正が大変すぎて、投稿に時間がかかりました……。
崩落する「失われた名前の都市」の衝撃波が背後で遠ざかる。
ラスク率いるケイヌーキ勢は、帝国軍が混乱から立ち直る隙を与えず、
東の崖の上へと迅速に撤退した。
安全な距離を確保した一行は、そこでようやく泥まみれの足を止める。
茜達は借り物だったドラゴネルから降り、翼を休める竜達の首筋をそっと撫でた。
「……ありがとう。助かりました」
茜の声は疲労でかすれていたが、生き延びた安堵が混じっていた。
野営地から西を望めば、かつての都の残骸が星座のように虚空へ浮かんでいる。
大小様々な岩の群れが、物理法則を無視して静止していた。
だが、その光景の中で一際異彩を放つのが、再編中の帝国軍の真上に居座る巨大な浮遊島だ。
島にそびえる不気味な神殿のひび割れた壁からは、脈打つような紫の光が漏れ出している。
土台には何体もの骸骨竜がしがみつき、その黒ずんだ骨を紫の炎が包んでいた。
何体かが翼を広げて飛び立ち、巨大なハゲタカのように城の周囲を旋回する。
モリスは険しい表情で、十分以上もその城塞を注視し続けた。
「……見てみろ。地上のドラゴネルが部隊を次々と運び込んでおる」
「あんなものが攻めてきたら、街なんてひとたまりもないわね……」
茜の呟きに、モリスは重く首を振った。
「あれだけの巨体だ。全部隊を収容するには数日はかかる。
今はなるべく手を出すわけにはいかぬな。我々の任務は情報の持ち帰りじゃ」
そこへ、隊をまとめていたラスクが歩み寄ってきた。
トーマが都での出来事、そして魔導師達の企てを簡潔に説明する。
ラスクの顔がみるみるうちに青ざめていった。
「……浮遊城塞か。我々の軍勢では、あんな高みの敵を叩く手段がない」
ラスクは茜達の肩に手を置き、切実な目で訴えた。
「頼む。急ぎケイヌーキへ戻り、リクスート司令官にこの脅威を伝えてくれ。
君達なら、最短で辿り着けるはずだ」
「分かりました。すぐに出発の準備をします」
茜達が了承すると、ラスクは僅かな休息を促し、海岸への道を指し示した。
ドレッドウルフ湾への旅路は、険しい荒野をゆく五日間の強行軍となった。
「リリーベル、体の具合はどうだ? あの時の電撃の傷、まだ痛むか?」
歩きながらトーマが尋ねると、リリーベルは短剣を弄びながら淡々と答えた。
「……問題ない。茜の魔法のおかげで、動く分には支障はない」
「無理はしないでくださいね。まだ先は長いですから」
「私を誰だと思っている」
茜が心配そうに覗き込むが、リリーベルは鼻を鳴らした。
海岸まであと一日の距離に迫った時、空を切り裂く咆哮が響いた。
真紅のドラゴネル三頭が、帝国軍の騎手を乗せて急降下してくる。
彼らは一頭の銅色のドラゴネルを執拗に追い回していた。
逃げる銅色の竜に、騎手達が大きな網を投げつける。
「ああっ!」
網に絡まったドラゴネルは無様に空中で失速し、茜達のすぐ近くの地面に激突した。
「あの竜を助けなきゃ!」
茜が駆け出す。
三人の帝国軍将校が近くに着陸し、獲物を仕留めた猟師のような顔で近づいてきた。
「この竜を助けたいんです! どいてください!」
茜の叫びに対し、将校の一人が冷酷に剣を抜いた。
「野良のドラゴネルはガルバ帝国の資産だ。邪魔をするなら、貴様ら諸共片付けてくれる!」
「待て、一人で行くな、茜!」
リリーベルが叫びながら飛び出し、背負った弓を素早く引き絞った。
二条の矢が放たれ、帝国将校の肩を貫く。
モリスも即座に茜を庇うように立ち塞がった。
「聖なる炎よ、敵を討て! cadre sacre!」
茜の放った光が将校を焼き、そこへトーマが魔力を練り上げる。
「まとめて灰になれ! ラ・ロタ・ド・イグニ!」
爆炎が将校達を飲み込み、戦場を紅蓮に染めた。
「ぐっ、まだだ!」
将校が炎の中から飛び出し、熱を帯びたランスを茜へ突き立てる。
「痛っ……!」
激痛に顔を歪める茜を見て、リリーベルの目が鋭く光った。
「私の仲間に手を出すなと言ったはずだ」
リリーベルの放った矢が将校の喉元を正確に貫き、一人目を沈める。
続いてトーマの毒霧が将校の肺を焼き、戦況は一気に茜達の優勢へと傾いた。
モリスが重厚な斬撃で残った将校を追い詰め、最後はリリーベルの矢がその急所を射抜いた。
「終わりましたね……」
荒野に静寂が戻る。
茜は網に絡まって苦しむ銅色のドラゴネルに近寄った。
「今、出してあげるから……。うう、硬くて外れません」
「分かったよ。今、助けてやる」
見かねたトーマが横から手を貸し、手際よく網の結び目を切り裂いた。
自由になったドラゴネルは、一瞬だけトーマとじっと目を合わせると、
感謝を示すように低く鳴き、南の空へと飛び去っていった。
「……一体何だったんだろうな、あいつは」
トーマが不思議そうに呟き、一行は再び歩き出した。
ついに辿り着いたドレッドウルフ湾は、立ち込める霧に覆われていた。
洞窟の入り口で、狼の姿をした巨大な悪霊、グレートウルフが牙を剥く。
「こいつは悪霊だ。情けをかける必要はないぞ」
霧の中から現れたエルフの魔導師、イルキアル・セトケルが杖を構えて警告する。
「リリーベル、姿を消せ!」
トーマの魔法によって透明化したリリーベルが、見えない刃で狼の脇腹を裂く。
だが、グレートウルフは鼻を鳴らし、霧の中からトーマに襲いかかった。
「うわっ、離せ!」
鋭い牙がトーマの腕を深く噛み砕く。
茜が光の弾丸を放って援護するが、悪霊の力は凄まじい。
リリーベルが姿を消したまま、執拗に弓を射掛ける。
魔法の印が狼の額に浮かび上がり、矢が次々と深々と突き刺さる。
「トーマさん!」
茜が叫ぶが、グレートウルフの鋭い爪がトーマを何度も引き裂き、
ついに彼は意識を失って倒れ込んだ。
「よくも……! 消えなさい! cadre sacre!」
茜の放った聖なる炎が狼の全身を包み込み、悪霊はようやく霧の中へと霧散していった。
「お願い、治ってください」
茜は急いでトーマに駆け寄り、癒しの魔法を施す。
「……ふぅ、死ぬかと思った」
立ち上がったトーマは、洞窟の奥に不自然に輝く「黒いガラスの破片」を見つけた。
トーマがそれに触れると、入り江を覆っていた霧が潮が引くように消えていく。
イルキアルがその破片を見て、僅かに眉を動かしたのを茜は見逃さなかった。
「……イルキアルさん、それ、知っているんですね?」
「……すまない」
問い詰められたイルキアルは、それが古き魔導具の一部である事を認めたが、
思惑を隠したまま野営地へと去っていった。
一行を乗せた船は、追い風に乗って僅か一日でケイヌーキへ帰還した。
街には重苦しい緊張が漂っている。
至るところに負傷した兵の姿があり、小競り合いの報告が絶えない。
城内に入ると、リクスート司令官の側近がすぐに茜達を評議会室へと案内した。
会議室の扉を開けると、そこには殺気立った空気が満ちていた。
リクスートとナルワ卿が、ギルドの代表者達といがみ合っている。
中央の席には、知事のポーブ・テーラが不安げに座っていた。
「生き返ったか、貴公ら!」
リクスートが驚愕と共に立ち上がる。
ナルワ卿が冷ややかに遮った。
「再会を祝すのは後にしろ。まずは報告を聞かせてもらおう。北で何を見た?」
一行が「浮遊城塞」の存在を告げた瞬間、会議室は水を打ったような静寂に包まれた。
「空を飛ぶ要塞だと?」
ポーブ知事が声を震わせる。
質問が次々と投げかけられた。
「敵はそれをいくつ持っているのだ?」
「どうやって飛んでいる?」
「破壊する手段はあるのか?」
茜達は答えられる限りの情報を伝えたが、
未解決の謎が増えるほど、出席者達の不安は濃くなっていく。
「……ケイヌーキの防衛線を飛び越えてくるというのか。
そんなもの、どうやって立ち向かえと言うんだ」
誰かの絶望的な呟きが、部屋に響いた。
「今日はここまでだ。彼らには休息が必要だ」
リクスートの側近が割って入り、茜達を自室へと促した。
街には空飛ぶ兵器の噂が瞬く間に広がり、人々は空を見上げて怯えている。
帝国軍の総攻撃まで、猶予はあと一週間。
茜達は迫りくる決戦の足音を聞きながら、束の間の休息の中で武器を磨き直すのだった。
ケイヌーキ城の静寂は、一人の斥候がもたらした絶望的な知らせによって打ち砕かれた。
「街の北西に、あの空飛ぶ要塞が現れました!
その影に隠れるようにして、帝国軍の地上部隊が進軍を開始しています!」
その叫びは瞬く間に街中に広がり、平和を願っていた市民達の心に黒い影を落とした。
不安な一日が始まった。
街の通りは、避難場所を求めて右往左往する人々で溢れ返っている。
「お母さん! どこにいるの!?」
人混みのただ中で、小さな子供が泣き叫びながら親の姿を追う。
そのすぐ脇では、野良動物を詰め込んだ荷車を引く男が、
道端にうずくまる別の迷子の子犬を拾い上げるために足を止めた。
混乱は増すばかりだった。
茜は居ても立ってもいられず、人々に駆け寄った。
「落ち着いてください! お子さんは私が一緒に探します。
荷車の方、その先は行き止まりです。あちらの広場へ!」
彼女はスタッフ・オヴ・フォー・ゴッドを杖代わりに、
必死に交通整理を行い、人々の心を鎮めて回った。
そんな折、一人の若い兵士が、周囲を気にするようにして茜達に近づいてきた。
「冒険者の方々ですね。お願いです、力を貸してください。西交易門でトラブルが起きています」
兵士の話によれば、隊長の一人が難民の入城を頑なに拒んでいるという。
騒ぎを大きくしたくないその兵士は、上官に逆らうリスクを冒せず、
部外者である茜達に解決を委ねようとしていた。
一行が兵士の後に続いて西交易門に到着すると、そこには異常な光景があった。
巨大な鉄の落とし格子が無慈悲に下ろされている。
門の外には数十人の市民や旅人が集まり、絶望的な表情で門を叩いていた。
「開けてくれ! 帝国軍がすぐそこまで来ているんだ!」
門の内側では、ケイヌーキの兵士達が槍を握り締め、
自分達の隊長と門の外の群衆を交互に見つめていた。
その表情には、任務と良心の板挟みになった神経質な色が浮かんでいる。
門を閉鎖しているのは、クギャクゾ・イナイラ隊長だった。
彼は八人の部下を従え、頑固な岩のように入り口に陣取っている。
モリスが重い足音を立てて歩み寄り、クギャクゾを睨みつけた。
「隊長、この惨状が見えんのか。なぜ門を閉ざす。外にいるのは守るべき民ではないのか」
クギャクゾは不快そうに顔を歪めた。
「数十人の旅人やキャンプの連中が避難を求めているのは分かっている。
だが、帝国軍の中には変装した工作員が紛れ込んでいるという報告があるのだ。
今や大軍勢がそこまで来ている。街を危険に晒すわけにはいかん」
「工作員を恐れて、罪なき民を見殺しにするのがお前の正義か?」
モリスの低い叱咤が響く。
クギャクゾはなおも言い返そうとしたが、背後に控える茜達の決然とした眼差しに圧された。
「……分かった。門を開けろ! ただし、兵士諸君は警戒を解くな。
不審な動きがあれば即座に拘束せよ!」
落とし格子が不気味な金属音を立てて上がり、避難民達が雪崩のように街へと流れ込んできた。
茜達は彼らを安全な場所へと誘導し、混乱する門の内部へと入った。
その日の午後、リリーベルが空の異常に気づいた。
「……見ろ。ドラゴネルだ。二人の人物が乗っている」
ケイヌーキ城の尖塔へ向かって、一頭のドラゴネルが優雅に翼を広げて飛来する。
帝国軍の紋章は見当たらないが、一行は念のため武器に手をかけながら城壁へと急いだ。
古代の塔の壁から突き出た、崩れかけた石の控え壁。
そこに、疲れ果てた様子の一頭のドラゴネルが降り立った。
銅色の鱗が夕陽を浴びて鈍く輝いている。
「あいつは……!」
トーマが声を上げた。
それは間違いなく、一行が荒野で網から救い出した、あのドラゴネルだった。
ドラゴネルの背から降りてきたのは、アンサンド・コムビアと、
意外にも別れたはずのラスクであった。
アンサンドは一行との再会を喜び、驚くべき情報を伝えた。
「あの後、この銅色のドラゴネルに出会ったんだ。驚くほど友好的でね、私を乗せてくれた。
そのまま空飛ぶ要塞の近くまで偵察に行ったよ」
アンサンドによれば要塞の基部には無数のトンネルが血管のように張り巡らされているという。
そこから漏れる不思議な光は、上空の神殿へと繋がる魔力供給路であることを示唆していた。
「ラスクも見つけたんだ。船に乗り遅れた兵達を回収していたところでね。
このドラゴネルが彼を運ぶのを手伝ってくれた」
「すまない、また世話になる」
ラスクが苦笑いしながら頷くと、アンサンドはさらに続けた。
「他にも数匹友好的なドラゴネルがついてきてくれたが、街が見えると警戒して離れてしまった。
だが、彼らは味方になってくれるはずだ」
アンサンドとラスクから得た詳細な地形データをもとに、
一行は空中要塞への潜入計画を練り始めた。
「正面から空中攻撃を仕掛ければ、帝国軍の守備隊とドラゴンスケルトンの餌食になるだけだ」
トーマが机の地図を指差す。
「だが、アンサンドが言う基部のトンネルならどうだ?
陽動で敵の注意を逸らしている隙に、この中へ忍び込む。
中枢を叩けば、あの巨大な浮遊島を墜とせるかもしれない」
アンサンドは決然とした表情で立ち上がった。
「私はこれから、再び荒野へ向かう。
仲間のドラゴネル達を探し出し、ケイヌーキの防衛に協力するよう説得してくるよ。
君達が要塞に到達するための『翼』を用意する」
ただし、空中要塞が最も脆弱になる瞬間は、彼らがケイヌーキへの総攻撃を開始し、
魔力を攻撃に回した時のみだ。
「基部のトンネルが、唯一の希望ですね」
茜の言葉に、全員が深く頷いた。
アンサンドと彼のドラゴネルは、短い休息の後に再び空へと舞い戻っていった。
街の背後には、不気味に輝く飛行要塞が刻一刻と迫っている。
一行は来るべき最終決戦に向け、古の都の防壁の上で、静かに牙を研ぎ始めた。
夕暮れがケイヌーキの街を血のような赤に染め上げる頃、
西壁を守る兵士達が一斉に警報の角笛を鳴らした。
地平線の向こう、帝国軍の地上部隊が土煙を上げて進軍し、
その上空には不気味な影――空飛ぶ要塞が、ゆっくりと、だが確実な威圧感を持って迫りくる。
「来たか……。全員、持ち場を離れるな!」
ラスクの声が響く。
彼は混乱する雑踏の中から茜達を見つけ出すと、すぐさま交易門の城壁へと案内した。
城壁の上は、怒号と軍靴の音が入り乱れる戦場特有の活気に満ちている。
リクスート司令官は無数の副官達を従え、矢継ぎ早に命令を下していた。
彼女の鋭い視線は、城壁の向こうに広がる帝国軍の陣地を射抜いている。
そこでは数千の赤と黒の軍服が蠢き、深紅の旗が風にたなびいていた。
「司令官、空飛ぶ要塞を何とかしましょう。私達が潜入します」
茜が決然と言い放つと、リクスートは一瞬だけ足を止め、力強く頷いた。
「期待している。アンサンドの竜達の援護が整い次第、作戦を開始せよ。
それまではここで待機し、緊急事態に備えてくれ」
長く、不安な夜が始まった。
暗闇の中から帝国軍のドラゴネルの群れが、城壁を目がけて突進してくる。
「バリスタ、構え! 距離120m、狙え!」
茜が叫び、自ら巨大なバリスタのレバーを握る。
接近する四体のドラゴネル。
茜が狙いを定めて引き金を引くと、太い矢が先頭の一頭の翼を深く抉った。
パニックに陥ったドラゴネルは二人の騎乗者を振り落としそうになりながら、
戦列を離れて逃げ去っていく。
防衛戦の最中、息を切らした使者が駆け込んできた。
「報告します! 東壁にある『戦士の門』が無人になっています。衛兵の姿が消えました!」
「何だと!? 持ち場を捨てるなどあり得ん。茜、すぐに向かってくれ!」
リクスートの命令を受け、一行は夜の街を東へと疾走した。
戦士の門に辿り着くと、異様な静寂が彼らを出迎えた。
門は開いているが、重い落とし格子だけが下りている。
衛兵室の扉は薄暗い隙間を開け、向こう側では帝国軍の制服を着た者達が、
手招きするように行ったり来たりしていた。
「落とし格子が上がっていく……! 中から操作している奴がいます!」
茜が衛兵室に踏み込むと、そこには不安げに顔を歪めたナルワ卿と、
彼に懐柔された六人のケイヌーキ騎士達がいた。
「ナルワ卿! 何をしてるんですか!」
「……茜か。遅すぎたのだよ。帝国軍には勝てん。
皆殺しにされる前に、私は正しい道を選んだだけだ!」
ナルワ卿は震える声で叫び、騎士達に命じた。
「こいつらを消せ! 邪魔をさせるな!」
「卑怯者が……。リリーベル、姿を消せ!」
トーマが呪文を唱え、リリーベルの姿を透明にした。
姿を消したリリーベルが、影のように騎士達の間を縫う。
リリーベルの放った不可視の刃が騎士の脇腹を深く裂いた。
「ぐわっ!ど こだ、どこにいる!」
混乱する騎士達がグレートソードを振り回すが、モリスが重厚な盾でそれを受け止める。
「目を覚ませ、貴公ら! 裏切り者に殉じる価値などないぞ!」
モリスのロングソードが騎士を叩き伏せる。
同時にトーマが指先から火種を放った。
「狭い部屋だ、逃げ場はないぞ!」
轟音と共に炎が渦巻き、騎士達を壁際まで吹き飛ばす。
その混乱の最中、リリーベルは一気にナルワ卿の背後へと回り込んだ。
背後から放たれたショートソードの連撃が、ナルワ卿の心臓を正確に貫いた。
かつての重臣は、断末魔を上げる暇もなく床に崩れ落ちる。
騎士達は戦意を喪失し、武器を捨てて逃げ出した。
「これを見てください」
リリーベルが、ナルワ卿の死体の懐から一通の書状を見つけ出した。
茜がそれを広げ、小声で読み上げる。
『父上、帝国軍から提案が届きました。戦士の門で斥候と会ってください。
道を開ければ、あなたを私の元へ連れて行きます。
私はここに居場所を見つけ、栄光の一部を約束されました。――ナルワ』
「……息子からの手紙か。親子揃ってガルバ帝国に魂を売ったんですね」
茜は悲しげに手紙を握りしめた。
裏切り者の死は虚しいものだったが、
少なくとも戦士の門が突破される最悪の事態は防ぐ事ができた。
「まだ終わっていません。空の要塞が、すぐそこまで来ています」
一行は再び夜の闇の中、自分達の本当の戦場である「空飛ぶ要塞」を見上げた。
そして戦いは続く……。