終わりのセラフの吸血鬼も、アンデッド、ですよね?
ハリネース王国の異変を解決するため、四人はカルシアグ鉱山の洞窟を探索した。
スケルトンを退散しつつお宝を手に入れ、順調に奥に進んでいく。
「ここは、またスケルトンがいるとか?」
次に辿り着いた部屋は、ほぼ東西南北に20m広がる空間だった。
部屋の中には、誰もいないように見える。
「来ましたね!」
しかし、四人が部屋に入ると、茜の予想通り、巨大なスケルトンが三体襲撃した。
「退散するには大きいですね! ……ですが、逃げるわけにはいきません。
morts vivants abattre!」
茜は聖印を掲げてアンデッド退散の呪文を唱える。
巨大なスケルトンは聖印のオーラに耐え切れず、全員がバラバラに散っていった。
「なるべくなら……戦わずに進みたいです……」
冒険者は冒険こそが本業であり、戦闘は冒険の二の次に過ぎない。
なので、できるだけ無駄な戦闘を行わず、目的を達成する事を優先するという。
「よし、とりあえずここを調べるか」
「そうですね」
デリサルが部屋を調べていると、まだ使えそうなロングソードが一本と、
中型のハードレザーが一つ、その他にも重要な物品が一つ落ちていた。
「あん? なんだ、これは。お宝か?」
デリサルが見つけたのは、一冊の調査書だった。
「ふむふむ……そういう事か……?」
開いてみると、恐らく犠牲者が記入したと思われる様々な情報が書き込まれている。
それによると、この犠牲者はハリネース王国のある地方領主に雇われたスカウトらしいが、
それ以外の大半は日誌ばかりだった。
「ちょっと貸してごらん」
レイがデリサルの見つけた調査書を借りて、その調査書を丹念に読み込んだ。
「……閃いた!」
すると、レイはこの調査書に何が書かれているのか詳細に読み取る事に成功した。
・カルシアグ遺跡には、敵軍の侵入を妨げるために魔法で隠された秘密の入り口があるという。
・以前、この鉱山を管理していた責任者の一人、ドワーフのダグジスが、
「この鉱山を閉める時に作った地図によると、
もう一ヶ所だけ、入り口以外のどこかに三叉路があったはず」と言っていた。
・遺跡への入り口は、カルシアグ鉱山の入り口から割と近い場所にあるらしい。
「隠し通路に入り口。きっとあいつらは、何かを隠してるんだろうね」
「そこに瘴気の元が隠れているなら、叩こう」
「異議はありません。国は私達が救いますから」
腐敗教団は、隠し通路を利用して、ハリネース王国に瘴気を撒こうとしているかもしれない。
疫病の原因は、間違いなく瘴気だろう。
茜、アエルスドロ、レイ、デリサルは強く頷き、その場を後にするのだった。
「そもそも隠し通路は、どこにあるんだろうねぇ」
「俺が見つけてやろう」
そう言ってデリサルは、金鎚を取り出して洞窟の壁を叩いていく。
カン、カンと音が響き、どこにあるのかは四人にはまだ分からない。
あまり長い間探索していると、スケルトンに見つかるため、早めに調べようとしていた。
「……ん?」
何回か叩いていくうちに、デリサルは壁に何らかの違和感を見つける。
「もしかして、これが隠し通路なのか……?」
奇妙な音が聞こえた場所をデリサルは調べる。
すると、西側に魔法で隠された通路を発見した。
「見ろ! 隠し通路だ! レイ、魔法を解けるか?」
「お安い御用だね。ほら!」
レイが呪文を唱えて杖を振ると、隠しの魔法が解けるように消えていく。
青く細長い通路が、茜達の目にはっきり見えた。
「どうやらここが、隠し通路だったようだな」
「ここにカルシアグ遺跡が……?」
「入ってみる価値はありそうだ」
「瘴気が湧き出る原因も、調べたいですしね」
四人は迷わず隠し通路を通っていく。
それまでのごつごつした荒い岩肌とは打って変わって、
荘厳な雰囲気をする黒い金属製の通路が現れた。
何者かが人工的に造った通路に違いない。
「ここに、瘴気の元が……?」
すぐ近くにある角を右に曲がり進んでいくと、別の入り口が現れた。
入り口には重い鋼鉄の扉がある。
「よいしょ、っと……」
アエルスドロがその扉を手で押すと、それほど苦労もせずに開いた。
開けると、中はほぼ20m四方の角の取れた正方形の広間だった。
天井までの高さは6mと高く、まるでどこかの城のホールのような威厳と美しさを湛えている。
「綺麗……」
その美しさに魅入られる茜だったが、同時に、生前の嫌な記憶を思い出す。
茜はここと似た場所でフェリドに殺されたからだ。
「どうした、茜?」
「いえ、何でもありません。ちょっと……その……」
茜は皆に迷惑をかけないために黙った。
異世界から転生した事を、アエルスドロ以外に悟られたくないからである。
「ま、話したくないならいいけどさ。……おや、何かいるみたいだよ」
「あ、そ、そうでした!」
そう言って、茜は慌てて鞭を抜く。
レイの予想通り、ここには茜達を待ち構えていたかのように刺客が待機していた。
身長2mほどの人型のスケルトン達と、体長2.4mの四足獣型のスケルトン達だ。
「逃げましょう!」
こんなにたくさんの敵を相手するのは骨が折れる。
四人は一度狭い通路まで逃げ、アエルスドロは剣と盾を構えてスケルトン達を迎え撃つ。
これほど大きな敵なら、狭い通路を通り抜けられないだろう。
「はっ! ふぅん! せい!」
アエルスドロは大型スケルトンの攻撃を盾で受け流しつつ、隙あれば剣で反撃する。
大型スケルトンはガチャガチャと音を立てながら、ゆっくりとアエルスドロに近づく。
茜達は、スケルトンに見つからないように通路の中で身を潜めていた。
そして大型スケルトンの体力を削ったのを確認したアエルスドロは茜にアイコンタクトを送る。
「morts vivants abattre!」
茜の聖印が光り出すと、大型スケルトンは光に怯えてあっという間に逃げ出した。
「アエルスドロさん、ありがとうございました」
「もう、アンデッドを退散する事はできないがな」
茜の聖印は退散の力を使い切ったため、もう光らなくなっていた。
「いえ、これで十分です。後は奥に進むだけです」
アエルスドロと茜が話しながら先に進むと、四人はいよいよ最後の部屋に辿り着く。
広さ16m四方、部屋の四隅に太い大理石の白い柱が立ち、
正面には金銀で華美に装飾された大きな玉座がある。
「大きい……! ここに瘴気の元があるので……?」
その部屋には、水晶の冠を被り、貴族が身に纏うような派手なマントをつけ、
鎖帷子を着込んだ大柄な人型のスケルトンが座っている。
スケルトンの隣には、身の丈ほどもある斧を携え筋肉を皮の鎧で包んだ髭面の大柄な男がいる。
彼らの両脇には、禍々しい角と棘と牙に包まれた、
爬虫類のような顔の未知の骨格のスケルトンが二体、王にかしずく家臣のように鎮座している。
「うっ、何だか苦しい……」
スケルトン達から黒い煙が立ち込めており、吸い込むと気分が悪くなりそうだ。
茜が慌てて口を押さえると、大柄な男が前に出る。
「ガハハハハハ! こんなところに雑魚が来るなんてな!」
男は茜達を見て大笑いしている。
「お前が、この異変の元凶か!」
「そうだ!
ここの奴らはもうくたばったし、この剛力のゴードン様が瘴気を与えて蘇らせたのだ!
俺様に感謝しろよな?」
「誰が感謝するつもりですか!」
(……あの服、どこかで見たような……)
茜は鋭い目でゴードンを睨みつける。
レイはゴードンの姿を見て、彼がセイスの同志である事に気づいたらしい。
「みんな、ゴードンはセイスと同じ組織の一員だよ。どうやらまた、目を付けたみたいだね」
「おっと、そこのガキは俺様に気づいたみてぇだな。
でもまぁこれからくたばるテメェらには関係ねぇか。おいテメェら、こいつらを殺っちまえ!」
「ギ、ギ、ギギギギ……!」
ゴードンの号令と共に、三体のスケルトンが果敢に攻めかかってきた。
その隙にゴードンは煙玉を取り出し、その場から立ち去ろうとする。
「待て!」
「テメェらはこいつらの餌になるのさ! あばよ!」
デリサルの制止も空しく、ゴードンは煙玉を撒いて逃げ出した。
「くっ、逃げられましたか……!」
「今はこいつらを倒すしか方法はない! 行くぞ!」
「はい!」
茜達は武器を構え、三体のスケルトンと戦った。
「ギギ……!」
「きゃ!」
奇妙な骨格のスケルトンが、空を飛んで茜に襲い掛かってくる。
アエルスドロは素早く前に出て、スケルトンの攻撃を剣で弾き返す。
「くっ、どうやら剣はあまり効かないようだな」
「私の鞭も、効果はなさそうです」
スケルトンの骨の身体は剣での攻撃が効きにくく、打撃武器を持っていなければ砕けない。
「だったらあたいのこれが役立ちそうだね!」
レイは距離を取って、杖を振るってスケルトンの身体を砕く。
魔導師なので物理攻撃は不得意だが、その攻撃はスケルトンに効果的だった。
「やるな、レイ」
「魔導師が魔法しか使えないわけじゃないよ。さあ、あんたもやっておくれ!」
「レイピアはあまり効かないがな!」
デリサルは隙を窺って、地上に降りてきたスケルトンの身体をレイピアで突く。
怯んだスケルトンにレイが杖で攻撃して砕き、
残ったスケルトンは貴族のような一体だけになった。
「ギ、ギ、ギギギギギ!」
貴族スケルトンが勢いよく大剣を振り下ろし、理性を持たずに力任せに振り下ろす。
レイとデリサルは攻撃をかわして、弓や杖で反撃。
茜は防御魔法で身を守って鞭でスケルトンを縛り、
アエルスドロが剣を振り下ろして真っ二つにした。
強力だったが数が少なかったため決着は短かった。
「……私を呪縛から解き放ってくれてありがとう」
スケルトンを倒すと、豪奢な装飾の死体(骨)から霊のようなものが立ち上がった。
その霊は、鎧に身を包んだ勇壮な姿をしていた。
「あなたが……ここの城主だったのですね……」
「ああ。死した後、安らかに眠れると思ったが、あの男のせいで目覚めてしまったのだ」
「……」
冒険の途中で出会ったゴードンという男と、望まぬ因縁をつけてしまった一行。
しかし逆に考えると、この男や同士がいる場所にはたくさんの冒険が待ち受けている事になる。
「私達は必ず、彼らを倒します。どうか、安心して眠ってください」
「ああ……ありがとう。あの扉の向こうに、私からのささやかな礼がある。是非受け取ってくれ」
霊はそう言うと、安らかな顔で天に昇っていった。
「どうか、ゆっくりお休みください」
茜は聖印を掲げて、死体(骨)に祈りを捧げた。
そして、デリサルが奥の扉を開けると、たくさんの宝物が入っていた。
いかにもな装飾の鍵付き箱や、貨幣のぎっしり詰まった袋、
眩い銀色に輝く鎧などが所狭しと並べられている。
その中から、茜達は金貨や様々な道具を回収した。
「よし、銀のダガー発見!」
「お金~、お金は俺のもの~」
レイは自分が使えそうな銀のダガーを見つける。
デリサルは金品を見つけると、全て自分のものにしてしまおうとした。
「おっと、みんなで分けてくださいね」
「へいへい」
茜に言われデリサルは仕方なく金品を山分けした。
他にも、魔法に抵抗をつけるポーションを、茜はいくつか手に入れた。
「皆様、絶対に腐敗教団は倒しましょう! 今はまだ弱いですが、いずれ、必ず」
「茜、いい決意だ。私達もそれに続こうじゃないか」
茜達の冒険は、まだまだ序の口だった。
しかしこれから大きな冒険が待ち受けているため、それに合わせて彼らもまた成長するのだ。