ハリネース王国の異変を解決するため、四人の冒険者がカルシアグ鉱山を探索する。
彼らはスケルトンを退散しながら進み、調査書を発見し、魔法で隠された秘密の入り口を知る。
茜達は剛力のゴードン率いるスケルトンと戦い、城主の霊を解放する。
城主の霊は茜達に感謝し、宝物を残して天に昇っていくのだった。
洞窟・遺跡と立て続けに冒険していたのか、外はすっかり夜の帳が落ちていた。
魔物が襲ってきそうな中で、茜達はハリネース王国に戻った。
ちなみに到着時には言い忘れたが、ここがハリネース王国の首都・レリックである。
「ただいま……これでハリネース王国は、瘴気に蝕まれる事はないだろう」
「おかえりなさいませ」
アイリスは冒険から帰ってきた茜達を出迎える。
服はボロボロになっており、戦いが激しかった事が伺える。
「ふぅ、ふぅ、はぁ、はぁ……」
「あら! 随分怪我をしていますわね。宿で休んだらどうですの?」
「そうでしたね、無理はいけませんね」
アイリスに促された茜達はすぐに近くの宿に行き、
疲れた身体を休めるべくお金を払って部屋に行く。
茜達がちょうど入れる、四人部屋だった。
「ふう、疲れました。スケルトン、怖かったです。吸血鬼よりはマシでしたが……」
スケルトンの戦いで、茜はかなり疲れた。
数が多く、退散回数を使い切ってしまい、回復魔法を使う余裕もなかったからだ。
スケルトンは吸血鬼より下位のアンデッドだが、数が多くて苦戦してしまったようだ。
「しかし、あの事件の犯人が腐敗教団だったとはな。
まったく、冒険者はこういう奴に好かれるだろうか」
「ホントだよねぇ」
アエルスドロとレイはベッドの上で話し合う。
彼らが行くところに冒険ありとは言うが、腐敗教団ありともいうらしい。
「俺達は、あいつを倒せるのだろうか」
ベッドの上のデリサルが不安な表情になる。
腐敗教団の幹部を名乗るセイスは、茜達に不穏な言葉を残しながら去った。
つまり、茜達だけでなく、確実に世界を腐らせようとしているという。
―今回はあなた達に勝利を譲りましょう。しかし、それだけで終わらないのが腐敗教団。
腐るまでせいぜい足掻いてください……!
「デリサルさん、大丈夫ですよ」
だが、茜は硬いながらも微笑みを浮かべていた。
茜はフェリドに殺されてこの世界に転生して以降、力を得てアエルスドロ達と冒険している。
元の世界ではできなかった事がこの世界ではできるようになり、それが茜に自信をつけている。
「一人で腐敗教団に挑んでも無様に死ぬだけです。みんなで挑めば、腐敗教団は確実に倒せます」
「茜、本当なのか?」
「まあ、あの吸血鬼よりは弱いと思いますけどね」
茜は腐敗教団を笑い飛ばしている。
文字通り人外の力を持っていたフェリドと違い、腐敗教団は見る限り人間の集団だ。
四人で全力で挑めば何とか勝てるだろうと思った。
実際、フェリドは逃げようとした子供達を余裕で虐殺したほどで、
それと比べれば、回りくどい腐敗教団は敵ではないだろう。
「油断はしてないだろうな」
「してませんよ。ちゃんと準備してから挑みます」
いくら能力が高くても、それに胡坐をかいていれば不意打ちで瞬殺されるのは目に見える。
冒険前の準備は、非常に大事なのだ。
「とはいえ、もう夜ですし、晩御飯を食べて、明日の冒険に備えましょう」
「そうだな」
「体力をつけるのは大事だからね」
傷ついた身体で、しかも夜にまた冒険したら、自分達は魔物の餌になってしまうだろう。
今日は遅いので、この宿でゆっくり休む事にした。
「「「「いただきます」」」」
四人は手を合わせて、宿の食堂で夕食を食べる。
今日のメニューは鮭のグラタンとじゃがバターである。
雪国だけあって料理は熱々のものが多く、
グラタンは蕩けたチーズが糸を引き、じゃがバターはホクホクしていた。
「……あっつ!」
「慌てて食べると火傷しますよ、アエルスドロさん」
「温かい料理には思い出があるからな。つい、箸が進んで慌ててしまった」
舌を火傷したアエルスドロを茜が心配する。
生前は子供達にカレーを振る舞っていたため茜は子供達がこんな風になってたっけと思い出す。
アエルスドロは、マリアンヌの武官の時にはファルナの料理を食べていた。
それを思い出して、アエルスドロの顔は赤くなる。
「あら、アエルスドロさん、どうしたんですか?」
「何でもない。ほら、冷めないうちに早く食べろ」
「ふー、ふー……熱すぎても、火傷しますからね」
茜は夕食を冷ましながら、スプーンで一口食べた。
(みんなは、何をしてるのかな……。吸血鬼から、逃げ出しているのかな……)
グラタンとじゃがバターを食べながら、茜は一人、ぼんやりと何かを考える。
今頃、元の世界はどうなっているのだろう。
優一郎やミカエラは、地下都市の外でどうしているのだろう。
そんな事が気になりながらも、茜は夕食を食べ、冒険で冷えた身体を温めるのだった。
その頃、かつて茜がいた世界では――
「確かに、その、百夜茜さんは生きてるそうです」
「はあ? 茜が生きてるって?」
優一郎がシノアから噂を聞いて、きょとんとする。
何故なら、茜は地下都市から脱出しようとして、
ミカエラを含めた孤児達と共にフェリドに命を奪われたからだ。
「ミカじゃあるまいし……何かの間違いだろ? 吸血鬼にでもなっちまったんじゃねーか?」
真偽が分からない優一郎は顎に手を置く。
「ミカ」は優一郎の親友の少年・百夜ミカエラで、
地下都市からの脱出の際に重傷を負い、クルルの血で吸血鬼になった元人間だ。
もし死者が蘇るなら、大抵は吸血鬼になるはずなので優一郎もそうだろうと推測する。
だが、シノアは優一郎の言葉に首を横に振った。
「いいえ、人間のままだそうです。噂によると、こことは違う世界にいるとか……」
「……違う、世界?」
あの時、フェリドの手で茜の首が確かに飛んだのを、優一郎はその目で見た。
それだけで、茜が違う世界に飛ばされるのはあり得ない。
やはり、何かの間違いでしかないと優一郎は思ったが、僅かに希望的観測はしていた。
「まあ、茜が生きてりゃ俺は嬉しいんだが、ミカはどう思うだろうなぁ」
「それは私には分かりません」
「ったりめーだろ。あー、無駄話だったぜ。そろそろグレンとこに戻るか」
そう言って、優一郎はシノアと共に、グレン達が待っている場所に戻った。
この時の優一郎は、まだ何も知らなかった。
茜が理想郷と呼ばれる異世界に転生し、冒険者になっている事を――