食事処・十三腕
何時からかD.U地区に存在する料理店。
喫茶店のような装いのこの店では、客が望んだ料理が希望通りに提供されると言うこともあってか、老若男女問わず人であふれていた。
「店主、カレーライスを一つ」
「俺はラーメンと半チャーハンのセットで!」
「私はパフェが食べたいなぁ」
「こっちに唐揚げと餃子! あ、あと生大一つ!」
矢継ぎ早に飛び交う注文。十三腕で働く従業員は、店主である異形一人だけ。……ジャンルもバラバラなこんな注文を、普通であれば捌ける筈がないのだが……、
「お待たせしました。カレーライスです。こちら福神漬けです、お好みでお使いください」
「お待たせしました。ラーメンと半チャーハンのセットです。熱いのでお気をつけて」
「お待たせしました。フルーツパフェです。こちらのカラメルソースは、お好みでお使いください」
「お待たせしました。唐揚げと餃子に生大ですね」
提供時間、僅か5分。
尋常ではない速度で提供される料理の数々。とは言え、一切妥協することなく作り上げられた料理は、そのどれもが至高の一品となっていた。
シルクハットにタキシード
とても料理人とは思えない衣装に身を包んだ店主だが、それ以上に驚くべきなのは背中から生えている11本の腕だろう。
――両腕と合わせて13本
店主の為だけに用意された大規模セントラルキッチンには、調理器具がそれぞれ13個ずつ設置されていた。
13本の腕を自在に使い分け、目にも止まらぬ速さで調理を行う。同時に13品の料理を提供できるとなれば、多数のお客さんを一人で裁くことも容易なのだろう。
それに……十三腕で働く従業員は店主だけだが、彼の元には頼れる臨時スタッフが常駐していた。
「お会計は全部で2,000円です」
「またのご利用お待ちしております」
営業開始から4時間後。
お昼時を過ぎたということもあってか、客足が落ち着いてきていた。
「ふむ……。……ユウカ君。一段落したから、君も休憩に入りなさい」
「分かりました。……あの、今日の賄いは……」
「今日の賄いは君の大好きなフレンチトーストだよ。後でセミナーのみんなにも持って行くといい」
「あ、ありがとうございます!」
――食事処・十三腕
以前までは一人で営業していたこの店は、つい先日から臨時スタッフを雇っていた。……いや、雇っていた、と言うと語弊があるかもしれない。給料を支払っている訳でも無ければ、正式な雇用している訳でもない。
(ガララッ)
「いらっしゃいませ。……おや?」
"こんにちは、店主さん"
「こんにちは、先生。今日はお早い終業ですね」
"まだ終業じゃないよ……。……ユウカの様子はどう?"
「とてもよく働いてくれていますよ。今はちょうど休憩中ですが……、……折角ですし、先生も休憩されてはいかがでしょう?」
"……それじゃあ、お言葉に甘えて。珈琲と……何か軽食を貰えるかな?"
「畏まりました」
連邦捜査部S.C.H.A.L.Eに着任した先生。各自治区の生徒を当番制で周し、通常業務を処理をしている先生が思いついた一つの提案。
「お待たせしました。当店自慢の珈琲とBLTサンドです。砂糖とミルクはお好みでお使いください」
"おぉ……流石の提供速度だね"
「これでもシャーレと企業提携しているわけですから。お客様の……ましてや、先生の料理に時間を掛けるわけには行かないでしょう?」
シャーレに当番として来てくれる生徒に、臨時スタッフとして十三腕で働いてもらう。書類仕事で疲れてしまった生徒の気分転換も兼ねたこの提案は、十三腕をよく知る生徒からはとても喜ばれていた。
賃金を支払ったら仕事となってしまう為、給料は発生しないが……代わりに賄いと少しの
以来、お互いにwin-winの関係を築いたシャーレと十三腕。……先生と店主は、気が付けば親友と呼べる間柄へとなっていた。
"うん。相変わらず、ここの料理は美味しいね"
「喜んで頂けたのなら何よりです。……ユウカ君! 先生がお越しだよ」
「せ、先生!? ちょ、ちょっと待ってくださいね」
"急がなくて大丈夫だよ”
「……おや、意外と食欲あるようで。他にも何か召し上がりますか?」
"うーん……折角だし、もう少しだけ頂こうかな。あ、珈琲もお代わり貰える?"
「畏まりました」
店内に漂う珈琲の豊かな香り。同時進行で冷蔵庫から取り出されるデザート。
「お、お待たせしました、先生。珈琲とバスクチーズケーキです」
"ありがとう、ユウカ。……どう? 働いてみた感想は"
「そうですね……とても忙しいですが、お客さんの笑顔が絶えない良いお店だと思います。……賄いも美味しいですし」
"そっか。それなら良かった。……ところで、今日の賄いは?"
「今日はユウカ君の大好きなフレンチトーストを用意したよ。……先生も食べて行くかい?」
"そ、それじゃあ、折角だし頂こうかな"
「畏まりました」
そう言った店主は卵液に浸した食パンを取り出す。フライパンにバターを引き、ミルクと卵液を回しかけながら弱火で焼き目が付くまで焼き上げる。
それと同時に、取り出したイチゴをサイコロ状に刻み、シナモンとミントの葉を用意する。
「いつ見ても凄い手捌きですね」
「そうかい? まぁ、腕が13本もあるからね」
焼き上がったフレンチトーストを深皿へ移し、その上からたっぷりの蜂蜜を掛け、サイコロ状に刻んだイチゴとバニラアイスを添え、砕いたシナモンの粉を振るう。
最後にミントの葉を添えれば、
「お待たせしました。フレンチトーストです」
"おぉ! 凄いボリュームだね。……いただきます!"
「どうぞ、召し上がれ」
ナイフとフォークを巧みに使い、吸い込むような勢いで食べていく先生。一口噛み締める度に、口いっぱいにジュワっと広がる蜂蜜とミルクの濃厚な味が、食欲を加速させていく。
刻まれたイチゴやバニラアイスと共に食べ続け……気が付けば皿の上からフレンチトーストが消えていた。
"ごちそうさま。これは確かに、ユウカが病みつきになるのも分かるよ"
「喜んで頂けたのなら何よりです」
"うん、大満足。……そんな大満足な料理を提供してくれた店主に、ちょっとお願いがあるんだけど"
「お願い……?」
"うん。明日からちょっと遠出することになりそうでね。お弁当を作って欲しいんだ。勿論、代金は支払うからさ"
「お弁当ですか。勿論構いませんが、一体どちらへ?」
"ちょっとアビドスから救援依頼が来ちゃってね。その間の業務はリンちゃんにお願いしてあるから、何かあったらリンちゃんに連絡して"
「ふむ……。……出発は明日の朝ですか?」
"うん。生徒達には十三腕をお手伝いするようお願いしておくから"
「それは別に構わないのですが……。お弁当は明日の朝受け渡しで構いませんか?」
"うん。よろしくね"
「畏まりました」
★★★★★
お弁当……ですか。どうやら先生は、アビドス自治区がどんな所なのか把握していないみたいですね。……この世界に来て初めてできた友達だから、出来れば死んで欲しくないのですが……
「あの固定アーティファクトがある限り……死ぬことはないですかね」
★シッテムの箱
一度奪って鑑定をかけてみたいものですが、それでカルマを下げるのも良くないですね。……仕方ありません、お弁当はクーラーボックス*1に入れてあげましょう。
「……っと、私の食事がまだでしたね」
今日は私も甘い物にしましょうか。丁度新鮮なリンゴが余っていたはずですからね。
冷蔵庫から冷やしたリンゴを取り出し、バーベキューセットに火を点ける。
「いただきます」
数秒間バーベキューセットで焼き上げたリンゴは……
――気が付けば、美味しそうなリンゴパフェに姿を変えていた。
時系列は第1章の前日です。これから始まる食事処・十三腕の物語を、
――是非、お楽しみください