「いらっしゃいませニャ! ご注文は何ですかニャ?」
4足歩行の黒猫。6本の尻尾にメモ帳とペンを持ち、お客様の注文を受ける。その愛らしい見た目と奇怪な姿に注目を集めていた。
「可愛い~! この子って店主さんの飼い猫?」
「そうですよ。私のペットです」
「へぇ~。喋れて尻尾が6本もあるなんて可愛いね~! あ、注文はフルーツケーキで!」
「畏まりましたニャ! 少々お待ちくださいませニャ」
イチゴ、メロン、オレンジ。
三種類の果物をふんだんに使ったショートケーキ。牧場で繁殖させているプチ*1から取れたミルクで作った生クリームを、ふわふわな触感のスポンジ生地に塗る。その上にシロップ漬けにした各種フルーツを添えてあげれば……
「お待たせしましたニャ! フルーツケーキですニャ」
尻尾を器用に使いお皿を運ぶ黒猫。愛らしい姿と行動に店内は盛り上がりを見せていた。
「猫ちゃんこっちこっち! パンケーキ一つ!」
「俺の方にも、海鮮丼一つ!」
「唐揚げと生大、あとタコの唐揚げ持ってきて!」
「か、畏まりましたニャ! 少々お待ちくださいませニャ!」
急いでメモ帳に書き綴り、店主の元へと注文を届ける。6本の尻尾に13本の腕。お互いに最大のパフォーマンスを発揮しながら作られる料理の数々によって、食事処・十三腕は限られた従業員でありながら、尋常ではない回転率を誇っていた。
「お会計は1500円ですニャ! 2000円のお預かりなので、500円のお返しニャ!」
「可愛い~! 店主、この子いくら?」
「ニャ!? ご、ご主人……」
「すみません。その子は非売品なんですよ」
「そっか、残念~。美味しかったからまた来るね~」
「ありがとうございます。またのお越しを」
そうして店内を駆け回り、注文を受け付け、料理を運ぶ。……この作業を繰り返すこと4時間。ピークを過ぎたのか、お客さんの数もまばらになり、店内は落ち着きを取り戻していた。
「ニャ~、こんなに大変だったのかニャ……」
「無属性ドラゴンの相手をするよりはマシでしょう?」
「それはそうニャけど……」
比較対象が悪すぎるニャ……と呟く黒猫を尻目に、食材の下拵えを進めていく店主。
「こんなに落ち着いてるのに、まだ準備するのかニャ?」
「えぇ、まぁ。この後来るお客様に備えておかないと大変なことになりますので」
「大変ニャこと?」
「……っと、そろそろお時間ですね。クロ、貸し切りの看板を出してきてください」
「ニャ? 貸し切り?」
お客さんが誰も居なくなったのを確認した店主は黒猫にそう告げる。店主の態度に疑問を感じながらも、言われたとおりに貸し切りの看板を出してきた黒猫は、テーブルを拭き、空いたお皿を片付けていった。
「クロ、ここからはさっき以上に忙しくなりますよ」
「ニャ!?」
(ガララッ)
黒猫が驚くのとほぼ同時だろうか? 貸し切りの看板を出したばかりの扉が開かれ、4人の少女が店内へと立ち入るのであった。
「噂をすれば、ですね。いらっしゃいませ、食事処・十三腕へようこそ」
「い、いらっしゃいませニャ」
「ふふっ、予約していた黒舘ですわ」
「あら~、美味しそうな猫ちゃんですね~」
「ちょっと何言ってんの!?」
「ここが十三腕ですか~」
ゲヘナ学園所属、美食研究会。
先日偶然出会ってしまったハルナに目を付けられ、料理を提供したところ気に入られてしまい、後日こうして仲間を連れてやってきたのだ。
「クロ、ご注文を」
「わ、分かったニャ。ご注文は何ですかニャ?」
「あら、可愛い子猫ですわね。取り合えず、この間頂いたオムライスをお願いしますわ」
「この間頂いたオムライス……? あ、あの、それって何で調理してましたかニャ?」
「それは勿論、バーベキューセットですわ! あのバーベキューセットで作られたオムライスが忘れられなかったので、こうして予約させて頂いたのですわ」
「……ニャ~。……ご主人~?」
「仕方なかったのです。あの時のは、自分用に作ったオムライスだったので」
「ニャ~。だからあまり変なことはしニャい方が良いって言ったんだニャ」
「まぁ、私が違う世界から来たことなんて、然したる問題ではないでしょう。そもそも、腕が13本も生えてる時点でまともじゃありませんから」
厨房に置いておいたバーベキューセットを手に取り、美食研究会が座る席の傍へと運ぶ店主。
「折角ですし、ここで調理しましょう。他にも食べたいものがあれば仰ってください」
ボウルに溶いた卵を持ち、バーベキューセットの上へと流し込む。普通じゃありえない料理方法に目を疑う一同だったが、気が付けばオムライスへと姿を変えていた卵液に驚きを隠せなかった。
「お待たせしました。オムライスです。お熱いのでお気をつけてお召し上がりくだ……」
「いやいやいや!? え? 何今の!?」
「わぁ~☆ 初めて見る調理法ですね~☆」
「いや、初めて見るっていうか、色々おかしいでしょ」
「いつ見ても不思議な光景ですわね」
「ニャ~。だからやめろって言ったんだニャ~」
「これが店主さんの居た世界での調理法なんですの?」
「……そうニャ。あっちでは能力さえあれば誰でもこのやり方で調理ができたんだニャ」
「味は保証しますよ。取れたて新鮮な卵を使っておりますので」
そう言って4人にスプーンを差し出す店主。米はどこから来たんだとか、ケチャップはいつの間にかけられていたんだとか、言いたいことは山ほどあったが、その言葉は目の間に出された食欲をそそる香りを放つオムライスによって、かき消された。
鼻腔をくすぐるバターの香りと、焼けた卵の美味しそうな匂い。思わず生唾を飲み込んでしまった一同は、手渡されたスプーンを握り、オムライスを口へと運んだ。
「お、美味しい!」
「ん~☆ 卵がトロットロで、濃厚なバターとケチャップの味が美味しいですね☆」
「わぁっ~、すっごい美味しい! ねぇねぇ、これなんの卵使ってるの~?」
「それは秘密です。取れたて新鮮な卵とだけお伝えしておきます」
「……ニャ」
絶対牧場の卵だニャ……と思った黒猫だったが、余計なことは言わずに紙ナプキンをみんなに配る。まるで吸い込むような勢いで食べ進められるオムライスは、ものの数分で皿の上から消えていた。
「さて、次の料理に移りましょうか。この調理法の為、閉店まで貸し切りにしてありますので、気兼ねなくご注文ください」
そこからは怒涛の勢いで調理が進められていった。ハンバーグやステーキ、ラーメンにミートスパゲティ、魚の活け造りや煮込みなど多種多少な料理を振舞う店主。次から次へと出される料理にほとんどの会員は満足していたものの、
――約1名食べ続ける者がいた。
「まだ食べられそうですか?」
「そうですね~☆ こんなに美味しい料理ですから、まだ食べられそうです☆」
「畏まりました。ハルナ君から事前に伺っていて正解でしたね」
「ふふっ、私も大満足ですわ」
果物をふんだんに使ったシェイクを4人に提供し、旬の野菜と魚の天ぷら、キッシュなどを振舞った店主。他の3人の様子を見ながら、残った数本の腕でデザートを仕上げ提供する。
「お待たせしました。3種の果物のフルーツケーキです。午前中に振舞ったのですがとても好評でしたので、どうぞお召し上がりください」
バーベキューセットに果物を乗せ作り上げたフルーツケーキ。
シェイクやシャーベットなどのデザートまでバーベキューセットで作られる光景を目にしていた一同は、慣れてしまったのか誰も調理法に指摘していなかった。
――数時間後
「「「「ご馳走様でした」」」」
「お粗末様でした。満足していただけたでしょうか?」
「えぇ、勿論ですわ。やっぱり、あの日店主さんと出会えて良かったですわ」
「そういえば、ハルナはどこで知り合ったの?」
「ハルナ君と知り合ったのは、商店街でしたね。食材を買い込んでいたのですが、その時に話しかけられてしまいまして」
「あんなに大量の食材を、それも正確に新鮮なものだけを買い込むなんて、きっと名のある料理人だと思ったので声を掛けさせて頂いたのですわ」
腐敗時間が長いものから順に買い込んでいた店主だったが、その様子をハルナに見られてしまい、声をかけられてしまったのだ。
「特徴的な姿に目を奪われていたのですが、ここまでの腕をお持ちの料理人だとは思っておりませんでした」
「気に入っていただけたのなら何よりですよ。……そう言えば、4人は当番制について知っていますか?」
「当番制ですか?」
シャーレと提携した結果、当番制で臨時スタッフとして生徒に働いてもらうということ。賃金は出ないが、賄いとちょっとしたお土産などのご褒美を対価に支払うということを伝えた店主。
「今は先生が席を外しているので、戻って来てからになりますが。宜しければ是非、この制度を利用してみてください」
「ニャ~。ご主人、先生との約束を忘れたわけじゃ……?」
「忘れてませんよ」
"この世界の生徒を殺さないこと"
……この世界に来て、何度も先生に言われた言葉。その言葉を律義に守る必要もないのだが、店主としても別に理由なく子供を殺すつもりはなかった。
「……ニャ~」
ご主人、はく製を見る目で見てたニャ~……。とは言葉には出さないものの、危険に思った黒猫は店主に警告するのであった。
美食研究会『ハルナ』
美食研究会『アカリ』
美食研究会『ジュンコ』
美食研究会『イズミ』
キヴォトスの生徒たちだけで作り上げた、
【はく製博物館】を先生に見せたらどんな反応をするだろうか?