店主を再現しようと、カオスシェイプで13手育成中なのですが、やはり時間が吸い取られますね。
滅茶苦茶楽しいから良いんですけど
食事処・十三腕
本日も鋭意営業中。
先生がアビドスに出張している為、当番制は使えないがそもそも店主1人と1匹で人手としては十分であった。
「いらっしゃいませニャ」
1人で経営し1人で料理する筈が、想定以上の客足により、言葉通り猫の手を借りる羽目となってしまった店主。
「……おや? ……このペースだと、足りないかもしれませんね」
店主特製ビーフ(?)シチュー。
食事処・十三腕の人気メニューであり、あの美食研究会会長の舌を唸らせた程の一品。
彼女に爆破されず、高評価を得ているという事が広まってしまった結果、各学校からビーフ(?)シチューを求めて大勢の客が押し寄せた。
噂は留まるところを知らず、連日大盛況の十三腕だったが、客が増えるということはつまり、
――想定以上の材料が必要になるということだ。
「卵とミルクは大丈夫でそうですね。今足りないのは肉ですか……」
今日も変わらず、大量の肉を回収していた店主だったが、想定以上の注文により在庫を切らしかけていた。
「……仕方ありません。クロ、少しお店をお願いします」
「ニャ? わ、分かったニャ」
店主はそう言うと、裏口の扉を開け地下に続く階段を降っていくのであった。
店舗の地下にある工場。……と言っても、店主がそう呼んでいるだけの地下シェルターであり、機械などが設置されている訳では無いのだが。
「……さて、急ぎましょうか」
工場の中心にある設備。
店の地下にあるとは思えないほど巨大な空間。
街一つが丸々収まりそうな程広大な空間には、荒縄で身体を縛られ吊り下げられた4体のモンスターが居た。
一体一体が全長100mを超える程の巨体なモンスターは、当然それ相応の重量を持っている。
「――スウォーム」
全ての腕を伸ばし、バックパックから取り出した13本の短剣を握りしめ、自身の全周囲を斬り裂く店主。目にも止まらぬ無数の斬撃は、荒縄に縛られた4体のモンスターの身体を斬り裂き、
――分裂させる
「このぐらいあれば足りるでしょう」
分裂したバブルを斬り裂き、死体へと加工する。
全長100m 重さ15kgの肉の塊
数ヶ月は食べられる程の、肉の塊を複数入手した店主は、分裂したバブルを全て肉に変えた後、店へと戻るのであった。
★★★★★
「ありがとうございましたニャ!」
(カランカラン)
ドアベルが鳴り、本日最後のお客様が退店する。ドアにかけられた看板をCLOSEに変えた瞬間、
……一陣の風が店内を吹き抜けた
「お掃除完了です」
13本の手に箒や塵取り、雑巾や水の入ったバケツを持った店主。尋常ではない速度で動いた店主によって、数秒もせずに店内はピカピカな状態へと磨かれていた。
「ニャ~。生徒の基準に合わせる為ニャけに、速度を落とすのも疲れるニャ~」
「我慢してください、クロ」
速度4桁
キヴォトスの住人たちの平均速度が2桁、狙撃銃の弾丸でさえ3桁の速度しか出せないという世界において、4桁以上の速度で行動できる店主。
その気になれば先生の居るであろうアビドス自治区へも、走って数分で辿り着けることだろう。
「……でも、そろそろクロもその速度に慣れてきたのでは?」
「まぁニャ~。ご主人と初めて会った時を思い出すニャ~」
「懐かしいですね」
店主の腕がまだ2本しか無かった頃。
パルミアという街でただひたすらに魚を釣り、祭壇に捧げ、寝る。
そんな生活を1年以上続けたある日、信仰している神様より授かった下僕がクロである。
「あの時は、こんな狂人になるなんて思って無かったニャ」
「狂人とは失礼ですね」
「ニャ~。盗賊に襲われない為ニャけに、全ての街を倉庫で繋ぐなんてやるのは狂人だけなんだニャ」
倉庫を建築し、街と街を結ぶ道とする。言葉にすると意味の分からない内容だが、キヴォトスを基準に例えると……
――D.U地区から全ての学園までの道を、建設した様なものである
店主の許可が無ければ立ち入ることが出来ない専用道路。誰にも襲われることなく、安全に街と街を行き来出来る倉庫道。
「そのおかげで貿易が楽になりましたよね?」
「それはまぁそうニャけど……」
ご主人は倉庫分の税金を納めないから質が悪いんだニャ……という言葉を何とか飲み込み、毛繕いをするクロ。
(ガララッ)
「んニャ? お客さん、今日はもう閉店なんだニャ」
「うふふ……可愛らしい子猫ですわね」
「……あなたでしたか。先生ならアビドスに赴いてますよ?」
「えぇ、存じております。今日はあのお方からの指示で、ご挨拶に来たのですわ」
「先生からの指示ですか?」
「えぇ。あのお方が戻ってくるまで当番? としてここを手伝うようにとのご指示ですの」
「それは……とても助かります。私とクロだけでは手がいっぱいでしたので」
「あら……冗談がお上手ですわね。……ところで、私はあまり人前に出れる立場ではないのですが」
「……そう言えば、犯罪者でしたね」
「あっけらかんと言われると、少々反応に困りますね……。……その、あのお方からは、店主に言えば何とかして貰えるとお聞きしたのですが……」
「ふむ……。……そうですね、こちらをどうぞ」
少し考える素振りをした店主は、バックパックからとある道具を取り出し、目の前の少女へと手渡した。
「これは……手鏡でしょうか?」
「ニャ~。変装セットなんて久しぶりに見たニャ」
「変装セット?」
「その手鏡には特別な魔法が掛けてあります。万が一姿がバレそうになったらそれを翳してください」
「……俄かには信じがたいですが……これ、試してみても宜しいでしょうか?」
「えぇ、どうぞ。あちらに鏡がありますので、試して来てください」
そう言われた少女は手鏡を持ち、店内に備え付けられた鏡台へと向かうのであった。
「ご主人、あの子とは知り合いなのかニャ?」
「えぇ、まぁ。ワカモ君は以前、先生に紹介された少々訳のある子でして」
「ニャ~、そう言えば犯罪者って言ってたニャ」
犯罪者
イルヴァであれば別に少なくもない存在だが、ことキヴォトスにおいては珍しいらしく、基本的には矯正局という収容所に送られるらしい。
「変装セットは犯罪者の必需品ですからね。まぁ、今の私には必要ないのですが」
「魔法のストックが出来るまでは、お世話になってたニャ」
(キンッ)
店主の視線の先、ワカモの向かった方向から響く魔法の発動音。吹き出す白い煙。手鏡を掲げたワカモが驚く暇もなく、一瞬の内に行われる強制的早着替えによって、彼女は全くの別人へと姿を変えたのだった。
「これは…………流石ですね。まさか、このような道具があるとは思いませんでした」
「気に入って頂けた様ですね」
「えぇ、とても。流石、あのお方が認めた方だけのことはありますね」
「ニャ~。変装セットは使用回数に制限があるから、気を付けるんだニャ~」
残り使用回数4回。限定的とはいえ、完璧な変装を可能とするこの道具は、キヴォトスにおいて比較的……いや、かなり貴重な物品だろう。
「……さて、ワカモ君。折角ですし、何か食べて行って下さい。っと言っても、作れるものには限度がありますが」
「……! ……よろしいのですか?」
「えぇ、勿論。明日から頑張って頂きますので、今日は私からの奢りです」
そう言った瞬間、目にも止まらぬ速さで調理を開始する店主。バブルの塊肉を捌き、表面に焼き色を付けてから鍋に投下。各種野菜を敷き詰め、蜂蜜とウィスキーを回し掛ける。
弱火でじっくりと煮込みながら、沸いてきた灰汁をテレポートアザーでシンクへと飛ばす。
本来であればかなりの時間が掛かるはずの調理だが、イルヴァ産の調理器具を使うことで、スキルによる時短を行った結果、
ものの数分で、まるで数日間煮込んだようなビーフ?シチューが完成した。
「お待たせ致しました。当店自慢のビーフシチューです。バゲットと一緒にどうぞ」
「……これが、あのお方の舌を唸らせた一品。……頂きますわ」
連邦捜査部シャーレの先生。彼が絶賛する程の料理と言う噂も広まっており、美食研究会の噂と共に、十三腕への来客数を増やしていた。
そうなれば当然、その噂をワカモが知らないわけもなく……
「……! 美味しい……ですわ。……あのお方が絶賛する理由が分かりましたわ」
シチューを掬い、口に運ぶ。柔らかく煮込まれたバブル肉と、食べやすいサイズにカットされた野菜が、口いっぱいに旨味を溢れ出す。柔らかく臭みのない、今まで食べたことのない肉質に満足気な表情を浮かべながら、バゲットを手に取り齧る。
濃い味付けのビーフ?シチューと良く合うバゲットは、満足感を齎すと同時に幸福感までも齎す。
「デザートにこちらをどうぞ」
店主から差し出されるオレンジシャーベット。果実の味をしっかりと感じられるシャーベットが、ビーフ?シチューの油を流し、口の中をさっぱりとさせる。
このビーフ?シチューセットが、現在十三腕で最も人気のあるメニューと言うのも、納得できることだろう。