数分おきに姿が変わる
「ニャ? ご主人、今日はお店を開かないのかニャ?」
食事処十三腕は臨時休業を迎えていた。
「今日はアビドスに向かいますよ。先生から手を貸して欲しいとの連絡がありましたので」
「ニャ~。腕だらけのご主人に手を貸して欲しいというのも、面白い話ニャね~」
「クロ。牧場にいる彼女も呼んできてください。アビドスまでの道案内をして貰います」
「うニャ? 了解ニャ~」
畑、牧場、工場、etc
店舗地下に改築された設備たち。膨大な規模の複数施設を運営する上で欠かすことのできない人手。無論、店主一人でも問題はないのだが、人出が多いに越したことはないだろう。
「お待たせニャ、ご主人」
「連れてきてくれましたか。……クロ、あなたも装備の準備をしておいてください」
「ニャ? 装備って……」
「備えておくに越したことはありませんから」
「……ニャ~」
相変わらず警戒心が高すぎるニャ~。と言いかけた直後、地下施設につながる扉が開かれた。
「うへぇ~、アビドスかぁ~。ホシノちゃん達は元気かな~?」
「……言っておきますが、先生の用件が終わったら帰りますからね」
「えぇ!? ……って、分かってるから大丈夫ですよ~。店長に生き返らせて貰った恩は忘れてませんから~」
「ニャ~、ご主人。どうせ今日は休業ニャんだし、少し位時間を取っても良いんじゃないかニャ?」
……
「……あなたの存在を黒服に感づかれたくなかったのですが……まぁ、良いでしょう」
「やった! ありがとね、クロちゃん!」
「ニャ~。ユメちゃんのおかげで、僕の仕事も減って助かってるニャ。それに、」
――ご主人も、ユメちゃんが来てから少し楽しそうだニャ
「ね? ご主人」
「否定はしませんよ。向こうでは、私と話してくれる方なんて殆どいませんでしたから」
「そうなの?」
「良くも悪くも恐れられてたからニャ~」
などと雑談をしつつ準備を進めていく3人。必要な道具を4次元ポケットに詰め、アビドスへと徒歩で向かうのであった。
★★★★★
――アビドス砂漠
先生からモモトークで送られてきた座標。曰く、カイザーコーポレーションに捕らえられた生徒の救出を手伝って欲しいとのことだったが……、
「いやぁ~、絶賛戦闘中って感じだね~」
「ニャ~。これ、僕たちが参加する必要ありそうかニャ?」
「ふむ……。まぁ、相手は人間ではないみたいですし、久しぶりの運動とでも考えれば良いでしょう」
そう言い、4次元ポケットの魔法を唱えた店主は、中から13本の機関銃を取り出し銃弾を詰めていく。同じく4次元ポケットの魔法を唱えたクロは大鎌を、ユメは大盾を取り出し、各種装備を身に着ける。
「二人とも。暴れるのは構いませんが、魔法だけは使わないようにお願いします」
「了解ニャ」
「は~い。……となると、武器どうしようかなぁ。ラグナロクじゃダメだよね~?」
「ダメに決まってるニャ! おみゃーはアビドスを地獄にするつもりなのかニャ!?」
「今の貴方であれば、殴るだけで大抵の相手であれば殺せると思いますよ」
「えぇ~? そんなことないよ~」
「……いや、あれだけのハーブを全部食べ切ってるなら、殴るだけで充分だと思うんだニャ」
「本当に食べてしまったのか? ……と言うわけではありませんが、全部食べ切れたのは素直に褒めますよ」
「うへぇ~、もう二度と食べたくないけどね~」
各種潜在能力の成長を促す特殊なハーブ。
ノースティリスではその貴重な効能から高値で取引されており、冒険者たちから重宝される貴重な植物なのだが、――その効果に見合うことのない味であり、1枚食べただけで気分が悪くなる者も後を絶たないのだとか。
「終末でも問題なく動けるみたいですし、もう十分こちら側かと」
「う、嘘だぁ~。私はまだまともな……ま、まともな筈……」
「もう手遅れだニャ。気まぐれとは言え、ホントよくここまで付き合ってこられたニャ~」
「だ、だって強くなれるって言うから……。ホシノちゃん達を守れるだけの強さで良かったのに~~~!」
「ドラゴンや巨人と戦ってる時点で、おかしいと気づくべきなんだニャ」
「強くして欲しいと言うから、契約を掛けた上で倉庫と終末武器を貸したんですけどね」
★ラグナロク
全てを終結させる剣
高確率で終末と呼ばれる事象を引き起こすこの武器は、街一つを滅ぼす事が出来るようなドラゴンや巨人の群れを虚空から召喚し、その場に地獄を齎すというもの。
……なのだが、ごく稀に、「終末を意図的に引き起こし、街を壊滅させる狂人」や「ドラゴン狩りを楽しむ廃人」によって玩具にされがちな武器でもある。
かくいうこの3人も例に漏れず、意図的に終末を引き起こしては能力上げや暇つぶしに利用するような気狂いだ。
「一先ず、先生との合流を目指しますよ。見つけたアーティファクトは全て回収するように」
「貴様ら……!」
"悪いけど、ホシノは返して貰うよ"
「このまま生きて帰れると思うなよッ!」
アビドス高校の面々を囲むように集まるPMC兵。PMC理事が乗り込んだゴリアテを中心に陣形を展開する兵士たち。
「これは流石に、まずいんじゃない……?」
「ん、絶体絶命」
「みんな、下がってて。ここはおじさんが何とか……」
"大丈夫だよ、ホシノ"
「先生?」
"もうすぐ、頼れる味方が来てくれるから"
「味方、ですか?」
そう言うと、シッテムの箱を掲げる先生。一見すると何の意味もない行動に見えるが、
――まるでそれが合図であったかのように、周囲を囲んでいたPMC兵達の首から上が狩り取られた。
「ニャ! ご主人、先生たちを発見だニャ」
「お待たせしました、先生。そしてお久しぶりです、アビドスの皆さん」
十三丁の機関銃を周囲にバラまきながら現れた店主は、先生達の傍へと駆け寄った。
"待ってたよ、店主さん。来てくれてありがとう"
「味方ってこの人だったの!?」
「わぁ~☆ お久しぶりです~」
「ん、久しぶり」
「捕らえられた生徒の救出を手伝って欲しいとのことでしたが、その方はどちらに?」
"あ、それは大丈夫。シロコが助けに行ってくれたから"
「なるほど?」
「ん、ホシノ先輩ならもう助けた」
「ホシノ、と言うのは……貴方ですか」
「うへ……、助けに来てくれてありがと」
「礼には及びません。先生から救援でしたから。それに……」
「――やっほー! 久しぶりだね、ホシノちゃん」
「ユメの知り合いみたいですから」
眼前にいた数体のゴリアテを素手で殴り飛ばし、アビドスの面々の前に降り立った少女。
――元アビドス高等学校所属、梔子ユメ
「ぇ……」
「ニャ~。そっちは片付いたのかニャ?」
「もちろん! いやぁまさか、本当に殴っただけで倒せちゃうとは思ってなかったよ~」
「今の貴方であれば、ノースティリスでも十分やっていけると思いますよ」
「えぇ~、ほんと~?」
アビドス高校の制服に身を包んだ、もうこの世には居るはずのない生徒。この世界を探索していた店主が復活の魔法で生き返らせた元生徒会長。
「ユメ……先輩……? なんで…………生きて……」
「ん~とね~、店長に生き返らせて貰ったからだよ~。ホントはもっと早く会いに来たかったんだけど、私にも色々あってね~」
「実験の副産物です」
「……っ……ぅ……ユメ、先輩……っ、ユメ先輩……!」
泣きながらユメへと抱きつくホシノ。もう二度と会えないと思っていた先輩が目の前に居るという異常に、涙を堪えきれなかったのだろう。
"い、生き返らせた……?"
「魔法の1つだとお考え下さい。それよりも、固定アーティファクトは無事ですか?」
"……もう隠す気ないね、店主さん。私もシッテムの箱も無事だよ"
「それは良かった。……さて、先生。この付近に他の生徒は居ませんか?」
"他の生徒? うん、この辺りには居ないけど……"
「それなら大丈夫そうですね。2人とも、先生と皆さんを連れて直ぐに離れて下さい。花火を打ち上げますので」
「うへ? 花火?」
「んニャ!? は、花火って、まさかご主人……」
「花火? というかえっと、あなたは?」
「アビドスの制服……ですよね?」
「あ、私? えっとね、私は――」
「い、いいから直ぐに離れるニャ! じゃないとみんな巻き込まれて死んじゃうニャ!」
「「「「「「……はい?」」」」」」
★★★★★
原子爆弾『Cat's Cradle』
それ1つで街全体を火の海に包むことが出来る大規模破壊兵器。使用者諸共吹き飛ばすこの爆弾は、不意打ちで相手を殺したい時や普段手を出せない格上を殺す際に用いられることが多い。
……多いのだが、この場所で原子爆弾を取り出した店主の動機としては、証拠隠滅兼面白半分でこの基地を吹き飛ばすことだろう。
「ストレス発散には、やはりこれですね」
設置後10秒で地形を変える原子爆弾。
13丁の機関銃を4次元ポケットに仕舞い、先生達が十分に離れたことを確認した店主は
――原子爆弾をセットした
「ニャァァァァァ! ほ、ほんとに取り出したニャァ!」
「は、花火ってアレのことだったの~!? え……? ここって範囲外……だ、だよね?」
「わ、分かんないニャ。僕たちならアレに巻き込まれても死なないと思うけど……」
「ひぃん……。せっかくホシノちゃん達に会えたのにぃ~」
慌てふためき、バックパックから様々な道具を取り出すクロとユメ。耐火ブラケットに耐火装備、スクロール、杖、ポーション……。
小さなバックパックから物理法則を無視した量の荷物を取りだし、大慌てで準備を進める2人。
「クロちゃん! 契約*1のストックは!?」
「な、ないニャ。契約はご主人が専門で使ってたから……。復活の書もご主人しか持ってニャいし……」
「じゃ、じゃあ帰還は!? 帰還の魔法でみんなをここから……」
「絶対に間に合わないニャァァ」
「ど、どうしようどうしようどうしよう」
訳も分からず連れ出されたかと思えば、突然慌てふためく2人に何も発せないアビドス一行。
「「「「「…………」」」」」
店主が如何に常識外であるかを知っている先生は、嫌な予感を抱きつつ、店主の知り合いであろう2人に声をかけるのであった。
"えーっと……凄く嫌な予感がするんだけど。店主さんが取り出したアレって何?"
「「……」」
先生の問いかけに顔を見合わせる二人。数秒の間逡巡し、先生が固定アーティファクトを所持していることを思い出した二人は、一縷の望みを掛けて、店主が取り出したアレが何かを説明した。
「「――原子爆弾です(ニャ)」
★★★★★
9
空いた腕でバックパックを漁る
8
クーラーボックスから今朝作ったばかりのメロンソーダを取りだし、ストローを刺す
7
爽やかなメロンの味と相性の良いバニラアイスをトッピングし、メロンの芳醇な香りを楽しむ
6
砂漠地帯ということもあってか、プチのミルクから作られた濃厚なバニラアイスが加速的に溶けていく
5
溶けだしたバニラアイスがメロンソーダと混ざり、綺麗な白緑色へと変化する
4
数秒後の美しい光景を思い浮かべながら、ストローを口に加える
3
……
2
美味しい。嫌になるほど熱い砂漠で飲む、キンキンに冷えたクリームソーダ程贅沢なものもそうないだろう
1
*ゴゴゴゴゴゴ*
ドカァァァァァァァァァァァン!!!
何かは核爆発に巻き込まれて塵となった。