ガタン、ガタン
「ん…んぇ?」
体に響く、規則的な振動によりセリカは目を覚ます。目に入ってくるのは、密閉され光が届かないが故の暗闇。覚えのない状況と自身の指先すら見えない空間、体に響く振動により脳が急激に覚醒した
「ここ、は……」
動こうとした直後、体中に響くような痛みにより、足がもつれ床を転がる。同時に気を失う前、その最後の記憶が頭に駆け巡る
ガタン、ガタン
「あ、う…頭が……ここ…トラックの荷台?」
バイトの帰宅途中、ヘルメット団の連中に襲われ、睡眠ガスらしきガスを吸った以降、意識が途絶えたように何も覚えていない
「ヘルメット団…私をどこへ連れていくつもり?」
改めて立とうと足に力を入れるが再びこける。見えはしないが触ってみたところ、ワイヤーのようなもので足がきつく縛られている。腕は縛られていないが、ワイヤーを解くためには相応の時間か専用の道具が必要になる。痺れの残る腕では厳しい
足を引き摺るように匍匐前進し、そこだけ光の差し込んでいる小さな小窓を開ける。
暗闇に慣れた目に強烈な太陽の光が差し込み網膜を焼かれ、思わず瞼を閉じ窓から離れる。
少しずつ目を慣らし、外を見る
「砂漠……線路?」
辺り一面が砂漠と言えど、普段通っている場所であればなんとなく分かる。しかし、窓から覗く景色には見覚えは一切無く、所々に線路が見える
「ま、まさかここ、アビドス郊外の砂漠っ!?」
今は廃れたと言えどアビドスはかつて、ゲヘナ、トリニティに肩を並べる学校であり、それに比例するように所有する土地も広大。その移動のために線路が多く引かれていた。既に線路のほとんどは使われておらず、そもそもアビドス校舎近辺に線路は存在しない。
襲われたときが夜なのにもかかわらず、太陽が高い位置で照っているのも含め、今いる場所がアビドス校舎から遠く離れた場所なことをまざまざと突きつけられる。
「そ、そんな……これじゃどこにも連絡が取れない……もし脱出できたとしても、対策委員会の皆にどうやって報せれば……」
喉が引き攣り、目元に涙が滲む。銃は奪われ、連絡用の端末も無い。そもそも繋がるのかも怪しい僻地。バッグも取り上げられ、最終手段としてトラック自体を奪おうにも足を縛られ動けない。
唇を噛みせめてもの抵抗として涙を流さないように耐える。
「このまま、何処かに埋められちゃうのかな、誰にも気付かれない様に……」
吐いた言葉にはいやな現実味が付き纏っていた。相手が、一人ずつの襲撃に変えてきたのはアビドス全員を敵にするのは難しいと思ったからだろう。たった数回、同じことをするだけで対策委員会はボロボロになる
「連絡も途絶えて……私も他の子達みたいに、街を去ったって思われるんだろうな……」
昨日まで笑っていた友人が、次の日には学校から消えていくのを何度も見てきた。わざわざ転校を伝えにくる生徒は少なかった。そうして少しずつ、少しずつ人が消え、活気が減り、それでも残り続けた5人で頑張り続けた。
消えてしまった人達に言いたいことは幾つもあった。けれど責める気にはついぞなれなかった。先の見えない絶望はよくわかっていたから
「裏切ったって、思われるかな……」
それでも……自分が、あの大事な友人たちに裏切ったと思われるのだけは絶対に嫌だ
「誤解されたまま、皆に会えないまま死ぬなんて……嫌だッ!」
軽蔑の目で見られ、容赦の無い言葉で罵られるのは、それこそ死んでも嫌だった
体に力が戻る。小窓から差し込む光によって少しだけ確保できた視界に映る、外に繋がるドアを渾身の力で叩く。それでもキヴォトス人の力に耐えられるように作られた鋼鉄の扉はびくともしない。
だったらもう一度、力を込めて叩く。開かない。
もう一度、もう一度、もう一度。何度も何度も歯を食いしばり叩く
鉄を殴り続けた手がヒリヒリ痛む。トラックの振動で何度も転がる。それでもドアを叩く手は止めない。ここで止めてしまったら、心が折れてしまいそうだったから
この後のことを考えそうになるのを必死に止め、泣くもんかと心の中で叫びながら動き続ける。皮膚が剥けようが、骨が折れようが、肉が裂けようが手を止める気はなかった
「生きて…生きて、皆にまた会うんだ!」
新たに決意を込めて叫ぶ
その声とほぼ同時に、けたたましい爆音と振動が耳を劈く。
「う、うわぁぁぁぁッ!」
三半規管が意味をなさないほどの衝撃に襲われ、トラックの荷台で10数秒間シェイクされながらも軽傷で済んだのは幸運か、それともキヴォトス人特有の頑丈さゆえか。
答えは誰も知らず、しかしセリカが無事にトラックから脱出するという結果を齎した。
背に砂の感触を感じ目を開けるが、日光に再び網膜を焼かれる。
「かはッ、けほッ! けほっ……! な、何!? 何なの……!?」
数度瞬きをし、周りを見ると最初に入ってきたのは、横転したトラック。あまりの衝撃に脳がフリーズする。固まった脳に聞こえるのは、ドローンの音と数人の足音、それに続く今1番聴きたかった声
『セリカちゃん発見! 生存確認しました!』
「あっ、アヤネちゃん!?」
「こちらも確認した。半泣きで拘束されてるセリカ発見!」
口元がヒクヒクと痙攣する。涙腺が勝手に開く。ようやく理解した、助けが来たのだ
「なにぃー!? うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと! そんなに寂しかったの? ママが悪かったわ、ごめんねー!」
「う、うわぁぁぁ!? う、うるさいっ! な、泣いてなんか!」
「嘘! この目でしっかり見た!」
「泣かないでください、セリカちゃん! 私たちがその涙を拭いて差し上げますから!」
「あーもう! うるさいってば! 違うったら違うの! 黙れーッ!」
思いのまま叫ぶ。良かった。私はまだ
奥の方からやってくるのは先生、アヤネ、リッカの3人。
「先生、頭下げてくれ!危ないんだから!」
「ほんとですよ先生!なんで生身のままで出てくるんですか!」
“ごめん…セリカが泣いてるって聞いたら思わず…”
「いいから頭下げて隠れてくださいっ!」
なんか叱られてる
それより
「なんで先生までここにっ!?」
“ストーカーと呼ばれたのは伊達じゃない!”
「ふっ、ふざけないでよ!この変態ストーカー!」
思わず叫ぶ。顔が赤くなるのがわかるほど熱い
「うへ、元気そうでよかった。さ、あとはその拘束を外しちゃおう。シロコちゃん、ナイフ持ってるでしょ、切れる?」
「持ってるけど……この太さのワイヤーは流石に…」
「じゃあ私がやるから耳塞いどいてくれ」
リッカは、言うとともにとんでもない大きさの銃をワイヤーに突きつける。言われたことをギリギリで理解し、猫耳を両手で塞ぐ
見事にワイヤーが切れ、解けたワイヤーが足に残る。
「なに……その銃」
「これか?これはアンツィオ20ミリ対物ライフル。さっきトラックを吹き飛ばしたのもこの銃だぞ」
「コレだったの!?」
その威力に顔を青くし、猫耳がへたりと曲がる。周りの人からは可愛いと微笑ましく見られているがセリカはそれに気がつかない
トラックを漁っていたシロコが肩にかけていた銃と予備の弾薬をセリカに渡す
「さて……問題は此処からだね」
「ん、戦術サポートシステムで車両は制圧したけれど、敵陣のど真ん中で孤立無援」
「まー、敵さんも怒り狂って攻撃して来ているし、増援が来る前に逃げ出したいねー」
「包囲されたら終わり、ですね――ッ、ドローン映像、前方にカタカタヘルメット団、多数!」
相手の戦力と自分たちの戦力を比較し、簡単な対策をねる。
その上で確信する
ーーー今のアビドスは絶対負けない
「それじゃ……」
ホシノの目に好戦的な光が宿る
「行こうか?」
周りが諦め続け、それでも残ったアビドス対策委員会の5人……みんな揃って無事に帰るために、昨日の深夜とは違う
アンツィオくんの久々の登場でした。多分後でぶっ壊れますけど