セリカの事はさておき、次に話を進めるためにアヤネは咳払いをし声を上げる
「えっと、それでは他にご意見のある方……」
「はーい!」
「……はい、三年の小鳥遊ホシノ委員長──ちょっと嫌な予感がしますが」
「うむうむ、えっへん!」
最初がアレだったためか、はたまたホシノの普段の様子のせいか、アヤネは不安そうにホシノを見る。当のホシノは気づいているのかいないのか無い胸を自信満々に張っている
「我が校の一番の問題は、全校生徒が此処にいる数人だけって事なんだよねー、ぶっちゃけ生徒の数イコール学校の力、トリニティやゲヘナみたいに、生徒の数を桁違いに増やせば毎月のお金だけでもかなりの金額になるよ」
「えっ、そ、そうなんですか?」
「そうだよ~、だからまず生徒の数を増やす事からはじめてみない? そうすれば議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられると思う」
「鋭いご指摘ですが……でもどうやって……」
ホシノの言う通り、人が増えれば影響力が大きくなりより学校を潤せる。学校が潤えば更に人が来る。生徒の数はその学校にとって最も分かりやすい力の尺度になる。この循環によって今あるマンモス校の多くはその盤石な地位を確立した
今のアビドスはこの逆。人が減ったことで活気が減り、そのせいで更に人が減る負の連鎖。
コレを断ち切るためには、極論人を増やせばいい。人が減るという前提を壊すだけだ。しかしその手段はこれまで他のアビドス勢が思いつかなかったことから分かるように、非常に困難。その方法にアヤネが首を捻っているとホシノは不適な笑みを浮かべる
「簡単だよー、他校のスクールバスをジャックすればオッケー!」
「――えっ!?」
「登校中のスクールバスをジャックして、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないと、バスから降車出来ない様にする! うへ~、これで生徒数がぐんと増える事間違いな──」
「バチボコに犯罪だバカ!」
「いてっ」
ホシノの頭を手のひらではたく。神秘のおかげでダメージはほとんどないがつい声が出てしまったよう
それより、それをやった場合誰が責任取ると思ってんだ!アビドス顧問の先生だぞ、過労で殺す気か!あとアヤネもストレスで倒れそうだからやめて
口には出さないものの、考えを正確に読み取ったホシノがへらりと笑う
「ちょ、ちょっと待ってください! そんな方法で転校とかってありなんですか!? それに、他校の風紀委員が黙っていませんよ……」
「うへー、やっぱそうだよねぇ」
「やっぱそうだよねぇ、じゃありませんよホシノ先輩、もっと真面目にやって頂かないと──」
「──なら、私に良い考えがある」
「……はい、2年の砂狼シロコさん……」
アヤネが眉どころか顔全体を顰めながらシロコを指差す。癖の強すぎるアビドスの中で最も問題児がこのシロコであるため、絶対に変な意見を出すという、ある種の信頼を持っているのである
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」
犯罪パート2である
予想の斜め下で高速回転する様な意見にアヤネの表情筋がつったのか、頬をピクピクと動かす
「5分で1億は稼げる。はい、覆面も準備しておいた」
「えっ、え!?」
「狙う銀行、その警備員の配置、設備を無力化する方法も分かってる。シュミレーション通りにやれば簡単」
「さっきから一生懸命見てたのはそれですか!?」
「いいわけあるか! 却下! 却下ー!」
セリカが復活した。ツッコミ役が増えたぞ、良かったなアヤネ
「シロコちゃんもはたかなくていいの〜?」
「ホシノは2年前に散々戦ったし遠慮は必要無い」
会って数日のシロコをはたくのは色々問題になりそうで怖いのである。
それはともかくシロコ、その覆面をカバンにしまいなさい。そんな可愛い顔してもダメです
「じゃあ、次は私ですね。犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!それは……スクールアイドルです☆」
「あ、アイドル……?」
ある意味予想とは1番遠い案にアヤネは目をぱちくりとさせる。犯罪では無いためかとりあえず続行される
「そうです! アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルです! 私達全員がアイドルとしてデビューすれば……」
「却下」
ラブ◯イブだろそのアニメ。こっちの世界にもあったのか。
「あら、これも駄目なんですか?」
「うへー、こんな貧相な体なんで何処の層に需要あるのさー」
それはちょっと聞き捨てならんな
「私と先生なら幾ら積んででも推すぞ」
“私もっ!?”
おい先生、ホシノに魅力がないとでも?
アビドスに直接お金を渡すのは既にホシノに断られている、が推しのアイドルに貢ぐだけなら問題あるまい。ただ10桁弱を現金で渡すだけだ
機材はどうするか…ミレニアムに頼めばデータと引き換えにタダで使わせてもらえないだろうか。あそこは性能はいいのだ性能は。ちょっと浪漫に走るだけで。自爆はともかくBluetoothは浪漫じゃ無いと思うんだ私。
「決めポーズも考えてあるんですよ!」
言うが早いかノノミは立ち上がりその見事なプロポーションを完璧に魅せるポーズをとる
「水着美少女団のクリスティーナで~す♧」
「ちょっと! 水着少女団って名前なの!? 嫌よ、だっさい!」
「えー、徹夜で考えたのに……」
「あのぅ……議論が中々進まないのですけれど」
「もう先生に任せちゃおうよ~、先生、これまでの意見の中でやるならどれが良い?」
会議は踊る、されど進まず。結局先生に一任することにしたようだ。先生に6対の目線が刺さる。選択肢はバスジャック、銀行強盗、アイドルとどれを選んでも角が立つのはだいぶ酷いが
“アイドル……かなぁ…”
「えぇ!? 本気ですか!?」
“犯罪2つと比べたらまだアイドルの方がマシ……じゃない?”
「よし!先生の許可も取ったことだしホシノ、水着着てアイドルやろうか!」
「リッカさんテンションバグってない〜?」
前世からホシノが好きだったんだからしょうがないだろ!
「そもそもどうやってアイドルになるのさ。そう簡単になれるものじゃ無いでしょ〜」
「プロダクションには幾つかツテがある!」
伊達に連邦生徒会直下の学校をやってないぞ。人脈作りもさんざんやったからな
「じゃあすぐでもアイドルになれますね☆」
「えっ?えっ!?ホントにやるのっ!?」
「ん、アイドルに決まったならしょうがない。全力でやる」
ノリのいい子達である。ホシノは机に突っ伏し「うへ〜」と言っている。
──と、やっべ。流石にふざけすぎたか。視界の端でくしゃくしゃに握りつぶされたチラシが目に映る。アヤネが限界を迎えたようだ
「い――」
「い?」
「いい加減にして下さいッ!」
そのキレ具合に、見事なちゃぶ台返しを幻視したといったら取り返しがつかなそうなので黙っておいた。
アヤネは出来るだけ怒らせないようにしようと思いました