評価バーに色がつきました。感謝
「いやぁー、悪かったってば、アヤネちゃん、ラーメン奢ってあげるからさ、怒らないで、ねっ?」
「別に、怒っていません」
説教も終わり、一同は柴崎ラーメンへ昼食を取りに来ていた。説教が小一時間続いたためその間正座していた私達は足が痺れに痺れてしばらく動けなくなり、全員で他の人の足をつつく大乱闘が始まったのは予想外だった。凄い楽しかった
「はい、アヤネちゃんこっち向いて、お口を拭いてー……はい!良く出来ました☆」
「赤ちゃんじゃありませんからっ!」
「……なんでも良いんだけれどさ、なんでまたウチに来たの」
ノノミとアヤネを呆れた目で見つめるのはバイト中のセリカ。定例会議が終わった後、丁度セリカのバイトが始まる時間だったためそれに連なる形で再び冷やかしに来たのである
前回より対応がずいぶん優しくなっている。私がホシノと夜のパトロールをした日にでも先生と和解したのだろうか。順調に仲良くなっているようで何より何より。今度女誑しってイジってやろ
「アヤネ、チャーシューもっと食べる?」
「ふぁい、あー……」
可愛い。ほっぺたがもちもちしてそう
「セリカ、味玉と替え玉1つずつ頼む」
「はーい」
相変わらずここのラーメンは美味い。この値段で続けられているのも店主の人柄と味に魅了された熱心なリピーターが大勢いるからだろう
全員でラーメンを啜っていると店の扉がガラガラと音を立てて開く
音のした方を見れば紫色の髪の毛が覗く。セリカは呆れたような表情を引っ込めて笑みを浮かべ、紫色の髪をしオドオドした様子の少女──伊草ハルカのもとへ駆け寄る。ここら辺で見たことの無い、新規客になりそうな人が来てよほど嬉しいのだろうか
「あ、あのぅ……」
「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」
「……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」
「一番安いのは580円の柴関ラーメンです! 看板メニューなんで、美味しいですよ!」
「あ、ありがとうございます!」
ハルカは一度外へ戻り、ハルカを除く3名を連れて中へ入ってきた。言わずもがな便利屋68の面々である
「えへへっ、やっと見つかった、六百円以下のメニュー!」
「ふふふ、ほら、何事にも解決策はあるのよ。全て想定内だわ」
「そ、そうでしたか。流石社長、何でもご存知ですね」
「はぁ……」
ブルアカ湿度筆頭のカヨコが頭を押さえているが他3人は歯牙にもかけていない。
「四名様ですか? お席にご案内しますね」
「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」
「一杯だけですか? でも、どうせならゆっくりお席へどうぞ、今は暇な時間なので、空いている席も多いですし」
「おー、親切な店員さんだね、ありがとう、それじゃお言葉に甘えて」
今の時間は昼もだいぶ過ぎたほど。少し遅い昼食の時間で、社会人は普通に働いている時刻だ。私たち以外に客はいない。
ふと、ムツキが思い出したかのように人差し指を掲げる
「あ、わがままついでに、箸は四膳でよろしく! 優しいバイトちゃん」
「えっ? 四膳ですか? ……ま、まさか一杯を四人で分け合うつもり?」
セリカの言葉を聞くと同時にハルカがノータイムで土下座の体勢へ流れるようにかがみ込む
「ご、ご、ごめんなさいっ、貧乏ですみません! お金がなくてすみません!」
「あ、いや……!別に、そう謝らなくても!」
「いいえ、お金がないのは首が無いのも同じ、生きる資格なんて無いんです、虫ケラにも劣る存在なのです!」
「……ちょっと声でかいよハルカ、周りに迷惑」
自分を卑下するハルカの言葉の羅列に、カヨコはため息をつきつつ嗜める。便利屋にとってハルカの卑屈は日常だったが、他の人にとってそうでは無い。
特に人一倍お金に対する意識の強いアビドスに所属していることもあり、セリカにとって貧乏という状況は親近感が沸く言葉であった
セリカは肩をガッと掴み目を見開いて叫ぶ
「そんな! お金がないのは罪じゃないわよ! 胸を張って!」
「へ? ……はい!?」
「お金は天下の回りもの、ってね。そもそもまだ学生だし! それでも、小銭をかき集めて食べに来てくれたんでしょ? そういうのが大事なのよ!」
「えー……っと……」
「もう少し待っててね。すぐ持ってくるから」
言い終わると厨房の方へ駆け出す。その目には並々ならぬ情熱が宿っていた
「……何か勘違いをされているみたいだけれど?」
「まぁ、私達はいつもそんなに貧乏って訳じゃないんだけれどね、強いて言えば、金遣いの荒いアルちゃんのせいだし」
「アルちゃんじゃなくて社長でしょ? ムツキ室長、肩書はちゃんと付けてよ」
「ん? だってもう仕事終わった後じゃん? ところで、社長の癖に社員にラーメン一杯奢れない何て実際どうなの?」
「ぐっ……」
「今日の襲撃任務に投入する人員雇う為に、ほぼ全財産使っちゃったしー」
アルは、さも平静を装ってはいるが内心は恐らくガクブルだろう。こうして見ると顔は良いのだ、ただ白目の印象がだいぶ強いが
「はぁ……ま、リスクは減らせた方が良いし、今回のターゲットは、ヘルメット団みたいな雑魚の手には負えないって点は同意する、でも全財産を叩いて人を雇わなきゃいけない程、アビドスの連中は危険なの?」
「それは……」
元々私の五感がいいのもあるが、話し声がだいぶ聞こえてくる。この分だとホシノも聞こえているんじゃないか。聞こえてないのかはたまた聞こえた上で気にしてないのか
それはそれとして、アビドスは万全な状態であれば傭兵程度であればいくら居ようとも蹴散らせるだろう。個々の能力が高いのもあるが、何よりホシノがいる。
戦争において、数は大抵の場合質に勝るがそれは最低限の力がある時だけだ。蟻がいくらいようとも竜に勝てる道理はない。つまり傭兵を雇った金は無駄になるだろう。御愁傷様だ
「多分、アルちゃんも良く分かってないと思うよ、情報も余り無かったし、だからビビッて一杯雇っているんだよ、傭兵」
「誰がビビっているって!? 全部私の想定内! 失敗は許されない、今回は特に大口取引なんだから! あらゆるリソースを総動員して望む、それが我が便利屋68のモットー!」
「初耳だね、そんなモットー」
「今思いついたに決まっているよ~」
「うるさい! なら今回の依頼を成功させて報酬が手に入ったら、すき焼きを食べに行きましょう! だから気合を入れなさい、皆!」
すき焼き……今度リンでも誘って食いにいくか。仕事詰めでストレスも溜まっているだろうし息抜きにでもなればいいが。そうなるとカンナも誘うか?連邦生徒会の主席行政官とヴァルキューレの公安局長だと仕事の苦労の愚痴で盛り上がりそうだ。
というか共通の人物への愚痴で盛り上がりそう。リンにとっては同僚、カンナにとっては上司にあたるピンク髪の超人バカ。古今東西、人が団結する一番の近道は共通の敵を作る事である。別にあのバカに同情の余地もないから何もしないけど
そうしていると、遠目で見ても大きすぎるラーメンが便利屋の元へやってくる
「ひぇ、なにこれ!? ラーメン超大盛じゃん!」
「ざっと、十人前はあるね……」
「こ、これはオーダーミスなのでは? こんなの食べるお金、ありませんよぅ……」
「いやいや、これで合っていますって、五百八十円の柴関ラーメン並み、ですよね大将!」
厨房の中では大将が男前な表情でサムズアップをする。流石、数少ない良い大人と断言できる人(?)である
「あぁ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」
「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」
そう言うとセリカは離れ、便利屋には大盛りの麺にチャーシューが何枚も乗っかり、具沢山のラーメンが残る。便利屋は目が光り輝き、ハルカなんかは先ほどの卑屈さは消え、山と見紛うラーメンに釘付けとなっている
「うわぁ……」
「よく分かんないけど、ラッキー! いっただきまーす!」
「……ふふふ、さすがにこれは想定外だったけど、ご厚意に甘えてありがたく頂かないとね」
「食べよっ!」
「…ノノミ、カモン。ちょっかいかけに行くぞ」
「はい☆」
気配を消して近づく。カヨコの後ろから近づく関係上、カヨコの真正面にいるムツキには気づかれるが、人差し指を唇に当てウインクをすれば無言で頷いて笑い返してくる。意図が伝わったようだ。ノリが良くて助かる
後はお冷でキンキンに冷やしたこの手をカヨコの首に当てれば〜……
「…………ッ!?…リッカ!?」
こっちを向いて驚くカヨコ。顔真っ赤、可愛い。持ち前のしっとりボイスは驚いた時でも健在なようでなにより
「あぁ、久しぶり。カヨコ」