「ようやく来たようだね」
わが妹が去ってから数週間、先生が来た。
いやはや位相がずれた世界に取り残されたときはどうなることかと思い膝から崩れ落ちたが、駅のベンチでふて寝してたらサンクトゥムタワーの執務室で目が覚めて良かった。本当に良かった。あのまま帰れなかったら最悪
目を覚ましてすぐ書き置きをし、私の分の仕事―なんで私は連邦生徒会でもないのに書類整理、しかも結構重要なものをしてるんだ?姉といえど形式上は部外者だぞ?―の引継ぎを済ませこれから起こるであろう犯罪と違法な武器の流通の増加抑止のためブラックマーケットへ乗り込んだ。
七囚人?あいつらが脱獄するのは先生が来る日だし、ストーリーが変わっても困るためパス。あとシンプルに対処がめんどくさい。
その甲斐あってか、犯罪件数は知らんが武器流通量は原作の2000%から700%まで減らすことが出来た。しかし、どこぞのカイザーのような大企業はもともと相応のパイプを持っており、700%でも十二分に多すぎるため達成感がまるでなく睡眠時間が無意味に削られただけのように感じた。
まあ、いいんだそんなことは。昨日はサンクトゥムタワーに忍び込んでぐっすり寝たし。ちなみに忍び込むときはちゃんと発行された私の合鍵を使った。その時にさっきのデータも見させてもらった。いやホントになんで私が持つのを許可されているのか。妹からの信用と思えばうれしいものだが。
それはさておき先生のほうを見れば恐らくシャーレのビルに向かうところだろうか、さすがの戦術指揮能力だ。個人個人のパフォーマンスが随分向上している。指揮に関しては間違いなくキヴォトストップだ。
だけど少し相手が悪い。私が今いるのはシャーレ近くのビルの屋上。先生や生徒たちにとって死角でも私は見える。あれはクルセイダー巡行戦車Mk.1かな?これはまた随分高価な品を出してきたものだ。燃費の悪さ、扱いにくさにさえ目をつむれば十分な戦力となる。あの子たちの銃でも倒せないわけではないが苦戦するだろう。
少し勿体ないが、持ってきた銃が使える相手が出てきて安心した。コンクリートの床に寝ころび銃を構える。銃の名はアンツィオ20ミリ対物ライフル、個人で扱える中でもっとも威力の高い銃の一つに数えられる。長さは2,5m、重さは最大59キロ。分厚いアルミの板3枚も余裕で貫通する。もはや個人で扱うものではないだろこれ。私とそう変わらない重さだぞ。
アメリカ海軍の護衛空母の名を冠するその銃は、前世ではさぞかし重く、運びづらく不評だっただろうがキヴォトスでは関係ない。神秘で幾らでも膂力は強化できる。試しに買ってみた。何事もやってみなければ損というやつだ。
息を沈め、狙いをつける。戦車の構造を脳裏に描きレティクルの中心を駆動系に合わせる。
――射撃
耳を劈くような音が鳴り、気が遠くなるのを舌を噛んで踏ん張る。もう一度レティクルを覗けば大穴が空き、完全に機能停止した戦車が映る。あの戦車の搭乗員らは不幸であった。アーメン。死んではいないだろうが。
音かそれとも急に機能不全となった戦車かはたまたその両方か、先生らしき人物が驚いたようにこちらを見る。体を起こし手を振る。気づいてくれたようでよかった。
だが生徒たちはこちらを警戒するような視線を向ける。無理もない。敵と戦っているときに、下手をすればキヴォトス人であっても、一発で気絶しかねない一撃が飛んできたのだ。敵を処理するために打たれたとはいえ私であっても警戒する。
「私には関係ないけどね」
ただこちらで勝手に戦車を処理するだけだ。
_____
さらに数体の戦車を残骸へと変えた頃にはシャーレ付近一帯の制圧が完了したようで、ワカモはいつの間にかシャーレの中へ消えていた。では先生との邂逅を果たすとしようか。
ビルの屋上の伝い肉眼でも十分に見えるところまで近づいたら、ユウカ達4人との会話がひと段落ついたらしきところで、そのまま先生の近くまで飛び降りる。
近くで見てみれば随分と中性的で優しそうな風貌をした男性だ。黒髪黒目、濡羽色というのが近いかな?分かりきったことではあるが一応聞いておく。
「貴方は誰だい?」
"シャーレの先生だよ、よろしくね”
そういいながら、握手をしようと手を出してくる。それに握手し返しつつ正面から見つめる。
「貴方があの子が選んだ先生か、これからよろしく頼む」
”うん、よろしく。ところで君の名前は?”
「
答えたところで先生の端末に一件の着信があった。先生が画面をタップし回線を繋ぐとホログラムが投射され、空間上に七神リンの姿が現れる。彼女が状況を把握しようと視線を左右に動かすと私と目が合ったタイミングで見事に硬直した。そのまま見つめていると肩を震わせ始める。
『今までどこに行ってたんですか!』「うるさっ」
声がでかい。うるさい。ただでさえさっきまでとんでも轟音の銃を撃ってたのだから余計にきつい。
というか
「書き置きはしてあっただろう?」
『ええありましたよ、[妹が失踪したがあの子は無事だ、それとしばらく出てくる]だけ書かれた書き置きがね!』
「…今思うと足りなさすぎるな、すまない」
『ッ本当にこの姉妹は…まあいいです、先生』
”なんだい?”
流石に悪かったかと思い謝ったが、どうやら呆れられたようである。
「お疲れさまでした。どうやら掃討も終わったようですね。」
"この子たちのおかげでね。周りに敵対勢力は見当たらないけどそっちはどう?”
『此方でも確認していますが、特に反応は見られません。シャーレ奪還完了と考えて良いでしょう。私もすぐに向かいます。先生は先にシャーレの中にある地下スペースへ向かってください。詳しい話はそちらで落ち合ってからにしましょうか。』
それだけを告げた後、プツンと通信が途切れ、ホログラムはかき消える。先生は端末をしまうと、くるりとこちらを向く。
“リッカ”
「?…なんだい?」
“報連相はキチンとするように”
「む…面目ない、リンには悪いことをしたな」
ユウカがおずおずと手を挙げ、先生の視線がそちらに向かったところで提案する。
「先生、今の通信、地下にいくのであればせめて一人だけでも護衛を―――」
”いや、大丈夫。皆にはここで見張りを頼みたい”
「先ほどの戦闘でワカモを撃破したわけではありません、シャーレ内部にいる可能性も否定できません。先生に銃を向ける場合も十分に…」
最悪の場合を想像したのかユウカの言葉が小さくなる。後ろの3人も不安や心配が目に浮かんでいる。
”それでも大丈夫だよ。あの子は私の生徒だ。それに…危険だからという理由があっても、誰か一人でも排斥紛いなことはしたくないから”
なるほど、彼は正しく『先生』だ、生徒が頑張れば褒め、間違えば優しく諭す。人当たりがよく、器も大きい。何より生徒へのほぼ無条件の信頼は仇にもなるが、大きな美徳の一つだ。もとより疑ってなどいないが、この人なら任せて大丈夫であろう。ついでに一つ、後押しをしよう。
「先生のバイタルに基準以上の変化が起こった場合、私の端末に連絡が来るようになっている。異常があればすぐに中へ助けに行く、ここらが落としどころだろう。先生はそれでいいか?」
”私は構わないよ”
ユウカの頭をポンポンと撫で、目線を合わせる。彼女らの先の提案も、この不安も先生の身を案じてのものだろうが今回ばかりはね。
「先生に何かあれば全責任は私が負おう。それともう一つ」
「何ですか…?」
「――先生を信じてやってくれ、必ず戻るとね。誓ってくれるかい?」
”もちろん、絶対に帰ってくると誓うよ”
その言葉のおかげか、完全に納得したわけではないだろうが見送ることにしたようだ。
”それじゃあ行ってくるよ”
「……はい」
先生は苦笑をして、未だ不安そうに見つめる生徒に言葉を返す。
”大丈夫、私は絶対死なないよ”
そういって先生はシャーレの中へ消えていく。
「絶対に死なせないよ、私の命に代えてもね」
口の中で漏らした言葉は、だからこそ誰にも聞こえなかった。
主人公のちょっとした設定集
名前・岩永リッカ
誕生日
6月19日
好きなもの
妹・甘いものなら大体何でも
趣味
読書・お菓子作り(どっちも最近は出来ていない)
容姿
大体連保生徒会長と同じ。連邦生徒会長が右目に黒のカラコン入れて、髪型を左右反対にしておさげを解けばもろ一緒
強さ
ちびっ子じゃないので突き抜けた強さはない。大体なんでも要領よく出来るが万能には程遠く、器用貧乏というほど弱くもない。能力値だけならほぼヒナの劣化。神秘の扱いは得意だがキヴォトストップではない。絡め手ありならトップ連中にも食らいつける。
説明
『岩永リッカ』は前世の名前。今世の名前は2年前に使えなくなったので。岩永はイワナガヒメから、リッカは六花からとった。六花は雪の結晶のこと。転じて唯一無二という意味もある。辞書をぱらぱらめくって考えた。なので深い意味はない!